病原体

破傷風毒素(テタノスパスミン   tetanospasmin)は、破傷風菌(clostridium  tetani)が、産生する蛋白性の神経毒素で、破傷風(tetanus)の原因毒素である。

毒素は、末梢の神経・筋接合部に到達した後、上行性軸索内輸送によって、中枢神経系に達し、脊髄における抑制性ニューロンからの神経伝達物質の遊離を阻害する。また、神経終末に作用し、神経伝達物質の放出を阻害する。

破傷風菌は、細小(長さ2〜4μ、幅0.30.5μ)かつ両端鈍円形(太鼓ばち状)である。多数の鞭毛によって活発に運動する。世界中の土壌・動物の糞便中に存在する嫌気性グラム陽性かん菌で、芽胞を形成する。一端に芽胞を形成すれば、帽針状になり、運動を停止する。また、壊死組織、異物などで酸化還元電位が低下した創中で芽胞が発芽し、毒素を産生する。芽胞は、熱・乾燥などの外界の影響に対して極めて抵抗が強く、芽胞が付着した木片などは、数年後になってもなお、感染力を保有する。しかしながら、100°Cの蒸気中では5分、直射日光によっては、短時間で死滅する。発育は、酸素を消費する他の細菌、特に化膿菌の存在によって促進される。本菌は、田畑・庭園などの土壌または、街路の塵埃中に広く存在し、比較的人畜と交渉の少ない森林中には稀である。本菌が、外傷によって、古釘・木片・竹片などと共に体内に侵入した場合、ことに他の好気性細菌と共に侵入すると、嫌気性の環境となり、容易に発育して、固有の毒素を産出し、そのために、本症特有の症状を発現する。この毒素は、内毒素(endotoxin)ではなく外毒素(exotoxin)である。

[内毒素]

細菌細胞の壁を構成している多糖とリピドとの複合体は、細菌細胞の外には出ませんので、菌体内毒素または内毒素と呼ばれ、どの菌の内毒素も似たような作用を示し、内毒素に菌に特有な障害を一般には示さず、その毒力も外毒素と比較するとあまり強くはありません。しかし、大量な細菌体が抗生物質等の大量な薬物で短期間に破壊されると、瞬間に大量な内毒素が生体内に放出されるので、時にショックを起すこともあります。

[外毒素]

細菌が作り細菌細胞の外に分泌される性質の毒素は、菌体外毒素ま

たは単に外毒素と呼ばれ、主にタンパク質のものが多く、毒性が極めて強力で、その毒素に特有な障害・作用を示します。例えば、血液を溶かす溶血毒、神経細胞を攻撃する神経毒、血管を犯す出血毒、その他多数があります。

 


 

 


上図は左側では、太鼓ばち状であるのが良く分かる。

右側では、鞭毛が良く見れる。

毒素原生(toxinogenicity,toxigenicity)について

外毒素の産生能を指し、微生物の起病性を質的にも量的にもきていしているもの。破傷風菌の毒素は、極めて毒性が強い。毒性は、動物種のよって異なり、モルモットとウマが最も感受性が高い。

毒素は、分離・精製をし、この事早くから、多くの研究者から試みられていた。菌体外毒素は、S−S結合の間のペプチド結合がnickd(分解)されている以外は、アミノ酸組成などにも特異的な差は認められていない。破傷風毒素は、分子量約150000の易熱性の単純蛋白で、等電点はPH5.0〜5.2である。1分子中に10個のシステイン残基が存在するが、そのうち4個は2対のS−S結合を形成し、残りの6個は遊離のSH基として存在している。サブユニット構造はもたない1本のポリペプチドである。H鎖(hea‐vy  chain)、L鎖(light  chain)は、それぞれ単独では毒性を示さないが、‘‘菌体外毒素’’のほうが菌体内毒素よりも数倍活性が高い。

[H鎖・L鎖について]

菌体外毒素がジチスレイトールやβ−メルカプトエタノールで処理した後に、SDS−ポリアクリルアシドゲル電気泳動で解析したときに生じたもの。

侵襲性(invasiveness)について

微生物が宿主の組織内に侵入し、増殖。拡大する能力。

破傷風菌は全くといっていいほど侵襲性が欠如している。単独では、感染も発病も起こし得ない。

外傷その他のアクシデントを通して、異物や好気性菌と一緒に生体内に持ち込まれ、その増殖に不可欠な嫌気的条件が整えられて初めて成立し菌はその局所でのみ増殖し産生された外毒素だけが血流ないし、リンパ流を介して神経系に作用し破傷風特有の症状を生起する。

代表的な毒素産生菌の産生する強力な毒素を表に示します。ここに挙げた毒素は、ホンの少量でもその毒作用を示しますので、その量を表現する単位は普通の一般人は通常聞いた事も無い単位を用います。その単位は次のような関係になります:1グラムは千ミリグラム、1ミリグラムは千マイクログラム、1マイクログラムは千ナノグラムとなります。言い換えると、1グラム=10億ナノグラム=百万マイクログラム=千ミリグラムになります。

体重 kg   

体重 50kg   

 1gの殺傷力   

                      

ジフテリア菌毒素 

100 ng

5 mg

2百

破傷風菌毒素

2.5 ng

125 ng

8百万

ボツリヌス菌毒素

1 ng

50 ng

2千万

毒素名:細菌によっては何種類もの毒素を作り、その致死量も各々異なり、更に動物によって感受性も異なります。 表には代表的な数値を挙げました。 体重kg:体重1キロに換算した数値です。 ヒトは50キロ、マウスは20グラム程度としてあります。 体重50Kg:体重50キロのヒトに換算した場合の致死量で表わしています。 1gの殺傷力:1グラムの毒素で何人のヒトを殺傷できるかを表わしています。 

               http://tag.ahs.kitasato-u.ac.jp/tag-wada/noframe/L046.htm

 クロストリジウム属(破傷風菌,ボツリヌス菌,ウエルシュ菌,)

ボツリヌス菌

ボツリヌス菌は細菌の仲間でも「嫌気性菌」と呼ばれる菌で、その名のとおり、空気(正確には酸素)を嫌う菌です。そして、やはり空気を嫌う破傷風菌と同じ「クロストリジウム」という仲間です。どちらの菌も土の中に棲んでいて、実は割合にどこにでもいる菌なのです。ボツリヌス菌は土の中からいろいろな経路をたどって食品の中に入り、増殖をしますが、その時に毒素を生産するのです。ボツリヌス菌は特に野菜や果物に付いていることが多いのですが、新鮮な野菜などは当然、空気に触れているので、ボツリヌス菌は死んでしまって、問題になることは少ないのです。困るのは、それらの食品を空気に触れないように加工したもの、すなわち缶詰などです。現在では商業的に生産されている缶詰は厳しく品質管理されているので安全ですが、家で手作りの缶詰などの保存食品を作ったときには注意したほうがいいかもしれません。

ボツリヌス菌によって汚染される食品は、なれ寿司(魚を使って発酵させた保存食品)、野菜のビン詰や缶詰、肉製品などで、空気から遮断された食品ならば何でも汚染源になる可能性があります。ボツリヌス菌は、生産する毒素の種類の違いによって、AからG型に分類されます。人間にボツリヌス中毒を起こすのは、主にABE型です。A型はアメリカに多く、自家製の殺菌が不完全な野菜のビン詰めが原因になることが多いです。B型はヨーロッパに多く、肉製品が原因になっています。E型は日本に多く、なれ寿司が原因となっているのはこの型の菌です。

http://members.tripod.co.jp/toshikim/poison.html


http://members.tripod.co.jp/biology/QA/items/seibutu10-1.html

ウエルシュ菌

肉や魚料理から感染し、下痢や吐き気、腹痛を引き起こす。熱に強く、100℃で1〜4時間加熱しても死なないという。

生息場所 土壌、水中、健康な人の便の中など

原因食品 肉の揚げ物、スープ、カレーなど

下痢、軽い腹痛、おう吐など

冷凍肉は十分に解凍してから調理する。など


 


http://www.rakuten.co.jp/easylife/420576/

                                                           

        参考文献:分子医学シリーズ3、感染

                 感染症マニュアル

                 新医科学大系、感染と炎症