腸管分泌液中のIgAの構造と機能

腸管粘膜粘液層中の免疫グロブリンの組成は、血清中のそれに比較してIgAが著いるしく高い。すなわち、血清中に含まれる免疫グロブリンの7580%はIgGであるが、空腸液では8590%、初乳では95%がIgAである。しかもその大部分が血清中のIgAとは異なりS-IgAsecretory-IgA)で、2分子のIgAがJ鎖という分子量15kDaの糖蛋白で結び付けられ(2量体IgAdimeric IgAdIgA)、そこに分子量6575kDaの分泌因子(secretory component:SC)という上皮細胞で作られた糖蛋白が結合したものである。S-IgAにも、IgA1IgA2のサブクラスがあり、IgA2には2種のアロタイプが認められているる。サブクラス間にはSCとの結合能や免疫機能には差異がないといわれているが、構造の最も特徴的な相違はIgA2には13個のアミノ酸からなるproline-richなペプチドが欠損していることである。腸管や気道粘膜、生殖器にはIgA1のその部分に作用して分解してしまうIgA1protease産生菌が知られ、これらの菌は一般的に強い病原性を有している。血清中ではIgA1が優位である。

IgAはSCと結合し、分泌型になることにより腸管内にある蛋白分解酵素等による分解に対して抵抗性を獲得するようになり、またS-IgA自体も“抗体”としてウイルスや細菌毒素を中和し、また2量体を形成している結果、1分子中に4個の抗原決定基を有することになり、病原微生物に対し有効な凝集能を発揮することになる。それ自体は溶菌や殺菌能を一般に有していないとされているが、他の非特異的な抗菌物質であるラクトフェリンやリゾチームと結合し、より有効な抗菌作用を有している。またIgAFc regionに対する特異的なレセプターがマクロファージやリンパ球、好中球に認められる。IgGによる特異的な抗菌作用はIgAにより抑制されることが報告されているが、消化管粘膜表層ではIgGはごく少量で、その抑制効果は、生理的にはほとんど作用していないものと思われれる。

したがって、IgAは粘膜における防御機構を破って生体内に侵入した抗原に対する生体の過剰な免疫反応の有効な特異的防御機構を有していることがわかる。

 

分泌因子(SC)とS−IgAの輸送機構

分泌因子(SC)は上皮細胞で産生され、dIgAのレセプターとして機能している。このことは、IgAが粘膜上皮細胞と密接な連携の下で粘膜での生体防御機構を担っている特異な免疫グロブリンのクラスであることから、きわめて合理的である。SCは円柱上皮細胞で産生され、その細胞膜表面でdIgAのレセプターとして機能する時点では、S-IgAのレセプター分子でありかつ構成糖蛋白であるSC分子のほかに、分子量約1520kDaの細胞内ドメインが存在する細胞膜貫通性の膜蛋白、pro-SC(larger SC)である。dIgAと結合し、S-IgAとして管腔側の細胞膜表面に遊離するときには、消化管内の糖蛋白分解酵素によりSC細胞外ドメインの根部で切断される。SCと、J鎖を結合しているIgA、すなわちdIgAとの結合性は、J鎖を有しない単体のIgAに比して100倍ほど高い結合親和性を有し、IgGとはほとんど結合しない。またJ鎖を有する5量体のIgMもSCとの結合性を有している。SCとdIgAとの親和性は、分泌液中に遊離しているSCより細胞膜表面に存在しているSCとの方が高いといわれている。SCとdIgAの結合部位はそのα鎖のFc部分であるので、Fab部分へ抗原が結合していても、SCとの結合性は障害されず、dIgA−抗原抗体複合物のSCを介した輸送も肝臓で証明されており、これは生体からの有害な抗原の排除機構の一つである。

dIgAは主として腸管粘膜固有層に分布している形質細胞で産生され、一部はことに肝臓や唾液腺、乳腺では血中にも由来するとされている。それがSCを結合させ、S-IgAとして体外環境である管腔内に分泌される機構は、図のようなモデルが定説となっている。さらに、SC産生が確認されている全身の諸臓器の上皮細胞でもSCを介したdIgAの機構は免疫組織化学的に証明され、粘膜や外分泌系の普遍的な機能として確立している。

形質細胞からはdIgAとして分泌され、血中からはdIgAが血管内皮細胞を選択的に輸送され、固有層内に拡散する。そして固有層に面する上皮細胞のbaso-lateral側の細胞膜表面のSCと結合する。これがIgA輸送機構の第1段階である。結合の後non-coated vesicleを介したpinocytosisで細胞内をmicrotubles依存性のvesicular transportで上皮細胞の管腔側である微絨毛基底部に輸送され、そのtransport vesicleは細胞膜を融合し、reverse pinocytosisで管腔内に分泌されるが、その際SCの細胞外ドメインの根部で切断される。vesicular transportの過程では、transportv vesicleであるSC−dIgA pinosomeは他のpinosomeとは異なりリソソームとは融合することなく、細胞内消化を受けない。

 

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