血清型による大腸菌の5つの分類
(1)病原大腸菌(EPEC)
平均12時間の潜伏期間の後、サルモネラ症に似た急性胃腸炎の形で発病する。便中に
粘液は出るが、血液が混じることはない。主な感染部位は小腸で、ほかの臓器に広が
ることはない。
培養細胞Hep-2に吸着する。また、分子量60Mdのプラスミドを有し、その上にコードさ
れたEAF(EPEC adherence factor)という分子量94Kdの外膜蛋白が吸着に関与するこ
とも分かっている。EAFを産生する菌は、Hep-2細胞に限局性の吸着をするが、この血
清型に属してながらEAFのほとんど認められていない菌もあり、そのような菌は吸着し
ないか、吸着しても一様な吸着を示すので前者を第一類、後者を第二類として区別し
ている。
(2)毒素原生大腸菌(ETEC)
これらの場合と同様、菌は小腸上部で増殖し、107〜109/mlに達するとともに、コ
レラ様の下痢を起こす。持続は大体30時間以内で、コレラに比べて短い。治療は、コ
レラと同様にして行われ、いわゆる旅行者の下痢(traveller‘s diarrhea)の主な原
因であること、水や食物による集団発生のあることが認められている。
定着因子(生体に付着し、増殖する際に働く因子のこと)として働く線毛抗原が存在
する。ブタの下痢の場合、Entプラスミドがあっても、K88のない菌には下痢原性がな
く、K99、987p抗原の場合も同様であった。しかし、人の場合には別種の定着因子が必
要であり、代表的なものにはCFA(colonization factor antigen)/IおよびUがある。
このような定着因子の多くはウシ、モルモット、ヒトなど特定の動物の赤血球を凝集
し、他の細菌とは違ってマンノースによる抑制を受けない。また、特異抗体による検
出も可能である。
(3)腸管侵襲性大腸菌(EHEC)
潜伏期間は2日くらいで、腹痛、発熱、血便ないし膿粘血便、渋り腹など、臨床的には
赤痢に似た症状を呈する。感染部位は大腸で、潰瘍の形成も認められる。
赤痢菌同様に、大型のプラスミド上にいくつかの病原性遺伝子がコードされており、
細胞内に侵入後、増殖し、その細胞を死に至らしめる。赤痢菌のそれと酷似した外膜
蛋白も存在する。
(4)腸管出血性大腸菌(EHEC)
出血性大腸炎と溶血性尿毒症が症状としてあげられ、腹痛、水様多量で、血液の混じ
った便、微熱が起こり、感染部位は大腸である。
EHECは分子量60Mdのプラスミドを有しており、これが定着因子(線毛)と関係してい
る。
(5)腸管付着性大腸菌(EAEC)
最近発見されたもので、EPEC classUとの異同がなお問題である下痢性大腸菌。
Hep-2細胞に吸着できることが証明されている。
大腸菌感染後の細胞内における変化
大腸菌による感染を受けた宿主細胞は、さまざまな変化を被るが、その中でもっとも
顕著な変化が特徴的なアクチン土台の形成である。感染後、3時間以内に宿主細胞のア
クチン、α―アクチン、talin, erzin,villinがバクテリアのもとに蓄積される。ア
クチン土台そのものには変化はないが、その代わり長くなったり、短くなったりし
て、宿主細胞の表面における、大腸菌の活発な動きを引き起こす。微小管と中間径フ
ィラメントの構造には変化は起こらない。Hep-2細胞に感染した大腸菌は細胞内のカル
シウム量を上昇させ、大腸菌の感染を円滑に進めるのを助ける。遊離カルシウムには
イノシトールトリホスフェイト(IP3)が含まれており、大腸菌に感染した細胞ではこ
のIP3の上昇により、イノシトールリン酸塩の流出も見られる。大腸菌はほかにも、
IP3およびカルシウム量の上昇を導く蛋白、PLC-g1など、いくつかの蛋白を活性化させ
る働きを持つ。また、細胞質ゾル内にある蛋白キナーゼCも感染によって活性化され
る。