肝炎患者に対する看護

1. 急性肝炎患者の看護

1. 看護のポイント

  1. 劇症化を予知した症状観察
  2. 感染予防
  3. 不安の軽減につとめる

 

観察のポイント

  1. 意識障害の有無、程度、不穏状態の有無
  2. 発熱
  3. 皮膚粘膜をとおしてみる黄疸の推移
  4. 便通および色調
  5. 悪心、嘔吐、腹痛
  6. 腹水貯留、腹部膨満感と圧迫
  7. 尿量、体重、腹囲の変化
  8. 浮腫の有無
  9. 出血傾向、貧血症状
  10. 食欲と全身の栄養障害の程度

 

具体的なケア

[急性期]

  1. 安静

    1. 発病後1~2週間後は食事、排泄、洗面以外は臥床安静とする。
    2. 患者の安静と第三者への感染の波及を防止するための安静・隔離の意義に関する説明をし、患者の理解を得る。
    3. 入院時より個室に隔離し、家人を含め面会者や他の患者との接触を最小限に制限する。
    4. 患者のよき相談相手になり、不安の軽減につとめる。

  2. 重症化(劇症化)の危険性の早期発見

    劇症化の徴候を血液検査所見と関連づけて観察する。

    1. 黄疸の増強速度に注意(ビリルビン15mg/dl以上のときは劇症化を考え、とくに注意する)
    2. 活動性:肝機能はよくなっているのに、ぐったりして生気がない。
    3. 精神活動の低下がないか。
      • 質問に対する反応がにぶい。
      • さらに進むと嗜眠や興奮状態などの異常行動。
      • 見当識障害

    4. はばたき振戦
    5. 腹水、浮腫、尿量の減少
    6. 鼓腸、便秘(腹部膨満感を訴える)
    7. 出血傾向(採血、注射後の止血状態)
    8. 消化器症状の有無
    9. 便の色(灰白色便)

  3. 食事療法

    1. 患者の状態に応じるが、おもに肝炎ⅰ度食とする。
    2. 患者の好みに応じて5回食に分割するなど工夫する。
    3. 食欲不振、悪心、嘔吐時は輸液の管理。

  4. 清潔、睡眠への援助
    1. 黄疸の極期には、かゆみが出現し眠れないことが多くなるため、2%炭酸水素ナトリウム液で清拭後、レスタミン軟膏を塗布する。
    2. 睡眠薬、精神安定剤の投与は、医師の指示に基づき与薬の確認をする。

 

[回復期]

  1. 安静

    1. 自覚症状の改善に応じてすすめ、体力の回復をはかる。
    2. 読書、テレビ観賞許可、疲労や興奮を避けるよう指導する。
    3. 食後1~2時間の安静が守れるよう指導する。

  2. 清潔
    1. 隔離中は全身清拭とし、解除後より指示があればシャワー浴が許可される。
    2. シャワー浴の原則として、食後の安静時間を避け、ぬるめの湯で短時間ですませ、終わったら休息をとる。

  3. 食事療法
  4. 肝炎ⅱ度食。摂取状況を把握する。

     

[感染予防]

  1. 隔離中の患者と接する場合
    1. ガウンテクニックをする。
    2. 処置、血液、分泌物、排泄物の取扱いは、原則としてディスポーサブルの手袋を使用し、手指からの感染を防止する。
    3. 2~5%ミルトン液の手洗い水に浸漬する。

  2. 採血器具の取扱い
    1. ディスポーサブルを使用する。注射器、注射針以外の器具類は水洗いした後消毒する。水飲み、薬杯、マジックカップ、ガーグルベース、尿器など、2~5%ミルトン液で1時間以上浸漬。
    2. 使用後の注射針はかならずキャップをして所定の場所へ廃棄する。その際、誤って皮膚に損傷を受けないよう十分注意する。
    3. 洗浄時は、ゴム手袋を使用する。

  3. 汚物の処理
    1. 患者専用のビニール袋に廃棄物を入れ焼却処分する。
    2. 病衣、リネン類が血液で汚染された場合、強次亜塩素酸液原液を浸漬し、ビニール袋に入れ、感染菌名を明記したうえ消毒依頼する。
    3. ベッド、床、床頭台、オーバーテーブルなどに血液が付着した場合、ペーパータオルで拭き取った後、強次亜塩素酸液で消毒する。

  4. 患者への指導
    1. 日用品、剃刀、ヘアブラシなどは専用とし、貸借はしない。
    2. ディスポーサブルの食器とし、捨てる場所は定められた所とする。
    3. 血液の付着した物、その他汚物、廃棄物はビニール袋に入れる。
    4. 排尿、排便後は手洗いを十分にする(隔離中は手洗い水で消毒する)。
    5. 乳幼児など(感染への抵抗力の弱い者)の面会を制限する(隔離中)。
    6. 入浴、理髪は医師の許可による。

  5. 器具、注射針による医療従事者、家族への皮膚損傷が生じた際
    1. A型、非AB型:ヒトγ-グロブリン製剤(1~2.5g)の筋注または静注を行う。
    2. B型:HBs抗体を含むヒトγ-グロブリン製剤(HBグロブリン)の筋注を24時間以内、できるかぎり早期に行う。ただし被災者がHBs抗原陽性者の場合は行わない。HBs抗体保有者では行わなくともよい。

    ①②は、医師の指示に基づく。

※肝炎食

ⅰ度

ⅱ度

ⅲ度

Cal

1,800

2,100

2,500

蛋白質

60

90

120

30

40

50

〈適応〉

ⅰ度 急性肝炎初期および黄疸期、原則として軟食

ⅱ度 急性肝炎回復期

ⅲ度 慢性肝炎、肝硬変症代償期

 

 

2. 慢性肝炎患者の看護

1看護のポイント

  1. 安静指導
  2. 食事療法
  3. 生活指導
  4. 精神面での援助

 

2観察のポイント

  1. 悪心、嘔吐、食欲不振、腹部膨満感
  2. 全身倦怠感、疲労感、体重減少
  3. 眼球・皮膚粘膜の黄染
  4. 頭痛、不眠
  5. 手掌紅斑、クモ状血管腫
  6. トランスアミナーゼ値の推移

 

3具体的なケア

  1. 安静
  2. 安静のすすめかた:安静度および運動負荷は、医師の指示による。安静の意義について説

    明し、患者の理解を得る。

    1. 急性増悪期:GOTGPT値の急上昇がみられた際は、臥床安静が必要である。
    2. 活動型:GOTGPT値の上昇が持続している場合も、臥床安静が必要である。
    3. 非活動型:食後1~2時間の臥床安静のほか、はとんど安静度は自由である。

  3. 食事療法
    1. 蛋白質:100~120gくらいが適切とされている。種類として、肉類、魚類、卵、乳製品などの動物性蛋白質、また大豆、納豆、豆腐などの加工品や豆類などの植物性蛋白質が必要である。
    2. 脂肪:良質の蛋白質を十分摂取していれば、とくに制限はしない。
    3. ビタミン:各種のビタミンは肝機能に有効に働くため、新鮮な野菜や果物を多く摂取する。また、便秘の改善にも必要である。
    4. 嗜好飲料:アルコールは慢性肝炎の予後を左右する因子として、原則的には禁止。

  4. 精神面・心理的側面のアプローチ
    1. 長期療養が必要であるため、不安、イライラ、動揺をおこさせないようにするため、医師からの説明を中心に、看護者の統一した態度、言動が必要である。また、ベッドサイドにおいて、患者の訴えを十分に聞く役割をもつ。長期療養から派生する心理的・精神的ニードを重視したうえで、患者とかかわることが必要である。
    2. 長期療養によって職業を失う者も多いため、経済的・社会的問題に関する悩みは、ケースワーカーといっしょに解決していく。

  5. 退院指導
    1. 食事指導:医師による注意事項を中心に、栄養士によって患者と家族に行われる。看護婦も参加する。
    2. 生活指導:規則正しい生活。運動量は医師の指示する範囲とする。食後1~2時間は横臥する。HB抗原陽性患者では、退院後家族内感染を防止する具体的方法を指導する。洗面器具(ハサミ、ブラシ、カミソリ、爪切り)を専用とする。夫婦間感染防止(性生活上の注意)。