発病機構入門
WORK SHOP(第1回)グループ10
[
連鎖球菌]G.I.O: |
連鎖球菌の生体に対する作用機序を中心に理解し、その予防法と治療法を把握することにより、その知識を将来の医療現場で役立てる。 |
S.B.O: |
1.連鎖球菌の形態を説明できる 2.連鎖球菌の分類ができる 3.連鎖球菌を原因とする疾患を説明できる 4.その疾患の治療法、予防法を説明できる 5.連鎖球菌の感染機序を説明できる 6. |
1.連鎖球菌の形態
大きさは2μm以下で球形をなし、一平面(または一方向)に分裂するため、
2個から数個の特徴的な連鎖を形成するグラム陽性菌である。
2.分類
分類で重要な指標は、
溶血性と群抗原で群抗原はLancefield抗原ともいわれる。溶血性連鎖球菌の細胞壁にはC物質という多糖体があり、菌を酸で加熱することで沈降抗原性を持っているので抽出できる。最近では特異抗体を科学的に結合させたラテックス粒子あるいはプロテインAを介して抗体と結合したStaphylococcus aureusの菌体浮遊液を用いて凝集反応として検出したり、トリプシン処理をして群抗原を露出させた被験菌と抗体結合粒子とを混ぜ、共凝集を見る方法もある。この抗原性を用いて、連鎖球菌を群別できる。現在A〜V(I、Jは除く)の群抗原が知られている。群抗原は本来β溶血性の連鎖球菌を分類するために使われた指標で大多数のβ溶血株は群抗原で群別できる。ヒトに化膿性疾患を起こす連鎖球菌はA群が主たるものであり、A群菌細胞壁表層にはM、R、Tの3種の蛋白抗原が存在し抗貪食作用を示すタンパク質が薄層を形成していてこれを微莢膜という。このタンパク質は沈降反応抗原として働く。MタンパクによりA群菌はさらに55のタイプに分かれる。そして現在実際的には、生物学的性状、生化学的性状にもとづいて溶血性連鎖球菌は21種類に分類されている。
3.連鎖球菌の病原性
4
.連鎖球菌による感染症1) A群連鎖球菌(化膿性連鎖球菌)
<感染症>
@
急性感染症(限局性で合併症のない感染症)@
咽頭炎・5〜
10歳の最も一般的な細菌性咽頭炎である。・咽頭部感染は、無症状
(保菌状態)の例もある。・有症状では、咽頭痛、発熱、悪寒、頭痛、吐き気、嘔吐など様々な症状がある。
(子供においては、ときに虫垂炎様の腹部症状を伴うことがある。)・
咽頭部が赤くなったり、黄灰色の分泌物を伴う真紅色を呈する。A
猩紅熱・
発熱毒素を生産するA群連鎖球菌の咽頭部感染により発症する皮膚の発赤紅 斑である。・
発赤紅斑は圧迫により消え、体幹、頚部から始まり四肢におよぶ。・
回復時期に皮膚の落屑が起こる。B
嚢皮症・
表皮感染症で、水様化膿疹を形成する。・初期では、小水泡ができ、経過とともに膿瘍分泌物を含み、破れるとかさぶたを形成する。
C
丹毒・
皮膚および皮下結合組織の化膿性炎症である。・
顔面、下肢に発症し、リンパ腺炎を伴うことがある。D
蜂巣織炎・
皮下結合組織にびまん性に浸潤し化膿巣を形成する。・
リンパ腺炎、発熱、悪寒などの全身症状を呈する。・ときに菌血症の重傷合併症や糖尿病、表在性血管に異常のある患者では、これ
により死に至ることがある。
A
全身性重傷感染症(劇症型A群連鎖球菌感染症)・
咽頭炎あるいは皮膚外傷感染などの局所感染から発症する。・
感染初期の定型的症状は、風邪様症状、発熱、咽頭部痛、リンパ腺腫脹、嘔吐、下痢、皮膚発赤などで、3日間続く。・4日間以降は高熱、低血症、ショック、腎不全、敗血症、急性呼吸不全症候群、皮膚剥離などをひき起こす。
B
A群連鎖球菌感染症後遺症@
急性リウマチ熱・
症状は心筋炎、関節炎、舞踏病、発赤丘疹、皮下結節などをひきおこす。・
A群連鎖球菌咽頭感染後2〜3週間後に発症する・
再発傾向が顕著である。A
急性糸球体腎炎・
症状は浮腫、乏尿、高血圧、うっ血性心不全である。・
咽頭炎の1〜2週間後、皮膚感染症の2〜3週間後に発症する。・検査では、血尿、赤血球円柱、蛋白尿、糸球体ろ過率減少、血清補体値減少、などを調べる。
<細菌学的診断法>
本菌の感染が疑われる咽頭炎、膿皮症に対して咽頭ぬぐい液または病巣分泌液を血液寒天平板(ひつじまたは馬血液)に塗布して分離培養を行う。
【A群に感染していた場合】
β溶血性の集落が数多出現する。但し、本菌は、健常者の咽頭から分離されることは少なくないので、とくに咽頭培養で比較的少数のβ溶血性集落が出現した場合、原因菌かどうかの判定が困難なこともある。β溶血を示す集落については、先ほどの表を参考にして性状を調べるが、A群であることの推定には、
*確実な同定法
(A群抗原の証明)*・標準法・…培養菌体から抽出した抗原と群特異血清を用いて毛細管内沈降反応を行う。
・最近・…特異抗体を結合させたブドウ球菌菌体や、ラテックス粒子を用いてスライド凝集反応を行う。
*血清学的診断法*
・リチウム熱と糸球体腎炎の診断に有用。
・
・感染の急性期と回復期に採取した対血清(いずれの方法にも可能)
2倍以上の抗体価の上昇……診断的価値が高い・
250単位以上の抗体価(両者とも)……近い過去にA群菌に感染があった一般に急性期の血清が得られないことが大部分なので、単一血清による判断がを強いられる。
<治療>
一般に耐性の少ない菌であるから、重傷例を除いて化学療法は容易である。
ペニシリン系が現在でも第一選択で、セフェムもよいが、抗菌力はペニシリンより劣る。 リウマチ熱は再発傾向が強く、その結果心疾患の進行を招くので、 長期にわたるペニシリンの内服が行われ効果をあげている。
2) B群連鎖球菌
一般に咽頭部、腸管、膣の常在菌の中に存在する。新生児感染症は出産時に膣保菌の母親より感染することにより発症する。
<感染症>
@
皮膚感染症A
新生児敗血症B
新生児髄膜炎C
尿路感染症D
肺炎<細菌学的診断法>
B群連鎖球菌の
23.5kD蛋白と黄色ぶどう球菌のβ−リジンとの相互作用により、赤血球膜が破壊される。このこより次のようなテストが行われる。<治療>
A群菌とほぼ同じであるが、
バシトラシン耐性である。まれにバシトラシン感受性菌が存在する。
3)D群連鎖球菌
〈感染症〉
@
尿路感染症A
胆道感染症B
敗血症C
外傷感染症〈細菌学的診断法〉
D
群連鎖球菌属には、E.faecalis, E.faecium, E.durans, E.equinus, E.bovis などが存在し、前3種は6.5%食塩培地で増殖し、後2種は増殖しない。45℃で増殖し、60℃で生存可能。40%胆汁存在下で増殖し、エスクリンンesculinを加水分解する。D群連鎖球菌選択培地(Bile Esclin Azide Agar培地)にて選択可能。
4)肺炎連鎖球菌
5)緑色連鎖球菌
〈感染症〉
一般に口腔、上気道常在菌で、α‐溶血性でコロニー周囲に緑色溶血環を形成することに由来する名称。
S.milleriグループ、 S.sanguis、S.mitis、S.salivariusなどがある。@
・
症状は発熱、心雑音、脾腫、貧血、白血球増加または減少症、血管塞栓である。・発熱は通常
38℃以上で40℃を超えることもまれではない。A
虫歯〈細菌学的診断法〉
緑色連鎖球菌にはスクロースを含むミチス・サリバリウス寒天(MS寒天)がよく使われる。嫌気培養を24時間、37℃で行ったあと、24時間室温で空気中に放置して観察すると、スクロースから生成する菌体外多糖の有無およびその性質によって決まる集落性状が明瞭になる。
緑色連鎖球菌はα−溶血を示すので、オプトヒン抵抗性、胆汁溶解性(−)マンニトール、ソルビトールの発酵(−)を確認すれば、同定が可能である。
〈治療〉
ペニシリン系抗生物質
が第1選択薬剤である。さらに、ストレプトマイシンあるいはカナマイシンの投与が併用されることがあるが、副作用を考慮して併用期間を決める必要がある。
5
.連鎖球菌の感染機序1)感染のルート
連鎖球菌の多くは、経口投与によっては発病しないが、皮膚に擦り込むと化膿を起こす。また、口腔内常在菌である連鎖球菌の一部は、抜歯などをきっかけにして血中に入り、心内膜炎を起こすものもある。(このように、通常生息している部位から別の侵入ルートに入ることによって起こる感染を異所性感染という)通常細菌が生体内に侵入すると、そこで増殖が起こる。増殖した後、細菌は菌体外に毒素を分泌する。(
外毒素分泌)e
x.化膿連鎖球菌:発赤毒素(しょう紅熱の発疹の原因)を産生
2)外毒素について
種種の毒素を生産する
@
A
発熱毒素: SpeA、SpeB、SpeC、SpeF、SSAの5種が知られ、A、B、Cは、発赤毒素(Dick毒素)と呼ばれる。発熱毒素は重篤な病型の成立に関与すると見られている。すなはちこれらは、T細胞クローンを活性化し、その結果分泌されるサイトカインの作用により炎症やショックが起こり、組織破壊を招来すると考えられるからである。実際の作用:発熱、発赤、しょう紅熱、遅延型過敏反応、内毒素ショックに対する感受性増強、心筋壊死、肝臓壊死、Tリンパ球の非特異的活性化、Bリンパ球機能の免疫抑制などDick毒素はしょう紅熱における発疹の原因とされている発疹部に抗体(通常のγ‐グロブリン抗体)を皮内注射をすると中和反応が起こり、その部分が蒼白になる。これはシュルツ・シャルトン現象と呼ばれ、診断的価値がある。
6.
Mタンパクについて1)
Mタンパクの存在部位抗原学的に見ると、群特異的な
C多糖体性抗原以外に別の蛋白性の抗原が発見される。A群について考えてみると、A群抗原はN-アセチルグルコサミンとラムノースからなる多糖体である。この多糖体はペプチドグリカンと一体となり、細胞壁の骨格をなす。その表層には、けば状のフィブリエが見られ、ここに存在するのがMタンパクである。(ここにはFタンパクも存在するが、これはフィブロネクチンに親和性があり、咽頭粘膜上皮細胞に対する付着因子である)
2)
Mタンパクは主要な病原因子であるM
タンパクは、α‐ヘリックスの線上タンパク2分子が、お互いらせん構造を形成した状態で細胞膜に存在する。C末端部位を細胞膜に挿入し、N末端部位は表層にコイル状に突出している。N末端部位はタイコ酸と非共有結合し複合体を形成する。タイコ酸の負の荷電と、N末端部位に近い部分の正の荷電を有する部分でイオン結合を形成するのである。この複合体は宿主細胞に付着する際の接着因子として働く。※付着の様式(下図参照)
タイコ酸は宿主上皮細胞のフィブロネクチンと特異的に結合し、宿主上皮にコロニーを形成する。菌表層の
Mタンパクと宿主表層のフィブロネクチンを、タイコ酸が架橋している形となっている。つまり、この複合体は、連鎖球菌の重要なコロニー形成因子であり、病原因子であるということができる。
3)
Mタンパクは型特異抗原であるM
タンパクのアミノ末端部位約3分の1ほどは、アミノ酸の多様性があり、抗原特異性を決定している。現在では80種以上が確認されているようだ。本によってその数は変動しているので、まだ未確認の抗原の型も存在するはずである。
4)
Mタンパクには抗食菌作用があるM
タンパクはH因子の受容体として働き、C3bB分解を促進するとともにC5aプロテアーゼをコードする遺伝子を保持している。これにより補体攻撃から回避するのである。補体とは、特異抗体と共同して細菌を溶解せしめる血清中の活性物質のことである。具体的には、抗原提示細胞、B細胞の両方に抗原の局在を高める働きをするなど、免疫応答の誘導において重要な補助的役割をになったり、それ自体がレセプターの役割をもしている。つまり、補体攻撃からの回避は、食菌作用からの回避へとつながるのである。また、Mタンパクやきょう膜に対する抗体は、細菌をオプソニン化し、Fcレセプターによる食細胞の食菌作用を促進するが、菌によって異なる80種以上の抗原性があるため、ヒトの免疫成立を困難にしている