モノクローナル抗体とは

 

1.概要

 

 生物体内にバクテリアやその他の異物が侵入すると、抗体と呼ばれる一群の蛋白が血液中に誘導され、これら異物集団(抗原と呼ぶ)に結合する。この時、通常抗体も数100から数万という莫大なタイプが誘導される。つまり、生体に進入する抗原が単一であっても抗体は1種類だけでなく、同一抗原に対して結合性のある複数の分子種からなる抗体が生産されることになる。一種類の抗体は抗原の中のある決まった、しかもサイズが小さな部位にしか結合しない。ある抗原に対する複数の分子種の抗体の集団をポリクローナル抗体という。これに対して、1種類の分子種だけからなる抗体の集団をモノクローナル抗体という。ここで、抗体結合部位を抗原決定基と呼ぶが、抗原が蛋白である場合にはこの抗原決定基はほんの数個のアミノ酸で構成されているに過ぎないので、ある特定の抗原決定基にだけ結合する抗体、モノクローナル抗体を選択的に大量に生産することが可能になった。モノクローナル抗体の特徴は、特定の抗原物質としか反応しない、すなわち反応特異性の高さにある。この性質を利用し、モノクローナル抗体は疾病の断薬や治療薬へと応用されている。また、特異性の高い診断薬や治療薬、さらに土壌分析などの環境分析に応用することが可能になった。 さらに、ガンの治療薬もできる可能性もある。

 

 

 1975年にG.ケーラーおよびC.ミルシュタイン(イギリス)は細胞融合法によるモノクローナル抗体の生産技術を確立した。その概要を図1に示す。特定の抗原により免疫したマウスの脾臓から抗体を産生する細胞を取り出し、別に用意したマウスの骨髄腫細胞(ミエローマ)と融合させる。骨髄腫細胞は、抗体を産生する形質細胞の腫瘍化したもので、継代増殖能を持つ。得られた融合細胞(ハイブリドーマ)は、特定の抗体(モノクローナル抗体)産生能と継代増殖能を併せ持つようになる。この融合細胞を試験管内で培養あるいはマウスの腹腔内に移植することで、目的の抗体だけを生産することが可能となる。

 

図1 モノクローナル抗体の生産

2.ハイブリドーマについて

 生体内において抗体を産生している細胞はBリンパ球である。抗体を、大量にかつ効率的に生産するには、Bリンパ球を培養しなければならない。しかし、通常、生体内にあるBリンパ球には寿命があり、生体外において無限に増殖することはできない。そこで、生体外でも無限に増殖するガン細胞とBリンパ球を細胞融合して、生体外で培養もでき、抗体も産生できる細胞、すなわちハイブリドーマを作成することが考え出された。ハイブリドーマは抗体を産生し、なおかつ生体外において無限に増殖することができる。一個のハイブリドーマ細胞が細胞分裂を繰り返してできた細胞集団は均質な抗体を産生する。これをモノクローナル抗体といい、この均質性のことをクローンと呼ぶ。写真はヒト型ハイブリドーマHB4C5細胞で、ヒト肺ガン特異的モノクローナル抗体を産生する細胞である。丸い一粒一粒が一個の細胞である。一個 の細胞の直径は、およそ20ミクロンである。

 

 

3.市場・応用動向

 

 現在、中心は臨床診断薬。平成4年度の売上は380億円に達したと思われる。平成4年度から一般用検査薬として広告・宣伝が可能になった妊娠診断薬の伸びが大きい。今後の市場拡大に貢献しそうなのが治療用抗体だ。敗血症ショック、ガンなどに対する治療用抗体の開発が進んでおり、薄利多売型の臨床診断薬にかわり、市場の中心を形成するのは確実だ。また、まだほとんど市場はないが、食品検査薬、植物診断薬も実用化がされている。また、畜産、水産診断薬への応用も開発が行われている。

 

LIFESTAGE:拡張期〉

 

4.技術動向

 

 治療分野への適用拡大が進んでいる。治療用抗体にマウスに由来するモノクローナル抗体を利用すると、抗原性の問題があるため、ヒト型のモノクローナル抗体を作ることが重要になる。しかし、望ましい抗体を生産するヒトハイブリドーマの入手は困難であることから、現在、遺伝子工学や化学的な修飾によってマウス型抗体の部分を改変、ヒト型抗体に変換する「ヒト化」(humanization)にしのぎが削られている。また、英国のグループは抗体遺伝子断片をクローン化し、大腸菌で抗体分子を生産させることに成功している。目的の抗体を選び出すことが、遺伝子組換えで簡単にできるかもしれない。 

 

5.事業化動向

 

 体外診断薬は競合が激しい。体外診断薬の特色は比較的容易に製品化できること。そのため、開発投資力のない企業でも参入できるため多くの企業が開発している。一方、治療薬は開発力のある企業を中心に競合している。食品検査、植物診断薬はまだ未成熟市場のため、ほとんど競合はないが、市場は着実に増加しており、今後は競合が激しくなることが予想される。

 

 IL-2レセプターγ鎖(IL-2Rγ)は、1992年東北大学の菅村教授らによりクローニングされたIL-2Rのサブユニットです。

 本抗体はこのIL-2Rγ鎖に特異的に反応する抗体として取得され、ヒト、マウス、について各々2クローンがあります。

 この抗体を用い、細胞上のγ鎖の発現の解析 IL-2IL-2Rの結合阻害等の解析が可能です。Ex)ヒトIL-2Rγ、マウスIL-2Rγ

 

ヒトパーフォリン抗体

 NK細胞、細胞傷害性T細胞(CTL)、LAK等の細胞質顆粒に発現している パーフォリン分子を認識します。

 応用:サイトスピン及び凍結切片における免疫組織化学染色

<パーフォリンとは>

(パーフォリンは、キラー細胞の細胞質顆粒に含まれる物質で、キラー細胞が標的細胞を破壊する際に、キラー細胞から放出されるタンパク質です。)キラー細胞が、ガン細胞等の標的細胞を認識し、顆粒内のパーフォリンが分泌されます。

パーフォリンは標的細胞の膜に結合後、パーフォリン同士がCa2+の存在で次々と重合し、膜に孔をあけ細胞を殺します。