細胞生物学グループ学習

G. 芽胞形成と発芽の機序とその意義について

メンバー 98021片山 寿希 98022加藤 98024鍬田 晶子 98025古賀 寛子

98026児玉 和久 98027小松 信俊 98028坂元 真理子 98029坂本 佳子

98030櫻庭 康司

 

GIO

芽胞形成と発芽の機序について学び、その意義を理解する。そして、私たちの環境に及ぼす影響を考察する。

SBO

1.芽胞の細菌学的特徴を説明できる。

2.芽胞形成の機序を説明できる。

3.芽胞形成の意義を説明できる。

4.発芽の機序を説明できる。

5.芽胞形成とグラム陽性かん菌の代表的な菌について説明できる。

6.芽胞形成とグラム陽性球菌の代表的な菌について説明できる。

7.無芽胞嫌気性かん菌について説明できる。

8.芽胞形成による病気を説明できる。

9.病気の予防と診断について説明できる。

10.病気の治療法について説明できる。

 

 

T.芽胞の細菌学的特徴

バシラス(Bacillus)属とクロストリジウム(Clostridium)属は、菌体内に芽胞をつくる。芽胞は、物理化学的処理に対する抵抗が極めて強く、100℃の加熱にかなりの時間耐えることができる。乾燥にも強く、乾燥状態で数十年間死滅しなかったという例もある。芽胞は細菌の一種の耐久型であり、培養条件の悪い場合に形成され、一切の代謝は止まるが、生命は維持され、適当な環境に再会すると、再び細菌に復元し増殖する。

増殖している菌を栄養型という。芽胞は、休眠状態の細菌である。

芽胞は光屈折性が強い。これは、芽胞が水分含量が低いためである。普通の染色法では染まりにくい。特殊な芽胞染色法を用いると菌体と染め分けることができる。

芽胞の形は菌種により異なり、円形(破傷風菌など)、長い楕円形(Bacillus mycoidesなど)、短い楕円形(枯草菌など)、類円形状(Bacillus cereusなど)などがある。菌体内の位置によって次のように分類される。

  1. 芽胞が菌体の中央にあるもの、これに円形のもの(a)とかん円形(b)のものがある。また中央にあって、すこし膨隆しているもの(f)。
  2. 芽胞が菌体の一端にあるが菌体のなかにつつまれているもので、円形のもの(c)。
  3. 芽胞が菌体の一端にあるために太鼓のバチのような形をしているもの(e)
  4. 菌体がやや紡錘状で芽胞が中心にあるもの(g)。

完成した芽胞は、菌体がいくつかの厚い層で包まれた形をしている。

芽胞の中心部分には、菌体が圧縮された形で存在しており、核は芽胞核、細胞質は芽

胞細胞質、細胞壁は芽胞壁と呼ばれている。これらは芽胞が発達し、新しい菌ができる場合の菌体の成分となる。芽胞壁の外側に、芽胞特有の層がある。内側から順に、皮膚 cortex、内芽胞殻 inner spore coat 、外芽胞殻 outer spore coat がある。菌によってはさらに、exosporium を持つものもある。

皮層は電子顕微鏡下では、電子密度の低い層として見られる。皮層を作っているものは、ペプチドグリカンであるが、細胞壁のものとは異なり、架橋されている率が非常に低い。これは、皮層が形成されるときに蛋白分解酵素が働いて、ペプチド鎖を切断するためで、皮層ペプチドグリカンには、そのため、Alaのみや、ペプチド鎖のない部分(この部分には乳酸残基のみが残り、ムラミルラクタムという構造を作っている)が多くなる。

芽胞殻は、蛋白よりなる層で、物質の透過に対して障壁となっている。

芽胞が高温や乾燥に耐える機構は、完全に理解されていない。水分が極端に少ないことがその理由の一つであるが、なぜ脱水症状になっているかについては、次のような仮説がある。

構造上耐熱性の発揮に重要な役割を果たしているのは、皮層である。皮層のペプチドグリカンは、架橋度が低く、かつ−に荷電を内部に多く持ち、分子間で強い反発が起こっている状態にある。芽胞の外側は、芽胞殻という蛋白の層で覆われているので、分子間の反発は内部に向けられ芽胞細胞質を強く圧迫している。このため、芽胞細胞質は、水分を失い、極度に脱水された状態になっている、とするものである。芽胞特有の物質としてジピコリン酸があるが、これは一種のキレート剤で、カルシウムイオンを捕え、皮層の−荷電がこのイオンで中和されるのを防いでいる。

完成した芽胞は、光をよく屈折する。これも脱水状態が高いことを示している。水分が侵入し、芽胞が発芽を始めると屈折性が低下する。この現象は、発芽の開始を知る上での重要な目標となる。

 

U.芽胞形成の機序

栄養型の菌に芽胞が作られて行く過程を、sporulationという。これは菌にある芽胞形成の遺伝子群(SPO遺伝子)の働きによるもので、芽胞形成に特異的な蛋白が逐次作られていく。この過程は形態学的に、7つの段階に分けられる。

0期は、普通の栄養型の菌である。

T期に、核が索状に変化する。

U期になると、菌の一部に非対称性に隔壁ができてくる。そしてこの中に1セットの核

が入る。小さいほうをgerm cell, 大きいほうをmother cell と呼ぶ。

V期、germ cellの周りをmother cellの細胞膜が包むようになる。この状態のgerm cell

foresporeと呼ぶ。これは極性の異なる2つの膜で包まれている。

W期、皮層の形成が始まる。2つの膜の間に、ペプチドグリカンが蓄積していく。

X期、芽胞殻ができる。皮層の外部に芽胞殻蛋白が沈着してくる。

Y期、成熟期、芽胞が成熟し耐熱性が増す。

Z期、母細胞部分が溶解し消失していく。

 

芽胞形成の遺伝子は、多数知られており、各期において働く遺伝子は異なっている。0期に働く遺伝子は spo 0遺伝子と呼ばれ、芽胞形成を開始する機能としてのもつものとしては特に注目されている。Spo遺伝子の多くは、栄養型の菌では働いていない。芽胞形成が開始されると、新たに spo遺伝子を読むためのRNAポリメレースが作られ、spo遺伝子も読まれるようになる。Spo 0遺伝子の一つはこのRNAポリメレースに関する遺伝子である。

 

V.芽胞形成sporulationの意義

Bacillus属とClostridium属は菌体内に芽胞sporeをつくる。芽胞は物理化学的処理に対する抵抗が極めて強く、100℃の加熱にかなりの時間耐える。乾燥にも強く、乾燥状態で数十年間死ななかった例もある。芽胞は最近の一種の耐久形であって培養条件の悪い場合に形成され、一切の代謝が止まるが、生命は維持され、適応な環境になると、再び細菌に復元する。ただし、芽胞が高温や乾燥に耐える機構は、完全には理解されているわけではない。

 

W.発芽の機序について

 一般的に、芽胞は、適当なよい環境におかれると、芽胞嚢が消失または脱落して発芽する。しかし、芽胞から再び発芽する機転は不明な点も多い。Thermophilic bacteria(好熱性菌)では、短時間熱ショックを与えるだけで発芽し、またL−アラニンに触れただけでも発芽する。したがって、発芽は必ずしも細菌細胞の発育に好適な条件でなくても起こることがわかる。

昭和34年に川口氏らの行ったBsubtilisについての研究報告によると、発芽の機序は、

  1. 皮層が外方に膨化し、スポンジ構造となる。
  2. 芯部の内部に栄養型の内部に相当する構造が現れる。
  3. 芽胞細胞質内に、細胞壁に相当する二重膜構造が生じる。
  4. 細胞壁、細胞質膜の完成の従い、細胞質内にリボソーム粒子や膜構造が出現する。
  5. 皮層が消失し、新しい栄養型菌が芽胞膜の一部を破って成長する。

となっている。

発芽に際して、染色性の変化や屈折性の消失なども起こる。しかし、菌種によって発芽形成の細部は多少とも異なり、また、同一菌種、同一菌株でも必ずしも同一の形成をとるとは限らない。

 

X.代表的なグラム陽性桿菌

まず、芽胞形成について簡単に説明すると、芽胞形成とは栄養型の菌が芽胞と呼ばれる厚い被膜に覆われた球状体に変化する過程のことである。これは一般的に、発育に不適当な環境に置かれた時に自身の内部に蛋白質などが集まって、それが芽胞に包まれる形で存在する。また同時に、周辺の菌体は崩壊し、結果、芽胞のみが残る形となる。

次にグラム陽性かん菌についてであるが、グラム染色という細菌を2つに染め分ける方法を用いて、グラム陽性菌とグラム陰性菌の2つに大きく分類することができる。これは、細胞壁のさらに外側にある外膜を持つかどうかでアルコール脱色に対する反応性に違いが生じ、染色される色が異なってくるという分類法である。また、形状の違いから球菌とかん菌とに分けられるが、ここではグラム陽性かん菌について取り上げる。

グラム陽性かん菌は芽胞形成の有無からグラム陽性有芽胞かん菌と無芽胞かん菌とに分けられる。有芽胞かん菌にはバシラス属(Genus Bacilus)と嫌気性菌であるクロストリジウム属(Genus Clostridium)がある。また無芽胞かん菌にはリステリア属(Genus Listeria)やエリジペロスリックス属(Genus Erysipelothrix)、コリネバクテリウム属(Genus Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Genus Mycobacterium)などがあげられる。具体的に代表的な菌についていくつか述べてみる。

  1. 炭疽菌(Bacillus anthracis
  2. グラム陽性有芽胞かん菌でバシラス属である。大きさは1.01.2×3〜10μmで、病原菌中細大のかん菌である。両端は竹の節を直角に切断したように見える。組織内では単独または短い連鎖状であるが培養菌は長い連鎖を形成する。鞭毛を欠き、組織内ではポリD−グルタミン酸からなる莢膜をつくる。菌体の中央に卵円形の芽胞を形成する。この芽胞は乾燥状態で数年生存し、消毒剤、加熱にも抵抗する。炭疽菌は人獣伝染病である炭疽を起こす病原菌として知られている。主として草食獣を侵し、肉食獣、雑食獣への感染例は少ない。ヒトの場合主に皮膚感染で、家畜の炭疽からの感染が多い。露出部の手、腕、頭などの創傷から菌、芽胞が侵入して悪性膿疱をつくり、重症になれば死亡するケースもある。

     

  3. ボツリヌス菌(Clostridium botulinum
  4. グラム陽性有芽胞かん菌で、嫌気性をもつクロストリジウム属である。大       きさは0.91.2×4~6μmで、均一な幅を持ち、真直ぐで両端は鈍円である。芽胞は楕円形で一端近くに位置し、菌体の幅よりやや大きい。鞭毛はあるが莢膜はない。土壌中に存在し、野菜、魚、肉類を汚染する。よってボツリヌス毒素によって食中毒が起こりやすい。また、熱に対する抵抗性は嫌気性菌の中で最もつよく、芽胞は100℃数時間、120℃でも少なくとも10分は耐える。

     

  5. リステリア(Listeria monocytogenes)    
  6. グラム陽性無芽胞かん菌であり、リステリア属に属す。大きさは0.5×0.52μmの短かん菌であるが、時に陳旧培養やR型菌で620μmのフィラメント状を呈する。莢膜、芽胞は有しない。2025℃での培養では運動性を示し、34本の周毛性鞭毛が観察されるが、37℃では極単毛で運動性も低い。この菌は全世界に広く分布し、50種類以上の動物から分離されており、土壌や植物、湖や川の水からも分離される。またこの菌は人畜共通の感染症の一つであるリステリア症を起こす。さらにマクロファージ内でも増殖可能な通性細胞内寄生性細菌の1つである。抗体は感染防御には無効と考えられている。

       

  7. ジフテリア菌(Corynebacterium

グラム陽性無芽胞かん菌で、コリネバクテリウム属に属す。大きさは0.30.8×18μmの、まっすぐか少し弯曲した中等大のかん菌である。しばしば一端またはときに両端が膨大、まれに枝分かれする。一般に多形態性を示す。芽胞、莢膜、鞭毛は欠如。菌体内に1〜数個の異染小体がある。配列は特異であり、集合して柵状、車輪状を示し、また菌体交互に一定の角度をとって開指状、松葉状、NTVWY状などを呈す。基本的には好気性〜微好気性であるが嫌気条件下でも発育しうる。またこの菌の抵抗性は比較的弱いが、偽膜内の菌はこれより抵抗性は強い。ヒトに対する病原性は咽頭粘膜を侵すことが最も多く、感染後、しばらくの潜伏期を経て局所に偽膜をつくり、限局性に増殖し大量の毒素を産出する。所在としてはジフテリア患者の咽頭、気管及び鼻腔の粘膜に存在し、ことにこれらの部位の偽膜にはほとんど純培養状に存在する。

 

 

 

Y.代表的なグラム陽性球菌

グラム陽性球菌は以下のように分類される

グラム陽性球菌

ミクロコッカス科

 

 

ミクロコッカス

?ブドウ球菌

 

ストレプトコッカス科

 

 

 

?レンサ球菌

リューコノストック

ペデイオコッカス

 

ペプトコッカス科

 

 

?ペプトコッカス

sarcina

 

 

1.ブドウ球菌

 ブドウ球菌は鼻腔、皮膚、腸管などに常在し、正常人の約50%は鼻前庭部に黄色ブドウ球菌をもっている。約20%の正常人の便から菌が分離され、乳幼児の場合には会陰部が菌の常在部位の一つとなっている。その大きさは、直径0.81.0μmのグラム陽性球菌である。特徴は、芽胞がなく、鞭毛ももたないので運動性はない。細胞壁には2つの主成分としてペプチドグリカン、タイコ酸の層を持つが、黄色ブドウ球菌の場合はさらに免疫グロブリンGFC部分に特異的に結合する蛋白プロテインAを含んでいる。

 

2.レンサ球菌

 直径0.5から1.0μmのグラム陽性球菌で染色標本で見ると、レンサ状の配列をする。芽胞や鞭毛をもたない。従って運動性を示さない。ブドウ球菌と異なりカタラーゼをもたないが通性嫌気性に発育しグルコースを発酵的に分解する。その際乳酸を産出するのが特徴である。レンサ球菌は一般に、熱、消毒液、抗生物質に対する抵抗性がブドウ球菌に比べて弱い。

 

3.ペプトコッカス

 ペプトストレプトコッカスと共にグラム陽性の球菌で、芽胞や鞭毛は作らない。ブドウ球菌やレンサ球菌に比べ溶血素を作る事はまれである。オキシダーゼは陰性であるがまれにカタラーゼを産出するものがある。

 

グラム陽性球菌は芽胞をもたないという事である。

 

Z.無芽胞嫌気性桿菌

一般に嫌気性菌の分類は,@グラム染色性(注1),A形態,B芽胞,C鞭毛の有無と位置,D代謝産物によってなされる。特に代謝産物として、揮発性脂肪酸(注2)と難揮発性脂肪酸(注3)のガスクロマトグラフィーによる定量分析が同定のきめ手になっている。

病原性無芽胞嫌気性桿菌はほとんどすべて常在細菌の一部であり、日和見感染(注4)である。

嫌気性菌がよく検出される感染症としては、脳腫瘍(検出頻度83%)、慢性中耳炎(50%)、肺腫瘍(93%)、筋壊死(100%)、関節炎(38%)などがある。

実際に臨床検体から検出される嫌気性菌の中で最も多いのは、Bacteroides(42%)(注5)である。しかもこの菌は多くの抗菌剤に耐性であり、今後も検出率が増加することが予想される。

嫌気性菌感染症の治療は、外科的に行うか、薬剤投与による。

 

  1. バクテリア(細菌)を青い染料で染めて分類する方法である。 細胞壁の違いによって、細菌はそれぞれ異なった色の反応を示す。脱色されるものをグラム陰性型、染まるものをグラム陽性型という。
  2. 炭素数1分子のものから6分子のものまで。
  3. 乳酸、コハク酸。
  4. 通常、健康な場合には影響をおよぼさない病原性の弱い微生物や、平素は無害な菌などによってひきおこされる感染症をいう

グラム陰性で、芽胞がない桿菌であるが、末端や中央が膨隆したり、空砲を生じたり、繊維状になる。運動性がないか、周毛性鞭毛を持つ。糖を発酵して酢酸とコハク酸を産生する。

 

[.有芽胞細胞と病気

A.バラシス属(好気性有芽胞菌)

1.炭疽菌Bacillus anthracisと炭疽Anthrax

1877年 Robert Koch:純培養、最初の病原菌

1881年 Louis Pasteur:高温(42℃)培養弱毒化菌ワクチン(ヒツジ、ヤギ、ウシ用)による防御に成功

炭疽anthraxは本来ヒツジ、ウシ、ウマなどの家畜や野生草食動物の伝染病で、ヒトは、この病気に罹った動物やそれらの皮、毛や排泄物と接触したときにだけ偶発的に感染する。したがって、その様な機会の多い獣医、牧畜食肉業者、羊毛毛皮工業者などにみられ、わが国でも稀に発生する。

臨床的には、3つの型があり、ヒトに最も多い型は、皮膚炭疽で悪性膿疱として知られている。ふつう顔や、頸や上肢などの露出部での小さなかすり傷から芽胞が侵入し、発芽、2〜5日の潜伏期の後に炎症性の丘疹ができ、次いで水疱、膿疱、壊死性となり潰瘍、疱疹がやぶれて特有の黒色痂皮を形成するが、痂皮の周囲は相当離れたところまでゼラチン様の浮腫で囲まれているのが特徴。どの時期でも特に痛みはないが、重傷の皮膚炭疽では、局所のリンパ節が腫大し、圧痛を示し、敗血症に進展すると、全身に広がりしばしば死に至る。吸入炭疽inhalation anthrax(肺炭疽)は、炭疽菌芽胞を含んだ塵を吸入するとしばしば著明なゼラチン様浮腫を特徴とする広範な急性の出血性縦隔洞炎や出血性髄膜炎を起こす。この病型は、呼吸困難、胸痛、高熱で急に始まり、急速に進行して致命率が高い。吸入された芽胞は肺胞マクロファージに食菌され、肺リンパを介して局所の気管-気管支リンパ節に運ばれそこで発芽、増殖する。多くの栄養型菌はリンパ節で壊されるが、のがれた菌は血中に入り、次いで細網系とくに脾臓で急速に壊される(脾腫を起こす)が、すぐにこの防御系をうちまかして致命的な菌血症を起こす。出血性肺浮腫と胸腔内滲出貯留がみられるが肺炎は稀。腸炭疽は家畜ではふつうであるが、ヒトでは稀で、炭疽に感染した動物から芽胞に汚染された肉を食べて起こる。コレラ様の胃腸炎か急性腹症(腹痛、発熱、嘔吐、血性下痢、腸閉塞、ショック)が主症状で、致命率が非常に高く、剖検では穿孔を伴う小腸のリンパ節の病巣と出血性炎症がみられる。

もう1つの稀な型は口咽頭炭疽で、扁桃腺や咽頭に潰瘍をつくり、ジフテリアに似た偽膜を形成して嚥下困難、呼吸困難を起こす。

 

2.セレウス菌B.cereusと食中毒

 

セレウス菌は病原性を示さないことが多いが、調理済食物の冷蔵が不適当で、それを再び熱したりした結果、芽胞が発芽して毒素を産出すると、ときに食中毒を発生させる。セレウス菌食中毒には、下痢型(潜伏期が10から13時間で腹痛、水様性下痢、裏急後重などを主症状とし、嘔吐、発熱などはほとんどみられず、ウェルシュ菌食中毒に酷似し、原因食はバニラソースなど)と嘔吐型(潜伏期が16時間で、悪心、嘔吐を主症状とし、下痢、腹痛はほとんどみられず、ブドウ球菌食中毒に臨床的には酷似、原因食は、米飯を主体としたもの)の2つの型がある。本菌はぺニシリナーゼとセファロスポリナーゼを産出(工業的にこれらを産出するのにも利用されている)するので、β−ラクタム抗生物質治療中に菌交代現象で日和見感染を起こすこともある。

 

B.嫌気性芽胞菌

  1. 破傷風菌と破傷風 Clostridium tetani and tetanus

  

破傷風菌は世界中の土壌およびヘドロに広く分布しており、ヒトや動物の糞尿中にも見出される。菌の分布が広い割合に破傷風の患者がそれ程多くないのは、この菌の嫌気要求度が高く、特殊な環境下でないと増殖しない性質と関係があるのであろう。わが国では年間100名足らずの患者が報告されるにすぎないが、熱帯、亜熱帯の発展途上国では1050倍の患者発生率である。

土に汚染された、傷口の小さく深い創傷(足の刺傷、交通外傷による複雑骨折など)にまずブドウ球菌などの感染が起こり、組織が局所的に破壊されると血行が止まり、嫌気状態がつくられる。そこで破傷風菌が増殖を開始し、強い菌体外毒素が産出される。菌は局所に止まるが、毒素は神経に沿ったリンパ管を経て、全身に運ばれる。毒素は神経組織に強い親和性をもち、受傷後数日〜1ヶ月の潜伏期のあと頭痛、全身倦怠感とともに嚥下困難や開口困難を初発症状として発症する(牙関緊急:trismusという)。まもなく筋強直は顔面、項部、背部、腹部におよび、顔面筋肉の強直のため苦笑の表情に似た特有の痙攣を示す。全身の筋肉強直のため弓なり状となり、呼吸困難となって死亡する。これを大痙攣という。痙攣発作は外界からの軽い刺激、例えば振動、微風、光などで誘発される。破傷風毒素は運動神経には作用するが、感覚神経は侵されず、痙攣ごとに強い痛みを感じるので悲惨な病気である。治療が適当でないと、高い死亡率を示す。

 

2.ボツリヌス菌と食中毒 Clostridium botulinum and food poisoning

 

典型的な毒素型食中毒の病原体である。ボツリヌス菌は泥土(ヘドロ)中に多い。諸外国では、野菜、肉類の缶詰・瓶詰中毒またはソーセージ中毒(ともに自家製のものに多かった)として知られていたが、わが国では東北地方の郷土保存食“飯ずし(いずし)”中毒として有名である。しかし、1968年には輸入キャビアの瓶詰による集団ボツリヌス中毒が南九州で起こり、さらに数年前東京で原因不明の単発例が報告され、さらに辛子蓮根による集団ボツリヌス中毒が発生した。

土に汚染された野菜、海水中の菌のついたキャビアなどの瓶詰の減菌が不完全であったり、食品保存料が不適当であったりすると、嫌気条件下でボツリヌスが増殖し外毒素を産出する。また“いずし”は麹をつかった、大根などの野菜と川水で洗った生魚の保存ずしなので、麹かびがまず増殖して酸素を消費し、嫌気状態がつくられるとボツリヌス菌が増殖して毒素が産出される。毒素を含んだ食物をとると、数時間〜3日の潜伏期のあと、頭痛、眼瞼下垂、散瞳、複視などの初発症状を示し、間もなく嚥下困難、発声障害から胸部筋肉麻痺に進み37日目に死亡する。

 

3.ガス壊疽 gas gangrene

  ウェルシュ菌

土中に広く分布するウェルシュ菌Cl.perfringens、悪性水腫菌Cl.septicum、気腫疽菌Cl.chauvoei、ノビイ菌Cl.novyiなどは土に汚染された組織傷害の大きい外傷(交通事故による複雑骨折、銃創など)に感染し、ガス壊疽を起こすことがある。12日の潜伏期のあと、創傷周囲軟部組織の広範な壊死、水腫、ガス貯留を示し、産出される毒素が血流中に入り、溶血、出血性黄疽で死亡する。

 

4.耐熱性ウェルシュ菌食中毒

土中のウェルシュ菌(耐熱性株)に汚染された食物を一度加熱し、夏の室温に数時間以上放置されて、中の嫌気状態が保たれると、ウェルシュ菌食中毒が起こりやすい。深鍋で調理した冷やし中華そばのかけ汁、クリームソースを主材料とするコロッケなどが原因食として知られている。1224時間の潜伏期のあと、発熱、下痢、腹痛を主症状として発症する。

 

5.クロストリジウム・デフィシルと偽膜性大腸炎

  Clostridium difficile and pseudomembranous colitis

  偽膜性大腸炎

 クリンダマイシン(CLDM)やリンコマイシン(LCM)などを内服すると下痢が起こり、時に重い大腸炎になって死亡することさえあると報告された。大腸に潰瘍が生じ、偽膜で覆われる病巣が特徴的で、偽膜性大腸炎(PMC)と呼ばれる。組織学的には盲腸から上行結腸にかけて広範囲の粘膜上皮剥離、毛細管閉鎖、多形核白血球の集合、ムチンと死滅細胞の潰瘍面の付着がみられる。

 

《予防》

炭疽…炭疽はとくに中東、アフリカ、アジアで家畜に重大な損害を与えている。炭疽は本来草食獣の伝染病なので、家畜の衛生管理を十分に行い、炭疽が疑われる動物は直ちに隔離し、確定したときは、消毒・焼却する。炭疽に罹る危険にさらされる作業従事者に対しては、防御抗原による免疫および炭疽に関する衛生教育が必要である。

 

破傷風…破傷風は毒素があまりにも強いため、病後免疫は成立しないが、毒素をホルマリンで処理すると抗原性を保ったまま毒性を除くことができ(トキソイド toxoid)、十分量投与することができるので能動免疫による予防が可能になる。現在は生後3〜48ヶ月の小児にDPT(ジフテリア、百日咳、破傷風混合)のワクチンとして基礎免疫が与えられ、以後は必要に応じて追加免疫が行われている。破傷風単独ワクチンもあり、この場合はトキソイドをリン酸アルミナや水酸化アルミナに吸着させた沈降トキソイドが使われることが多い。基礎免疫として0.5mlずつ1ヵ月間隔で2回皮下注射しておけば、創傷をうけた直後に0.5ml追加注射することで、破傷風の発症を防ぐことができる。また、基礎免疫をもたない患者でも受傷直後に予防接種を行えば、トキソイドが神経細胞表面のガングリオキシドGDGD18に結合し、あとからくる毒素の結合をさまたげて発症を防ぐ可能性がある。

 

ボツリヌス菌食中毒…缶詰、瓶詰の消毒法の改善、真空パック食品の衛生指導が必要である。

 

ガス壊疽・耐熱ウェルシュ菌食中毒…組織の挫滅がひどい創傷は広く創口を開放し、酸素をとおりやすくするとともにPCを予防投与する。

 

偽膜性大腸炎…化学療法中に下痢などの症状が現れたなら、腎排泄型抗生物質の注射に切り替える

 

《治療法》

炭疽…ペニシリンGが第一選択の抗生物質で、テトラサイクリンがペニシリンに過敏性を示す患者に用いられる。たいていの菌株はエリスロマイシン、クロラムフェニコールに感受性を示す。早期に投与することが極めて重要。抗血清(抗毒素を含むと考えられている)は、現在ではヒト炭疽の治療には用いられない。しばしば原発部位に毒素が痂皮(かさぶた)を形成していても、抗生物質が有効な皮膚炭疽と異なり、呼吸器系の炭疽は菌血症を起こしてからでないとみつからないことが多いので、たいてい化学療法無効で致命的。稀な吸入炭疽の場合は、抗生物質および抗毒素の投与がすすめられる。

 

破傷風…高圧酸素療法、抗毒素による血清療法、筋弛緩剤による対症療法、PCの化学療法の併用で行う。抗毒素として長い間ウマでつくった治療用血清が用いられてきたが、近年ヒトγ−グロブリンのの抗毒素が開発された。ウマ血清は異種蛋白であり、破傷風以外にもガス壊疽、ジフテリア、蛇咬傷、ボツリヌス食中毒などにも使われていてアナフィラキシーの危険があるので、ヒトγ−グロブリンの方が理想的なことはいうまでもない。抗血清の力価は国際単位で示される。体重約20gのマウスを4日で殺す最小量の毒素の単位を1MLD(最小致死量)とし、抗毒素の1国際単位は3×10MLDの毒素を中和する。ウマの抗毒素血清で20万単位、ヒトγ−グロブリン抗毒素で1万単位以上を発症初期に静脈内および感染局所に注射する。

 

ボツリヌス菌食中毒…ウマを使った抗毒素の血清療法を行うが、発症後でも効果は大きい。

 

ガス壊疽・耐熱性ウェルシュ菌食中毒…PCの大量注射(100万単位以上)と高圧酸素療法が有効である。α−毒素に対する血清療法も必要に応じ行われる。

 

偽膜性大腸炎…バンコマイシンvancomycinVCM)の内服が有効であるが、再発が20%程度みられる。