破傷風の実例

・破傷風は、世界中に分布している。

・世界的にみると、年間100万人以上の発生が報告され、途上国の新生児に集中。わが国では、毎年50例程度の発生が報告されている。最近は、成人・高齢者の発症が目立つ傾向。

 

建設作業者の破傷風−英国

44歳の建設作業者が、足と関節のけいれんおよび嚥下困難のため1998年7月2日に入院。破傷風と診断され、人工換気を受けた。けいれんについては、食物の誤嚥と考えられ、破傷風菌の侵入口は、左足爪先の小さな刺し傷と思われた。6月10日に、足に重量物が落下し救急室を受診、破傷風トキソイドの接種を受けた。また患者は破傷風トキソイドを20年前に受けている。本例は、1998年イングランド・ウェールズで初の破傷風報告例である。1997年7例、1996年8例、1995年7例が報告されているが、いずれの年も各1例はその後の調査により破傷風ではなかったことが判明している。

英国での破傷風に対する予防接種は、生後2カ月から1カ月ごとに沈降ワクチンを3回(通常はDPT三種混合として)、小学校入学時(DT)・卒業時(DT−低濃度ジフテリア)に追加が行われる。破傷風の免疫を受けていない成人および10歳以上の小児には、1カ月ごと3回の沈降ワクチン接種(ジフテリア接種がなされていなければ低濃度DT)が奨められる。一般医は、新患診察時には必要に応じてワクチン接種を奨めるべきである。6時間以上放置された外傷および火傷、死滅組織の出現、刺し傷の存在、土による汚染、敗血症の存在などは、破傷風を考慮すべきである。創部洗浄はもっとも必要なことであるが、ワクチン接種完了者(初回3回+追加2回)であっても牛・馬小屋の肥料による汚染等を受けたもの、あるいはワクチン未接種、不明もしくは未完了者など、感染の可能性がことに高いものについては、ヒト破傷風免疫グロブリン(250500単位)の筋注が奨められる

過去に青木が経験した症例は 〜日本〜

. 56才男性 造園業 破傷風の予防注射歴なし

 10日前に仕事中に木片が左手に刺さった。特に治療せず。2、3日前よりの咽頭痛、耳の痛み、食欲不振、腰痛にて来院。上気道感染、腰痛症の診断で入院。入院後9日目より筋肉の硬直を認めた。

 破傷風の診断で破傷風トキソイド 0.5ml筋注,テタノブリン3250単位筋注 ペニシリンG 300万単位静注 4時間ごとと治療を開始した。同日後弓反張、呼吸不全にて気管内挿管したがその後自己抜管してしまい心肺停止。低酸素脳症で他院に転院。その後肺炎で死亡

2. 88才男性 無職 破傷風の予防注射歴なし

 H4.1.4に自転車に乗っていて転倒。右親指を挫創。1.23日より頚部痛、背部痛、腰痛を自覚するようになった。

 25日より歩行障害を認めて来院。破傷風の診断で治療開始。肺炎合併。リハビリ目的で転院。

3. 63才男性 大工 破傷風の予防注射歴なし

 父親が破傷風で死亡している。2週間前に左足に釘を踏み、翌日近医受診し、破傷風の予防注射を1本打ってもらった(破傷風トキソイド?)。3日前より自己排痰困難となり、次第に腰背部痛、開口障害を自覚。排痰困難、呼吸困難にて来院。破傷風と診断して治療。肺炎合併。

4. 20代男性 会社員 3種混合の予防接種をうけている。

 背部痛を主訴として救急車にて来院。背中の筋肉が締め付けられるように痛い。こんな痛みはいままで経験したことがない、と訴える。

 数日前にソフトボール中に右指を挫創。近医にて治療を受けた。右手に汚い包帯が巻かれていた。このとき破傷風の予防注射は受けていない。親戚の子どもが破傷風で幼少時に死亡している。

 破傷風の診断で治療開始。約1週間で痛みは消失、筋硬直は出現せず。元気に退院。