<感染における宿主への侵入とM細胞について>

 

  1. 侵入門戸と排泄部位

宿主へ感染するためにウイルスが使うさまざまな侵入門戸を図3に示している。このうちもっとも多くウイルスが侵入に際してとるルートが消化管と呼吸器である。また、これらの部位は増殖したウイルスが新たな宿主を求めて出て行く主要なルートでもある。しかし、消化管や呼吸器の微小環境は、感染を企てるウイルスにとって厳しいものである。現実には多くの病原体が感染に至らずに終わっている。その中で消化管と呼吸器の感染に成功するものがある。

・消化管

エンテロウイルスとライノウイルスは同じピコルナウイルス科のウイルスでありながら、前者は胃酸のpHに耐えるが、後者は不活性化されてしまい、小腸にたどり着けない。胆汁酸の界面活性剤としての作用は多くのエンベローブを持つウイルスにとって大敵である。A型肝炎ウイルス(HAV)もHBVもともに肝臓で増殖し、胆汁中に排泄されながら、HBVはエンベローブを持つためにその感染力を失う一方、HAVはエンベローブを持たないために胆汁酸の影響を受けることなく、感染性を持った粒子が糞便から排泄される。

膵臓から分泌されるさまざまの消化酵素も本来ウイルスにとって大敵であるのだが、ロタウイルスのように、プロテアーゼでウイルスタンパクの一部が消化切断されることによって逆に感染性を獲得するウイルスもある。

 

・呼吸器

呼吸器の微小環境は、粘液の層と線毛運動にっよって特徴づけられる。ウイルスは線毛に強固に吸着することにより、粘液に丸め込まれ、線毛運動で咽頭まで押し返され、消化管に落ちることから逃れなければならない。線毛への強固な吸着は一般に糖蛋白のスパイクを持つエンベローブのほうが有利である。インフルエンザウイルスはその好例である。このような菌の宿主細胞への付着に関する構造的因子を病原因子virulence factorという。

 

2.初期増殖とM細胞

 

 

 

 

 

 

 

宿主に侵入したウイルスはその侵入門戸の近傍の組織に感染の橋頭堡を築く。ロタウイルスとレオウイルスの場合を考える。(図4) 

 

ロタウイルスは口から侵入し小腸上部で繊毛の先端近くの機能的に分化した粘膜上皮細胞で初期増殖を開始する。ウイルスは基底膜を超えて粘膜固有層に侵入することなく、水平方向へ感染を拡大しつつ、消化腔にウイルスを排泄し、次の宿主への感染源となる。このように広範な小腸粘膜上皮細胞の障害により、小腸の水分吸収能力が阻害され、その結果として下痢を起こす。

ポリオウイルスは口から侵入した後、咽頭や小腸の粘膜下のリンパ組織で初期増殖をする。つまり、ポリオウイルスの感染は、消化管の粘膜上皮を野火のように広がっていくわけではなく、ウイルスがM細胞という特殊な粘膜上皮細胞から侵入し、その直下にあるパイエル板などのリンパ組織で増殖することから始まるのである。

 

M細胞:図4からわかるようにM細胞は粘膜上皮の小さな窪みのようになっている。詳しい機能はまだ明らかになっていないが、取り込み、輸送、プロセッシング等の機能を持っている可能性が示唆されている。また、M細胞の微粒子を管腔から上皮関門をとおって輸送する能力は、病原菌が宿主に侵入するのを促進している。)

ポリオウイルスは消化管の粘膜上皮には粘膜固有層の側から、つまり基底膜を破る格好で到達し、増殖することになる。ここで増殖したウイルスは消化腔に排泄された後、次の宿主を求めて伝播していくのである。

 

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