グラム陰性通性嫌気性
桿菌群の腸内細菌科に分類される。そのうちのエキシュリキア(大腸菌)属とされる。
・エキシュリア(大腸菌)属
いくつかの種が含まれるが、そのうち重要なのは大腸菌E.coliである。
・形態と性状
1.1〜1.5×2.0〜6.0μm大のグラム陰性桿菌で多くの菌は周毛性鞭毛を持ち運動性があるが,芽胞はなくときにきょう膜を持つものもあり、特定臓器に付着・定着するための装置である線毛(定着因子)を有するものもある。普通寒天培地によく発達する。乳糖を発酵により分解して、有機酸を作る。
・血清型
ほかの 多くの菌と同様に大腸菌には、外膜多糖抗原、O抗原(164種類)、きょう膜抗原、K抗原(90種類)および、鞭毛抗原、H抗原(55種類)が知られ、この組み合わせで血清型別し、O157:H7:K9などと表現する。病原性のある大腸菌は特定の血清型を有する場合が多く、血清型は病原性のある大腸菌の推定に利用したり、疫学調査の指標に用いられたりする。
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5種の分類大腸菌は通常健康人の腸管細菌叢を構成する細菌の一種である。しかしながら現在までにヒトの下痢を主症状とする腸内感染症の原因となる大腸菌として少なくとも以下の5種類が明らかになっている。
enteropathogenic E.coli
( EPEC 腸管病原(性)大腸菌):血清型で推定しサルモネラ症に類似した病態を示す。
Hela細胞やHep−2細胞に吸着して、細胞にカルシュウムイオンの流出やタンパクのリン酸化を起こさせさらに細胞骨格に変化を誘導する。主要症状は下痢、発熱、腹痛、悪心、嘔吐など、非特異的なものである。
enteroinvasive E.coli
( EIEC 腸管組織侵入性大腸菌):大腸粘膜に侵入して赤痢と同じような症状を呈する。主要症状は、下痢(粘血便)、発熱、
腹痛、嘔吐。
enterotoxigenic E,coli
( ETEC 毒素原性大腸菌):耐熱性エンテロトキシン(ST)および易熱性エンテロトキシン(LT)のいずれか一方あるいは両方を産出して病気を引き起こす。
ETECは腸管への定着因子として線毛が証明されている。主要症状は、下痢(水様性)、腹痛、発熱、嘔吐。海外旅行者下痢症の重要な原因菌である。
enterohemorrhagic E,coli
( EHEC 腸管出血性大腸菌):出血性の腸炎と溶血性尿毒症症候群の原因となる菌で、志賀毒素に類似する毒素を産出する。よく知られている、
O157:H7がある。主要症状は血便、腹痛、嘔吐、嘔気、発熱。
enteroadherent E,coli
( EAEC 腸管凝集付着性大腸菌):
HeLa細胞に付着性を示すが細胞内侵入性は示さず、慢性の下痢を引き起こすことが多い。詳しいことはまだよく分かっていない。
下痢性原性大腸菌感染による臨床症状は、上記5種類の大腸菌それぞれの感染によって異なっている。EPEC感染症の症状はサルモネラ症に類似しており、下痢、腹痛、悪心、嘔吐、発熱が主症状である。多くの場合菌血症を併発する。一般に乳幼児の場合が激症である。 EIEC感染症の症状は、典型的な場合は赤痢様で、下痢は粘血便ないしは膿粘血便である。しかし、軽症の場合は必ずしも赤痢様の症状を呈さない。 ETEC感染症の主症状は下痢で、多くの場合腹痛を伴う。発熱はほとんどの場合見られない。便の症状は典型的な場合にはコレラと同じように“米のとぎ汁様”であるが、通常は水様便ないし軟便の場合が多い。 EHECによる出血性大腸炎は、血便と激しい腹痛を伴う。激症の場合の下痢は、鮮血状で
ある。大量の鮮血を排出することから、外科的疾患との鑑別が難しい場合があり、開腹手術を施した症例もある。
EAECの感染の場合の症例はまだ報告されている症例数も少ないので明らかではないが、EPEC感染による症状と類似している。
EHEC
のVero毒素EHEC
は少なくとも2種類の蛋白毒素を産出する。Vero細胞や特定のHera細胞に対して細胞毒性を示すことからVero毒素と呼ばれているが、そのうちの1つ(VT 1)は、分子構造がShigella Desenteriae 1が産出する志賀毒素と全く同じである。またもう1つのVT2の分子構造も志賀毒素と相同性が高い。したがってこれらの毒素をShiga-like toxinT,U(志賀毒素様毒素)とも呼ぶ。VT1、VT2とも真核細胞の蛋白合成を阻害し、その作用機能は、志賀毒素の場合と全く同一である。特定の血清型の大腸菌がこの毒素を産生する。よく知られているのはO157:H7である。
ETECの産出するエンテロトキシン
ETECは下痢原因毒素として、
2種類のエンテロトキシンを産生する。1つは60℃10分の加熱によって失活する易熱性エンテロトキシン(heatlabile enterotoxin、LT)で、もう1つは、100℃、10分の加熱によっても活性を失わない耐熱性エンテロトキシン(heat-stable enterotoxin, ST)である。これらのエンテロトキシンの産生能はプラスミドによって支配されている。LTは蛋白毒素で分子構造がコレラ菌の産出するコレラ毒素と非常によく似ている。したがって作用機能もコレラ毒素と同じである。