症状
破傷風は外傷部位で嫌気的に増殖した破傷風菌の産生する毒素による急性疾患である。肩こり、舌のもつれ、顔がゆがむといった症状で始まり(年長児と青年の初期症状は傷の近辺または腹部の硬縮である)多くは開口障害に発展する。次第に、嚥下・発語障害、歩行障害が現れる。その後痙攣発作が発生し、疼痛を伴うこう筋や項部筋の攣縮を主徴とする。次に多い攣縮部位は腹筋である。
発症後1〜4日 後には全身性の硬直性痙攣、発語障害、呼吸困難といった状態に進展する。特に全身の痙縮は刺激を受けたときに生じる。特徴的な横紋筋の硬直、腱反射の亢進、病的反射はこの時期に観察される。典型的な兆候は後弓反張や笑痙である。意識は清明である。
痙攣は10〜14日後に軽快しはじめ、その後1〜2週間で治る。筋硬縮や筋力低下その他のすべての症状の回復には1〜2カ月、あるいはそれ以上かかる。適切な管理で、合併症を起こさなければ予後は良い。それに応じて死亡率は10〜90%の幅がある。乳幼児や高齢者の予後は悪い。死亡率は潜伏期の長さと逆相関する。
熱帯での破傷風の症状
熱帯での破傷風の症候は、詳述し難いとされているが、軽症型での軽微な開口障害を、 Dakarの研究者らは《自由を奪われた舌のよう》と表現し、診断に有益な所見と強調している。
予後に関する主要な要因の中でも、潜伏期の長さに意味があるかは評価が分かれ、それを特定することも不可能なことが多い。(二次感染することもある)一方、筋肉の拘縮が広がるまでに要した時間(嚥下困難の出現)、拘縮の部位数と重症度、および最悪期の重篤度、自律神経の所見(体温、呼吸障害、循環動態)及び時には年令や基礎疾患はより重要な指標となる。(高齢者で基礎疾患のある破傷風症例は重篤)
死亡率は、治療方法が不十分なことを考慮しても、さほど上昇しない。Dakarでは死亡率は38%に過ぎない。(全症例の90%を越える新生児破傷風の死亡例を除いても30%)フランスの場合と極めて近い割合である。それでもアフリカの治療設備は脆弱であり、欧州のような救急医療サービスも普通ない。従って、アフリカの破傷風は欧州のそれよりさほど重篤ではないが、その理由は、患者が若年層であることが関係すると認められる。
参考
http://www.amda.or.jp/index.html
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/uthealth/k8tetanus.htm
感染症学
/下山考、谷田憲俊( 診断と治療社)