破傷風とは
概念
・ 創傷などからなどから侵入した破傷風菌(Clostridium tetani)の産生する外毒素(tetanospamin)によって惹起される急性感染症
・ 臨床的には骨格筋の緊張性痙攣と刺激に対する過敏反応が主徴
・未接種者に発症した場合の死亡率は非常に高い
・新生児や麻薬常習者に発症した場合その予後はきわめて不良
・1969年の予防接種普及後患者数は急減
・1988〜1990年の届出患者数:平均約41名/年(実際の患者数はこの数倍)
・年齢がうえになると患者数も増える
・菌の毒素により中枢神経が強く侵され、死亡率が70〜80%と極めて高い
・世界各地で流行し、日本でも毎年死亡者が出ている
・北里柴三郎が細菌学者ローベル・コッホの下で破傷風菌の純粋培養に成功した
(1853〜1931)東京医学校(現在の東京大学)を卒業後ドイツに留学、帰国後福沢諭吉の後援で伝染病研究所を設立、
のち北里研究所を創立し、精力的に研究を続けた。また、慶応大学医学部初代学部長、日本医師会会長などを務めた。
原因菌の性状
・0.3〜0.6×3〜6μmのグラム陽性桿菌で有芽胞性
・芽胞は円形で菌の端末に位置し、《太鼓のバチ状》と呼ばれる特徴的な形態
・芽胞は何年間も生き続けることができ、土壌中や動物の糞便中、人畜や他の恒温動物の腸管内に存在
・周毛性鞭毛を有し運動性があり、寒天平板状のコロニーに遊走する傾向が強い
・潜伏期:1〜2週間(潜伏期が長い→元の外傷が不明なことが少なくない)
・空気と血流が十分な場合には繁殖せず,日光にあたると死亡
・創傷部位が組織の壊死やブドウ球菌の混合感染によって嫌気状態になったとき創内で芽胞が発芽して
栄養型になり毒素を産生
・外毒素を産生する主体→神経毒の破傷風毒素(世界で2番目に強い毒素)
疫学
・破傷風菌は世界中に広く土壌に存在
→いかなる地域においても破傷風は起こりうる
・80%以上は14日以内に発症
→感染から発症までの時間が短いほど致死率は高いとされる
・外傷に続発して起こることが多いので身体を露出する人、場所に好発
・世界中で破傷風は毎年5万人の死亡を引き起こしている
・ WHOの推計:世界の破傷風患者は年間100〜200万人
(そのほとんどは開発途上国)
→人口10万人当たりの患者数
開発途上国:数人〜数10人
先進工業国:0.1人以下
全破傷風患者の約半数は新生児破傷風患者
→開発途上国:新生児死亡の約50%
先進工業国:きわめてまれ
致死率:新生児破傷風⇒約80%
非新生児破傷風⇒約40%
→非新生児破傷風の多発年齢
開発途上国⇒若年者(20歳未満)
先進工業国⇒老年者(60歳以上)
・ 米国では、高齢患者が特に破傷風にかかりやすく、熱傷、外科的創傷、静注薬物濫用の既往がある
患者も同様である
・感染は分娩後の子宮(母体破傷風)や新生児の臍(新生児破傷風)にも起こりやすい
・発病しても免疫は得られない
・破傷風は特に開発途上国の新生児において非常に重要な疾患
・予防接種により確実に発病防止できる
・外毒素は熱安定性の蛋白で血中に放出され、神経系を介し中枢神経の神経節(ガングリオシド)に結合し、
神経終末からの抑制性伝達物質をブロック
→運動ニューロンの刺激伝達の抑制が阻害され、通常間欠性筋緊張性痙攣を伴う全身の筋緊張性痙性が起きる
・破傷風は、些細な創傷や不顕性の創傷ですら、傷害組織の酸素含有量が低いと起こることがある
・毒素は抹消運動神経を通って中枢神経系に入ったり、血行性で神経組織に入る
・いったん結合した毒素は中和されない
破傷風に罹患する可能性という観点からの創の分類
破傷風になりやすい創 破傷風になりにくい創
臨床所見 汚い傷 きれいな傷
受傷後の時間 6時間をこえる 6時間以下
創の性状 剥離、擦過傷、挫滅創 直線的に切れたもの
深さ 1cmをこえる 1cm以下
受傷機転 銃創、挫滅創、熱傷、凍傷 鋭利な物(ナイフ、ガラスなど)での傷
感染の兆候 あり なし
挫滅組織の有無 あり なし
汚染(土、砂、糞便、唾液) あり なし
神経損傷の有無 あり なし
虚血の有無 あり なし
罹患率 年間住民10万に対して
アフリカ:10〜50 インド:1050 アメリカ:0.2 フランス:1.06 (熱帯諸国では重大)
死亡率 年間住民10万に対して
アフリカ:7〜15 インド:40〜60 アメリカ:0.13 フランス:0.72
年齢別・性別分布
年齢別
熱帯諸国:全年齢層が発病
(50%:10歳未満,70%:20歳未満)
欧州・米国:患者の半数以上は50歳を超える
→先進工業国:若年層の大半は予防接種されている
高齢者の中には一度も接種されなかったり、
ワクチンの免疫が消失していたりする
熱帯諸国:予防接種運動がはじめられたばかり
性別
性別はほとんど重要ではない
新生児破傷風はアフリカでは僅かばかり男児に多いが、そこ以外では女児が命を落としやすい。
(伝統的な耳朶のピアスが原因のことが多い)
季節的頻度
アフリカ・インド:雨季に僅かばかり少ない
(人々がめったに外出せず、外傷を受けることも少ないためと考えられ、
新生児破傷風にはこのような規則性は無い)
温帯:春と夏に多い
日本での取り扱い
小児定期接種⇒乳幼児期DPT(T期3回、追加1回)及び小学校6年生DT(U期1回)
(最低接種年齢:3ヶ月;米国:6週)
以後は破傷風トキサイドの任意接種
報告のための基準
診断した医師の判断により外傷の既往と臨床症状などから破傷風が疑われる場合、
なお、感染部位(外傷部位)からの破傷風菌の分離と同定、及び分離菌からの破傷風毒素の検出が
なされれば、病原体診断である旨を報告する。
届出について
届出の対象:患者
届出の時期:7日以内
届出事項:氏名・性別・病名・症状・診断方法・初診年月日・診断年月日・
推定感染年月日・感染原因・感染経路・感染地域
【参考文献】
感染症 池本秀雄/螺良英郎 朝倉書店 1981
新熱帯感染症学 竹田美文/多田功/南嶋洋一 南山堂 1996
感染症学 島田馨/斎藤厚/北原光夫 医学書院 1991
図説臨床整形外科講座第11巻感染症 池田亀夫/西尾篤人/津山直一 メジカルビュー社 1986
新図説臨床整形外科講座第12巻感染症 富田勝郎 メジカルビュー社 1995
http://www02.so-net.ne.jp/~tokushu/d-net6_hashoufu.html
http://www.amda.or.jp/contents/database/4-12/a.html
http://www.kagoshima.med.or.jp/people/first/first10.htm
http://www.kumamoto-u.ac.jp/HealthCenter/hashouhuu.html
http://www.yukichi.ne.jp/^tajiri/hashouhuu.htm
http://www.medic.mie-u.ac.jp/ict/4-25.html
http://www.mhw.go.jp/topics/kaigai/JP/vaccine/vactet.html
http://www.1.kinjou.ac.jp/%7Enakata/Nakata/Data/Tsusin/kitazato/kitazato.htm
http://www.medic.ne.jp/Student/Lecture/981030kankyo/sld40.htm