★ポリオとは★
ポリオってどんな病気?
@
ポリオに感染すると手や足に麻痺があらわれることがあります。
ポリオウイルスに感染しても、多くの場合、病気としての明らかな症状はあらわれずに、知らない間に免疫(その後、ポリオに感染しない抵抗力)ができます。(不顕性感染(ふけんせいかんせん))。しかし、ウイルスが脊髄の一部に入り込み、主に手や足に麻痺が現れることがあり、多くの場合、その麻痺は一生残ります。成人が感染することもありますが、1〜2歳の子供がかかることが多かったので、かつてはポリオのことを「脊髄性小児麻痺」(略して「小児マヒ」)とも呼んでいました
* 麻痺があらわれた患者さん一人の周囲には数百人から千人程度の不顕性感染の人がいるといわれています。言いかえるとポリオウイルスに感染した場合、数百人から千人に一人の割合で麻痺があらわれると考えられます。感染してからこのような麻痺の症状が出るまでの期間(潜伏期間)は4〜35日(平均して15日)です。
@
ポリオは、人から人へ感染します。
ポリオは、ポリオウイルスが人の口に入って腸の中で増えることで感染します。増えたポリオウイルスは、再び便の中に排出され、この便を介してさらに他の人へと感染していきます。
A
ポリオによる麻痺には、確実な治療法はありません。
麻痺の進行をとめたり、麻痺を回復させるための治療が試みられてきましたが、現在、残念ながら特効薬などの確実な治療法はありません。麻痺に対しては、残された機能を最大限に活用するためのリハビリテーションが行われます。
従って、感染しないようにすること、つまり「予防」こそが、麻痺を防ぐ唯一の方法なのです。
「ポリオウイルスの増殖機構:小児マヒ発症のメカニズムとその制御」 野本明男(東京大学医科学研究所教授)
小児マヒとはポリオウイルスが中枢神経系の神経細胞で増殖し、神経細胞に損傷を与えることにより生じる病気である。ポリオウイルスのゲノムは、約7500塩基からなる直鎖型プラス鎖RNAである。このRNAは、4種類のキャプシドタンパク質各60コピーにより形成される正十二面体の殻に囲まれている。既に、このウイルス粒子の構造は詳細に明らかにされている。
ポリオウイルス病原性のモデルは1950年代半ばに提出されている。経口感染し、消化管の粘膜上皮細胞で増殖、さらに扁桃やパイエル板などの局所リンパ節で増殖後、血中に移行する。やがて、ウイルスは中枢神経系に侵入し、とくに脊髄前角の運動神経細胞で増殖、これを破壊し、四肢にマヒを生じさせる。ウイルスが血中に存在するとき、すべての組織がウイルスに暴露されるはずであるが、消化管と中枢神経系以外のほとんどの組織ではウイルス増殖は観察されない。このようにポリオウイルスの組織特異性は明確である。
ポリオウイルスの自然宿主はヒトのみであるが、中枢神経系に直接ウイルスを接種した場合には、サルも高い感受性を示す。他の動物種には感染が成立しない。ポリオウイルスのこの性質故に、サル中枢神経系へのウイルス接種法が唯一の経口生ポリオワクチンの安全性試験法であり、また病原性研究のための感染実験法である。小児マヒ予防のための経口生ポリオワクチン(弱毒化ポリオウイルス)が、ポリオウイルスの3種類すべての血清型について開発され、有効に利用されている。この生ワクチンウイルスは、ヒトの消化管では良く増殖し、中和抗体産生に寄与する。しかしながら、血中に移行することは非常に稀であり、またサルの中枢神経系での増殖力は非常に弱い。このように生ワクチンウイルスは中枢神経系に関し、野性の強毒ウイルスとは異なる組織特異性を示す。
世界のポリオ根絶計画は進行しているが、ウイルス弱毒化のメカニズムばかりではなく、小児マヒ発症の分子メカニズムもほとんど明らかにされていない。例えば、どのようにウイルスは消化管から血中へ移行するのか?どのように中枢神経系に侵入するのか?どのようにウイルス感染により分泌型IgA産生に至るのか?などである。このように小児マヒ発症およびその制御に関するメカニズムは真に理解されるまでには到っていない。人類は、小児マヒ予防に関しては単に幸運であったにすぎない。とにかくワクチンが効いたからである。
参考資料
http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/AandI/Forum/health/1st/nomoto_j.html
☆ゲノム Genome ある生物種が成立するのに必要最小限の遺伝子をふくむ染色体のひとそろいをゲノムという。配偶子(半数体細胞)にふくまれる染色体の全体と、事実上同じものを意味する。精子や卵子以外のふつうの体細胞(二倍体細胞)はゲノムを2組もっていることになる。ことなる種間でのゲノムを比較して、生物種の類縁の近さを知ろうとする研究をゲノム分析という。木原均がゲノム分析(実際には染色体のタイプと本数の比較)によって、コムギの祖先種をつきとめた研究(1930)は有名である。