毒素による疾患、治療法、予防法について

 

 外毒素は蛋白質であるので、免疫原性および反応性が強く、抗毒素抗体によりその活性は中和される。また、熱で変性(易熱性)する物が多い。外毒素をホルマリン処理すると、毒性はないが免疫原性を持つトキソイドになる。破傷風のトキソイドおよび高度免疫血清(抗毒素)はそれぞれ予防と治療に用いられる。

 

 ジフテリア、破傷風、百日咳の発症には外毒素が主要な関与をしているので、外毒素に対する抗体(抗毒素)は毒素を中和してそれらの発症を抑えることができる。したがって無毒化した毒素(トキソイド)は抗毒素を産生するためのワクチンとして能動免疫に用いられる。現在ジフテリア毒素、破傷風毒素、百日咳毒素をそれぞれホルマリンで無毒化したのち精製したものを三種混合ワクチンとして摂取している。

 一方抗毒素は毒素を中和するので、すでに感染を受けてしまったりして発症している場合に用いられる(受動免疫)。破傷風に対してヒト抗破傷風免疫グロブリンを、百日咳に対してはヒト免疫グロブリン製剤を用いる。ジフテリアやボツリヌス中毒に対しては今でもウマを免疫して作った抗毒素血清が用いられており、アナフィラキシーやや血清病に注意しなければならない。また抗毒素は毒素が細胞上のレセプターに結合した後では有効でなくなるのでできるだけ早く注射する必要がある。

 

予防接種の効果について

 日本においては1948年に予防接種法が制定され、ジフテリアに対する定期接種が義務付けられた。当初は、液状ジフテリアトキソイド( D )が用いられた。その後1958年に百日咳ジフテリア混合ワクチン( DP )が導入され、患者数の減少に弾みを付けた。百日咳菌に含まれるアジュバント効果は、ジフテリアに対する免疫の確立と維持にも大きく貢献した。

 1964年には百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン( DPT )の使用が一部で始められ、1968年頃よりは集団接種においても、そのほとんどが本製剤となった。このDPT三種混合ワクチンはさらに改良が加えられ、1981年に沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン(沈降精製 DPT )に切り替えられた。これは混合ワクチン中の百日咳抗原をそれまでの不活化菌体から、精製した有効成分に置き替えたものである。ジフテリア定期予防接種の第1期は原則として沈降精製 DPT が使用される。

 参考としてジフテリア患者数の推移を以下の図に示す。


 

 

 


破傷風の予防策

破傷風トキソイドは、すべての感染症予防注射のうち最も有効なものの一つに数えられている。しかし、昭和43年以前に生まれた日本人は、乳幼時期に予防注射を受けていない破傷風非免疫者と考えらる。

 

健康な時に破傷風トキソイドを3回注射(基礎免疫といい、4から6週間の間をあけて2回注射し、その1年後に1回注射する)しておくことが最も効果的である。

 

乳幼時期にジフテリア、破傷風、百日咳(DTP)3種混合ワクチンを3回注射しかつ小学6年時に1回追加注射した人は、最後の注射から約10年間は破傷風に対する免疫があると考えられる。しかし10年以上経過してしまったり小学6年時に追加注射を受けていない人は、あらためて破傷風トキソイドを3回注射し基礎免疫をつける必要がある。(4から6週間の間をあけて2回注射し、その1年後に1回注射する方法)

 

小学6年時に追加注射を受けまだ10年経っていない人は、1回トキソイドを注射することでさらに10年間大丈夫である。

 

 

 ワクチン療法と血清療法の2つを組み合わせれば、感染症は敵ではないとも考えられたが、またも、この2つの武器をもってしても手に負えない感染症が多数あることもしだいに分かってきた。代表的なものは、赤痢や人のコレラ、それに風邪などで、何回かかっても、免疫がつかない。極端な話、細菌感染で起こる化膿巣であるにきびですら、免疫療法で治すことができないのである

 

毒素性食中毒の種類と対策

1) 感染毒素型

 感染毒素型は、細菌に汚染された食品を食べることによって、起こる食中毒である。

   ただし、このタイプでは、細菌自ら腸管上皮細胞を攻撃するのではなく、細菌が腸管

  の中で毒素を出し、この毒素が腸管上皮細胞を攻撃することによって、症状が引き起こさ

  れる。

  感染毒素型の主な原因菌は、腸炎ビブリオやO-157などの病原性大腸菌がある。

 

「腸炎ビブリオ」

毒素:耐熱性溶血毒

主な原因食品:海産性の生鮮魚介類やその加工品、二次汚染を受けた塩分のあるもの

菌の特徴:塩分を好み、発育が他の菌に比べて早い(10〜12分で分裂)。60℃、15

  の加熱で死滅する。

・症状:下痢、腹痛(上腹部)吐気、嘔吐、発熱(潜伏時間:8〜24時間)

・予防のポイント:海水中には腸炎ビブリオ菌がいて、夏場は特に活動が活発になり、増えやすいので、低温で管理して細菌の増殖を防ぐ。腸炎ビブリオは真水に弱いので、材料である魚介類や使った器具(包丁、まな板など)は流水で充分に洗う。

 

「病原性大腸菌」

毒素:易熱性腸管毒(LT)、耐熱性腸管毒(ST)、志賀毒素

・主な原因食品:分布が家畜、ペット、健康人や自然環境にまで及んでいるため原因食品は多種に渡る。

・菌の特徴:赤痢や腸チフスのような経口伝染病と同じく井戸水などを介して水系の集団発生も見られる。

・症状:下痢、腹痛、発熱、吐気、嘔吐(潜伏時間:数時間〜24時間) 例えば、病原性大腸菌の一種であるO-157に感染すると、3〜7日で「腹痛、下痢、血便」などの症状が起きる。

・予防のポイント:食中毒予防の6つのポイントを参照(

O−157について詳しく知りたい人はこちらまで(

 

2)生体外毒素型

 

生体外毒型は、細菌そのものに感染するというよりも、細菌が食品内で出した毒素によって汚染された食べ物を口にすることで、引き起こされるタイプの食中毒である。

生体外毒素型の主な原因菌は、黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌がある。

 

「黄色ブドウ球菌」

毒素:staphylococcal enterotoxin (SE)

・主な原因食品:弁当、おにぎり、寿司等のご飯類、和洋菓子類等

・菌の特徴:健康な人でも約30%はこの菌を、鼻腔や咽頭及び腸管内に保菌している。特に化膿した傷に多くいる。この菌が作る毒素で症状が起きるが、一度毒素が出来ると、通常の加熱調理では毒素が壊れない。また、体に入っても胃や腸で壊れない。

・症状:吐気、嘔吐、下痢、腹痛(潜伏時間:30分〜6時間)

・予防のポイント:化膿した傷がある人は調理をしないこと。手洗いを十分にする。気温が25℃以上で2時間経過すると、毒素が作られるので、食品は50℃以上または10℃以下で保存する。

 

「ボツリヌス菌」

毒素:ボツリヌス毒素(神経毒)

・主な原因食品:イズシや辛子レンコン等の保存発酵食品

・菌の特徴:元々は土壌に分布する菌で、食品の中に入り、神経性の毒素を作る。この毒素が食中毒の原因となる。死亡率が高い。平成9年は輸入されたオイスターソース、平成10年は輸入の瓶詰のオリーブからボツリヌス菌とその毒素が検出された。

・症状:復視、嚥下困難、呼吸困難(潜伏時間:5〜72時間)

・予防のポイント:新鮮な材料を選び、十分に洗浄すること。食べる前にしっかり加熱する。ボツリヌス菌が作りだす毒素は熱に弱く、80℃20分の加熱または1〜2分の煮沸で壊れる。

 

症状が現れた時の対応

 食中毒の症状が現れた場合、まず家庭で注意すべきことは、水分補給である。下痢や嘔吐、発熱が原因で脱水症状に陥りやすくなるためで、適当な塩分、糖分を含む物を飲むようにする。梅干しを入れた重湯やスポーツドリンクなどがよい。

  また、嘔吐が見られる場合、嘔吐した物が気管に詰まって窒息したり、肺に入って肺炎を起こすこともあるので、横たわるなどして掃き出しやすい体位になることが必要である。

 また、疑わしい症状が見られたら、勝手な判断をせず、すぐに保健所に相談したり、医療機関を受診する。なかには、ボツリヌス菌などのように呼吸障害を起こしたり、O-157のように人から人へ伝染するなど、早急な治療を要するものもあるからである。

  また日常生活においても衛生管理には十分に気を配ることが大切である。

 

 

内毒素によるエンドトキシンショック

 一般的にショックは抹消循環不全に由来する細胞機能不全と定義される。グラム陰性菌感染症において内毒素が原因となって起こるエンドトキシンショックは、敗血症性ショックの中で最も重篤であるとされている。出血性ショック、アナフィラキシーショックなどとは、その発症のメカニズムは異なる。病態の特徴として、初期に心拍出量が増加し、その後血圧低下がもたらされる。一般的に内毒素によってマクロファージから誘発、産生される腫瘍壊死因子(TNFα)やインターロイキンなどのサイトカインが原因となり、引き続き産生される血小板活性化因子やプロスタグランジン、ロイコトリエンなどのアラキドン酸代謝産物が関係していると考えられる。

 

参考文献or HP

戸田新細菌学

国立感染症研究所 感染症情報センター (HP)

秋田市保健所(HP)