原核生物のべん毛について

担当 師子角

 

細菌のべん毛の長さは、ほぼ、3−12μであるが、直径はずっと小さく、120−190Aの大きさである。電子顕微鏡で見た場合、一本一本は長い螺旋型をしている。

 

<細菌べん毛運動システム>

細菌べん毛は、真核生物鞭毛とは構造的にも機能的にも全く異なる。後者が、ATPをエネルギー源とした鞭打ち運動をするのに対し、前者は、膜の外から内へのイオンの流れをエネルギー源として回転する。フラジェリンという後者とはまったく異なるたん白質でできた繊維で、根元にある、細胞膜に埋まったモーターで、、イオンの流入により直接回転運動を作り出している(図1)。モーターには、菌体長より数倍も長いらせん形をしたべん毛繊維がスクリューとしてつながっており、受動的に回転することで推進力を生み出す。モーターは、多くのタンパク質でできた超分子複合体であり、イオンのエネルギーを力学的エネルギーに変換するモータータンパク質複合体や、モーターの回転の方向を制御するスイッチ複合体などの部分構造を含んでいる。

 

(1)べん毛モーターのエネルギー変換系

 べん毛モーターを解析していく上で、海洋性ビブリオ菌はとくに興味深い材料である。この細菌は、海水中を自由に泳ぎ回るときには1本のべん毛(極毛)をもつが、粘性の上昇が刺激となって、極毛とは全く異なるべん毛(側毛)が菌体側面に多数発現する。最近極毛モーターは Na+駆動型であり、側毛モーターは H+駆動型であることが明らかになった。

 

(2)モーター回転のキネティクス

 最近、一本のべん毛の回転を高時間分解能で計測できるレーザー暗視野顕微測光システムが開発された。これを用いてビブリオ菌極毛の回転を計測したところ、毎秒千回転以上もの超高速で回っていることが分かった。また、その回転は低速でも非常になめらかであった。一方、Na+駆動型モーターの回転は、Na+チャネル阻害剤であるアミロライドにより、Na+と拮抗的に阻害される。

 

図1. 細菌べん毛モーターの模式図

 

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