Group 5

ヘルペルスウイルスとインフルエンザウイルスの

増殖の仕方について

 

メンバー;

98041田中秀弥98042塚本正紹 98043次橋幸男 98044坪井梨江
98045鶴岡ななえ98046冨永直之 98047戸山真吾 98048中下俊哉

98049西智子

98050西村美穂

 

GIO

ヘルペルスウイルスとインフルエンザウイルスの増殖の仕方を理解し、その違いを学

習し、これらのウイルスから身を守る方法を考える。

 

SBO

1.ヘルペルスウイルスの構造を述べることができる。

2.ヘルペルスウイルスの機能を説明できる。

3.ヘルペルスウイルスの感染の方法と症状について述べることができる。

4.ヘルペルスウイルスの増殖の仕方について説明できる。

5.ヘルペルスの治療法を述べることができる。

6.インフルエンザウイルスの構造を述べることができる。

7.インフルエンザウイルスの機能を説明できる。

8.インフルエンザウイルスの感染の方法と症状について述べることができる。

9.インフルエンザウイルスの増殖の仕方について説明できる。

10.インフルエンザウイルスの治療法を述べることができる。

 

 

  1. ヘルペスウイルスの構造

 

  1. 単純ヘルペス
  2. DNAを中核としそれを包む外被蛋白は正20面体を成す162個のキャプソマー

    からできており、各辺に5個の配列をしている。そしてさらにその上をエンベロー

    プが包んでおり、全体の直径は約180nmである。ウイルスの比重はCsCl中で

    1.254、DNAの比重は1型ではCsCl中で1.726,2型で1.728である。

  3. 水痘−帯状ヘルペス
  4. DNAウイルスでカプシドは20面体で、直径が約100μm、各粒子には162個

    のカプソマーがある。カプシドの外側にエンベロープがあり、粒子全体の大きさは

    162から200μmである。

  5. サイトメガロウイルス
  6. 他のヘルペスウイルスと同様で、162個のカプソマーからなる正20面体の構造を示し、中にコアがある。ある粒子はエンペロープに包まれており、核酸はDNA

    ある。

  7. EBウイルス

他のヘルペスウイルスと同様で、162個の表面カプソマーが配列して直径110nmの正20面体カプシドを形成し、これを糖タンパクのエンベロープが覆っている。

粒子全体は約140nmであり、その中に110nm直径のカプシドがあり、その中心部に電子密度の高いヌクレオチドがみられる。

 

2. ヘルペスウイルスの機能

ヘルペスウイルスは自然界に広く分布しており、哺乳類動物をはじめとして鳥類、両生類、魚類及び真菌に寄生している。これらは1つのウイルスではなく、動物によってその寄生するウイルスは異なる。ウイルスに特異的な共通抗原はなく、DNAも塩基組成、塩基配列、物理地図などに関して不均一である。また感染細胞に誘導されるチミジンキナーゼの遺伝情報の有無及び基質特異性もウイルスによって異なる。

ヘルペスウイルス科に属するウイルスはその生物学的性状および物理学的性状に基づいて3つの亜科に分類される。

α−ヘルペスウイルス亜科(Alphaherpesvirinae)

この科に属するウイルスの宿主域は培養細胞、個体とも比較的広く、増殖サイクルは短い。培養細胞での増殖は速く、持続感染系をとることは困難であるため、感染細胞は容易に破壊される。個体では知覚神経節に潜伏感染を起こす。ヒトでは、単純ヘルペスウイルス1型および2型、水痘・帯状疱疹ウイルスがその例である。

・β−ヘルペスウイルス亜科(betaherpesvirinae)

この科に属するウイルスの宿主域は種または属に限定されている。その増殖サイクルは比較的長い。培養細胞での増殖は緩慢で、持続感染系は比較的容易に樹立できる。感染細胞は巨大となり、核および細胞質に特有の封入体が形成される。同様の巨細胞は個体の感染でも認められる。ウイルスは唾液腺、リンパ網内組織、腎臓などに潜伏感染を起こす。ヒトではサイトメガロウイルスがその例である。

・γ−ヘルペスウイルス亜科(Gammaherpesvirinae)

この科に属するウイルスの宿主域は狭く、自然宿主が属する科または目に限られる。培養細胞では、リンパ芽球様細胞で増殖でき、上皮細胞や繊維芽細胞でも増殖できるものもある。好リンパ球性(lymphotropic)でTまたはB細胞のどちらかに選択的に感染する。個体では、ウイルスはリンパ組織に潜伏感染する。ヒトではEBウイルスがその例である。悪性リンパ腫を誘発するウイルスが多い。

 

ヘルペスウイルスは、一般に宿主依存性(種特異性)が強く、特定の宿主に持続感染し、宿主と共存しながら存続する。ふつうは不顕性に終わるが、時には回帰的に発症させることがある。固有の宿主には十分適応したウイルスも、異種の宿主に感染すると致命的な経過をとることがある。

 

 

3 ヘルペスウイルスの感染経路とその症状について

 

ヘルペスウイルス(HHV:ヒトヘルペスウイルス)はこれまでに8種類が確認されています。

ヘルペスの感染はヒトに固有で、直接的な接触により伝播する。Herpes simplexウイルスには2つの型があり、HSV-1は大半が口腔と結膜の病変の原因となり、HSV-2は性器ヘルペスを起こす。この分け方は図式的であり、HSV-1が性器ヘルペスを作ることもある。

(1) 主な感染経路

多くの成人がこのウイルスの潜伏ないし持続性感染を受けており、それを有するものは常に唾液にウイルスを排出するから、感染源は至る所にありうる。初感染の多くはそのための飛沫感染または接触感染である。 ウイルスは初感染耐過後、三叉神経・脊髄後根ガングリオン中に長く潜伏しており、終生なくならない場合が多い。 このような潜伏感染を受けている場合、疲労、妊娠、けが、熱性疾患、その他周期的に起こる不明原因によってウイルスが活性化すると、口唇周辺や頬、陰部、その他特定の皮膚部位に水泡を生じる。

(2) ヘルペスウイルス感染の臨床像の諸相 *は次ページにカラー写真あり

  1. 初感染

  1. 新生児期

  1. 不顕性感染
  2. 肝炎・副腎炎を主とする全身感染
  3. 髄膜脳炎
  4. 血小板減少性紫斑病
  5. 肝脾腫

  1. 小児期

  1. 不顕性感染(全体の90〜99%)
  2. 急性ホウ疹性口内炎
  3. 上気道および下気道感染
  4. ホウ疹性壊疽
  5. 陰門膣炎
  6. カポジ型ヘルペス湿疹
  7. 髄膜脳炎
  8. 肝炎
  9. 角膜炎

  1. 成人期

  1. 不顕性感染(大部分)
  2. カポジ型ヘルペス湿疹
  3. 髄膜脳炎
  4. 角膜炎
  5. 全身感染
  6. 激症口内炎
  7. 上下気道感染
  8. 肝炎
  9. ホウ疹性壊疽

  1. 神経痛・顔面神経麻痺
  2. 陰部ヘルペス症
  3. 亜急性髄膜炎(2型による)

  1. 再感染

  1. 不顕性感染(大部分)
  2. きわめて軽度の上記症状

(臨床ウイルス学 講義扁 講談社 より引用)

・ヘルペス性歯肉口内炎 (herpetic gingivostomatitis)

歯肉の発赤・腫脹、口腔内粘膜や口唇・口周囲の皮膚に紅暈をともなう水疱がみられる。

単純ヘルペス1型の初感染でみられることが多い。

・ヘルペス性ひょう疽 (herpetic whitlow)

指に浮腫性紅斑と、その上に集簇する小水疱から膿疱がみられる。

指しゃぶりをする乳幼児にみられる。(成人では看護婦や歯科医によくみられる)

・外陰部ヘルペス (herpes genitalis)

小水疱の集簇がみられる。単純ヘルペス2型でみられることが多い。

・新生児ヘルペス感染症 (neonatal HERPES infection) 皮膚型。顔貌、皮膚所見

口腔内および口周囲や皮膚に水疱〜びらんがみられる。

垂直感染の大部分は性器ヘルペスに罹患した母親からの経産道感染による。皮膚型は新生児ヘルペスの約2割を占め、病変が皮膚・眼・口腔内に限局するもので予後良好である。

新生児ヘルペス感染症 (2)

中枢神経型。頭部造影CT

側頭葉に低吸収域がみられる。

中枢神経型は新生児ヘルペスの約2割を占め、全身への播種はないが中枢神経に侵入したもので脳炎の経過をたどる。生命予後は良いが高率に後遺症を残す。

 

 

4. ヘルペルスウイルスの増殖の仕方

 

ウイルスが細胞へ吸着後、ただちにエンベロープと細胞質膜の融合が起こり、ウイルスは細胞質内へ侵入し、脱穀が起こりウイルスゲノムが核内へ放出される。ウイルスは、核内で増殖してヌクレオカプシドを形成し、細胞質内でテグメントを獲得し、細胞膜をエンベロープとして被って成熟する。培養細胞では、5〜6時間のエクリプス(暗黒期)を経て、感染性ウイルスが対数的に増え、14〜16時間でピークに達する。

(1) 吸着、侵入および脱穀

HSVはまずエンベロープ上のgCで細胞表面のプロテオグリカン(へパラン硫酸)に吸着し、gBgD及びgHによりエンベロープは細胞膜と融合し、カプシドは細胞内へ侵入する。核融合により細胞質内に侵入したヌクレオカプシドは核膜孔近傍に移動し、脱穀が起こり、核膜孔を通じてウイルスゲノムが核内に放出される。

(2) ウイルスゲノムの発現

HSVゲノムは、細胞のRNAポリメラーゼUで転写される。ウイルス特異タンパクの合成は、α、β、γの順に段階的に、相互依存的に起こる(cascade regulation)。これらのタンパクは抗原性を持ち、それぞれ前初期抗原immmediate-early antigen (IEA),初期抗原 early antigen (EA),および後期抗原 late antigen(LA)と呼ばれる。

α遺伝子は5個知られており、その転写は、タンパク合成阻害剤の存在下でも起こる。αタンパクは感染後2〜4時間でピークに達する。HSVビリオンのテグメントタンパク中のαTIV(VP16)はα遺伝子にトランスに作用し、α遺伝子の転写を促進する。αタンパクはいずれも調節機能をもち、β遺伝子を活性化し、βタンパクの合成を促進する。とくに、infected cell protein 4 (ICP4)はその活性が強い。

β遺伝子の転写は、αタンパクの産生が先行する必要があり、DNA合成阻害剤存在下でも起こる。βタンパクは感染後5〜7時間でピークに達し、主として核酸代謝およびウイルスゲノムの複製に関与する。β遺伝子にコードされるタンパクは、DNAポリメラーゼなどのゲノム複製に必須なものと、チミジンキナーゼthymidine kinase(TK) (厳密にはヌクレオシドキナーゼと呼ぶべきである)、リボヌクレオチド・リダクターゼribonucleotide reductaseなどのDNA合成に関与するが細胞の酵素でも代替できるものがある。前者を欠く変異体は増殖できないが、後者を欠く変異体は増殖中の宿主細胞では増殖できる。

γ遺伝子は、ビリオンを構成するγタンパクをコードしており、その発現にはαタンパクおよびβタンパクの産生とDNAの複製が必要である。しかし、γタンパクの中には、gBgDおよび主要カプシドタンパクなど、感染初期および後期を通して合成されるものがある。

(3) ウイルスゲノムの複製

ウイルスDNAは、感染3時間後より合成が始まり9〜12時間持続する。ビリオン内のゲノムDNAは線状であるが、感染細胞内では環状になり、ローリングサークル様式で複製される。

(4) ウイルス粒子の形成および放出

カプシドを構成するタンパクは、細胞質で生合成され核に移動し、核内でカプシドを形成する。ローリングサークル様式で複製したDNAはゲノム単位に切断され、カプシドにパッケージされてヌクレオカプシドが形成される。核内のヌクレオカプシドは核膜を被っていったん核膜外腔へ出た後、再び細胞質へ侵入し、細胞質内でテグメントを獲得し、ウイルス糖タンパクで修飾された細胞膜を最終的にエンベロープとして被り、空胞内へ出芽し、細胞外へ放出される。

(5) 宿主細胞の変化

感染により、宿主細胞の高分子合成は阻害される。

感染細胞には、核内封入体形成と膜の変化が見られる。感染初期の核内封入体はDNAに富み(HE染色で青く染まる)とともにウイルス抗原を含み(免疫染色が陽性)、宿主細胞のクロマチンを核周辺部に圧排して核内の大部分を占拠する。一方、感染後期の核内封入体はウイルスDNAを失い(HE染色でピンクに染まる)、ウイルス抗原を含まず(免疫染色陰性)、核周辺部のクロマチンとの間にhaloを生ずる(いわゆるCowdry A型封入体である)

 

 

5. ヘルペスの治療方法

 

単純性ヘルペスウイルス感染症の治療

単純ヘルペス(1型,2) 1型単純ヘルペス(HSV1)は顔面に感染を起こし口唇ヘルペスや口内炎,角膜炎の原因となる。2型単純ヘルペス(HSV2)は性器に感染し水疱や潰瘍を形成する性行為感染症(STD)で分娩時に罹患していると新生児に産道感染し重篤な前進感染症を起こすことがある。

 

ゾビラックス軟膏、アラセナA軟膏を疱疹部に外用する。

再発性のヘルペスに対して、ゾビラックスの内服薬を5日 程度内服する。治癒後前駆症状が出る度に同様の内服をおこなう。

全身性の症状を伴うものには、ゾビラックスもしくはアラセナの点滴を行う。

外陰や産道のヘルペス感染が疑われる場合に,新生児感染をさけるために帝王切開が選択されることもある。

ヘルペスウイルスの特効薬(アシクロビル)は副作用も少なく一日四回服用(重症なら点滴)することで症状は改善する。

1、 水痘―帯状疱疹

ゾ水痘・帯状抱疹ウイルス(VZV)に初めて感染すると全身に水泡ができ水痘(水疱瘡)になる。妊娠中に水痘に感染するとウイルス血症を起こして,胎盤を介して胎児に感染することがある。VZVは比較的毒性の強いウイルスであり,妊娠のごく初期に児が罹患した場合には流産してしまう。そのため,先天奇形児が生まれる割合はそれほど高くない。妊娠1320週では流産することが少なくなるためにかえって先天性水痘症候群発症の危険性が高くなり,妊娠21週以後の罹患では,胎児が子宮内で水痘に罹患することがある。このような場合には,乳児期に水痘の既住なしに帯状疱疹に罹患することもある。出産直前の罹患では,胎児は子宮内でVZVに感染し先天性水痘を発症する場合がある。感染時期別に先天性水痘症候群の発症率をみると妊娠l320週では2.0%であった。水痘を経験した人が再度VZVに感染すると帯状疱疹という病気になる。帯状疱疹は一定の神経支配領城に限定した疾患であり,一般にはウイルス血症を起こしていないので,経胎盤性に胎児に感染することはない。したがって,妊娠中に帯状疱疹に罹患しても胎児に影響することはないと考えられる。ただし,出産時に妊婦の外陰部に帯状抱疹がみられる場会には,帝王切開で出産するほうが無難である。

 

治療は単純ヘルペスと同様ゾビラックスがつかわれている。10年以上前から注射で使われており子どもにも安全でよく効く薬だが,1994年より水疱瘡の子にも飲み薬が使えるようになった.発疹が出て1〜2日目までに治療しはじめれば,発疹の数,発熱期間,かさぶたになって治るまでの期間がいずれも少なくてすむ.使う場合は,1日4回で5日間のむことを原則とする。家族で水疱瘡になったときに,9〜10日目から7日間通常の半量を飲むことで感染を防ぐことが可能である。(100%ではない)。

妊娠中の感染では胎内感染を予防する目的で水痘高力価グロブリンが使用されることがある。

 

2、 サイトメガロウイルス

通常免疫力の低下した人の感染(日和見感染)として肺炎などを起こす場合がある。胎盤を介して胎児に感染すると奇形や知能発育障害,難聴(先天性巨細胞封入体病)をおこすことがある。日本では妊婦の90%以上がすでに抗体陽性であり発症は少ないと言われている。診断は血液中の抗体価と治療にはデノシンや免疫グロブリンが用いられる。

 

治療は、抗ウイルス剤を使用する。塗り薬、経口剤、点滴剤があり患者さんに合った治療を選択する。麻酔科で神経ブロックを行うこともある。

 

 

〈予防方法〉

ヘルペスは伝染病であるから、人に感染させない注意も必要である。しかし多くの人がヘルペスウィルスに対する免疫を持っているので、あまり神経質になることはない。ただ口唇に水疱が出ているときにタオルを共用したり、キスしたり、陰部に水疱が出ているときに性交をすると感染の可能性が高くなる。乳幼児は空気感染をする可能性があるが、大人では接触感染が多いと考えられる。他に大切なことは、ヘルペスウィルス感染の特異な性質である。これはヘルペスウィルスは1度感染すると一生とれないということである。体内(細胞内に)に潜んで体の抵抗力が弱くなったときなど再発の機会を常に体内でうかがっている。そのため治療に加えて再発予防に留意しなくてはならない。つまり、日常の生活習慣を向上させることが必要である。注意すべきものは、紫外線、疲労、ストレス、風邪、寒冷などで、その他にも栄養のバランスのとれた食事をして抵抗力のある体を作ることである。ヘルペスウィルスとうまくつきあっていく方法はこの感染症を自分の体のバロメーターと考えて、ヘルペスが出てくるときは 体に疲れが溜まっているときと割り切って十分な休養をとるように心がけるこ とである。(ヘルペスウィルスが体の見えない疲れを教えてくれるわけである。)

 

〈参考〉

http://www.bekkoame.or.jp/~ms-7/meniere.html ヘルペスウイルス感染説

http://www.aids-chushi.or.jp/c4/nif/113.htm 単純性ヘルペスウイルス感染症の治療

http://www.nms.co.jp/child/child13.html ヘルペス性口内炎

http://www.nara.med.or.jp/kansenmokuji2/hosshin/index.html 突発性発しん

 

 

6. インフルエンザウィルスの型

 

インフルエンザウィルスにはA,B,C3つの型があります。現在、インフルエンザウィルスで流行を起こすのはA型のH1亜型(ソ連カゼ)、H3亜型(香港カゼ)、そしてB型の3種類です。ウィルスの構造を下図に模式的に示します。インフルエンザウィルスの型は核タンパク質(NP)の抗原性の違いによって分類され、それらはさらに、ウィルス表面タンパク質であるヘマグルチニン(haemagglutinin:以下HAと略す)とノイラミニダーゼ(neuraminidase:以下NAと略す)の抗原性の違いによって亜型に分類されます。ちなみに死者のでるA型:ソ連カゼはH1N1型、A型:香港カゼはH3N2型です。H2N2型は1968年以降日本での分離例はありません。インフルエンザA型ウィルスのHAは、球状部領域(head region)と幹領域(stem region)の2つに分けられます。球状部領域は、ウィルスが標的細胞に結合するためのレセプター結合部位を含んでいます。また幹領域は、ウィルス膜と標的細胞の細胞膜との膜融合に必要な融合ペプチド配列を含んでいます。

インフルエンザのHAの球状部領域は特に抗原性が強く、生産される抗体のほとんどはこの領域を認識するものです。しかし、この領域は特に変異が起こりやすいので、ワクチン接種の効果を左右する大きな要因となっています。さらにインフルエンザは短期間のうちに広がるので、迅速なタイピングが重要となっています。

 

インフルエンザウィルスの模式図

 

 

7. インフルエンザウイルスの機能を説明できる。

インフルエンザウィルスの生物学的性状の中で最も重要なのは血球凝集素hemagglutinin)と ーラミニデースneuraminidase)である。共に株特異的である。

前者は細胞あるいは血球の表面にある セチルノイラミン酸(N-acethylneuramic acid

を含んだレセプターを認識してこれと結合する。この結合がウィルスの細胞への感染の第一段階であり、血球凝集反応としてウィルスの定量に利用されている。後者は糖鎖末端のN-アセチルノイラミン酸を切り離す反応を促進する酵素で、その結果いったん細胞や血球に吸着したウィルスは再び遊離してくる。そのため、感染細胞からウィルスが放出される過程で必要だと考えられている。

ウィルスの抵抗性は特別に強くはなく、通常5630分で不活化される。

 

  1. ノイラミニダーゼと書いてある本もある。
  2. ムコ蛋白、シアル酸(sialic acid)と書いてある本もある。

 

 

(参考文献)

「医学微生物学」 小澤 他著 南山堂

「臨床ウィルス学 講義篇」 甲野 礼作 他編 講談社

「戸田新細菌学」 戸田 忠雄 他編 南山堂

 

 

8 インフルエンザの感染の方法と症状

 

() 感染方法

インフルエンザの流行が始まると、短期間に多数の患者発生があるのはなぜであろ う?それは、インフルエンザが空気感染するからです。患者の咳、くしゃみ、会話などの際に排出されたウイルスは、エロゾール(粒子)として長期間、空中に漂います。ウイルスを含んだ粒子は直径10ミクロン以下で、鼻腔から気管を通り肺にまで到達できるほど小さなものです。上気道の粘膜上皮細胞に吸着したウイルスは、ただちに細胞内に取り込まれ、増殖が始まります。インフルエンザウイルスの増殖力は非常に強く、数日以内に粘膜上皮細胞は広範囲に破壊されます。これが、高熱と重症感の原因となります。細胞が完全に再生し、気道が元の正常な状態に戻るまで1ヶ月はかかると考えられています。

 

() 症状

典型的なインフルエンザは、1〜3日の潜伏期の後に、突然の高熱でもって発症します。同時に、悪寒、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、咳、全身倦怠感、食欲不振などの症状が現れますが、普通の風邪よりも重症感が強いのが特徴です。健康な成人が罹ると、数日から1週間で治りますが、乳幼児や高齢者が罹りますと重篤になり、死亡することもまれではありません。

乳幼児の合併症としては、致命率の高い脳症やライ症候群があり、中枢神経系の障害が問題になります。一方、高齢者の合併症では肺炎が圧倒的に多く、ウイルスそのものよりも、細菌の二次感染を原因とした肺炎の方が多いといわれています。

 

 

9. インフルエンザウィルスの増殖の仕方

 

A型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスは、基本的に同じような構造をしています。遺伝子としてRNAを持つRNAウイルスで、その表面には刺状の2種の構造物 HA(血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)を持ちます。また、内部に、8個の分節状になったRNAがみられます。HAには15種の亜型(H1-15)、NAには9種の亜型(N1-9)が認められます。

刺状の構造物のHA(血球凝集素ともヘモアグルチニンともいいます)が、人の細胞表面のシアル酸と結合します。そのため、HAに対する中和抗体が存在すれば、ウイルスは人の細胞に感染することができません。また、インフルエンザウイルスは、自然界で鳥の腸管に病気を起こさず存在していますが、トリのインフルエンザと人のインフルエンザでは、結合するシアル酸が異なりますので、通常、簡単にはトリのインフルエンザは人には感染しません。

ウイルスはHAで人の細胞表面のシアル酸と結合しただけでは、増殖はできません。実は、人の酵素であるトリプターゼ・クララがウイルスのHAに働きかけることで、ウイルスの膜と人の細胞の膜が癒合し、ウイルス遺伝子が人の細胞内に侵入し、増殖を開始します。

トリプターゼ・クララは人の呼吸器にしかありませんので、他の部位では細胞表面のシアル酸と結合しても、細胞内へ侵入できず、インフルエンザは増殖しません

 

〜インフルエンザの増殖に関するエピソード〜

 どういう訳か、ヒトのインフルエンザウイルスは発育鶏卵の細胞で良く殖えるのです。しかし、発育鶏卵というニワトリの細胞で増殖したウイルスは、ヒトの細胞に感染させても増殖出来ません。

 ウイルスが生きた細胞の中で増殖するには、先ず最初に細胞の表面にあるレセプターと呼ばれる特殊な場所に吸着する必要があります。ウイルスが吸着出来ない細胞では、決してウイルスは増殖することは有りません。発育鶏卵で増殖したヒトのインフルエンザウイルスは、モルモットやヒトの赤血球に良く吸着しますが、ニワトリの赤血球にはあまりよく吸着出来ません。発育鶏卵で殖えたウイルスを発育鶏卵で何回も繰り返し増殖させると、ニワトリの赤血球にも良く吸着できるように変わります。程度の差はあっても、インフルエンザウイルスは、殆ど全ての動物の細胞に吸着することが出来ます。

 発育鶏卵で増殖したウイルスを犬の腎臓から取り出した特別なMDCKという名前の培養細胞に感染させても、普通では増殖出来ません。しかし、MDCK細胞を培養するときに極少量タンパク質分解酵素であるトリプシンを添加してやると、インフルエンザウイルスはその犬の細胞でも良く増殖します。トリプシンは、ウイルスの表面にあって細胞への吸着の時に働くHAと略称される物質の構造を変化させることが判っています。

 「なぜ鳥類からヒトへの感染は起こりにくいのか」という問いに対して正確に答えることは出来ません。トリのウイルスは、ヒトの細胞には吸着はしますが、ヒト細胞の中では効率よく増殖することが出来ないものと考えられます。しかし、上に述べた例のように、トリのウイルスの表面を少し化学的に修飾させてやれば、ヒト細胞内でも充分に増殖できるようになると考えられます

 

 

10. インフルエンザの治療法について

 

 インフルエンザに対する特別な治療法はないので、対症療法で対応する。一般に解熱剤の投与は勧められないが、高熱があって全身症状が悪化した場合には考慮してもよいだろう。脱水症状の予防や、気道粘膜の乾燥を保護するため水分の補給は欠かせない。急性期には経口摂取が困難であり、症状改善のため輸液が必要となる場合もある。また、高齢者の肺炎は、細菌の二次感染によることが多く、予防や治療のため抗生物質を使う。

 

〜 症状が出ても軽くてすませる方法 〜

*脱水対策は大切* 

感染症全般について該当することだが、発熱がある場合には一層、体は水分を必要とする。発熱により、発汗し、呼吸も速くなる。呼気は、体温に近く暖かくて、湿度も100%近くあり、一方、吸う空気は冷たく乾燥している。これにセキが加わると、セキは呼気中の水分を放出することになるので、脱水傾向に傾く。つまり、発熱やセキのあるときには、水分摂取が大切である。

脱水状態は、例えば、のどの乾きを感じた状態では、外敵から守るための白血球などが局所に届きにくいことにもなり、炎症が強くなることを意味する。日常生活において、疲労感を感じた際にも、水分摂取が足りているかどうかに気を配る必要がある。

*適切な睡眠、安静の必要性*

寝不足は身体の疲労を進めることになる。安静の程度を考える場合、インフルエンザの場合はとくにそうであるが、じっと寝た状態を維持することは、かえって肺炎などに陥り易くなるので、適宜身体を起こしたりすることが大切である。いわゆる寝たきりの高齢者の方においては、インフルエンザがきっかけで肺炎に陥り、重大な状況に追い込まれることもあるので、適宜、体位変換が必要となる。

 

〜 解熱剤の使い方 〜

*発熱は生体に必要な防衛反応*

風邪における発熱状態は、身体に侵入したウイルスが増えにくい環境とするために必要な正常な生体反応である。単に、38.5℃以上になったから解熱剤を用いるということでなく、高熱になって、水分摂取が進まないから、少し体温を下げて、この間に水分を摂取しようという目的で解熱剤を使用するのである。とくに、インフルエンザにおける解熱剤の使用には配慮が必要で、従来、多用されてきたアスピリンを主とした解熱剤を、乳幼児に用いることは、急性脳症を発症する誘因になり得ることが分っている。

 

<抗ウィルス薬>

昨年12月から塩酸アマンタジンが保険適用となり、開業医も使用できるようになった。インフルエンザの初期にこの薬を服用すると、1〜2日で70〜90%の人が、翌日には熱が下がる。問題点として、A型インフルエンザのみに有効でB型には無効であること、5日間の投与で30%に塩酸アマンタジン耐性のインフルエンザを生ずることである。また、アマンタジンは神経系と胃腸の副作用を起こす。健康な成人を対象とした研究によれば、アマンタジンを投与された人の約14%に副作用が発生した。神経系の副作用は、神経質、不安、集中困難、めまいなどである。顕著な行動変容、精神錯乱、幻覚、興奮、発作のような、より重篤な神経系の副作用も観察されている。胃腸の副作用は吐き気、嘔吐、腹痛、便秘などである。これらの副作用は、投薬が中止されれば、治まる。腎機能障害者と高齢者については、副作用に十分に注意すべきである。

アマンタジンは、てんかん発作障害者に対しては、禁忌である。従って安易に風邪薬として使用することは、厳に慎まなければならない。咽頭ぬぐい液あるいは鼻汁から10分間で、A型インフルエンザを検出する迅速診断キットが本年1月に日本でも発売された。この迅速診断キットを用いれば、施設内に発症したA型インフルエンザを短時間に診断でき、塩酸アマンタジンの投与とインフルエンザワクチン接種を引き続いて行うことで、施設内流行を阻止できると思われる。A型にもB型にも有効な抗ウィルス薬が現在開発中で数年以内に利用できるようになる。

 

○新しいインフルエンザの薬開発中(99.3.7)

英国の製薬会社グラクソ・ウエルカムと、スイスのロッシュがそれぞれ別々にインフルエンザウイルスの増殖を抑える薬を開発中。どちらもウイルスの表面にある「ノイラミニダーゼ」を阻害して、ウイルスの増殖を抑えるものだ。これは、インフルエンザウイルスのA型、B型の両方に効くばかりでなく、新型インフルエンザにも効果があるといわれている。