1) 生活環,マラリア原虫の生活環は,蚊の体内とヒトの体内の両方にわたっている。それは,蚊の体内で二段階,ヒトの体内で二段階の合計四段階にまとめられる(表2)。ヒトの体内のうち,赤血球中で過ごしているときを赤内型,それ以外を赤外型という。
表2. マラリア原虫の生活環
段階 | 場所 | 段階名 | 初期の成長型 | 段階終了時の侵入型 | 増加率 |
有性生殖期 | 蚊の胃腔 | 配偶子生殖1) | --- | オオキネート2) | 1倍 |
無性生殖期(1) | 蚊の中腸外壁 | 伝播生殖3) | スポロシスト4) | スポロゾイト5) | 10,000倍 |
無性生殖期(2) | ヒトの肝細胞 | 肝臓増員生殖 | 肝臓栄養体 | メロゾイト | 10,000--30,000倍 |
無性生殖期(3) | ヒトの赤血球 | 赤血球増員生殖 | 赤血球栄養体 | メロゾイト | 8--32倍 |
1) Gamogony,または,Syngamy (Union of gametes in fertilization) ともいう。
2) 雄性配偶子と雌性配偶子(各々Gamete,すなわち生殖体ともいう。ヒトの血液から蚊が吸入するのはGametocyte,すなわち配偶子母細胞(生殖母体ともいう)であり,蚊の中腸内で雄性配偶子母細胞が雄性配偶子に,雌性配偶子母細胞が雌性配偶子になる)が接合し,接合子(Zygote)となって暫くすると,運動性をもつオオキネートとなる。
3) Sporogony。胞子虫類の生殖法の一型で,増員生殖の対語。宿主体内にはいった種虫などの栄養体(Trophozoite)は無性生殖的に多数のメロゾイト(Merozoite)に分裂し,あるいはメロゾイトからさらにメロゾイトを生じる過程(増員生殖)を終えると,有性の配偶子母細胞となる。これから配偶子が形成され,雌雄の配偶子の合体によって接合子が生じ,さらに分裂して最後に種虫となってはじめて新感染をおこす。配偶子母細胞から種虫の形成に至る過程は新感染に不可欠であるから伝播生殖と呼ばれる。
4) Sporocyst。胞子虫類の接合子が接合子嚢内で分裂して多数の胞子母細胞となり,これがさらに分裂してはじめて胞子が形成される場合に,胞子母細胞が接合子嚢の中または外で作った被嚢,あるいはその内容をあわせてスポロシスト(またはスポロキスト)と呼ぶ。マラリア原虫の場合は,オオシストとも呼ぶ(オオキネートが中腸壁の細胞間隙を通って体腔側にでて,丸くなった時点からオオシストと呼ばれる)。胞子母細胞が分裂することなく,そのまま被嚢して胞子となる場合も多い。
5) Sporozoite。蚊の唾液腺に移動して人体に侵入するのはこの形態である。