AIDS
治療の現状
近年
HIV感染症の病態が明らかになり、プロテアーゼ阻害剤という非常に有効な治療薬も開発された。このような背景からHIV治療はほんの2・3年前と比べ格段の進歩がある。
○
HIV療法の目的急性期の最大ウイルス量が減少し、安定した時点をセットポイントという。セットポイントのウイルス量
(Viral Load:VL)が、予後に影響を及ぼすことが明らかになってきた。VLが低いと病気の進行は遅く、VLが高いと病気の進行が早い。このため、抗HIV薬による早期の治療開始が必要となる。・
CD4陽性リンパ球数を増やす(日和見感染症を予防する)抗
HIV療法の効果によりウイルス量が減少すると、CD4陽性リンパ球は増加する。これは結果的に、日和見感染症を予防することになる。
〇治療開始時期の決定
HIV感染者に対し、定期的に血漿中HIV
RNA量およびCD4陽性リンパ球数を測定し、CD4陽性リンパ球数が500個/o3未満の患者では全例に治療を開始する。CD4陽性リンパ球数が500個/o3以上の患者であっても、血漿中ウイルス量が10000以上(bDNA)または20000以上(RT-PCR)であれば治療を開始する。
HIV
そのものに対する治療法として実効を示しているのは。坑HIV療法である。日本において
1995年以前の抗HIV薬はAZTとddIの2種類に過ぎなかった。その後、
2000年4月までには16種類が認可されており、これらの抗HIV薬が画期的な治療効果を現わしてきている。
抗
HIV薬は、HIVに固有の酵素をターゲットとして、ウイルスのライフサイクルの異なる地点に作用するもので、3つに分類される。
感染細胞内でウイルス
RNAを逆転写する酵素の働きを妨げる。抗HIV薬の作用点と一緒に逆転写に必要な酵素様の化合物を結合させてウイルス
RNAのDNA複製を阻害する。
逆転写酵素と直接結合してウイルス
RNAのDNA複製を阻害する。
感染細胞の
DNAに組み込まれて産生されたHIV前駆体蛋白質からプロテアーゼ
(蛋白分解酵素)と構造蛋白質を生成する過程を阻害する。
薬剤名 成分名 ( 略号等) |
会社名 |
作用機序 |
承認日 (剤型) |
レトロビル ジドブジン (AZT) |
グラクソ・ウエルカム |
阻害剤 |
1987.9.18 ( カプセル) |
ヴァイデックス ジダノシン (ddI) |
ブリストル・マイヤーズ スクイブ
|
@ |
1992.6.19( 錠剤)( ドライシロップ) |
ハイビット ザルシタビン (ddC) |
日本ロシュ |
@ |
1996.4.24( 錠剤) |
エピビル ラミブジン (3TC) |
グラクソ・ウエルカム |
@ |
1997.2.14( 錠剤) |
クリキシバン |
萬有製薬 |
Bプロテアーゼ阻害剤 |
1997.3.28( カプセル) |
ゼリット スタブジン (d4T) |
ブリストル・マイヤーズ スクイブ |
@ |
1997.7.25( カプセル) |
インビラーゼ メシル酸サキナビル |
日本ロシュ
|
B |
1997.9.5( カプセル) |
ノービア リトナビル |
ダイナボット |
B |
1997.11.20( カプセル)1998.9.25( 液剤)1999.8.25( ソフトカプセル) |
ビラセプト メシル酸 ネルフィナビル |
日本たばこ産業 |
B |
1998.3.6( 錠剤) |
ビラミューン ネビラピン |
日本ベーリンガー インゲルハイム |
酵素阻害剤 |
1998.11.27( 錠剤) |
コンビビル (AZT/3TC) |
グラクソ・ウエルカム |
@ |
1999.6.11( 錠剤) |
ザイアジェン 硫酸アバカビル |
グラクソ・ウエルカム |
@ |
1999.9.10( 錠剤) |
ストックリン エファビレンツ |
萬有製薬 |
A |
1999.9.10( カプセル) |
プローゼ アンプレナビル |
キッセイ薬品工業 |
B |
1999.9.10( カプセル) |
レスクリプター メシル酸デラビルジン |
ワーナー・ランバート |
A |
2000.2.25( 錠剤) |
フォートベイス サキナビル |
日本ロシュ |
B |
2000.4.6( ソフトカプセル) |
2〜3年前までは、HIV感染症の治療にあたり、治療開始の時期決定や治療開始時に単剤で用いるか併用で開始すべきかといったいくつかの疑問点があった。当時治療薬はAZTとddIという逆転写酵素阻害剤の2つしか認可されておらず、その有効性にも限界があったために、あまり早くから治療を開始し、しかも併用療法を行ってしまっては、いざ発病というときに治療薬が無くなってしまうのではないか、という危惧があった。
しかし、HIV感染症の病態が明らかになり、さらにプロテアーゼ阻害剤という非常に強力な
治療薬も開発されたこと、血清中のウイルス量が正確に測定できるようになったことから、
現在では効果的な治療の原則が確立されつつある
最低限守らなければならない原則
・ 治療薬はエイズ発病までとっておくべきではない。
・どの薬剤であっても単剤で用いるべきではない
・併用療法といっても1剤ずつをたしていってはならない。
・治療により免疫が回復したからといって、治療を中止してはならない。
HIV感染者ごとに疾患の進行速度が異なるため、治療方法は、血中HIV RNA量およびCD4陽性リンパ球数から推測される疾患進行の程度をふまえて個別に決定する。
〇多剤併用療法
現在行われている主な多剤併用療法は、逆転写酵素阻害剤2剤とプロテアーゼ阻害剤1剤を組み合わせた3剤併用療法である。
抗HIV薬の組み合わせはデータ、治療歴などにより決定されるが、患者の生活に合わせ服薬しやすい薬を選択するなど、考慮する必要がある。
〇服薬について
薬剤を勝手に減量したり、服薬を中止することは、ウイルス複製の抑制が不完全になり、耐性ウイルスの出現をまねく。そうなれば同じ治療計画で服薬を再開しても効果はまったく期待できない。
治療開始にあたっては、患者と十分に話し合い、生活習慣を見直したり、服薬が困難な薬を選択薬からはずしていくといったプロセスが必要となる。
(
考察)エイズ治療は根治につなんがる療法はいまだないものの、年々新たな薬剤が開発され、効果的な治療方法も明らかになってきている。現状のなかで、特に問題であると感じたのは、自分がHIVに感染していると知らないキャリアの存在とその後の治療についてと、
服用法を守れない患者である。
現在、エイズの治療は原則としてエイズの発病以前より開始される。しかし、自分がキャリアであると知らない場合、発病にいたってはじめて治療が開始されることとなり治療効果は早期に開始した場合と比べ厳しいものとなるだろう。日本では、エイズの検査を受けることは個人の意志にまかされていることもあり、難しい問題を孕んでいるといえる。
服用法を守れない、またはライフスタイルなどから服用が困難な患者は前述のように治療効果があがらないだけでなく、耐性菌の問題もでてくる。治療開始、薬剤の服用にあたっては、医療者がどれだけ患者の生活、行動、ニーズを理解し、一人一人の患者にあった効果的な指導が行えるかがその後の治療経過を左右するといえる。
参考資料:
http://www.acc.go.jp/accmenu.htm http://www.iijnet.or.jp/aidsdrugmhw