結核の院内感染について
1.院内感染に関する基礎知識
院内感染の定義
院内感染の定義は、「病院における入院患者が原疾病とは別に、新たに羅患した感染症、または医療従事者が院内において羅患した感染症」とする。
院内感染の感染源
感染源は、微生物(細菌、ウィルス、真菌、原虫など)を保育し、これを人に伝播する感染発症者、保菌者、汚染された器具、機械などである。
院内感染の成立
病院の環境及び医療業務の状況によって、患者及び医療従事者は感染源に曝露されるが、その微生物の病原性、量と患者などの感受性のバランスによって感染が成立する。近年、入院患者の高齢化、免疫抑制剤の頻回な使用、侵襲の大きい医療の導入などのために易感染性患者が増加し、これが感染の成立を容易にし、院内感染対策の重要性を増加させている。
院内伝播の様式
(環境)
不完全な清掃、整頓、消毒及び滅菌により、播布された起因微生物が残存、
繁殖し空気を介して、または接触によって感染が起こる。
(医療業務)
医療従事者の汚染された手指が媒介となって感染が起こる。不完全な診断。
方法により感染源を認識できなかったために感染が起こる。
2.結核の院内感染の現状
結核院内感染の現状
1965年から
97年までに明らかになった25例中、10例が95年以降の例だった。根かでも一般病院と精神病院での発生が目立ち、今年に入っても結核の院内感染の例を認めた。近くでは、
1989年神奈川の291床脳神経外科病院で12名発病。1996年東京町田の精神病院とで、9名発病。1997年神奈川の国立病院で9名発病(28歳の女性意志が感染源)
1998
年7月28日の新聞によると、新潟県内の特別養護老人ホームで
1995年春結核の集団感染が発生し、去年5月までに入所者と職員ら計27名が感染、うち5人が死亡していた。(日本の老人施設での初の事例)厚生省へ届け出の義務を怠り本日に至った模様。
3.
院内感染予防結核の発症危険因子
a)
ツ反陰性の若年者(小児・新卒職員では要注意)
b)アルコール常習者,アルコール依存症
c)担癌患者,大手術施行患者
d)免疫不全状態(AIDS,ステロイド,化学療法中,糖尿病)
e)生活の荒んだ人,規則正しい食生活をしていない人
f)慢性呼吸器疾患(塵肺・肺気腫・慢性下気道感染症
外来での対策
呼吸器科以外の診療科においても,咳嗽,喀痰,発熱等がある場合は,胸部X線検査が必要である.第
2表に結核を疑わせる症状を示した.これは,あくまで指標であり,同様の症状でも,肺癌,慢性呼吸器疾患2次感染症の可能性も否定できない.要は病院職員個々が「結核かもしれない」と疑う姿勢をもつことである.
一般病棟,手術室における対策
先に述べたごとく,抵抗力の減弱により肺結核を発病する確率は高く,これらの患者が入院する病棟においては,常に肺結核の発病に注意する必要がある.いずれにしても,肺結核が疑われれば,胸部X線とともに喀痰あるいは胃液等を検体として塗抹,培養検査をする必要があり,肺結核と診断され,活動性であれば,隔離入院を検討する.また小児病棟においては,排菌者が認められれば,排菌者を隔離
(結核病棟のある病院に転院)するのはもとより,同室者も排菌していなくてもツベルクリン反応強陽性なら6ヵ月間のINH予防投与が公費負担で認められている(この際も結核予防法申請が必要).
病院職員の結核感染の対策
・年
1回の胸部X線写真は必ず受けること.
職場検診の胸部X線検査の目的の一つに肺結核発見がある.健常者でも無症状で肺結核を発症していることがあるので,X線検査は必ず受診したい.妊娠中および産褥期には結核になりやすいことから,少しでも呼吸器症状があれば出産後に胸部X線検査を実施しておくことが望ましい.