黄色ぶどう球菌
GROUP
2
97011 植木 里紀 |
97017 江上 真紀 |
97012 上杉 勇貴 |
97018 大江 健輔 |
97013 植田 茂 |
97019 大江 美和子 |
97014 上野 陽介 |
97020 大田黒 智子 |
97015 江頭 智子 |
G.I.O.
現段階では、おぼろげにしか理解していない黄色ぶどう球菌、また臨床で重要となってくる
MRSAについての理解を深め、その発生機序と予防法を学習する。
S.B.O.
参考資料:
戸田新細菌学標準細菌学
黄色ブドウ球菌の電子顕微鏡写真
<ブドウ球菌属とは>
この属は自然界に広く分布しており、生体外では空気、土、酪農品などから分離される。ヒトや動物では皮膚、鼻咽腔の粘膜、腸管内に常に存在している。これは化膿を起こす代表的な菌であるが、病原性を示さないものもある。
ブドウ球菌は光学顕微鏡で見るとその名のごとく菌細胞の一つ一つがブドウに実のように見える。ブドウ球菌は代表的なグラム陽性菌のためグラム染色でよく青紫色に染まる。
<形態>
通性嫌気性、有機栄養菌、至適発育温度は35〜40℃であるが、20℃近くでも発育可能である。多くの菌は、耐塩性で10%食塩の入った培地上で発育できる。普通寒天培地上で24時間後に計2mmほどのコロニーを作る。水に不溶のカロチン様の色素を産生するので、コロニーが着色し、菌種により白、黄、レモン色を呈する。色素産生は20〜24℃で培養した場合にもっともよく、また培地にグリセリン、牛乳などを加えると促進される。かつてブドウ球菌は、この色素産生性により、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、レモン色ブドウ球菌に分類されたことがあるが、色素産生性は、変異により変わりやすいため、、今では用いられていない。ただ黄色ブドウ球菌の名前のみ残っている。
<生化学的形状>
多くの糖を分解し酸を産生するがガスは出さない。ブドウ糖を発酵して乳酸をつくる。マンニット分解性はこの菌種の分類同定上重要であり黄色ブドウ球菌(黄色種)の多くが分解する。カタラーゼ陽性、オキシターゼ陰性、DNA分解酵素(DNase)を産生する。カタラーゼ反応陽性は、レンサ球菌との識別に使われる。黄色種の酵素の多くは耐熱性で、他の菌種は易熱性である。タンパク分解酵素を産生するのでゼラチンを分解する。その酵素は、産生する菌種により抗原性分子量を異にする。DNAのG+C含量は30〜39
mol%、黄色種は血漿を凝固させる作用のあるタンパクをつくる。
<抵抗性>
無芽胞病原菌のうちでは、抵抗力の強い菌である。60℃、30分の加熱に耐える。室温では培地上で数ヶ月生存する。1%フェノールで15分ほど生きる。アニリン系の色素に対する感受性が高い。
<抗原性>
a:多糖抗原
タイコ(テイコ)酸が型特異抗原として作用する。ポリサッカライド
Aとよばれている。黄色ブドウ球菌ではN-acetylglucosaminyl ribitol teichoic acid,N-acetylgalactosaminylribitol teichoic acidが抗原で、それぞれにグリコシド結合の型によりα型、β型が存在し、多くの株では、両方の型を有している。表皮ブドウ球菌では、glycerol teichoic acidである。b:タンパク抗原
プロテイン
Aが代表的なものである。かつて抗原Aと呼ばれていた。分子量は42000で、多くの哺乳類の免疫グロブリンのFc部分と結合する。ヒトでは、IgG 以外のすべてのクラスのIgGと強く反応し、IgMやIgA とも少し反応する。ヒト由来のコアグラーゼ陽性株ではほぼ100%がこの抗原を持つが、動物由来株は保有率が低下する。コアグラーゼ陰性株は持たない。c:きょう膜抗原
きょう膜をもつ黄色ブドウ球菌はこの抗原性により型別にすることができる。現在11の型に区別されている。
<病原因子>
a
: きょう膜黄色ブドウ球菌では、きょう膜に対する抗体により、きょう膜血清型が
11種類知られており、いずれも化学組成は、アミノ糖を主体としたポリマーである。現在のところ、食細胞に対する抵抗性については実験的に明確には証明されていない。しかし敗血症より分離された株では、きょう膜保有率がかなり高い。
b:定着因子
この菌の定着因子についてはまだよくわかっていないが、その候補としてリポタイコ酸があげられている。これはタイコ酸分子の一部にリピドをもつもので、リピド部分は細胞膜に埋まっているが、一部ははずれて細胞壁内にでてくる。リピド部分が細胞のレセプターに結合するか、他の分子を介して細胞に付着する。この分子としてリポタイコ酸結合タンパクが想定されている。そのほか、細胞壁タンパクにも定着因子としての役割をもつものがいくちか考えられている。その中で、分子量
210000フィブロネクチン結合タンパクが単離されている。宿主細胞側のレセプターとしてはフィブロネクチン、ラミニンコラーゲンなどが考えられている。
c:毒素および酵素
1
、 溶血毒動物の摂家旧を破壊する毒素で、抗原性生物活性の異なる
α毒素は、分子量
36000のタンパクで溶血作用のほかに皮膚の壊死作用もある。6個の分子が細胞表面のレセプターに集合し、膜に穴をあけて破壊する。β毒素は、リン脂質分解酵素の
1つスフィンゴミエリナーゼ(ホスホリパーゼC)で37℃で血球に吸着し、4℃で溶血させる。γ毒素は、
2つの塩基性タンパクよりなり、寒天や脂質は阻止作用があるため、血液寒天上では溶血環はみられない。δ毒素は、ホスホリパーゼである。耐熱性の低分子のタンパクである。赤血球以外にも白血球に対しても作用する。分子量
1600で、26のアミノ残基よりなる。ほとんどすべての血球を溶血する。2
、 ロイコシジン白血球を破壊する毒素
<病原性>
黄色ブドウ球菌にはさまざまな病原因子があり、これらの因子の作用が組み合わさっていろいろな病変が生じてくる。ヒトの病変としては主として、@炎症性疾患、A食中毒、B剥脱性皮膚炎、C毒素性ショック症候群
がある。
黄色ブドウ球菌が表皮より内部に侵入し感染、増殖をおこすと膿皮症となる。
骨髄炎の
90%が黄色ブドウ球菌のよる。ほとんどが原発化膿創からの血行性伝播により発生する。黄色ブドウ球菌による化膿性関節炎は骨髄炎の波及によることが多い。幼児、小児、高齢者などの抵抗力の衰えたものに多く、インフルエンザ感染後に二次感染として発生する。
ブドウ球菌によって食品内で産出されたエンテロトキシン
ブドウ球菌の産出する毒素
<遺伝と変異>
ブドウ球菌の多くは溶原菌で、プラスミドを持つ菌も多い。遺伝子の伝達はファージによる形質導入によることが多く、いくつかの性質はファージによる溶原性により支配されている。導入は、染色体、プラスミドいずれの上の遺伝子でも起こり、導入できるDNAの大きさは染色体の
1パーセント程度である。また遺伝子は形質転換によっても移りうるが、これは2種類の菌の融合によっても起こることが知られている。
<薬剤耐性>
ブドウ球菌は薬剤耐性菌が生じやすく、また多剤耐性菌が多い。耐性の多くはプラスミドによる。特に有名なのはペニシリナーゼプラスミドで、ブドウ球菌のペニシリン耐性はほとんどこのプラスミドによる。
ペニシリン系の耐性のうちメチシリンに対するものは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌
methicillin resistant S. aureus (MRSA)として特別に扱われている。MRSAはメチシリンが投与され始めた翌年には出現し、1980年頃にはこの菌による院内感染が増加し問題となっている。その耐性の発現は、細胞膜のペニシリン結合タンパクpenicillin binding protein(PBP)の変化によるものである。黄色ブドウ球菌のPBPは4種類知られているが、MRSAではPBP2より分子量がやや大きいPBP-2’(PBP-2a)と呼ばれるタンパクができ、これはメチシリンとの結合力が弱く、このため抗生物質が効かなくなる。PBP-2’の産生は、染色体上のmecA遺伝子の存在により支配される。さらに、MRSAの大部分は、ペニシリナーゼ、テトラサイクリン耐性プラスミドなどを有しており、ほとんどの抗生物質に耐性となっている。現在MRSA感染症の治療には、バンコマイシンが使用されている。
<細菌学的検査法>
発熱、局所の腫脹、発赤、化膿創その他の炎症症状を示したり、毒素型の食中毒症状を示したりする患者がいたら、次の材料について塗抹、染色してグラム陽性球菌を検出する。
膿皮症===膿汁、水泡内容物
骨髄炎===腐骨
関節炎===関節液
肺
炎===咽頭ぬぐい液髄膜炎===髄液
敗血症===血液
食中毒===吐物、便、(原因と見られる食品)
多くの場合材料中にはほかの雑菌が混在しているので、上記材料にブドウ球菌の分離を目的とした分離用培地を使用する。分離用培地はブドウ球菌の耐塩性の性質を利用しているものが多い。マンニット食塩培地、卵黄加食塩培地、スタフィロコッカス
110培地などがある。これらの培地上で、ブドウ球菌の種々の性質とくに黄色種との鑑別に必要な性質も同時に判定できるようになっている。例えばマンニット食塩培地では、培地に含まれている黄色ブドウ球菌のマンニットに対する分解性(マンニット分解酵素による)が、そのブドウ球菌が黄色ブドウ球菌か否かを推定する便利な指環の一つである。これらの培地で分離された菌は、グラム陽性の球菌であることを確認し、さらに多くの性質を調べて菌種を確認する。