1.B型肝炎ウイルスの増殖

1−1   B型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子構造

B型肝炎患者の血清中には径約22nmの小球状粒子、細長い管上粒子および約42nmDane粒子が認められる。Dane粒子がウイルスの本体であり、他の粒子はウイルス生産時につくられる剰余産物である。Dane粒子内部には約27nmのコア粒子が存在している。このコア粒子には約3.2Kbの環状二本鎖DNAが含まれている。(図1 ウイルスのmRNAに対応する塩基配列を有するDNA鎖を−鎖とすると、−鎖はゲノム長を一周し5’末端を数塩基重複(short terminal redundancy)したところで終了しているが、閉環せず一ヵ所の切れ目(nick)を有している。このshort terminal redundancyはゲノムDNAの環状構造の形成上重要と考えられている。また+鎖DNAの5’末端は−鎖の5’末端から225塩基離れたところから開始するが、その3’末端は一定でなくゲノム長の約50~85%の間で変動する。つまりこのウイルスは一部単鎖である不完全2重鎖DNAウイルスである。このウイルスDNAの環状構造は−鎖と+鎖の5’末端近傍の付着によってより強く維持されている。−鎖DNAの5’末端には末端タンパクが共有結合している。また+鎖DNAの5’末端には約20塩基のRNAが存在している(図1)。+鎖の3’末端にはDNAポリメラーゼが存在しDNAを進展する役割を担っている。

  この遺伝子には分子量10kD以上のペプチドに翻訳可能な4つのopen reading frame

(ORF)が存在する。これらのORFはそれぞれHBs抗原蛋白、HBc抗原蛋白,DNAポリメラーゼ、X蛋白をコードしている(図1)。

  HBV DNAからは少なくとも4種類のRNAが転写される(図2)。これらRNAの転写開始部位の近傍にはそれぞれ4つのプロモーター領域が存在する。また、2種類のエンハンサー領域と1つのグルココルチコイド・レスポンシブ・エレメントが存在し、転写調節が行われている(図2)。

  

また、HBVの塩基配列上には、これらゲノムDNA5’末端近傍に11塩基よりなる反復配列(direct repeat,DR1DR2)が存在する。これらの反復配列は、ウイルスの複製や染色体への組み込みに重要な役割を果たしていると考えられる。また、コア遺伝子の上流にはencapsidation signalが存在し、ウイルスのパッケージングに関与している。

 

1−2  HBVの各種ORFとその産物

   a.S遺伝子

 

HBVの表面抗原蛋白をコードしている遺伝子が、S抗原遺伝子で約226アミノ酸をコードしている(図3)。S抗原自体のコードする蛋白は、疎水性の強い蛋白でウイルス粒子表面の主要構造蛋白としてメジャーS蛋白と呼ばれる。このHBs抗原の主要抗原決定基であるa抗原決定基はメジャーS蛋白の124147番のアミノ酸が4つのシステイン(cys)による立体構造をとることにより規定されている。HBs抗原にはd/y、 r/wというサブタイプが存在するが、これらはメジャーS蛋白のそれぞれ122番、160番のアミノ酸が1個変異することで変化し得る。 d/ y、 r/wサブタイプはそれぞれこれらのアミノ酸により規定されるものと考えられる。

図3

 このHBs遺伝子の174アミノ酸、55アミノ酸上流には2個の開始コドンが存在している。これらにより付加されるペプチドをコードしている領域を、上流側からそれぞれpreS1,                              

preS2と呼んでいる。(図3)。メジャーS蛋白にpreS1preS2領域野の付加した蛋白は表面抗原のマイナーな構成成分であり、それぞれラージS,ミドルS蛋白と呼ばれる。これらpreS1,preS2、メジャーS蛋白部分には糖鎖結合部位が存在し、それぞれ2種類のポリペプチド(GP42P39GP36P33GP27P24)が存在する。これらpreS領域のアミノ酸はクローン間での変異の頻度がS抗原内部よりかなり高率である。これらpreS1preS2ペプチドはHBs粒子の表面外側に突出していると考えられる。PreS1はウイルスの肝細胞への感染に関与すると考えられている。PreS2部分もアルブミンレセプターを介して、ウイルスの肝細胞への接着に関係している可能性が示唆された。最近preS2部分の欠けているウイルスの存在が確認されており、preS2蛋白がウイルスの生存に必須の部分であるかについては疑問が呈される。

b.C遺伝子

 

HBV粒子中のコア粒子の構成蛋白であるコア粒子をコードしているのがHBc遺伝子であり、183アミノ酸ペプチドをコードしている(図4)。コア蛋白のアミノ酸配列には特徴があり、C末端近傍はアルギニン(Arg)に富んでいる。コア蛋白のC末端のこのようなプロタミン構造はDNA結合蛋白によくみられる構造であり、ウイルス核酸がコア粒子内にパッケージングされるときに必要な構造と考えられる。

図4

  またコア遺伝子の29アミノ酸上流にはもう1つの開始コドンが存在し、この領域はpre-C領域といわれる。このpre-C領域には疎水性の強いリーダーシークエンスといわれる部分が存在する。このpre-Cおよびコア領域の蛋白からつくられるペプチドから、HBe抗原蛋白が産生される(図4)。HBe抗原蛋白は可溶性の蛋白であり、B型肝炎にはHBe抗原陽性期とHBe抗体陽性期がある。一般にHBe抗原陽性期にはウイルス量が多く、HBe抗体陽性期にはウイルス量が少ない。これまでのHBVの塩基配列の多くは、比較的ウイルス量が多く、クローン化して塩基配列を決定しやすい。HBe抗原陽性患者血液中のウイルスをもとに報告されてきた。近年、比較的少量のウイルスしか存在しない場合でも、PCR(polymerase chain reaction)法を用いてウイルスを増幅し塩基配列を決定できるようになったことから、HBe抗体陽性例においてもHBVの塩基配列の解析が容易となってきた。最近pre-C領域の第28番のコドンが停止コドンに変化し、HBe抗原の産生ができないウイルス変異種が存在することがわかった。

. P遺伝子

HBVには内在性にDNAポリメラーゼが存在することが知られている。HBV  DNAには、HBs抗原遺伝子やHBc遺伝子とはフレームを異にした約832アミノ酸をコードするORFがある。この大きなORFからは、レトロウイルスの逆転写酵素と類似性のあるDNAポリメラーゼ/逆転写酵素が産生される。このポリメラーゼ、RNaseH活性部位が存在する。(図5)

図5

d.X遺伝子

X遺伝子には約154アミノ酸からなる分子量約17kDの蛋白がコードされている。X遺伝子からは約0.9kbのmRNAが転写され、X蛋白が産生されこのX蛋白はトランス活性化蛋白でありエンハンサーやプロモーター領域と結合し、各種蛋白の発現調節をすることが明らかになってきた。X蛋白はウイルス蛋白の転写の調節や肝癌発癌との関連で注目される。

1−3  遺伝子転写の調節

 HBVゲノムのは前述したように4個のORFが存在している。S抗原蛋白は2.4kb2.1kbRNAにより、またC抗原蛋白、DNAP蛋白は3.5kbmRNA,X蛋白は09kbの転写RNAから翻訳される。(図2)これらの転写産物の5末端近傍を検索することにより、それぞれのmRNAに対応する4つのプロモーター領域の存在が明らかにされた(図2)。ウイルスの複製に関与する約3.5kbのプロブレムRNAはコアmRNAとほぼ同じサイズでるが、コアmRNAとピロブレムRNAの発現部位がわずかに異なることが最近示された。

  また、HBVの遺伝子発現を調整するエンハンサー領域が存在する。最近、エンハンサー領域が2ヶ所存在することや、ステロイドにより活性が影響されるグルココルチコイド・レスポンシブ・エレメントが存在することが明らかになった(図2)。エンハンサー1はX遺伝子の上流に、さらにエンハンサー2はpreC遺伝子上流のX遺伝子後半部に存在する。エンハンサー2はヒト肝細胞野特異的の存在するnuclear factorと結合し、転写活性が影響される。この転写活性がヒトの肝細胞に特異的にな因子により調節されることは、HBVがヒトの肝細胞でしか増殖できないことを証明するものである。また、このエンハンサー領域のわずかな変異によってmRNAの転写の効率も大きく異なるため、各種蛋白やプレゲノムRNAの再生が大きな影響を受けることが予想される。

1‐4 HBVの複製

HBVの複製過程には、逆転写酵素によりRNA intermediateを介したDNAが合成されるという逆転写の過程が存在するという特徴がある(図6)。HBVは肝細胞に吸着、侵入後、細胞質で脱穀し、HBV DNAは核に移行し内因性ポリメラーゼにより二本鎖環状DNAとなり、閉環してスーパーコイルドDNAを鋳型として細胞のRNAポリメラーゼにより3.5kb RNAが産生される。このプレゲノムRNAは細胞質に移行し、コア粒子内に包合され逆転写の鋳型となる。そのプレゲノムRNAを鋳型として5’末端結合蛋白をプライマーとし、逆転写酵素により−鎖DNAが形成される。同時にプレゲノムRNAは逆転写酵素の有するRNAseH活性により分解される。

  また、プレゲノムRNADR15’末端に残ったRNAをプライマーとして、direct repeat2配列の下流で+DNAの進展が5’末端に到達すると−鎖の3’個のDNAへと鋳型を変換し、さらに進展し閉環二本鎖DNAが形成される。−鎖および+鎖DNA合成の間に、コア粒子は外被で覆われ完全なHBV粒子となり、肝細胞から血中へと移行する(図6)。HBVpre-C領域に重複した部分には、塩基配列が対をなしstem-loop様の構造をとるencapsidation signal が存在する。プレゲノムRNAがコア蛋白に結合しコア内部にパッケージングされる過程で、このシグナルが必要である。このコンフォメーションが失われると、ウイルス核酸のコア粒子内へのパッケージングができなくなる。このためにpre-C領域の変異はきわめて限定された部位にしか起こらない。

  一方前述したごとく、コア蛋白の後半部の領域には、アルギニンに富んだ領域が存在する。この部分はウィルスのRNADNAと結合することが明らかにされた。すなわちコア蛋白の後半部はencapsidation signalがコア蛋白と結合する部位と考えられる。核酸を含むコア粒子ができるためにはこの領域が必要と考えられる。

図6

2.病原性と免疫

  免疫能が正常な成人の場合、HBVの感染は非持続性感染であり、多くは不顕性感染であるが、一部は顕性の急性B型肝炎となる。しかし予後は一般によい。この場合、HBVの感染自体は肝細胞を破壊することはないが、感染細胞上のHBcAgHBeAgを、主としてCD8陽性の細胞傷害性T細胞が標的として攻撃することによって、肝細胞が傷害されて肝炎をひき起こす。一方、血中に遊離したHBVは抗HBs抗体によって排除される。(図7)

図7 急性B型肝炎(非持続性肝炎)におけるHBV抗原と非HBV抗体の消長

  免疫能が十分でない新生児や幼児、あるいは成人の免疫不全患者の場合、HBVは持続性感染を起こし、無症候性HBVキャリアとなる。すなわち、上述の免疫機構が十分に働かないので、肝炎を起こすことがない反面、HBVも体内から排除されない。

  HBsAgが6ヶ月以上にわたって陽性である場合をHBVキャリアと定義するが、そのなかから慢性肝炎や肝硬変に移行し、さらには原発性肝癌を発生する場合がある。

  持続感染の初期にはHBeAgが陽性であり、この時期の血液には多量のHBVが含まれているので感染性が高く、肝障害の発現・進展がみられる。長い経過の後、血中のHBeAgは消失し、代わって抗HBe抗体が陽性になると、感染力も低下し、明らかな肝障害が出現しなくなる。(図8)

  HBVキャリアでHBeAgが陽性の母親から生まれた新生児の多くはHBVキャリアとなる。

  ヒト以外ではチンパンジーなどの霊長類に感染しうるが、一般的に軽症である。

 

 

3.実験室診断

  種種のHBVマーカーを検査したウイルス学的診断および病態の判定を行う。

a)HBs抗原およびHBs抗体

  HBs抗原陽性はHBVの感染が現在起こっていることを示す。HBs抗体陽性は過去の感染歴あ  るいはワクチン接種歴を示す。

b)HBc抗体

  高い抗体価のHBc抗体陽性(通常HBs抗原陽性)は現在のHBV感染を示し、低い抗体価(通常HBs抗体陽性)は過去のHBV感染を示す。特にIgMHBc抗体陽性であればB型急性肝炎と診断する。

c)HBe抗原とHbe抗体

  Hbe抗原陽性は血中に多量のHBVが存在する(感染性が強い)ことを示し、また慢性活動性肝炎におけるHBVの持続的増殖の指標となる。Hbe抗体はHbe抗原消失後に陽性となり、血中のHBVが少ない(感染性が低い)ことを示す。なお、このHbe抗原消失とHbe抗原出現はseroconversionとよばれ、preC遺伝子領域の変異によって停止コドンが生じHbe抗原の分泌ができなくなることによる。なお、C遺伝子領域の変異は劇症肝炎に関与する。

d)HBVDNAおよびDNAポリメラーゼ

  血中のHBVの量を反映し、インターフェロンをはじめ抗ウイルス療法の治療効果を判定するための指標となる。

4.疫学

B型肝炎患者およびHBVキャリアーを感染源として、以下の3つの経路,すなわち          Hbe抗原陽性の母親から主として出産時に新生児への伝播,血液を介する医療行為・入れ墨・麻薬の静注など、そして性行為によってHBVの感染が起こる。

  HBVは世界的に分布するが、そのキャリアーの頻度は地域によって異なり、特にアジア,アフリカに高い。HBVのキャリアーは全世界で3億人とされ、その95%は発展途上国に偏在し、アジアに約2億2千万人,アフリカに約5千万人が存在する。日本では2〜3%(200〜300万人)であり、欧米の10倍以上の頻度である。

  HBVサブタイプの分布は、HBVの母児感染あるいは家庭内感染を反映して、地域特異性を示す。すなわち、HBVのうち中国の黄河流域では90%以上,壱岐・対馬で100%,九州本土では90%以上がadrサブタイプである。これに対して沖縄・奄美の90%近く,東北地方の50%がabwとされている。これらのサブタイプの分布はHBVの伝播経路,日本民族の起源を示唆している。

  ヒト,齧歯類,鳥類のかくヘパドナウイルスのDNAには、相同的な部分が存在している。これらが同一の起源に由来するとするとHBVは1〜1億年にわたって人と共存してきたことが想定される。事実、地球上には約1億7千万人のキャリアが存在し、その大部分はアジア,アフリカに偏存している。 

5.予防、治療及び疫学

 HBs抗原は感染防御抗原であり、抗HBs抗体は感染防御抗体である。したがって 抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)による受動免疫と、キャリアの血漿由来のH Bsの抗原を精製したサブユニット(コンポーネント)HBワクチン(図9)あるいはHBs遺伝子をクローニングして酵母に産生させた組換えHBワクチン(図10)による能動免疫による予防が可能である。                     
図9血漿により精製したHBs抗原
図10酵母が産生したHBs抗原
 
 現在、HBe抗原陽性の妊婦から生まれた新生児に、そのキャリア化を防止する目的
で、まずHBIGを投与して母児感染を防ぎ、その後B型肝炎ウイルスワクチン(HBs抗原)を接種する方法が実施されている。
  抗ウイルス剤としては、ビタラビン(Ara-A)などのDNA合成阻害剤の治療効果が検討されている。わが国では、インターフェロン(IFN-β)がHBe抗原陽性B型肝炎に認可されており、抗ウイルス効果が示されている。
  防疫上、伝染源を十分認識することがもっとも重要であり、日常流水による手洗いの励行が有効である。消毒は煮沸(15分)、オートクレープ、次亜塩素酸ソーダ(有効塩素濃度1000〜10000ppm)、グルタールアルデヒド液(2%)、エチレンオキサイド(ガス)などによる。

2.レトロウイルスとB型肝炎ウイルス

1.レトロウイルス  〜DNA中間体を経て複製するRNAゲノム〜   

B型肝炎ウイルスはレトロウイルスのように逆転写によって複製されるのでここでは、参考のためにレトロウイルスについて述べる。

レトロウイルスは、宿主細胞と密接な独特の関係をもっている。ウイルス・ゲノムは+RNAだが、複製の中間体はゲノムをコピーした二本鎖DNAで、プロウイルス(provirus)とよばれる。プロウイルスは細胞の遺伝子に似ており、宿主染色体に組み込まれて初めて転写の鋳型として働く。そのため、新しいゲノムは細胞の機構をそのまま使って核の中で作られ、プロセシングを受ける。ウイルス・ゲノムのRNAはmRNAのように見えるが、感染の初期にはそうは働かず、DNA合成の鋳型となる。この反応を進める酵素は細胞には存在しないので、ビリオンが持ち込む他ない。この酵素は逆転写酵素(reverse transcriptase)とよばれ、ビリオンにこの酵素があるということがレトロウイルスの重要な特性となっている。組み込まれたプロウイルスのDNAは転写されて子孫ゲノムを作り、これは細胞膜に移動し、ビリオンに入り、細胞を殺すことなく細胞膜から出芽してくる。レトロウイルスの増殖サイクルを模式的に図11に示す。

図11

レトロウイルスはニワトリにがんを起こす因子として今世紀初頭に単離された。最初に見出されたのは1911年にPeyton Rousが分離したラウス肉腫ウイルス(RSV)で、がんを引き起こす因子のモデルとして今でも集中的に研究されている。動物のがんやいくつかの病気には、レトロウイルスで起こるものがある。ごく最近、ヒトでもそのようなウイルスが発見された。第一はHTLV-Tで、比較的まれではあるが致命的なTリンパ球のがんを引き起こす。第二はHIV(HTLV-VまたはLAVともよばれる)で、後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因となる。

レトロウイルスのビリオンは、正十二面体のヌクルオキャプシドでエンベロープに包まれている。このウイルス・ゲノムは独特で、二倍体となっており、各ビリオンには、7〜10kbの同一コピーのゲノムが2つ入っている。二倍体のゲノムをもつ理由は明らかではないが、このおかげで複製に関しての損傷の修復と高レベルの組換えが起こる。

レトロウイルス・ゲノムの遺伝的編成はくわしくわかっており、1ダースをこえるウイルス株についてその全塩基配列が決定されている。典型的レトロウイルスは、タンパク質をコードする遺伝子を3個持っている。

gag[groupspecific antigen(群特異的抗原)をコードするためこの名がある]は、切断されるとキャプシドタンパクを生じるポリプロテインをコードする。

pol…切断を受けて逆転写酵素とプロウイルスの組み込みに関与する酵素になるものをつくる。

envVSVGタンパクやインフルエンザのHAタンパクのようにエンベロープの糖タンパクの前駆体をコードする。

この他に、4番目の遺伝子(pX,lor,またはtatと呼ばれる)がHTLV-TとUのゲノムの3’末端部に最近見出された。この遺伝子は見かけ上アデノウイルスのE1Aタンパクに似た機能を示す転写アクチベーターをコードするらしく、その産物はプロウイルスの発現を著しく増加させる。

  レトロウイルスのゲノムの5’3’末端付近には長い非翻訳領域があり、この領域には、複製と転写に必要なシグナルが含まれている。また、ゲノムの両端末に短い同方向繰り返し配列(R)があり、5末端付近にtRNA分子が塩基対を形成して保持されている。ゲノムのこの部分にはtRNAの3部分に相補的な塩基配列があり、プライマー結合(PB)部位とよばれている。tRNAは複製の過程で宿主細胞からとりこまれ、感染後まもなくDNA合成のプライマーの役をする。逆転写酵素はDNAポリメラーゼの通例としてDNA鎖の開始はできず、3’-OHプライマーから鎖を伸長するだけなので、このtRNAは不可欠である。

図12

2.プロウイルスのDNAには逆転写酵素の働きで長い末端繰返し配列ができる

細胞に進入したレトロウイルス・ビリオンの中には逆転写酵素があり、それがウイルスの一本鎖RNA分子を鋳型に二本鎖DNA分子を作り、宿主細胞のDNAに組みこませてRNAポリメラーゼUに転写させる。

  ビリオンが細胞に進入するとまもなく、細胞質でウイルスDNAの合成が起こる。この新しく合成された一本鎖DNAを、末端にプライマーtRNAを結合したまま二本鎖DNAに変換しなくてはならない。このために、RNAU3のすぐ左側に特異的ニックが作られる。こうしてできたRNA3’-OH末端が、今度は+DNA合成のプライマーとなる。

図14

プロウイルスのDNAを合成する過程は、すべて逆転写酵素が行う。この酵素は、このために少なくとも4つの活性を示さなくてはならない。RNAを鋳型としたDNA合成,RNA−DNAハイブリッド中のRNAの分解,DNAを鋳型としたDNAの合成,U35’末端にあるRNAの特異的切断である。こうしてできた線状DNAは核に運ばれ、ここで細胞の酵素により両末端が連結され、共有結合で、閉じた環状分子になり、組み込みの前駆体となる。ウイルスのDNAの組込みの機構は、完全にわかっていない。組込まれたプロウイルスの末端はいつも同じなので環状分子は特異的部位で開環されるに違いない。これに対して、組込みを受ける細胞のDNAの部位には塩基配列の特異性がない。ウイルスと細胞のDNAの結合点では必ず、2塩基がプロウイルスの両末端から除去され、さらに組込み部位として使われた細胞のDNAが46塩基重複を起こしている。この過程は十分に理解されていないが、少なくともウイルスのインテグラーゼと呼ばれるエンドヌクレアーゼが、この過程に必須である。

  プロウイルスは、いったん細胞のDNAに組込まれると宿主のDNAとともに安定に複製される。バクテリオファージλなどとは異なり、プロウイルスが組込み部位から切り出されることはない。ただし、欠失を起こして失われてしまうことはある。レトロウイルスの感染は通常は細胞に害を与えず、感染細胞は分裂を続け、組込まれたプロトウイルスはそのRNAの合成を指示する鋳型として働くのである。例外はエイズウイルスで、このウイルスは何らかの理由で感染した特異的ヘルパーTリンパ球集団を殺してしまう。感染を受けた個体の免疫能が下がるのは、ヘルパーT細胞が枯渇してしまうためである。

図15

3.LTRからプロウイルス転写の指令が出される

LTRは組み込みの末端を供給するだけでなく、転写シグナルの担い手でもある。このシグナルは極めて効率的で、ある種のレトロウイルスでは感染細胞のmRNAの量の10%に達するウイルス合成が起こる。LTRU部分には、転写の開始を調節する塩基配列がある。典型的TATA配列とCCAAT配列が、U3-R連結点にあるキャップ部位からそれぞれ約25塩基と80塩基上流に認められる(16)。さらに上流には転写のエンハンサーがあり、多くの場合70100塩基の同方向繰り返し配列として存在している。レトロウイルスのエンハンサーはSV40のエンハンサーに似ており、後者と置き換えられるものもある。
                            図16

  DNAウイルスと同様に、組み込まれたプロウイルスからRNAポリメラーゼUで転写されてRNAが生じると、細胞の機構を利用してプロセシングを受ける。この転写産物はR3’末端で切断されてポリアデニル化され、その一部は核から細胞質に運ばれて出芽するビリオンの中に入り込み、新しいウイルス・ゲノムになる。残りは細胞質でgag,pol遺伝子のmRNAとして働く(17)。さらに一部のRNAはスプライシングを受け、env(およびウイルスによってはpX/lor遺伝子)mRNAになる。

          図17


4.プロウイルスは遺伝子の一員として生殖系列の中に定着できる

  レトロウイルスは感染因子としてだけでなく、細胞の遺伝子として増殖することもできる。たとえばウイルスが生殖細胞(精子または卵細胞になる予定の細胞)に感染すると、そこでできたプロウイルスはあたかも細胞の正常遺伝子であるかのように子孫に受け継がれていく。これは内在性プロウイルス(endogenous provirus)と呼ばれ、その実在が証明されており、実際にヒトを含む脊椎動物のDNA中に容易に検出される。マウスなどには何千もの内在性プロウイルスがあり、この動物の全DNA0.5%は内在性プロウイルスだろうと推定されている。

  内在性プロウイルスは通常は転写されないが、外から感染してくるレトロウイルスのプロウイルスと同じ構造をもつ。なかには、細胞をブロモデオキシウリジン(BudR)やヨードデオキシウリジン(IudR)などの化学物質で処理すると感染性ウイルスの生産が誘発されるものもある。内在性プロウイルスが転写されない原因の1つは、その内部のCG配列部分が広範にメチル化されているためである。誘発試薬はしばしばこのメチルを外す。

  外因性レトロウイルス同様、内在性プロウイルスは染色体DNAのランダムな位置に組み込まれている。個体が違えばプロウイルスの位置も違うことが多く、内在性プロウイルスは比較的最近に成って生殖系列に導入されたものと思われる。ときにはプロウイルスの挿入が遺伝子を不活性化してしまい表現型を変化させることも予想され、少なくともそのような変異が1例、マウスのd遺伝子配座で知られている。その変異を起こしたマウスの毛は独特の淡褐色で、一群の近交系マウスにこの色は特徴的にみられる。D変異から復帰した動物は毛の色によって容易に検出できるが、これらはプロウイルスを欠失しており、その出現頻度は世代あたり約3×10-6である。

今ではin vitro でマウスの初期胚にウイルスを感染させ、それを雄マウスに再着床させて胚を正常に発育させられるので、これを応用して実験マウスの生殖系列に新しいプロウイルスを人為的に挿入する試みがなされている。

  これまで述べたように、内在性プロウイルスは転移因子と多くの特徴を共有している。これらは末端に繰り返し配列を持った特徴のある構造をとっており、互いに関連している。個体によってそのDNAのいろいろな所に存在している。最近になって、当初真核生物の転移因子とされていたいろいろの因子が、LTR構造や機能も含めてプロウイルスの特徴をなぞらえていることがわかってきた。これらの因子の代表はショウジョウバエのコピア様因子や酵母のTy因子でレトロトランスポゾンとよばれている。両因子ともレトロウイルスと事実上同一の機構で重複し挿入を起こすことが証明されており、おそらく唯一異なるのは細胞外ピリオンにならないという点だけである。

    5.B型肝炎ウイルスはDNAウイルスだがレトロウイルスのような複製をする

   B型肝炎ウイルスはエンベロープのあるちいさなDNAゲノムを持つウイルスで、レトロウイルスの裏返しのような独自の様式で複製する。

  B型肝炎ウイルスのゲノムは環状だが、2本のDNA鎖はそれぞれ線状である。(図18)−鎖(または長いことを表すためにL鎖という)は全ゲノムをカバーする長さで、両末端の間のギャップ部分は離れてしまわないようにその相補鎖+鎖(または短いことを表しS鎖)によってつなぎとめられている。−鎖の5末端にはタンパク質が共有している。ピリオンに入っている+鎖はさまざまな長さで合成がとまっているので、その5末端は一定だが3末端はピリオンごとに違っており、残りはギャップになっている。ヌクレオキャップシドのコア内にDNAポリメラーゼがあり、この不完全な鎖の3末端を伸長する。
図18(図24‐32)

  B型肝炎ウイルスに感染した細胞には、+鎖と対合していない−鎖が多量に含まれているが、その多くは完全なゲノムの大きさに達していない。−鎖は未熟なコア状粒子の中でRNAを鋳型として合成され、その鋳型は合成の進行につれて分解される。B型肝炎ウイルスは、ちょうどレトロウイルスのように逆転写によって複製するのである。−鎖合成の鋳型となるのは完全な長さのRNAで、プレゲノム(pregenome)とよばれる。この複製サイクルの詳細はまだ解明されていないが、B型肝炎ウイルスについて考えられる機構を図19にしめす。レトロウイルスと異なり、−鎖の開始には5末端に共有結合したタンパク質が関与するらしく、この点はアデノウイルスに似ている。+鎖の合成は、遊離の−鎖を鋳型として起こり、その際に+鎖に相当するRNA断片をプライマーとして用いるらしい。
図19(図24‐33)

(参考)ウイルス肝炎 特にC型及びB型慢性肝炎治療の最新情報

参考資料として、B型肝炎治療の現状について、帝京大学医学部内科教授 三宅和彦氏の講演会のレポートを掲載する。

B型肝炎について

 B型肝炎ウィルスの感染は、C型肝炎ウィルスと同じように血液を介する感染ですが、B型肝炎に関しては輸血後肝炎というのは現在皆無といってよいらいになっています。現在むしろ問題になるのは性交渉、夫婦間感染です。それによる感染が多くなっています。しかし、C型肝炎が年齢を問わずにすべての年齢層でキャリア化するのに対して、B型肝炎は主に母子間感染が主なルートになっています。B型肝炎ウィルスがキャリア化するかしないかというのは、ウィルスの感染年齢に関係があります。生まれて3歳位までの間ですと感染してキャリア化しやすい状況があります。一方、大人になってからは感染しても、免疫不全の人以外は、特別の治療をせずに自然経過で治ってしまうという特徴があります。

普通B型慢性肝炎として治療の対象になるのは、ほとんどが母子間感染あるいは小さいときの感染のケースです。B型慢性肝炎に関しては結構自然治癒があります。母子間感染した子供をみても、ほとんどの症例が幼稚園あるいは小学校くらいに肝炎を起こしてウィルスが減って、ウィルスを持っているけれどももう肝炎は起こらないという状況がほとんどです。しかし、そういう小さいときに自然に肝炎を起こす機会がなかった人に関しては歳とともに、10歳あるいは20歳となっても一定の頻度でB型慢性肝炎は自然経過で治ってしまうことがあります。最終的には大体20%位の、B型肝炎ウィルスをいっぱい持った慢性肝炎の人を内科で治療しているのではないか、逆に言えばキャリア化しても80%位の人が自然経過で年々ウィルスが少なくなって臨床的には治ってしまいます。キャリアの20%位の人が治療の対象になるということです。

 ウィルスに対して我々が持っている免疫応答が活発に働いたが、ウィルスを排除しきれずに治癒しなかった人が慢性肝炎として我々の薬物による治療の対象になっています。B型慢性肝炎の場合、どちらかと言えば免疫応答が目覚めて肝炎がはっきり起こってくると、GOT、GPTが上がり下がりしてきます。ひんぱんにGOT、GPTの高値が繰り返す事態になりますと、組織学的にどんどん進行してしまう場合があります。数年で肝硬変まで進行してしまうこともあります。やはり、C型肝炎ウィルスとの違いによって免疫応答の違いが生じているからだろうと思います。劇症肝炎は免疫応答が非常にがんばって、がんばりすぎて肝臓がまいってしまう病気ですが、免疫応答が適度に作動しますと自然治癒も十分起こり得ます。しかし、一般にB型慢性肝炎の場合は、普通はHBs抗原をのこしてウィルスが極端に少なくなって臨床的に治るというのが原則です。

B型肝炎ウイルス(エンカルタより)(上図)とその構造(下図)



B型肝炎の治療について

 B型肝炎の治療についてもお話ししたいと思います。B型肝炎はキャリアの人はおそらく200万人以上いますが、先程お話ししましたように実際は自然経過でウィルスは持っているけれども臨床的には治っている人が80%以上います。ウィルスがいるからといって、すぐに治療の対象にはなりません。現在、B型肝炎の治療に関しましては、原因療法と言ってもHBs抗原が陰性になることはなかなか期待できませんが、血液中のウィルスを持続的に極端に下げることを目標にして治療します。

 対症療法としては強力ネオミノファーゲンCやウルソを使うのはC型肝炎の場合と同じです。B型肝炎はインターフェロンは必ずしも特効薬とは言えません。現在B型肝炎でウィルスを下げる可能性のある治療法としては、ステロイドの離脱療法があります。経口の副腎皮質ホルモンです。その離脱療法とインターフェロン療法が現在までの代表的な治療法です。しかし、インターフェロンを投与しますとウィルスは良く下がります。しかし現状ではインターフェロンは保険上4週間の治療が原則です。4週間の治療では十分でないので、6〜7ヶ月使って治療しています。しかし、インターフェロン単独治療にせよ、ステロイド離脱療法にせよ、ある特定な病態のB型慢性肝炎の人しか十分な効果が期待できません。治療の対象者が限定されてしまうのが大きな問題です。

  ステロイド離脱療法はプレドニンという副腎皮質ホルモンを1日30mg服用します。それを3週間から4週間続けて毎日服用する方法と、1日30mgからスタートして20mg、そして10mgと1週間毎に10mgづつ減らして3週間で終了する漸減療法とがあります。副腎皮質ホルモンの服用を開始しますとB型肝炎の場合にはウィルスが増えてきます。はじめは一時的に、GOT、GPTが下がりますがウィルスは確実に増えてきます。そして3週間から4週間服用して突然服用を中止します。増えたウィルスに対して免疫応答が起こって肝炎を起こして、GOT、GPTがあがってきます。そうして服用終了後GOT、GPTのピークを迎え、また下がってきます。服用中止後1ヶ月後位が多いのですが、その時から4週間インターフェロンを毎日治療する方法です。ステロイド単独治療の場合は、肝炎を何回か繰り返し起こすことにより、ウィルスを減少させて肝炎を良くするというのがステロイド離脱療法です。治療前のGOT、GPTが100以上、できれば200以上に肝炎が起こっている人にこのステロイド離脱療法の良い適応があります。ウィルスを増やしますから、治療前のウィルス量があまり多くない患者さんが対象になります。しかし、なかなか期待するようにいく患者さんが少ないので、通常は今お話ししましたようにステロイド離脱療法の後に1ヶ月くらい経ってインターフェロン治療を合わせるコンビネーション治療が一般的には行われているのではないかと思います。インターフェロンの4週間という治療期間も保険とぴったり合いますし、ステロイドを使うのも保険上問題ありません。インターフェロン治療でもGOT、GPTが高い、つまりB型肝炎ウィルスに対して免疫応答がしっかり起こっている人でないと有効ではありません。

インターフェロン治療の場合は最初の4週間毎日しっかり治療します。そうして、その後維持療法として週2回または、週3回で治療しますが、一般的に投与中にGOT、GPTが上がってこないとなかなか治療効果に結びつきません。最終目標はウィルスを持続的に下げることですが、B型肝炎ウィルス関連マーカーにe抗原(HBe抗原)、e抗体(HBe抗体)があります。e抗原を陰性化して、e抗体を陽性にするとウィルスが少なくなってくるので治療効果の目安になります。ウィルスが持続的に少なくなってきますと、肝炎は本格的に良くなってきます。インターフェロン治療はGOT、GPTがむしろ上がってくる方が、治療効果が期待できます。特に連投期間中の場合はGOT、GPTがむしろ上がった方が良いわけです。それから週2回とか週3回といった間欠治療に入っているときにも、やはり肝炎を起こしてくると効率よくウィルスが下がってきます。いずれにしてもウィルスが下がるような条件、しっかり臨床効果が上がる条件として、GOTやGPTが高い人の方ががよい対象になります。肝臓組織が悪く、しかもGOT、GPTが40〜50のように低めの値が続く人の治療は一般に困難です。それから組織は悪くなくてもウィルスが非常に多いのに、GOT、GPTが軽度であるといったような人も効果が上がりにくいものです。ある程度免疫応答が目覚めたような人だけが良い結果をおさめるというのが今までの実状です。

  それに対して、現在すでに厚生省に申請されたラミブジンという薬があります。これは逆転写酵素阻害剤です。B型肝炎ウィルスが増殖するときに使う酵素である逆転写酵素を阻害する、またはウィルス本体である核酸の伸長を阻害する作用を持っている薬剤で、血中のウィルスが確実に減ります。既に治験が終わりまして現在厚生省の審査が最終段階に順調に来ています。これはB型肝炎に対しては100mgを1日朝1回服用する経口薬です。平成12年の春には審査が完了いたしまして、夏くらいからは保険で認められるのではないかという見通しが現在あります。この薬の副作用は全くと言って良いほどありません。血中のB型肝炎ウィルスがどんなに多くても急速に下がってきます。すばらしい薬です。経口で、1日1回で副作用がない。

これほど薬として良い条件にかなった抗ウィルス薬は今までなかったと思います。しかし問題点はあります。この薬に対する抵抗株のウィルスの出現があるということです。半年から1年と使ってきますと30%位に抵抗株が出てくることが一番の難点です。その代わり、もしもそういう抵抗株が出なければ半年、1年、2年、3年と服用を続けてもぴったりとウィルスを抑えてきます。ウィルスが減少している間にe抗原が陰性化しますし、e抗体もしっかりでてきます。もう一つ、この薬でウィルスの陰性化が続いたら、いつ止めたらよいかの問題です。問題がなければ順調な経過でも数年間は服用しようとする考え方があります。将来の問題点のひとつです。今までですとステロイド離脱療法、あるいはインターフェロン、あるいはそれらを組み合わせるといった治療法のよい対象者でなかったB型慢性肝炎の人にも十分適応が出てくるだろうと思います。以前ラミブジンの治験に参加したときに、私どもでも8ヶ月間の服用で治った人がいました。e抗原陰性でe抗体が出て、ウィルスも測定限界以下になり持続しました。

治療前のGOT、GPTが高い人でした。あるいは既存の治療法でも治るかもしれないような人がやはり良く効いた印象を持っています。B型慢性肝炎の場合はウィルスがC型肝炎のウィルスに比べても非常に多く、抗ウィルス剤だけで能率良く排除することがなかなかむずかしいことを意味しています。免疫応答を上手に使うのが治療のコツと言えます。免疫応答を強化することは大変意味があります。保険で認められている薬では、セロシオンという経口薬がありますが、なかなか思った程効果が出ません。現在治験が行われています免疫賦活剤のサイモシンα1という薬があります。これは注射薬です。熱も出ないし、本当に副作用は何もない薬です。私どもが使った印象では若い人のGOT、GPTが高い人にはかなり有効です。e抗原を陰性化したり、e抗体が出てくることも経験しています。全国的な集計が遠からず出てくると思いますが、最終的な結果はどうなるか分かりませんが、若い患者さんでは有望な治療法になる可能性があると思います。いずれにしてもB型肝炎の場合は免疫応答がしっかりしている、つまり肝炎がしっかり起こらないとうまくいきません。

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