結核の治療
結核の治療は,化学療法を中心とする内科的療法が基本であり,外科療法の適応は多剤耐性例,慢性膿胸例などで全身状態が手術に耐えられる例に限られる。病巣内の結核菌の排除のためには長期にわたる抗結核薬による治療が必要である。そこで問題となる耐性菌の発生を防ぐために複数の薬剤による併用療法が取られている。以下の組み合わせによる治療を行うと、治療前に結核菌培養陽性であった患者は、治療開始 1カ月後には、その75%が結核菌培養陰性となり、 4カ月後には 100%近く陰性化する。
〔処方分類
a.〕--
喀痰塗抹陽性または有空洞例の場合a-1 Rp. イソニアジド 0.4g 分2 毎日 6カ月〜
リファンピシン 0.45g 分1 毎日 6カ月〜
エサンブト−ル 1g 分2 毎日 6カ月〜
a-2 Rp.
イソニアジド 0.4g 分2 毎日 6カ月〜リファンピシン 0.45g 分1 毎日 6カ月〜
硫酸ストレプトマイシン 0.75〜1g 筋注 3カ月毎日、その後は週 2回 3カ月
a-3 Rp.
イソニアジド 0.4g 分2リファンピシン 0.45g 分1
ピラマイド 1〜1.5g分2〜3
硫酸ストレプトマイシン 0.75g 筋注
初期
2カ月はINH、RFP、PZA、SM(orEB)の 4剤併用する。その後 INH、RFP(EBを加えてもよい)の 2(〜3)剤併用を 4カ月続ける。 合計 6カ月となる。場合によっては延長する。 初回治療の中等症以上の症例では、INH・RFPにSMかEBのいずれかを加えた 6〜12カ月間の治療が標準的である。 腎障害・聴力障害のある場合、60歳以上の患者にはSMは使わず、処方例 a-1を行う。有空洞広汎な重症結核、多量排菌例には処方例 a-3を用いる。処方例a-3 は毎日 2カ月投与後、SM・PZAを除き処方例a-1 を続け、副作用が出れば休止し、処方例a-1 またはa-2 を行う。INH・RFP併用時に肝機能検査でGOT、GPTの上昇をみることがあるが、100単位までなら投薬を続けている間に、正常値に復することも多い。しかし、悪心、嘔吐が出現すれば休止する。 INH・RFP併用が副作用などのために、使用できない場合は、静菌的な効果を期待してSM・EBの併用をする。
〔処方分類
b.〕--塗抹陰性で空洞なし
b-1 Rp. イソニアジド 0.4g 分2 毎日 6〜9 カ月
リファンピシン 0.45g 分1 毎日 6〜9 カ月
軽症例ではINH・RFPの 6〜9 カ月の治療が標準的である。
〔処方分類
c.〕--再治療または耐性菌感染の場合
INH、RFPの併用は、結核菌に対して強力に作用するが、かって結核治療を受け、一旦治癒した結核が再発・悪化して再治療を受ける症例(結核治療の約15 %を占める)に対しては効果が少ない。従って、結核菌の感受性検査を行い、感受性薬剤の中で強力なものから 3剤、できるだけ 4剤を選んで、強力でより長期の治療を行う必要がある。
排菌している間は入院治療を行い,排菌が止まったら外来治療で化学療法の仕上げを行うのが原則だ。化学療法を開始するとほぼ2週間で,感染力はなくなるといわれている。
外科療法は化学療法が失敗した人や膿胸患者に,まれに行われる。
市販されている抗結核剤
わが国における結核予防法に収載された抗結核剤は、11種(イソニアジドグルコン酸Na
及びイソニアジドメタンスルホン酸
Naはイソニアジド に含む)である。〔表 2〕は、現在、使用できる抗結核剤11種を、木野は治療効果と副作用とを比較総合した序列で、三つのクラスに分類している。
◇木野による分類:
A.B.C.A.
:抗菌力が最も強く、対数増殖期の菌に対しては、ほぼ同等の殺菌作用を有するが、安価で副作用の少ない点でINHが優れている。RFPはこれに対しsterilizing activity(いわゆる
perdister をも殺菌する作用)で優れている。総合すると両者の優劣はつけ難い。 B.:EBとTHは、ほぼ同等の強い抗結核菌作用を有するが、副作用の発現でEBの視神経・末梢神経障害に比して、THでは胃腸・肝・皮膚・内分泌・中枢神経・精神障害と多彩であり、かつ高率に発現するので、THはEBよりも著しく落ちる。PZAのsterilizing activityはRFPと同等に強く、急性炎症組織内あるいはマクロファ−ジ内被貪食菌に対しても強い抗菌活性があり、欧米では評価が高いが、わが国では肝障害が高いこともあって使われるなくなっていたが、最近、使用量、使用法などが検討されている。注射剤のSM、KM、CPMもB.群に入る。C.
:治療効果はA.B.群の製剤に劣るが、このC.群の 3剤の中では優劣は明らかでない。PASは結核菌の葉酸代謝を阻害することによってDNA合成阻害をきたす。CSは結核菌の細胞膜の合成を阻害することによって抗菌力を示す。
〔表
2〕抗結核剤一覧 (木野による分類)
一般名 |
略号 |
作用 |
主な副作用 |
|
|
イソニコチン酸ヒドラジド
|
INH
|
殺菌的(増殖期)、静菌的(休止期)
|
末梢神経炎、 肝障害 |
リファンピシン |
RFP |
殺菌的(細胞内・外の菌) |
肝障害、胃腸障害、血小板減少症、インフルエンザ様症状 |
|
B. |
硫酸ストレプトマイシン |
SM |
静菌的(生体内)、殺菌的(試験管内) |
聴力障害、前庭機能障害 |
エタンブト−ル |
EB |
静菌的(高濃度で殺菌的) |
末梢神経障害 視力障害 |
|
カナマイシン |
KM |
静菌的(生体内)、殺菌的(試験管内) |
聴力障害 |
|
カプレオマイシン |
CPM |
静菌的(生体内)、殺菌的(試験管内) |
聴力障害 |
|
|
エチオナミド (プロチオナミド) |
TH
|
静菌的
|
肝障害、胃腸障害 |
ピラジナミド |
PZA |
殺菌的(酸性下、細胞内) |
肝障害、胃腸障害、高尿酸血症 |
|
C. |
エンビオマイシン |
E VM |
静菌的(生体内)、殺菌的(試験管内) |
聴力障害 |
パラアミノサリチル酸塩 |
P AS |
静菌的 |
胃腸障害、アレルギ−反応 |
|
サイクロセリン |
CS |
静菌的 |
精神・神経症状 |
〔表 3〕抗結核剤基準投与量等一覧 基準投与量:成人 1日量
略号 |
基準投与量 |
投与法 |
摘要 |
INH |
経口: 0.2〜0.5g |
分 1〜2 毎日
|
IHMS :2倍量、INHG :3倍量 |
RFP |
経口: 0.45 |
早朝空腹時 毎日 |
胃腸障害の場合、食後投与可 |
SM |
筋注: 1g or0.5〜0.7g* |
週 2回
|
60 歳以上0.75g( 毎日:0.5g) |
EB |
経口: 0.75〜1.0g |
分 1〜2 毎日 |
高齢者、長期投与: 0.75g |
KM |
筋注: 2.0g or 1.0g |
朝夕 1g宛 週 2回 |
1gを 1日1回週3回 |
CPM |
筋注: 1.0g |
最初 2カ月毎日 |
2 カ月後は週 2日 |
TH |
経口: 0.3g or0.5〜0.75g |
分 1〜2 毎日 |
胃腸障害の強い場合は坐剤 |
PZA |
経口: 1.5〜2.0g |
分 1〜2 毎日 |
|
EVM |
筋注: 1.0g |
最初 3カ月毎日 |
3 カ月後は週 2〜3日 |
PAS |
経口: 10〜15g |
分 2〜3 毎日 |
|
CS |
経口: 0.5g |
分 2 毎日 |
体重軽量者では減量 |
*:SMでは
2歳未満 0.3g、 2〜13歳 0.5g 週 2日