肺炎連鎖球菌について 6

G.I.O

肺炎連鎖球菌の基本的成長・病原性・細菌学的診断、その治療をグリフィスやアヴェリーらの実験をふまえて理解する。

 

S.B.O

1.形質的特徴を理解する。

2.肺炎連鎖球菌によってもたらせられる疾患の具体的な

症状や治療法、および予防法を理解する。

3.Griffithの実験の目的と内容を調べ、形質転換につい

て理解する。

4.肺炎連鎖球菌の毒素が生体に与える作用と,その作用

機序を理解する。

5.近年の肺炎連鎖球菌における耐性獲得の過程を理解し、その

予防法も調べる。

6.抗原の反応を調べる。

 

 

LS

1.形質的特徴について

連鎖が短く、2個が対を成し、双球菌状を呈するものが多いため、肺炎双球菌と呼ばれた。双球菌とは、分裂した菌が2つずつ対になっているものを指し、菌の形が三角状、腎臓状にみえるものがある。肺炎連鎖球菌の場合、双球菌の遠位端がやや尖っているのが特徴である。厚い多糖性のきょう膜を持ち、これが病原因子(抗菌因子)として働き、きょう膜を失った変異菌は病原性がない。

また、イヌリン発酵性、オプトヒン感受性、胆汁酸塩による溶菌などが特徴的である。

 

2‐1肺炎レンサ球菌の具体的症状

化膿性炎症を起こし、名前から分かるように、肺炎が主な疾病ある。また、中耳炎、髄膜炎、敗血症、膿胸をはじめとして、さまざまな感染症の原因にもなりうる。肺炎は大葉性肺炎のことが多いが、気管支肺炎のこともある。逆に、大葉性肺炎の大部分は本菌が原因であり、気管支肺炎は他の原因菌によるものが多い。かつては肺炎の大半が本菌による大葉性肺炎であったが、近年はその割合が低下しており、全肺炎の10−30%程度である。

健康な人に、突然本菌による肺炎が起こることは少なく、ウイルス感染、吸入麻酔、肺水腫や胸部の外傷など、局所抵抗力の低下した状態に続発することが多い。健康な人の上気道から、かなりの頻度で分離されるので、内因感染・外因感染のいずれも可能と考えられている。

 

2‐2.肺炎連鎖球菌による疾患の治療法と予防法について

[治療法]

第一にペニシリン類の投与が挙げられる。

しかし、現在では、ペプチドグリカン架橋酵素(標的酵素)の親和性が低下しているために、耐性菌が増加する傾向にある。この親和性の低下は、既存の架橋酵素が変異したために起こったもので、MRSAのような新しい低親和性酵素を獲得したためではない、というのが一的な見方である。

次に、セフィムの投与が挙げられる。

これは、たいていの場合、ペニシリンより抵抗力が弱い。しかし、中には使用できるものもある。

その他のものとしては、エリスロマイシン、リンコマイシン、クリンダマイシン、テトラサイクリン等の投与が挙げられる。

これらは耐性化が問題になりつつある。

 

[予防法]

多価ワクチンにより予防できる。

これは、化膿性炎症の病原因子には、きょう膜が挙げられ、きょう膜糖類に 対する特異抗体には型特異的な感染防御活性があるからである。

(参考文献・「戸田新細菌学」)

 

3.Griffithの実験の目的と内容を調べ、形質転換について理解する

1928年、グリフィス Griffith は肺炎双球菌株の無細胞抽出液により、遺伝する変化が肺炎双球菌に生じることを観察した(形質転換)

肺炎球菌のいろいろな株を調べ、

(1)(滑らかな)S株を注射したマウスは死んだ。

一方、(2)(ざらざらした)R株を注射してもマウスは死ななかった。

また、(3)致死効果のあるS株を熱処理して後、マウスに注射したところ、何事もなく生

きていた。

驚いたことに、

(4)熱処理して不活性化したS株とR株を混ぜて注射したところ、マウスは死んで

しまった。

死んだマウスの血液を調べるとS株の肺炎球菌が活性を持っていることがわかった。 R株の細胞がS株の細胞に変った(形質転換)としか言い様がなかった。当時はこの驚くべき結果を信じるものはほとんどなく、疑いの目でみられた。もちろん、この結果と遺伝との関係も気付かれなかった。

 

その後1944年、アヴェリー Avery、マクラウド McAllen とマクカーティ McCarty DNAが細菌の遺伝情報を担っていることを解明した。彼らはグリフィスの観察を理解するために次の実験を行った。 S株の培養液(1)を溶菌後、抽出液(無細胞抽出液)を作製した(2)

 

タンパク質、脂質、多糖類をすべて除去した後もその抽出液は肺炎球菌R株をS株へと形質転換する能力を持ツコトガ明らかになった(形質転換因子)

 

その後の研究で、アヴェリーらはこれがDNAであることを突き止めた。 DNAにこの形質転換を起こす遺伝情報があるに相違ない。グリフィスの観察もこれで説明できる。熱処理では細菌のDNAは分解されなかったのである。カプセル形成に対応する染色体の分画(S遺伝子)が分解されたS株から遊離して、R株に取り込まれたのである。 S遺伝子がR株のDNAに取り込まれると、R株はS株へと形質転換した(4)

 

4.肺炎連鎖球菌の毒素が生体に与える作用と,その作用機序を理解する

肺炎レンサ球菌はグラム陽性菌の双球菌であり、ランセット型の2つの菌が底辺で向かいあっている。上気道に常在し、呼吸感染をおこす。菌自体は、鞭毛・芽胞はなく、莢膜を持つ。喀痰中の菌はすべて莢膜を持ち、この莢膜が病原因子としてはたらく。莢膜物質(SSS)の抗原性によって多数の血清型に分けられる。

肺炎レンサ球菌はpneumolysinというLystriolysinに構造が似ている外毒素*1をもつ。肺炎レンサ球菌の外毒素がヒト細胞膜中コレステロールに結合し、細胞溶解毒素によって膜破壊がおこる。すまわち、気管支上皮線毛細胞を攻撃し、PMNの貪食能低下をひき起こす。ストレプトリジンO類型似のニューモリジンによって細胞溶解がおこると書かれていたものもあった。

 

*1外毒素

外毒素は蛋白性で、熱に弱いものが多い。菌体内で合成されて体外にでてくる。良好な抗 原で、抗毒素抗体がよく産出される。外毒素が病原因子として働いている場合、(1)毒素産出量と細菌の病原性の強さが比例する。さらに毒素産出能が脱落した変異株は病原性が消失するか減少する。(2)精製された毒素が、個体・細胞・分子のいずれかのレベルで作用を発揮し、細菌の病原性を説明できる。(3)抗毒素血清で病原性が抑制される。などがいえる。

 

 

 

 

5.近年の肺炎連鎖球菌における予防法も調べる

健康な上気道粘膜は本菌に対して自然の抵抗を有するので、

ウイルス感染その他により肺に損傷が与えられるなどして抵

抗が弱まると感染が起こりやすくなると考えられる。 つまり、

抵抗を弱めないように健康に気をつけることが予防法である。

 

6.抗原の反応を調べる。

肺炎球菌は、その抗体の産生にさいしてT細胞の関与を必要としないで、B細胞に関与

している。適量の抗原がB細胞表面のレセプタ−に結合すると、細胞質膜に変化が起

こり、抗体産生へのシグナルが誘起されるが、もし抗原の量が十分多ければ不応答への

シグナルが出されて、寛容の状態になる。胸腺非依存性のこれらの抗原は抗原決定基

が分子中に反復接近して存在しているので、B細胞に影響を与えるのに十分濃密とい

える。多糖抗原が分解をうけて分子が小さくなると、決定基で密におおわれる面積が

減少し、寛容を起こさせる能力も低下する。