院内感染が流行した時の対処法

東京都立荏原病院の場合)

 

感染を蔓延させる要因には、1)感染源、2)感染経路、3)感受性宿主の三点があげられる。この連鎖を遮断することが感染予防対策の原則である。

 

院内感染の場合、感染源は(患者、医療従事者)器具・環境と言われている。器具が感染源になりうるのは操作、洗浄・消毒・滅菌が正しく行われていない場合に多い。

患者、医療従事者・地域の人々・そして自分自身を守るために、感染症患者の使用物品や感染性廃棄物が適正に処理されるよう、管理実施が必要。

 

感染症患者使用物品の処理

  1. 使用物品処理方法の原則
  2. 1996年、CDC(米国疾病管理予防センター)が発表した標準予防策(Standard Precautions)は、「全ての患者の、@血液、A体液・分泌物・排泄物、B傷のある皮膚・粘膜に適応される」と定義している。

     

  3. 感染症患者の使用物品の取り扱い規定

医療器具

  1. 原則として感染症患者に使用する医療器具は専用とし、使用後は消毒する。
  2. 血液媒介性感染症(HIV・HBV・HCV等)患者の医療器具は一般患者の対応に準じる。ただし、血液・分泌物等に使用する場合、できるだけディスポーザブル製品を使用する。

食器

  1. 食器は一般患者と同じものを使用する。
  2. 栄養科に回収された食器は他の食器と同様に90℃の熱湯で洗浄し、90℃の熱風で乾燥させる。

尿器・便器

尿便器は一般患者対応に準じ、洗浄後消毒する

リネン・タオル類

  1. 感染性リネン・タオル類は院内規定の青色のビニール袋に入れ、専用伝票にリネンの種類と感染の種類を表示し提出する。
  2. A感染性リネン・タオル類は院内での飛散防止のため、袋に密封したまま委託洗濯 施設に搬送し、規定の洗剤、消毒剤と60〜70℃の熱湯で洗濯する。

    患者の洗濯物

    @一般患者と同様に家庭に持ち帰って洗濯する。

  3. 血液・分泌物・排泄物が付着している場合、次塩素酸ナトリウム溶液(商品名:ピューラックス・ミルトン)で消毒後洗濯するよう家族に指導する。

 

3.使用物品の消毒の原則と留意点

まず感染のリスクの程度に合った処理を考えなければならない。物品を滅菌するもの消毒するもの洗浄でよいものに分類する。

洗浄

  1. 洗浄時は感染曝露、消毒剤の副作用を防止するため、エプロン、プラスチック・ゴム手袋を使用する。
  2. 物品は使用後、直ちに流水で洗浄する。洗浄によって、可能な限り微生物の数を減少させることができる。また、物品に有機物が付着していると消毒薬を吸着して効果を低下させるため、分泌物・血液等は予めよく洗い落とす。
  3. 洗浄後はよく乾燥させる。

消毒

  1. 消毒薬の効果を得るためには決められた濃度・時間で行う。
  2. 複数の消毒剤を混合しない。
  3. 次亜塩素酸ナトリウム溶液(商品名:ピューラックス)・グルタラーク(商品名:ステリハイド)は毒性が強く、皮膚付着による発疹・発赤等の過敏症状や、蒸気による目・呼吸器粘膜刺激作用があるため、職員の健康管理上ふた付きの容器を使用する。

 

感染性廃棄物の処理

1、感染性廃棄物の定義

平成3年10月に産業物処理法(産業物の処理および清掃に関する法律)の改正があり、各医療施設での廃棄物の適性な処理が一層厳しく求められるようになってきている。ただし、医療施設より出される廃棄物はすべてが感染性廃棄物ではない。

廃棄物

特別管理産業廃棄物感染性産業廃棄物廃油

その他の産業廃棄物

・特別管理一般廃棄物

・その他の事業系一般廃棄物

・家庭廃棄物

東京都では感染性廃棄物を「医療機関から発生し、人が感染し、または感染する恐れのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物、またはこれらの恐れのある廃棄物」と定義している。

その廃棄物の内容に合った処理を行うことが大切である。

 

2.廃棄物取り扱いの原則

  1. 第三者にわかりやすいよう院内規定の方法で明記する。
  2. 袋の口は完全に閉じて運搬する。
  3. 途中で袋が破れたり、液が漏れない容器を用いる。

 

3.感染性廃棄物の取り扱い

取り扱い規定

  1. 感染患者のみならず、全患者の血液・体液等に汚染された物は、医療廃棄物専用容器に入れる。
  2. 使用・未使用にかかわらず、注射器・注射針・点滴セット・メス等は医療廃棄物専用容器に入れる。
  3. 使用したチューブ・セット類は医療廃棄物専用容器に入れる。
  4. 可燃性感染性廃棄物を入れる容器には院内きていのビニール袋をセットし、毎回回収する。
  5. 感染患者のごみ箱には院内規定のビニール袋をセットする。
  6. おむつは所定の容器に入れ、回収する。集積場所で可燃性感染廃棄物専用の箱に詰めて出す。
  7. ICU・手術室・感染症病棟の廃棄物は、ナースステーションから出るもの以外、すべて感染性廃棄物として取り扱う。

注射器・注射針の取り扱い

  1. 使用した注射針の針はリキャップせず、そのまま医療廃棄物専用容器に入れる。薬剤調合に使用した注射器も同様に処理する。
  2. ホルダー採血針は素手で取らず、針廃棄専用容器を用いて注射針を廃棄し、注射器は医療廃棄物専用容器に入れる。
  3. 輸液セットは途中で切断すると薬液・血液が飛散する恐れがあるため、針をつけたまま切断せずに医療廃棄物専用容器に捨てる。

 

4.医療廃棄物の取り扱い

感染性廃棄物を入れる医療廃棄物専用容器は、各病棟・外来の処置室、検査室の作業台付近に必要な数を配置し、なるべく手を使わずにフタが開けられる足踏み式のペダルがついたものが望ましい。また、内容量が約8割程度になったら交換する。満杯の状態では、容器から輸液セットがはみ出したり、廃棄しようとしたとき内容物に手指が接触したりなど、誤針事故の危険性が高くなるためである。そして移動時は必ず密閉する。

 

職員教育

感染症患者使用物品および感染症廃棄物の処理について最も重要なことは、職員一人ひとりが規定を理解し正しく理解することであり、その為には職員の教育が必要である。また、最近の医療現場には職員のみならず、様々な分野の委託業務職員が従事しおり、これらの委託業務従事者への指導も必要である。

特に産業廃棄物の場合は、@正しく分類されているA梱包の方法が安全であるB内容が明記されているの三点を徹底する。

 

まとめ

感染予防は特別なことではなく、何が清潔か不潔か、感染のリスクはどの程度かを見極め実施することから始まる。

どうしても物品を高いリスクのあるものとしてみて、必要性のないものも消毒・滅菌したり、また、感染性廃棄物として処理しがちであるが、それは人体や環境への影響の他に、コスト面でも病院管理上の大きな課題になってしまう。適正な処理は効率的な処理につながるので職員一人ひとりの努力が重要になる。