ヘルペスウイルスとインフルエンザウイルスの増殖のしかたについて
[6班]
98051 中間 健太郎 52 夏秋 政浩 53 橋本 えみ 54 原口 英子 55 服部 麻衣子56 原 一生 57 波多江 龍信 58 原崎 加奈子 59 原田 真生子
GIO
ヘルペスウイルスとインフルエンザウイルスの構造や増殖のしかたを知り、
2つの共通点や相違点を理解できるようにする。
SBO
・インターネット、雑誌で2つのウイルスに関する論文を検索し理解して説明できる。
・ヘルペスウイルスとインフルエンザウイルスの発生のしかたを説明できる。
・2つのウイルスの構造をそれぞれ描いて説明できる。
〈構造〉
図1 図2 インフルエンザウイルスの構造模式図
図1は電子顕微鏡で撮ったインフルエンザウイルスの像です。落花生のような形をしていて、周囲にヘマグルチニン
(Hemagglutinin) などの突起が薄く見えます。インフルエンザウイルスの感染や抗体による防御にはこのヘマグルチニンの働きが重要で、ウイルスの型を示す時に用いられるHは HemagglutininのHからきています。ヘルペスウイルス科
〈系統〉
ウイルスは、その生物的特徴を現すためには、他の生きた細胞が必要であり、かつては原始生物の細胞に依存したウイルスのあったことも想像される。原始生物の最初の核酸はRNAであったと考えられるから、RNAウイルスが先に、DNAウイルスが後に現れたということも考えられる。これらのウイルスは細胞に依存して増殖し、遺伝的
に変異し、選択によって変遷したはずである。そこには進化があり、系統があったとも考えられる。しかし現在では、系統は近縁のウイルス群のなかの変異を示す程度であって、ウイルス全般の系統についての根拠としては問題にならない。したがって、ウイルスの分類もいろいろな提案はあるが、流動的であるといわざるをえない。
〈地位〉
生物一般の特徴は、原核生物も真核生物も、2種類の核酸(DNAとRNA)と細胞構造を持ち、遺伝によって固有の体制と代謝を維持し、増殖する。これに対してウイルスには、体制と核酸(DNAかRNAのいずれか1種類)はあるが、細胞構造がなく、固有の代謝がかけている。ウイルスは宿主細胞外では不活性であるなどの無生物的特徴を
持つところから、ウイルス無生物説がある。しかし、細胞構造のないウイルスにも宿主細胞の力を借りているとはいえ、生物的活性や特徴があり、無生物とするのは不当であるというウイルス生物説もある。一般には、生物と無生物の間に存在するものといわれるが、別の表現をすると、生物的にも無生物的にもなりうるものであって、一般生物と区別すると準生物ということもできる。なお、この準生物にはプラスミド(染色体とは別個に存在して自律的に増殖する遺伝子因子の総称)も含まれる。
〈インフルエンザの歴史〉
1934
年インフルエンザウイルスの発見
1940
年それまでのウイルスとは抗原的に全く異なるウイルスが発見され、これまでのウイルスをA型、新しく発見 されたウイルスをB型とすることになった。
1918
〜1919年スペインかぜの病原体が、インフルエンザA型ウイルス感染とその流行によってひき起こされた事が、血清学的な調査研究の結果明らかとなった。(罹患者推定6億人、死者推定2千300万人)
1957
年アジアかぜとして抗原変異したインフルエンザA型ウイルスが出現した。
〜1966年
この型の抗原性をもつウイルスにより小流行が繰り返された。
1968
年7
月香港でアジアかぜの抗原変異型として分離されたウイルスが各国に拡がりをみせた。 これが、香港かぜとして、新型ウイルスか、アジアかぜの抗原変異型かがWHO国際会議において議論 された。1970
年初めインフルエンザA型ウイルスに関する命名法が決定された。この時点で、過去に人類が感染したインフルエンザA型ウイルスはその抗原性により分類され、
インフルエンザA(H1N1)型ウイルス:スペインかぜ、イタリアかぜ
インフルエンザA(H2N2)型ウイルス:アジアかぜ
インフルエンザA(H3N2)ウイルス:香港かぜ
と統一され現在に到っている。香港型ウイルスは、10年間小さな抗原変異を繰り返しつつ流行したが、流行規模は1970年の罹患率170程度を最高とし大流行には到らなかった。
1977
年古いA(H1N1)型と類似した抗原性をもつウイルス:ソ連かぜが出現し、新旧交代時期と思われた。しかし、その後、B型を含め、3種のウイルスが交互に、または同時に流行因子として検出されている。
1997
年香港で、トリを宿主とするA(H5N1)型ウイルスがヒトに感染し、人類にとつて新型ウイルスの出現かと世界中から注目されたが、その後の解析の結果、ヒトからヒトへの感染は認められなかった。
〈ヘルペスウイルスの種類〉
ヘルペスとは、ギリシャ語の
herpein(這い回る。Herpeton,ヘビ)からきた言葉で、潰瘍性の皮膚病で痛みが“はいまわる”ということから名付けられたともいわれている。ヘルペスウイルス科に属するウイルスは100種以上で、真菌、貝(カキ)、魚類、両生類、鳥類、また哺乳類のサル・ヒトに及ぶ生物種に広く分布している。ヒトのヘルペスウイルスで良く知られているものとしては、・
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus ;HSV)1型(HSV−1)・
単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus ;HSV)2型(HSV−2)・
サイトメガロウイルス(human cytomegalovirus ;HCMV)・
水痘−帯状疱疹ウイルス(varicella−zoster virus;VZV)・
EBウイルス(Epsutein−Barr virus;EBV)・
HHV−6(human herpesvirus 6)・
HHV−7(human herpesvirus 7)の7種があげられ、ヒトに特有の症状を起こす。これらのウイルスに加えて、新しいヒトヘルペスウイルスが次々と発見されると考えられる。事実、エイズの患者に発生するカポジ肉腫から新しいヘルペスウイルス
DNAが検出されて、ヘルペスウイルス8型(HHV−8)という名称が提唱されている。通常、ヘルペスウイルスは感染した自然宿主に持続感染(persistent infection)の形をとり体内に存続する。普通は不顕性に終わるが、時には回帰的に発症させることがある。近年、ヒトのヘルペスウイルスによって起こされた性病、新生児異常、またエイズ・臓器移植などの免疫不全・抑制状態で見られる日和見感染症、日和見リンパ種は社会問題にもなっている。また、ヒトを含む多くの動物ヘルペスウイルスが感染した動物にがんを起こすことが知られるようになり、発ガン機構の研究に重要な材料となっている。現在、ヘルペスウイルス科はさらに、α、β、γの3亜科に分けることが国際ウイルス命名委員会(
ICTV)により提唱されている。この分類はウイルスの宿主範囲、自然宿主における持続性、感染細胞への影響などを基としている。
〈発生のしかた〉
ウイルス新生説は、新生物が生ずると、新ウイルスが生まれ、宿主の遺伝系とウイルス遺伝系とが一つの機能を営む細胞に溶け合うようになるという考え方である。細胞起源説は、昆虫とか細菌細胞の核酸の一部が、なにかの原因で制約が外れて細胞体制から離れて独立し、ウイルスになるという考え方である。また、退化細菌説では、ある種の寄生細菌−リケッチア−クラミジア−ウイルスという退化経路を考え、寄生細菌が宿主への依存性を高めるにしたがって、体制が単純化してウイルスになるというものである。いずれにしても、ウイルスの発生起源については、まだ決定的な学説が生まれていないのが現状である。
〈増殖の仕方〉
ウイルス増殖の基本的過程
ウイルス増殖の過程をいくつかの連鎖的過程に分けて考えることができる。もちろん各過程は互いに連続しあっているものであり、また感染後数時間経過すると、いくつかの過程が同時に進行することもありうるが、これを時間経過の順に並べると次のようになる。
(1)
吸着(attachment)(2)
侵入(penetration)(3)
アンコーティング(uncoating);侵入と同時におこることもある。(4)
転写(transcription);親ウイルスDNAまたはRNAの特異的塩基配列を転写してmRNAが作られる。(5)
翻訳(translation);ウイルスmRNAからウイルス特異の酵素その他の初期蛋白質(early proteins)の合成(6)
複製(replication);ウイルスDNAまたはRNAの合成(7)
後期転写;親ウイルスおよび新生されたウイルスDNAまたはRNAを用いて、初期遺伝子以外の部分の情報を転写してmRNAを作る(8)
後期翻訳;後期mRNAから構造蛋白質その他のウイルス特異蛋白質を合成する、この中には調節機能に関係する蛋白質も含まれている(9)
ビリオンの組み立て(assembly)(10)新しいビリオンの放出
(release)アンコーティングのあと、DNAウイルスとRNAウイルスではそれぞれ増殖機序に種々
の相違がある。インフルエンザウイルスは一本鎖
RNAウイルスであり、ペルペスウイルスは二本鎖
DNAウイルスであるが、そのおおまかな違いを以下に説明する。DNA
ウイルスの増殖まず転写だが、シトシンアラビノシドの存在下でDNAの複製を阻止しておいても転写され得る親DNAの部分を初期遺伝子(early gene)という。これに対し、DNAの複製が始まってから有意の転写がなされる部分を後期遺伝子(late gene)という。初期に転写されるのはウイルス遺伝子の中でも、ごく一部にすぎない。一般に初期mRNAは初期酵
素
(early enzymes)と、他の機能不明の蛋白質数種を規定し、後期mRNAはビリオンの構造蛋白質を規定すると解してよいが、両者の区別が必ずしも明確でない例も少なくない。転写で合成されるmRNAは、初期mRNA、後期mRNAのいずれの場合も、複数のシストロンに対応する巨大分子として形成されるが、あとで分断されより短い単一シストロンに対応するメッセンジャー分子となる。ついで各
mRNAの3末端ポリアデニル酸が添加され(長さ約150アデニン残基)、核から細胞質内に移行する。DNAの2本鎖の中の、一方の鎖からのみすべてのmRNAが転写されるわけではない。初期mRNAと後期mRNAで手本となるDNA鎖が異なっている場合もありうるし、転写の制御機構については今日に至るも、全く不明であるというのが実状である。単一シストロンのmRNAは細胞質内のポリリボソ−ム上で翻訳されて蛋白質を作る。また、大部分のDNAウイルスのコアにはアルギニンの含有量の高い蛋白質が存在する。このヒストン様蛋白質はウイルスDNAの複製ないし転写の過程を通じ、DNAと深く結びついているらしい。アルギニンを抜いた培養条件におくと、新しいウイルスコアの構築が阻害される。
必要な酵素が合成され、蓄積されると、ウイルスDNAの複製が、標準的なWatson-Crick塩基対方式ではじまる。細胞のDNA重合酵素を利用する場合もあるが、大きいDNAウイルスでは、ウイルスの遺伝子で自らの酵素を合成する。
ぺルぺスウイルスでは、DNAの複製と転写は核内で行われるが、構造蛋白質の合成は細胞質内で行われ、蛋白質が核内に移行して、そこで、DNAと合わさってビリオンの組み立てがはじまる。
DNA
ウイルスは、蛋白質が同心球状に数層重なっている複雑な構造を有する。このこうぞうの組み立ては整然とした時間経過で行われ、まず塩基性のコア蛋白質がウイルスDNAと結合し、外側のカプシッドを形成するカプソマーの組み立ては最後になる。ぺルぺスウイルスは、多くのRNAと同様、膜構造に、主として糖蛋白質より成るウイルス特異蛋白質を組み込んで変質させ、ここより発芽してリポ蛋白質のエンベロープをかぶる。
合成された最初のビリオンが細胞より培養液中に放出される時点で潜伏期は終了する。個々の細胞からは、1個ないし数個のウイルスが次々と放出されて、全増殖時間中に数千個に及ぶ。子ウイルスが隣接した細胞、あるいは遠く離れた細胞に拡散して感染し、第二の増殖サイクルがはじまる。
RNA
ウイルスの増殖RNA
ウイルスの増殖は、前述のDNAウイルスの場合といくつかの重要な点で異なる。第一に遺伝系の中でも極めて特徴的なことであるが、そのゲノムがRNAである。ゲノムRNAは、DNAと全く異なった方式で転写され、翻訳され、複製される。さらに、RNAウイルスの各群の間でも、これらの過程の進行する機構に大きな違いがある。DNAウイルスの多くと比較すると、RNAウイルスはいずれもその担う遺伝的情報の量が非常に小さい。したがってどのウイルスも、最低1つのRNA依存性RNA重合酵素(RNA-dependent RNA polymerese)を必要とするにもかかわらず、RNAゲノムによりウイルスが規定できる酵素の数も少ない。また、RNAウイルスの大部分は原形質膜を通しての発芽で成熟する。
〈増殖の条件〉
(1)ウィルス全体
ウィルスは自律的増殖能力を持たないため、増殖するためには、宿主細胞の中に侵入しなければならない。簡潔に示すと、次のようになる。
細胞+ウィルス核酸→ウィルスの増殖
↑
栄養分
(2)ヘルペスウィルス
ヒトは大部分が幼少時にヘルペスウィルスに感染する。殆どが発病せず、潜伏のまま一生を終える。(持続感染
or潜伏感染)その潜伏する場所は脊髄後根神経節、三叉神経節、腰仙骨神経節などである。そして、何年かの後にストレス(風邪、胃腸障害、発熱、日光、寒冷、疲労、月経などが考えられる)など何らかのきっかけでウィルスが元気になり増殖し、発病する。ヘルペスウィルスはDNAウィルスに分類される。DNAウィルスは大部分が核内で増殖する。詳しく述べると、ヘルペスウィルスはウィルス膜上の糖蛋白をもちいて細胞膜上の分子に結合した後、膜融合を引き起こし、ウィルス
DNAを含むカプシドを細胞中に送り込む。カプシド中のDNAは、核の中へと輸送され、新たにウィルスが作られる。以上の条件があるとき、ヘルペスウィルスは増殖することができる。
(3)インフルエンザウィルス
インフルエンザウィルスは
RNAウィルスに分類される。RNAウィルスもDNAウィルスと同様に、感染後ある一定の期間を経て増殖を開始する。インフルエンザウィルスでは、HA(血球凝集素)でヒトの細胞表面のシアル酸と結合し、ヒトの酵素であるトリプターゼ・クララがウィルスの
HAに働きかけることで、ウィルスの膜とヒトの細胞の膜が融合し、ウィルス遺伝子がヒトの細胞内に侵入し、増殖を開始する。シアル酸と結合する場所は気管支の上皮細胞である。このHAによるシアル酸との結合が低温で行われること、また、インフルエンザウィルスが空気感染することの理由により、インフルエンザは低温・乾燥の冬に流行するのである。以上の条件があるとき、インフルエンザウィルスは増殖することができる。
〈増殖の止め方と治療法〉
インフルエンザウイルス
増殖の止め方;インフルエンザウイルスの感染では、宿主細胞をアクチノマイシンD(actinomycin D)や紫外線処理するとウイルス増殖が起こらないことから、宿主細胞の核の機能に依存することが知られている。これはインフルエンザウイルスのRNA合成が宿主細胞のDNA依存性RNAポリメラ―ゼUによる転写に依存しているためであることが、その阻害剤α−amanitimineを用いて証明された。
治療法; このウイルスは血清型によりA,B,Cの亜属に分類される。A型は世界的に大流行をおこし、また突然変異がおこりやすい。B型の流行はやや小さく、C型は地域的な流行をおこす。アマンタジンとリマンタジンがインフルエンザA型ウイルスに対して予防投薬、治療投薬として有効とされているが,わが国では認可されていない。
予防; ワクチン接種が唯一の有効な対策である。最近数年間のワクチン株は,流行株と一致している。現行ワクチンの効果は,ワクチン株と流行株が一致し,正規の方法で接種された後3か月以内の予防効果は,80%といわれている。
(ワクチン):現在、使用されているA型およびB型インフルエンザウイルスワクチン
は不活化コンポーネントワクチンである。欧米諸国ではウイルスをそのま
まホルマリン 処理したワクチン(whole particle vaccine)を用いている
が、我が国ではすべてエーテル処理を加えたsplit vaccineである。発育鶏
卵漿尿膜腔で培養したウイルス液を限外濾過、ゾーナル遠心で精製、濃縮
し、エーテル処理にてエンベロープを可溶化し、ホルマリンで不活化した
ものである。
A型、B型インフルエンザウイルスでは生ワクチンが開発されている。
ヒトに経鼻摂取しても病原性を示さない弱毒化した変異株を用いるもの
で、温度感受性変異株、宿主域変異株、低温適応変異株(cold-adapted
mutannt
:25℃でも増殖する変異株)などが検討されている。
ヘルペスウイルス
ヒトを宿主とするヘルペスウイルスとしては単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス6の6種類がある。ヒトのヘルペスウイルス感染症の臨床的表現は以下の表に示す。
表.ヒトのヘルペスウイルス感染症の臨床的表現
ウイルス |
通常の宿主にみられる病型 |
外因感染・内因感染の全身 |
外因感染 内因感染 |
化・重症化 |
|
単純ヘルペスウイルス1型 |
歯肉口内炎 口唇ヘルペス |
ヘルペス性湿疹 |
角膜炎 角膜ヘルペス |
新生児の肝炎・全身感染 |
|
咽頭炎 |
成人の脳炎・全身感染 |
|
単純ヘルペスウイルス2型 |
陰門膣炎 性器ヘルペス |
新生児の全身感染 |
水痘・帯状ヘルペスウイルス |
水痘 帯状ヘルペス |
肺炎・脳炎 |
サイトメガロウイルス |
サイトメガロウ ? |
先天性巨細胞封入体病 |
イルス単核症 |
間質性肺炎、肝炎、脳炎、網膜 |
|
炎、消化管潰瘍 |
||
EBウイルス |
伝染性単核症 ? |
致死的伝染性単核症 |
日和見リンパ腫 |
||
ヒトヘルペスウイルス6 |
突発性発疹 ? |
? |
〈ウイルスの病原性とその症状〉
ヘルペス群ウィルスは二本鎖DNAウィルスで、動物種にはそれぞれ種特有のヘルペス群ウィルスが感染する。ヒトに感染するヘルペス群ウィルスは現在8種類知られており、ウィルスDNAの配列や細胞への感受性などから3亜科に分類されている。
ヘルペス群ウィルスの特徴として、初感染の後、完全に排除されずにホストの細胞に潜伏し、免疫能、特にT細胞が関与している細胞性免疫能が低下すると、再活性化し臨床症状を呈してくる。(回帰感染)。水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)では、初感染の時、ほとんどの小児で顕性感染(水痘)を示すが、その他のウイルスでは感染する年齢やホストの免疫能に応じて、不顕性感染から致死的な感染まで幅広い病態を呈してくる。
ヘルペス群ウイルスの代表的なウイルスとして単純ヘルペスと水痘・帯状疱疹ウィルスとその他のウイルスの症状をのべる。
単純ヘルペスウイルス(HSV)
単純へルペスウイルス(HSV)は、DNA配列からT型とU型に分類される。T型は主として口唇や口腔内に感染し、風邪やインフルエンザ、肺炎などで熱がでた後などに多数の水疱や潰瘍を形成する(口唇ヘルペス)。U型は主として性行為によって陰部に感染し、T型と同様の水疱や潰瘍を形成する(陰部ヘルペス)。陰部ヘルぺスは妊娠している女性に感染すると、出産の時に産道で胎児に感染し、命に関わる危険性が高いため帝王切開を行うことが多い。免疫不全患者では潜伏していたウイルスが、移植後6週間以内に再活性化し、主として口唇周囲や口腔内に水疱が出現する。肝移植患者ではHSVによる肝炎を起こし、肝壊死を起こして死亡する事がある。後天性免疫不全(AIDS)患者ではHSVによる食道炎を起こし嚥下困難を訴える。
ストレスに侵された者、感染症患者、或いは細胞性免疫不全の者に出現する再発型ヘルペスは初感染部の領域に水疱が突発する事で、皮膚粘膜部や口唇―口腔部、陰部に見られる。自覚症状が現れるものに、焼灼感、掻痒感、疼痛があり、軽快するまでに数日を要す。これが繰り返し起こることが、患者の苦痛を増長する。
単純ヘルペス
水痘・帯状疱疹ウイルス
水痘・帯状ウイルス(VZV)の初感染は水痘であり、初感染の後、三叉神経神経節や脊髄後根に潜伏し、VZV特異的細胞性免疫能が低下したときに再活性化し、帯状疱疹を発症する。水痘の潜伏期は2・3週間である。主たる感染ルートは咽頭からの飛沫物に含まれるウイルスであり(飛沫感染)、水痘内のウイルスからも感染する。
ステロイド服用中の小児白血病や悪性リンパ腫の小児が水痘に罹患すると、出血性の水痘疹が出現したり、全身播種による肺炎や脳炎を合併し、時には致死的な経過をたどることがある。抗ウイルス療法が開発されるまでは免疫不全小児の水痘による死亡率は約14%であった。特にリンパ球数が500/mm全身播種を起こす危険性が高くなる。肺炎は間質性肺炎であり、労作時の呼吸困難が初発症状である。胸部X線所見では、両側肺野にびまん性の結節状の散布性陰影が認められる。
成人も水痘に罹患すると肺炎や脳炎を合併し、重篤化しやすい。成人水痘の死亡率は小児の約25倍(
25/10000)である。成人水痘の死亡原因は肺炎であり、肺炎の臨床症状は4%にしか認められないが、胸部X線所見では16%の成人が肺炎を合併している。妊婦が水痘に罹患すると死亡率は14%と、成人の死亡率よりも更に高くなる。細胞性免疫が低下している人が帯状疱疹を発症すると、局所の発疹だけではなく、全身播種を起こしたり、肺炎や脳炎等の合併症を起こしやすい。小児悪性腫瘍患者では、帯状疱疹出現時に、末梢血単核球からウイルスDNAが検出される頻度が高く、臨床症状を伴わなくても全身播種を起こしている危険性が指摘されている。
帯状疱疹ウイルス
その他のウイルス
サイトメガロウイルス(CMV)感染症の臨床症状としては、全身症状としての、発熱、白血球減少、血小板減少、異型リンパ球の出現等があり、更に臓器障害としての肝炎、肺炎、脳炎、大腸炎、網膜炎等が出現する。肺炎や2カ所以上の臓器障害を認めたときは重症である。肝炎、脳炎、網膜炎は直接のウイルス侵襲にて出現する症状であり、肺炎は免疫学的機序により出現する症状である。なお、CMV感染症は末梢感染を認めてから約2週間後頃から発症する。
ヒトヘルペスウイルス6(HHV―6)及びヒトヘルペスウイルス7(HHV−7)はともにCD4+リンパ球に感染し、乳幼児に突発性発疹を引き起こす。HHV−6感染の臨床症状としては、発疹の他に骨髄抑制(特に骨髄移植患者)、肺炎等がある。骨髄移植2ヶ月後頃に発症する突発性間質性肺炎(IP)の原因としてHHV−6が疑われている。
Epstein-Barrウイルス(EMV)は伝染性単核症からBurkittリンパ腫まで多彩な臨床症状を引き起こすウイルスである。免疫不全宿主におけるEMV感染の特殊な臨床型として、移植患者にみられる移植後リンパ増殖症とAIDS日和見リンパ腫がある。前者の危険因子は、EMVの初感染例,OTK3療法、抗サイモサイトグロブリン使用例である。後者の多くは中枢神経系や骨髄などのリンパ節意外の部位から発生し、悪性度の高いB細胞型の悪性腫瘍である。
ヒトヘルペスウイルス8(HHV−8)はAIDS関連カボシ肉腫において、AIDSによる免疫不全のために、細胞を癌化させたか、癌化した細胞を増殖させたと考えられている。
初感染 |
再活性化 |
|
αヘルペス |
||
単純ヘルペスT型(HSV−1) |
口内炎 |
口内炎 |
単純ヘルペスU型(HSV−2) |
陰部ヘルペス |
陰部ヘルペス |
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) |
水痘 |
帯状疱疹 |
βヘルペス |
||
サイトメガロウイルス(CMV) |
伝染性単核症 |
肺炎、網膜炎 |
ヒトヘルペスウイルス6(HHV−6) |
突発性発疹 |
発疹症、肺炎 |
ヒトヘルペスウイルス7(HHV−7) |
突発性発疹 |
? |
γヘルペス |
||
Estein-Barr ウイルス(EMV) |
伝染性単核症 |
リンパ増殖異常症 |
ヒトヘルペスウイルス8(HHVー8) |
? |
カボシ肉腫 |
インフルエンザはインフルエンザウイルスによる急性、伝染病の呼吸器疾患である。1〜2日の潜伏期間の後、寒気がして、突然高い熱(38〜40度)が出る。それと同時に頭痛、筋肉痛、関節痛が起こり、時には下痢、吐き気など胃腸にも症状が現れる。続いて、乾いた咳、喉の痛み、鼻づまり、鼻水、目がひりひりするなどの症状が出る。診察で扁桃腺肥大、頚部リンパ腺腫脹が見られることもある。インフルエンザと普通の風邪と異なるところは「感染力が強い」「症状の現われ方が急激で、重い」「全身症状(寒気、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身の倦怠感)が強く現れる」ことである。
インフルエンザはふつう数日で症状がさえ、熱も下がるが、一番問題になるのは合併症を起こしたときである。合併症にはインフルエンザによる一次性のものと、細菌感染による二次性または混合感染がある。頻度が高く死亡原因の90%以上を占める肺炎、いったん発症すると重篤となる急性脳炎およびライ症候群、その他心合併症、急性胃腸炎、関節炎、中耳炎、副鼻腔炎などインフルエンザウイルス感染症の合併症は多彩である。
肺炎は、インフルエンザウイルスによる肺炎と、細菌感染による細菌性肺炎に分けられるが、後者のほうが頻度が高い。インフルエンザ肺炎は4〜5日過ぎても高熱、咳が続き、呼吸困難、チアノーゼが見られるようになる。細菌の二次感染を伴う肺炎は、インフルエンザが軽快してきて、再び発熱、悪寒、咳嗽、呼吸困難、多呼吸症、頻脈、一般状態の悪化が見られる。
脳炎、脳症はインフルエンザ感染後3日ないし2週間をおいて、頭痛を伴う意識障害、 けいれんで発症する。
小児で注目されているライ症候群は上気道炎症後3日〜10日から悪心、嘔吐をもって発症し、しばしば低血糖があり急速に昏睡にすすんでいく。年齢は3〜16歳に多く、死亡率は36〜58%と高率であり、早期発見、治療が重要である。インフルエンザの罹患時または回復期に嘔吐の後、軽度の意識障害があれば、ライ症候群の初期の可能性がある。
心合併症については心筋炎、心膜炎の合併症が知られている。末梢循環不全、心不全、不整脈などの症状が見られることがあるが、軽症例では心筋炎の診断は困難である。
急性筋炎については回復期または経過中に両下肢、特にひ腹筋、ひらめ筋の筋痛を突然起こすことがあり、急性の横紋筋壊死とミオグロビン尿に伴う腎不全例の報告もある。
〈さまざまな研究〉
千葉県子供病院では、1998年1月から3月の期間に臨床的にインフルエンザと診断された小児にアマンタジン投与した。投与量は、3〜5mg/kg/日を1日に2回投与。最高で200mgとした。期間は原則として5日間であった。中村部長らは、アマンタジンの有効性を「投与後3日以内の回熱」としており、その基準からすると今回の使用経験では60%に有効だったことになる。海外の研究では、アマンタジンは発症から48時間以内に投与しないと有効性が得られないとしている。副作用は5mg/kg/日を5日間投与群ではみられなかったが、4mg/kg/日を14日間投与した白血病の6歳児1例で軽度の不眠、多弁を認めたのみである。今回の経験を踏まえて、中村部長は「インフルエンザは細菌の2次感染の高い感染症だ。その点で、アマンタジンは基礎疾患のある小児のインフルエンザ治療薬としては必要だと思う。また、院内感染対策として、予防薬としても有効だろう」と指摘する。また、インフルエンザ脳症の場合は発症から2日以内に進行してしまうため、「現実問題としてアマンタジンで脳症を予防できるかとなると難しい」という。また、アマンタジンは耐性ウイルスを生みやすいことも知られていることから、「流行期には臨床症状で判断して投与するのはやむをえないが、散発例には抗原確認のうえ投与すべきだ。風邪薬感覚でアマンタジンを投与すべきではない」と話している。
昭和大学医学部の島村忠勝教授らは、緑茶成分であるカテキンにインフルエンザウイルスの感染を押さえる効果があることを確認した。
この研究では、ウイルスの型に関わらず、Aソ連型、A香港型、B型などすべての種類のウイルスに効果があり、うがい薬などに利用できそうだという。
カテキンには茶の渋み成分で、赤ワインの成分として有名になった。ポリフェノールの一種。緑茶に多く含まれる。
インフルエンザの流行規模は、この10年間では1年毎に多い少ないを繰り返す規則性を保ち推移してきた。
インフルエンザ流行の多いのはウイルスの型でみるとAH3とBの組み合わせで、AH1を含む複数の型が協調したときは流行は少ない傾向を示した。インフルエンザの流行の規模にウイルスの型が大きな影響を与えることを示唆している。
流行の周期を変えた92年と、AH3とBの組み合わせにかかわらず流行が少なかった94年に注目し気象状況との関与について分析した。その結果は前年の気象に次の共通点がみられた。
1)長雨などで降水量が多い。
2)日照不足
3)短い夏あるいは冷夏
4)台風や豪雨の災害被害者(使者、不明者)数が多い
これらの気象状況は直接ウイルスに影響を与えるか、中国大陸からのウイルスの伝播に影響を与えるのかまた感染するホスト側に問題があるのかなどは今後の研究課題である。
また、抗ウイルス剤(塩酸アマンタジン)は米国、ヨーロッパでは予防目的で流行期に使用されているD。日本では、パーキンソン氏病の治療薬(商品名 シンメトレル)として使用されているが、すでに北本やEによってインフルエンザA香港型への有効性については報告されている。
・ヘルペスウイルスに関わる研究
カポジ肉腫はウイルス感染によって生じる悪性腫瘍であり、原因ウイルスとして、ヘルペスウイルス属の新種KSHV(Kaposi’s Sarcoma-Associated Herpes-virus:カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス)あるいはHHV-8(Human Herpes-vius-8)が報告されている。今回、日本のカポジ肉腫患者からもKSHVが検出された。
現在、カポジ肉腫は、性行為等により感染していたヘルペスウイルスの一種HHV-8(KSHV)がHIV感染による免疫能の低下により活性化した結果生じる悪性腫瘍であると考えられている。このことを日本のカポジ肉腫患者においても確認したという点で意味のある報告である。なお、HHV-8がカポジ肉腫以外に、どのような症状を引き起こすのかは今後の研究課題であるが、カポジ肉腫の原因がHHV-8であれば、抗ヘルペスウイルス剤によるカポジ肉腫の治療または予防の可能性も考えられる。