肝炎ウィルスの疫学的特徴
1.A型肝炎ウィルス
HAVは世界中に広く分布している。経口感染が主なルートであるから、したがって衛生水準の低い国と、先進国などの衛生環境のより完備した国とでは、HAVの感染状況が異なっている。我が国のこれまでの流行例をまとめた。
発生年 |
発生地 |
施設 |
患者数 |
感染経路 |
1975 1976 1977 1977 1977 1977 1977 1977 1978 1978 1978 1979 1981 1982 1983 1983 1983 1983 1983 1983 1986 1986 1988 1988 1989 1990 |
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27(13) 41(7) 20(0) 45(12) 486(56) 40(40) 24(24) 38(1) 62(8) 21(10) 129(91) 60(21) 24(20) 225(116) 800(632) (118) 46(46) (166) 63(50) 50(38) (108) 28(不明) 58(58) 215(215) (135) 68(66) |
井戸水 井戸水 接触伝播 井戸水 井戸水
しじみ貝 接触伝播・風呂水
接触伝播 川床水
簡易水道
生ガキ カキ生食
生ガキ
飲食物
生ガキ |
( )内は確定診断症例
血清疫学的調査から我が国のanti-HAV-IgG抗体保有率は、20歳以下では10%以下といわれている。しかし、最近の疫学調査では30−40才台にシフトしている事が分かっている。HAV抗体は中和抗体であるから、もしHAV感染が生じれば低年齢層のみならず30才台の成人に大流行が発生することが予想される。一方、開発途上国では年齢の如何を問わずHAV抗体価は高く、HAVは広く浸淫し、常時感染の生じていることが予想される。ごく稀には、 ウィルス血症中のヒトの血液を輸血することによって発症する場合もある。
2.B型肝炎ウィルス
HBVは持続感染性の高いウイルスで、世界中に広く分布する(約1億7千万人)。HBVcarrierの頻度は地域によって異なり、人口の0.1―20%以上に及ぶ。アジア・アフリカ地域では高く、北欧・欧米では少ない。我が国では1−3%であるが、母子感染の予防でその頻度は低くなってきている。HBVcarrierの分布と、そのsubtypeの分布に著しい地域性が見られる。Globalな観察で見ると、人類の生い立ち・移動がわかる。carrierの分布とヒトの肝細胞癌の発生率の分布がきわめてよく一致していることから、HBVが発癌ウィルスと考えられていた。統計的にもHBs高原陽性者は陰性者に比べ、200倍も高率に肝細胞癌の発生が見られる。HBV-DNAプルーブ(probe)と肝細胞癌のDNAとをhybridizationさせる遺伝子学的診断方法の開発で、その可能性が更に高められた。このSouthern blotting法の結果から、HBV-DNAはかなり早い時期にヒトの肝細胞の中に組み込まれ、染色体とくに第4、第16染色体への発現すなわちヘテロ接合体を消失させるといわれている。一方、癌抑制遺伝子の一つp53遺伝子が第17染色体で、点突然変異によってヘテロ接合体が失われていることが、肝細胞癌症例に多いことも報告されている。HBVのみならずp53遺伝子の関与は大きいだろう。
3.C型肝炎ウィルス
日本におけるHCVcarrierは、約1.2%、15歳以下では極めて少なく加齢とともに上昇するのが特徴で50歳以上では約3%にも及ぶ。世界的には、ヨーロッパでは1%未満、アメリカでは約1%、インドネシアでは約3%、中国では約2%、イエメンで約6%などで、東南アジア・中近東に高くなっている。
4.D型肝炎ウィルス
HBs抗原陽性者の抗HDV抗体保有率は南イタリアを最高に地中海沿岸地域、中東、西アフリカ、アマゾン川地域、南太平洋の島々に高い。アジアは低いが、台湾は約20%と突出している。我が国では、1%前後といわれている。感染経路は、HBVと同様に血液、体液を介して感染する。血漿製材輸血の血友病患者、麻薬常用者、性行為感染などがその例である。一方、衛生環境のよくないことも一つのfactorとされている。
5.E型肝炎ウィルス
HEVはインドのほかにネパール、パキスタン、ミャンマー、中国、メキシコなど世界に広く分布している