結核の定義及び病態
結核症の定義
結核菌
(Mycobacterium tuberculosis) の感染によって起こる伝染病で、小さな結節状の病変を示す。侵入門戸は大多数が肺で、肺・腸・腎臓その他種々の臓器や骨・関節・皮膚などを侵し、また結核性の脳膜炎・胸膜炎・腹膜炎を起こすものである。結核菌を確実に認め、その純培養と動物移植にはじめて成功したのは
R. Koch (1882) である。
結核菌
(Mycobacterium tuberculosis)の形態図1. 走査電子顕微鏡写真
図2.光学顕微鏡写真
図4.透過型電子顕微鏡写真
病態
結核菌は一般に強い病原性を示すが、毒素を生産しない。病原性を決定するのは菌と宿主との相対的な力関係である。このため、病原性を誘因する力を、毒力といわずに菌力という場合もある。
はじめて結核菌に感染した個体では肺の初感染原発巣が形成され、感染後早い時期に、結核菌はリンパ管を通って所属リンパ節(すなわち肺門リンパ節)に運ばれ、ここにも病巣を作る。初感染原発巣と肺門リンパ節の病変を初期変化群とよぶ。結核菌は細胞内寄生菌であるのでマクロファージの中でも増殖する能力を持っているが、この段階で宿主側に十分な細胞免疫が生じると菌の増殖力は抑えられ、ツベリクリン反応は陽性になりながらも発病はせず、結局石灰沈着を残して治癒する。しかし、免疫機能の衰えた人では菌は増殖を続けて肺を侵し、肺結核となる。病巣の一部は気管支とつながり、痰や咳と共に病巣内容が排出されると結核性の空洞が生じる。この空洞には栄養と空気が豊富なために結核菌の絶好のすみかとなり、結核患者は「感染源」となる(開放性結核とよぶ)。
肺結核は肺にのみとどまらずリンパや血管に運ばれて全身に到達し、髄膜炎、胸膜炎、腹膜炎、骨結核(カリエス)、関節結核、腸結核、腎結核をひき起こすことがある。特に抵抗力の弱い患者では全身に散布された菌が急速に増殖し、予後の悪い
粟粒結核になることがある。一方、発病しない場合でも菌は長期間体内に生きており、数年から数十年後に、宿主の抵抗力の減弱(老化、免疫不全、栄養状態の悪化、糖尿病、副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤の使用、胃切除、透析療法などに起因すると考えられている)に乗じて、病原性が再熱して発病することもある。AIDSとの合併症としてあらわれることもある。最後には、個体は肺組織の破壊のよる呼吸困難や、他の臓器の機能不全に陥り、やがて死に至る。