粘膜免疫とCTL

  1. CTLについて

免疫系の中心をなすリンパ球のうち、T細胞は細胞性免疫を担い、抗体応答を含む各種免疫の成立や発現の調節に重要な役割を果たす。T細胞は、CD4陽性のヘルパーT細胞群と、CD8陽性で細胞障害性やサプレッサー機能を発現する群に分けられる。

CD8陽性細胞は細胞障害性T細胞(CTL)として特徴的に機能し、感染細胞を障害破壊する。CTL活性を示すCD8陽性T細胞は、偏性細胞内奇生体であるウイルス感染において誘導されやすい。これは、ウイルス抗原が内在性抗原としてプロセシングを受ける際に、小胞体膜でクラスT抗原と会合し、クラスT MHC拘束的な抗原刺激を受けるCD8陽性T細胞を活性化しやすいためだと考えられる。抗原特異的なCTLが増殖分化すると、感染標的細胞のクラスT MHCと会合した抗原エピトープにCTLTRおよびCD8分子が結合し、CD2LFAとの結合などによってエフェクターと標的が緊密な接触を保つことになる。CTLからは、分子量70kDaの膜障害性糖タンパクであるパーフォリンが放出され、標的の細胞膜が障害されて細胞破壊に至る。また、TRの対応抗原による刺激に基づくシグナルがCTLFasリガンドの発現を誘発し、標的細胞が発現しているFas抗原に結合して、標的細胞のアポトーシスを引き起こすという細胞障害機構も存在する。CTLによる感染細胞障害はウイルスの細胞内増殖の途絶にきわめて有効である。

 

  1. 粘膜とCTLの関係について

異なる粘膜部位でのインフルエンザウイルス感染を担うCTLの分布は、粘膜表面のリンパ節が記憶T細胞の貯蔵のために機能しているということを示唆している。縦隔のリンパ節、肺のリンパ節は細胞増殖の前にT細胞の提示が最初に起こる部位である。つづいて、T細胞は感染した細胞と相互作用するために肺や気道のエフェクターに向かって遊走する。だから、記憶CTLの粘膜付属リンパ組織(MALT)に対する応答は初期のウイルス感染部位に関連しているといえるだろう。

HIVに特異的なCTLは、HIV感染した人の子宮頚部や精液の中に発見されてきた。このことは初期の抗原の露見部位と抗原特異的なCTL応答の泌尿生殖器官への誘導とが関連していることを示唆している。また、鼻腔内のインフルエンザ感染において、エフェクターCTL(eCTL)と記憶CTL(mCTL)の両方が高い頻度で発生することが分かっている。呼吸系のウイルス感染では、免疫応答の初期に縦隔のリンパ節の拡大を引き起こすため、また、このリンパ節は少量の記憶CTLを含むため、循環中のT細胞からの補充、またはその代わりに元からある記憶CTLのクローン増殖が行われる。

粘膜区画におけるCTLの存在は、粘膜表面にある病原菌による感染をコントロールすること、また感染からの回復ということに寄与しているのだろう。

粘膜部位での抗原提示は粘膜のBリンパ球とTリンパ球を誘導的部位から遊出させ、様々な粘膜上のエフェクター部位に帰巣させるよう活性化するが、共通の粘膜免疫系では抗原特異的なリンパ球の、初期に抗原が提示された部位とは別の粘膜エフェクターへの帰巣をも伴っている。よって、経口、鼻腔内、直腸のような異なった免疫化ルートにおいて、共通の普遍化した粘膜免疫応答が誘導されうるといえる。しかし、経口の免疫化における帰巣レセプターはad4ad7インテグリンである一方、鼻腔の免疫化における帰巣レセプターはLセクレチンとad4ad7インテグリンの両方であることから、鼻腔の免疫化は経口よりも広い範囲で抗体を引き起こす性質があるということが分かる。

CTLは、通常は全身の粘膜区画を遊走しているものである。だから、全身にある抗原特異的なCTLの存在がいかなる粘膜部位においても、すばやく保護的な応答をすることを可能にする、という仮説をたてることができる。しかし、この仮説を確立させるためにはより深い研究が必要であるといえる。

 

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