エイズと看護

HIV感染の場合、小児などの特殊なケースを除き、ほぼ100%の病名告知がされる。これは、@病気の理解のためA二次感染防止のためである。

感染経路のいかんに関わらず、検査結果が出るまで不安を抱いて結果を待つ気持ちは、察してあまるものがある。

無症候性キャリア、エイズ関連症候群、またエイズの段階の患者でも一般に専用病室は必要としないが、秘密保持の見地から見れば、専用病室があったほうが入院生活に支障をきたさないといえる。しかし、これは隔離病棟を意味しているわけではない。

エイズに関しての看護婦の関わりは、いくつかに分けられる。

  1. 予防活動(エイズ教育・知識の普及・実践に向けて)
  2. 感染・発症時の看護(内服援助・感染予防・精神的ケア)
  3. ターミナルケア

ここでは、2、感染・発症時の看護についてとりあげる。

 

HIV感染とAIDS発症までの経過

経過

症状 医療 社会的・心理的側面

HIV

感染 インフルエンザ様
症状

感染不安
エイズノイローゼ

 

 血清抗体陽性化

AC

(無症候性キャリア)

無症状
CD4リンパ球数減少
抗体検査
治療開始
AZT 検査結果告知
孤独感・孤立感

病名がもれることの不安

(職場解雇・疎外感)

発病・死への不安と恐れ

 

ARC

(エイズ関連症候群)

口腔カンジダ症
不定の発熱・寝汗
下痢・体重減少
治療
AZTDDI
治療拒否

家族との問題

経済的圧迫

住居・家族の問題

 

Full blown AIDS

カリニ肺炎

消化性下痢

意識障害



 

 

 

 

HIV感染が確定した場合、

患者は、・エイズに関する知識を十分に持つ

そして、医療者は患者が身体の免疫力を高めるため、また維持するための生活指導、ほ

かに感染させないための具体的な方法を教えます。

 

医療機関では、

 

内服の援助

HIVに感染した後に、発病を遅らせるため。また発病してからの症状の進行を押さえるために内服治療が行われる。

数種類の薬剤を同時に併用することにより、HIVの増殖は強力に抑制され、耐性ウィルスの出現も予防される。しかし、錠剤が大きく内服しにくい、一定の時間に内服しなければならない、副作用があるなどのことから内服が中断されやすい。服薬が不十分であったり、内服方法が間違っていたりまた途中で中断するとウィルスが耐性化するため、患者が継続できるように援助しなければならない。

(服薬指導のポイント)

  1. ライフスタイルを考慮した服薬を考える。
  2. 食事の内容や飲みやすいもののアドバイスをする。
  3. 可能性のある副作用の説明(吐き気・嘔吐・食欲不振・頭痛・下痢・倦怠感・腎結石・末梢神経障害など)
  4. 副作用の焼失時期を伝える。
  5. 飲み方の工夫を考える。
  6. 継続には患者さん自身の意志が必要。

 

AIDSの日和見感染症

原因菌の基本的病原性は低いが、細胞性免疫不全があるので重い症状を呈する。治療には、長期間を要し一時軽快しても再発しやすい。T4リンパ球は200/mm以下に減少している。1、カリニ肺炎

  1. カンジダ症
  2. トリプトコッカス症
  3. トキソプラズマ脳症
  4. サイトメガロウィルス感染症
  5. 単純ヘルペスウィルス感染症
  6. 結核
  7. 非定型抗酸菌症
  8. クリプトポリジウム症・イソスポラ症

 

その他合併症

カポジ肉腫・非ホジキンリンパ腫

具体的な日和見感染の看護は、

東京大学医科学研究所付属病院看護部編:エイズ患者の看護、日本看護協会出版会、1993 を参照。

 

精神的ケア

HIV感染患者、およびエイズ患者に対する精神的援助は、医療機関に相談にきたときから始まる。日常ケアの一つ一つの看護行為そのものが、すべての精神的ケアの中一環であることを念頭に置くべきである。エイズに対する偏見や差別もエイズ理解不足のために根強い。患者のプライバシー保護に努めなければならない。

エイズ患者の問題が日本より大きいアメリカでは、同年齢の患者が次々に亡くなっていくのを看護する看護婦も、精神的に疲れてしまい仕事ができなくなるという問題も起こっている。これに対しては、医療従事者に心理カウンセラーをつけ、悩みなどあればいつでも気軽に相談できるようになっている。しかし、日本ではエイズに関してだけでなくここまではいたってはいない。

 

エイズの特徴的な神経病変として、AIDS痴呆がある。これは、Priceらは、エイズと診断された時期に13の例に痴呆が認められ、14の例にはsubclinicalな痴呆が存在するとしており、AIDSの経過中の23が痴呆が生じてくるとしている。症状は記名力障害・認識障害が中心で、行動・運動障害が加わってくる。

これに対しては、患者の話をゆっくり聞き、最近のことでも思い出せなくてもあせらず、重要なことは書き留めるようすすめる。また、患者の周りの家族・友人にも同様の援助を協力してもらう。

AIDS患者は予後不良の疾患にかかっているだけで抑鬱状態に陥るが、鬱状態による精神活動の遅延は認識障害と紛らわしく、痴呆を過大に評価することがあるので注意する。

また、エイズのNGOや家族の会などを紹介し、患者が孤立して疎外感を感じないように援助することが必要である。

 

HIV感染患者の看護の原則

  1. HIV感染者であることで差別・偏見を持ってはならない。
  2. HIV感染者の看護にあたりもっとも重要なことは、患者間・患者家族・医療従事者へのHIVかんせんを予防することである。もって、感染源となる患者血液や体液にかんしての処理は十分な注意を呼びかける。
  3. HIV患者は本人の告知が原則行われているが、患者のプライバシーの守秘には十分配慮し、不安な患者の気持ちを和らげるように援助しなければならない。

 

看護の課題・ニーズ

  1. 最近の検査・治療の進歩によって看護は服薬指導の支援などの新しい患者ニーズに看護がどう対応していくか、これまで重視されていたとは言い難い外来看護を同充実させていくか、日々変わる専門的な情報を補っていくのかなどの問題がある。
  2. 感染者の実際のケアを経験していないので、患者のどう対応すればよいのか、感染予防はどうすればよいのか等などが課題の病院も多い。(特に拠点病院)
  3. 実際に看護を行っている現場や看護職も増えているのも現状であり、この現場からの経験・情報をほかの医療機関のケアにどう生かせるのかが今後の課題でもある。

 

引用・参考文献

根岸昌功ほか:エイズ教育テキスト、学研、1993

堀成美:HIVAIDS看護研究会会報、No131998

箕輪真澄:エイズ対策、東京法規出版、1995

東京大学医科学研究所付属病院看護部編:エイズ患者の看護、日本看護協会出版会、1993