エボラウイルス

エボラウイルスの形

エボラウイルスの粒子の大きさは80nm(約12500分の1mm)〜14000nm(約1000分の14nm)であり、このうち感染力のあるウイルスの平均の大きさは970nm(約1000分の1nm)である。

細胞に取りついたウイルスは、その細胞膜下の近辺に潜んで増殖し、すべて設計どおりに構築されたウイルスの粒子は、細胞膜を押し破って一個ずつ出てくる。これはエボラに限らず、エンベロープ・ウイルス一般に共通の増殖パターンである。

ところが、エボラウイルスは、細胞膜からの切れ具合がうまくいかないため、細胞の表面から出芽した後のプロセスがスムーズでなく、ズルズルとつながったまま、細い糸状になって出てくる。長いものでは1万5000nmにも及ぶ糸状ウイルスもある。エボラにフィロウイルスという家名がつけられたのも、そもそもは糸を意味するラテン語の「FIRO」に由来する。その糸が途中で切れてしまうと、これがくるくると巻いて、例えば「6」のような形や、80nmの幅のウイルスは糸状ないし「U字」状になる。更に蜘蛛のような形にからみあうこともある。

*糸状ないしU字状

ウイルスが糸状になる現象はエボラやマールブルクに限るわけではない。パラミクソウイルスの仲間、あるいはインフルエンザなどでもしばしば観察される。

 

 

 

多形の袋状をなしているウイルス。

*マールブルク: 1967年旧西ドイツ、マールブルク市で発生。死亡率20%。症状

はエボラと酷似している。

 

エボラウイルスの設計図

設計図つまり遺伝情報といえば、他の生物ではDNAが原則だが、ウイルスの領域ではまだRNAが幅を利かせている。エボラでは、一本の直線状のRNAに詰め込まれた遺伝情報は、およそ1万9000の暗号(塩基)から成る。塩基は3個1組なので、これによってつくられるアミノ酸は5000個ということになる。

ウイルスにも、人間の手、頭脳、あるいは内臓に匹敵するような「器官」がある。ただしウイルスでは、ほんの数種類のタンパクがこの器官の役をこなす。エボラウイルスは7種類のタンパクで作られている。

フィロウイルスの遺伝子は、他の多くの出血熱ウイルスと同様、すべて「マイナスセンス鎖(とりあえず情報倉庫として存在し、複製機能を発揮できない遺伝子)」なのでそのままでは相手の細胞内で増殖できない。しかし、開始のシグナルの合図があるとすぐに、mRNA遺伝子へと変わる。このmRNAは、翻訳されてタンパクを合成するとともに、一方で再びマイナスセンス鎖に変換されて、子孫ウイルスの体中に装填される仕組みになっている。

 

フィロウイルス・7種類のタンパクの合成順序

NP(N) 核タンパク質 nucleo protein (以下Nと略)

VP35(P) ウイルスタンパク vital protein(タンパクの中にリン酸を含むのでPと略)

VP40(M) (膜 membrane になったタンパクなのでMと略)

GP(G) 糖を含むタンパク glycoprotein (以下Gと略)

VP30

VP24

最大のタンパク largest protein

 

VP35の35は、タンパクの大きさが分子量で3万5000ダルトンであることを意味する。ダルトン:原子や分子の重さの単位で1ダルトンは1.661×10−27kg

なお、RNAをマイナス鎖からプラス鎖に転換する役目はRNAポメラーゼという酵素が担っているが、この酵素はきわめて頻繁にコピーミスを犯す。その結果、感染した細胞内には少しずつ変異した新たなウイルスが生まれてくる。これも、多くの変異株をつくることによって生き残りを図るウイルスの戦略の一つである。

また、H・フェルドマン博士(独・フィリップ大学)らの研究によると

ザイールエボラの場合

L:遺伝子の複製にたずさわる。

G:取りついた相手の細胞膜を生きたまま奪い自らを守るコートあるいは外壁とし

その壁にタンパクを刺し立てる。

N:RNA核酸に結合している。

M:細胞から持ち込んできた膜の下に張りついてウイルスの形態維持の役割を担う。

P:Lタンパクと強調して働くと考えられる。

VP30:ウイルスの内部で、Nと協力してRNAの情報発進を助けると考えられる。

VP40:ウイルスがまとう借り物の膜を突き抜けGが奇主の細胞膜へと到達するのを

先導すると考えられる。

 

 

 

参考文献

エボラ・ショック ウイルスは警告する 玉川重徳 大栄出版