レンサ球菌属

<分類学的位置づけ>

多数の菌種が包合されるが、溶血性、群抗原、増殖温度、糖分解性、アミノ酸分解性、細胞壁の性質により分類される。ヒトに病原性のある菌は集落の周囲に特有な溶血環を作りその性状によってα型、β型の2種類に分類される。α型溶血は集落の周囲に暗い緑色の溶血環を作り、β型溶血は集落周囲に、血球の完全溶解した透明で大きな溶血環を作る。α型溶血性レンサ球菌はα溶レン菌、β型溶血性レンサ球菌は溶血性レンサ球菌、β溶レン菌または単に溶レン菌とも別称される。非溶血性レンサ球菌はγ型レンサ球菌ともいわれる。

 

 

菌名

溶血型

抗原型

由来

感染症

化膿性溶血レンサ球菌

S.pyogenes

S.agalactiae

S.pneumoniae

 

β

α,β

 

α

 

A

B

 

 

ヒト

ウシ・ヒト

 

ヒト

 

化膿症,全身性疾患

新生児髄膜炎

ウシ乳房炎

上気道,肺炎

口腔内レンサ球菌

S.salivarius

S.sanguis

S.mutans

 

α

α

 

K

H

 

ヒト

ヒト

ヒト

 

口腔内

心内膜炎

乳酸レンサ球菌

S.lactis

 

 

N

 

 

図1 レンサ球菌属の分類

 

 

 

 

 

 

化膿レンサ球菌

形態と特性 直径0.81μmの球菌で連鎖状の配列を呈している。芽胞形成はない

が、莢膜を形成する菌や稀に鞭毛を有する菌も存在する。

培養と生物的性状 通性嫌気性で至適温度は37℃、血液寒天培地や血清培地によ

く増殖するが、普通寒天培地には生育しにくい。血液寒天培地上

でβ型溶血環を呈する。

病原性 多彩な病原性を示すが、基本は化膿性炎症である。多くの内毒素、外

毒素を産生し、感染巣は深く拡大傾向に富むといわれる。

<化膿レンサ球菌による疾患>

      1. 化膿性炎症は全身いたるところで起こる。血液中に侵入し敗血症
      2. を起こす。産褥熱は出産のときに主としてこの菌の感染を受けて敗

        血症を起こした結果である。化膿性炎症に関与する病原因子として

        最も重要なものはM蛋白といわれる細胞壁の最外層にある繊維状の

        蛋白質である。抗食菌因子として作用すると考えられている。

      3. しょう紅熱は化膿レンサ球菌の感染による咽頭炎が、病巣となり、本
      4. 菌から産生された発赤毒が血液を通じて全身に伝播し、皮膚の末梢

        血管を、拡張させて発疹を生じさせる疾患である。この発赤はディック

        Dich毒素といわれる。ブドウ球菌の腸管毒と同様、スーパー抗原として

        の作用をもつ。

      5. リウマチ熱および糸球体腎炎は化膿レンサ球菌による咽頭炎が原発巣
      6. であり、自己免疫疾患とも一種の抗原抗体疾患ともいわれている。この

        ようにある原発病巣から遠く離れた臓器へ感染が広がることを病巣感

        focal intfecsionという。

      7. 劇症型A群レンサ球菌はA群β溶血性レンサ球菌感染に伴って起きる

病態で、高頻度に軟部組織の壊死性炎症を伴い、いったん発病すると

全身状態が急激に悪化して多臓器不全に陥り、死亡率が極めて高い疾患

である。本症例は1980年代初頭から相次いで報告されるようになり、

1980年代後半に至って、この疾患はTSLStoxic shocklike syndrome

あるいはSTSSstreptococcal toxic shock syndromeとよばれるように

なった。現在のところ発病機序は不明であり、病態生理も未解明のまま

であるが、いったん発病すると病気の進行が極めて速いため、早期診断

、治療が大切である。

 

細菌血清学的診断法

 

化膿巣 分離培養 血液寒天培地 β型溶血 バシトラシン感受性

染色検査

敗血症 血液混和培養による分離

猩紅熱・リウマチ熱 血清中のAS(L)O 価測定

猩紅熱 ディック反応

シュルツ・シャルトン消退現象

*AS(L)O:抗ストレプトリジン(溶血毒)O抗体

*ディック反応:ディック毒素を少量皮内に注射すると、抗毒素を所有するものは24

時間以内に注射部位に発赤が起こる。

*シュルツ・シャルトン消退現象:猩紅熱を疑われた患者の発疹部皮内に回復期患者

の血清、または抗ディック毒素血清を注射し、24時間で注射部位の発疹・発赤が

消退して蒼白となる場合は猩紅熱と診断することができる。

治療

一般に耐性の少ない菌であるから、化学療法は容易である。ペニシリン系が現在でも第一選択で、セフェムも良いが、抗菌力は、ペニシリンより劣る。リューマチ熱は再発傾向が強く、その結果心疾患の進行を招くので、長期にわたるペニシリンの内服が行われ、効果を上げている。β−ラクタム剤以外ではマクロライドやリンコマイシンがよいが、テトラサイクリンには耐性菌が多く不適当である。

 

(2) B群連鎖球菌 S.agalactiae この菌は産道に常在しているため、新生児が

分娩時に感染する危険性がある。髄膜炎をおこし死亡率が高い。

 

(3) 肺炎双球菌S.pneumoniae

形態と特性 直径0.5−1.0μmの球菌が向かい合い双球菌状に配置している。外

形は、ランセット型である。鞭毛・芽胞を有しないが、周囲に明確な 莢膜(きょうまく)が存在する。

 

培養と生物学的性状 血液寒天平板上にα型溶血環を形成する。生化学的性状を表

3−24に示した。

 

病原性 患者の喀痰中の菌はすべて 膜が病原因子として決定的に重要である。

 

肺炎双球菌による疾患

1.肺炎 大葉性肺炎・気管支肺炎

2.化膿性炎症 中耳炎・髄膜炎・膿胸・皮膚、咽頭の化膿症・敗血症

 

細菌血清学的診断法

 

染色、検鏡( 膜) 染色、形態観察

病巣材料 分離培養―――――――――イヌリン分解性

(血液寒天培地) 10%胆汁酸による分解姓

マウス腹腔内接種 オプトヒン感受性試験

ノイフェルト 膜膨化試験

 

ノイフェルト 膜膨化試験: 膜抗原は82型まで型別されており、対応する免疫

血清

と反応させると 膜が膨化してその幅が広くなる。この試験法は、原因菌の型決定に

用いられる。

 

治療 多くの抗生物質が有効であり、薬剤耐性を生じにくい。ペニシリン類が第

一次選択薬である。

 

溶連菌感染症についての資料