G1 黄色ぶどう球菌

G,I,O

MRSAは院内感染の主な原因菌である。黄色ぶどう球菌、または、薬剤耐性を獲得するメカニズムを理解し、医療人としての予防、治療に役立てる。

S,B,O

・形態を説明できる。

・生化学的性状を説明できる。

・抗原性について説明できる。

・分類について説明できる。

・病原因子について説明できる。

・抵抗性について説明できる。

・病原性について説明できる。

・遺伝と変異について説明できる。

・薬剤耐性について説明できる。

・免疫について説明できる。

 

参考資料

戸田新細菌学 標準微生物学

 

 

形態

直径0.81.0μmのグラム陽性球菌。病巣中では集塊をなすものは少ないが、染色標本や走査型電顕で見ると、ぶどうの房状の配列をしているのでこの名がある。芽胞や鞭毛はないので運動性はない。夾膜も通常見られない。普通寒天培地上に、スムースな光沢のある凸上のコロニーを形成する。黄色の色素を産生することもあるが、培養条件によって著しく異なる。

 

生化学的特徴

ブドウ球菌は通性嫌気性菌で、乳糖・ブドウ糖など多くの糖を発酵分解する。

またこの他にも、プロテアーゼ(タンパク分解酵素)・リパーゼ・DNA分解酵素・

ホスファターゼなど、さまざまな菌体外酵素を産出する。中でも、カタラーゼ産生能は、これを産正しないレンサ球菌との鑑別に役立つ。

次に、重要と思われる特徴を2つ取りあげる。

 

1.コアグラーゼ

コアグラーゼの産生は、ブドウ球菌の中では、黄色ブドウ球菌の一部に見られる。コアグラーゼとは、凝固酵素のことで、ヒトやウサギの血漿に作用して、フィリブリンを析出させ血漿の凝固を起こす。このフィリブリンが菌体の周囲の被膜となり、白血球の攻撃から身を守るのではないか、と考えられている。

 

2.マンニット分解性

黄色ブドウ球菌には、マンニット分解性がある。マンニット分解性は、この菌種の分類同定上重要である。

ブドウ球菌が、高濃度の食塩が存在しても増殖しうるという特徴を利用して、同定の一環として、マンニット食塩培地が最もよく用いられる。この培地に含まれている黄色ブドウ球菌のマンニットに対する分解性は、そのブドウ球菌が黄色ブドウ球菌か否かを推定する便利な指標の1つである。

 

*マンニット:マンニトールともいう。

マンノースの還元基のかわりにアルコール基を持つ、糖アルコールの一種。

多くの微生物がマンニットを生成し、また、エネルギー源として利用する。

 

 

抗原性

抗原性を有するものとして、細胞壁多糖とタンパクがある。

a) 多糖抗原

タイコ酸が型特異抗原として作用する。ポリサッカライドAとよばれている。

黄色ブドウ球菌ではN−acetyiglucosaminyl ribitol teichoic acid,N−acetylgalactosaminyl ribitol teichoic acid が抗原で、それぞれにグリコシド結合の型によりα型、β型が存在し、多くの株では両方の型を有している。

b)タンパク抗原

プロテインAが代表的なものである。分子量は42000で、多くの哺乳類の免疫グロブリンのFc部分と結合する。ヒトではIgG3以外のすべてのクラスのIgGと強く反応し、IgMやIgA2とも少し反応する。ヒト由来のコアグラーゼ陽性株では、ほぼ100%がこの抗原を持つが、動物由来株は保有率が低下する。コアグラーゼ陰性株は持たない。

 

 

病原因子

ここでは主に、黄色ブドウ球菌のもつ毒素について説明する。

 

  1. 溶血毒
  2. 動物の赤血球を破壊する毒素で、抗原性生物活性の異なる4種類の溶血毒を産生する。

    菌株により産生する毒素の種類が違う。

     

  3. ロイコシジン
  4. 白血球を破壊する毒素。

     

  5. エンテロトキシン(腸管毒)
  6. ブドウ球菌による食中毒の原因となる毒素で、水によく溶けるタンパクである。

    無色、無味、無臭であり、耐熱性(100℃、30分)なので調理の加熱に抵抗する。

    トリプシンに対しても耐性で消化管で失活しない。腸管より吸収された毒素は、嘔吐中枢に作用して激しい嘔吐を引き起こす。

    食品内で増殖した菌により産生された毒素を経口摂取することにより発症する。潜伏期は数時間とされている。

     

  7. 毒素性ショック症候群毒素
  8. 発熱、発疹、血圧降下、多臓器不全、ショック症候などを引き起こす。

     

  9. 剥脱性毒素
  10. 熱傷様皮膚症候群の原因となる毒素である。

     

  11. コアグラーゼ
  12. 黄色ブドウ球菌ではコアグラーゼが大量に産生され、産生されたコアグラーゼは血漿中のプロトロンビンと結合して複合体を作ることで活性化させ、このスタフィロトロンビンがフィブリノーゲンをフィブリンへと変換し血漿を凝固させる。

     

  13. クランピング因子
  14. コアグラーゼとは異なり、フィブリノーゲンに直接作用してフィブリンを析出させる作用がある。

     

  15. スタフィロキナーゼ
  16. 血清中のプラスミノーゲンを活性化しプラスミンを生じさせる。このプラスミンによりフィブリンの溶解が起こる。

     

  17. その他の酵素

DNA分解酵素

ホスファターゼ

リパーゼ

 

これらの病原因子が組み合わさって、黄色ブドウ球菌の病原性があらわれてくる。

 

 

抵抗性

無芽胞病原菌のうちでは、抵抗力の強い菌である。60℃、30分の加熱に耐える。また、とくに食塩抵抗性が強く、10〜15%食塩培養地に育てることができる。

そのため本菌の分離には7.5%食塩加培地が用いられる。室温では培地上で数か月生存する。乾燥した状態でも2〜3か月生きる。1%フェノールで15分ほど生きる。アニリン系の色素に対する感受性が高い。

 

 

病原性

黄色ブドウ球菌は、健康人でも約30%ほどは鼻腔にこの菌を持っている。

ヒトは、他の動物よりもブドウ球菌感染に対する感受性が大であり、多くの疾病の原因菌である。ヒトでの病気での主なものは、化膿症、食中毒、毒素性ショック症候群である。

 

@化膿症

感染早期にコアグラーゼを産生して局所に炎症性細菌の侵入を防ぐとともに、蛋白溶解酵素(フィブリノリジン)の産生が遅れるので、局所的な膿瘍を作る傾向が強い。この原発化膿創からの血行性伝播により化膿性骨髄炎、化膿性関節炎が発生する。

 

A食中毒

黄色ブドウ球菌が食品内で産生した耐熱性のエンテロトキシンという腸毒素による毒素型の食中毒である。汚染食品摂取後約3時間で、嘔吐、下痢、腹痛などの症状を起こす。ちなみに、サルモネラによる食中毒(感染型)では、潜伏期は12〜24時間。

 

B毒素性ショック症候群

ブドウ球菌の産生する毒素TSST−1により引き起こされる。症状の主なものには、発熱、発疹、落屑、筋肉痛、血圧低下などであり、ショックにより死亡することがある。

 

 

遺伝と変異

僕は、黄色ブドウ球菌の遺伝と変異について調べました。

まず黄色ブドウ球菌について説明します。

黄色ブドウ球菌はファージによる溶原性があり、プラスミドを持っています。

その毒性であるペニシリナーゼ産生性は、プラスミドに規定されています。

次に遺伝について説明します。

遺伝子の伝達は、形質導入と形質転換と接合によって行われます。

黄色ブドウ球菌では、導入は染色体、プラスミドいずれの上の遺伝子でも起こります。

その導入できるDNAの大きさは約3*10^7daで染色体の1%程度になります。

また、DNAがよく取り込まれるのには、2価のイオンが必要らしいのですが、

これにはある種のファージが溶原化していると条件がよくなるようです。

F因子と呼ばれるプラスミドには、挿入配列が存在しています。

挿入配列とは、最も簡単なトランスポゾンのことです。

このトランスポゾンの挿入により特定の遺伝子の発現が阻害されたり、

活性化されたりします。また転移に伴って突然変異を起こしたりします。

また、形質の転換は、2種類の菌の接触が必要だが、これにはF因子が関与しています。

このような過程の中で変異が起きます。以上です。

 

 

薬剤耐性

MICが正規分布を示す集団を薬剤感受性菌、外れた集団を薬剤耐性菌という。

また、同じ薬剤に対してはるかに高濃度でMICの正規分布を示す菌種もあるが、かかる細菌は調べた薬剤に対して自然耐性であるという。

 

薬剤耐性機構について

臨床分離細菌が薬剤に対して耐性化する生化学的な方法は、大別すると3つになる。

第一は薬剤を不活性化する方法である。不活性化の方法としては薬剤そのものを加水分解する方法と、薬剤の側鎖をリン酸基、アセチル基あるいはアデニリル基で修飾する方法がある。第二は細菌自身が薬剤の作用部位を変えて薬剤が作用できなくする方法である。

例えば、βラクタム剤の標的部位であるPBPの量や質を変えたり、キノロン剤が作用するDNAgyraseを変化させ薬剤との親和性を減少させるなどである。第三は細胞内に薬剤が入りにくくなったり、入った薬剤を効率よく菌体外に排出する方法である。

 

薬剤耐性の表現型と遺伝型について

薬剤耐性の表現型として示されるMICは、耐性遺伝子の質と量およびその調節機構を反映した結果である。

まず薬剤耐性の質は菌のもつ構造遺伝子の質であり、この質を反映した結果がMICである。

ところがMICは遺伝子の量的発現の結果をも反映している。この量的発現は、遺伝子の数、転写、翻訳段階での調節、培地中のアミノ酸の量や培養条件などによっても左右される。

特に、耐性発現の調節機構が誘導型であるか構成型であるかは、遺伝子の量的発現に多大の影響を及ぼす。例えば誘導能の低い薬剤は誘導能の高い薬剤に比べて遺伝子の発現を抑えるし、構成型耐性は誘導型耐性のように薬剤の有無とは関係なく常に十分な発現を示す。

臨床分離から検出される薬剤耐性遺伝子は、染色体性であったり、転移性の遺伝体(トランスポゾン)であったりする。トランスポゾンはその両端にISという40〜1500の塩基配列をそれぞれもち、それが一つの遺伝単位として宿主染色体や染色体外遺伝子であるプラスミドに高頻度に転位する。

 

 

免疫

普通免疫とは、体に入ろうとするよそ者に対してそれを体の外へ追い出そ

うとする働きのことである。

成人は一般に、黄色ブドウ球菌の感染に対しかなりの抵抗力がある。つまり、免

疫力が強い。実験動物においても感染を成立させるためには、かなり大量の菌を必要

とする。実は、このような自然抵抗性の本体はよく分かっていない。

しかし、何らかの理由で免疫力が落ちると、前にあったようなさまざまな病気へ

となる可能性があり、なかには死に至ることもある。例えば、ヒトでは白血球の機能

に障害があると、感染は重篤な経過をたどる。

また、黄色ブドウ球菌の産生する各種細胞毒は、感染にとって重要で、病原性が

強い。その反面、同一人が再三にわたり黄色ブドウ球菌の感染を受けるという事実よ

り、特異免疫はそれほど強くない。

ブドウ球菌感染者にはタイコ酸、タンパク毒素などに対する抗体ができており、

健常人の大人はタイコ酸抗体を持っている。しかし、これは病的変化の成立を妨げる

方向に有効には働いていない。

 

自然抵抗性―自然に備わっている非自己に対する抵抗性

特異免疫―一度相手の抗原と反応して、それに対応するリンパ球が増えた

り抗体が作られたりして、同じ相手の次の侵入に備えられるよう

な機構