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班 芽胞産生と発芽の機序とその意義について1.芽胞の意義
バチルス属1やクロストリジウム属2などの桿菌3は、外界の条件が悪くなると染色体を凝集し、リボソ−ムと蛋白の一部分を濃縮し、硬い皮膜でこれらを包み、生物活性を休止する。これを芽胞といい、その過程を芽胞形成
sporulationという。
好気性、芽胞形成性のあるグラム陽性桿菌。
グラム陽性の嫌気性あるいは微好気性の桿菌で、芽胞を形成し、通常それは菌体
より幅が広い。しばしば蛋白を分解し、炭水化物も発酵により分解する。B 桿菌 かんきん
Bacillus 細菌は、その形により球状(→ 球菌)、棒状、螺旋(らせん)状の3つの形
に分類されるが、棒状の細菌を桿菌とよぶ。
桿菌の形と配列
一般に桿菌の長径は短径よりも長く、棒状(大腸菌や破傷風菌)をしているが、長
径と短径がほぼひとしく球状にみえる短桿菌(インフルエンザ菌)もある。またソ
ラマメやバナナのような形をしたもの(コレラ菌)もある。また大部分の桿菌の菌
端は 半円形だが、直角(炭疽菌やジフテリア菌)や紡錘形(紡錘菌)のものもある。
配列は、連鎖状(連鎖桿菌)、銅線をよりあわせたようなコード状(結核菌)のほか、
Y、V、W字形の配列(ジフテリア菌やビフィズス菌)のものもある。
桿菌の形は、かたい細胞壁という構造によるが、その遺伝子についてはまだわか
っていない。
さまざまな性質
大腸菌や赤痢菌などはグラム陰性(→ グラム染色法)の桿菌で、破傷風菌や炭疽菌
はグラム陽性の桿菌である。結核菌は酸素を必要とする好気性菌、破傷風菌は酸
素をきらう嫌気性菌である。
2.発芽の意義
芽胞は適当な栄養のよい環境におかれると、芽胞の屈光性が低下し、ついで外皮お
よび芽胞殻が破れて新しい栄養形の細胞が生じ、分裂増殖を始める。これを発芽と
いう。
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.芽胞産生する菌について芽胞形成はBacillaceae科の菌の顕著な特徴である。その中の好気性菌属(空気ないし酸素の存在中で発育する細胞)はバシラス(Bacillus)といわれ、嫌気性菌属(空気のない無酸素条件下で生育する細菌)はクロストリジウム(Clostridium)という。
では、発芽形成の因子はというと、未だに充分には分かってない。しかし一般には、芽胞は発育の至適条件で容易に形成される。そして芽胞形成は対数増殖期の終わりかあるいはそれに引き続いて開始される。これより芽胞形成は不利な環境条件に反応しておこるということを信じる理由にはならない。
芽胞形成に対する環境条件の影響は、細菌の種類によって異なる。例えば、好気性の炭疸菌は、好気的条件においてのみつくる。炭疸で死んだ動物の脾臓のような臓器の標本では、芽胞は見られない。なぜなら、組織は芽胞形成を許すほど十分に好気的でないからである。同様に、嫌気性芽胞菌は、好気的条件では芽胞を形成しない。培養温度もまた因子となる。好気性芽胞菌は発育に耐えうる最高温度で増殖したときは、芽胞を作らない。そして事実、無芽胞性変異株が高温での継代培養により得られる。
次に芽胞形成がどのようにおこなわれるこについて述べると、栄養型菌の細胞質膜の中に入り込み、この中に核物質が取り込まれて前芽胞foresporeができる。やがて内部に皮層cortex、更に中心部に芽胞細胞質をもつ芯部coreが分化し、外皮exosporium,芽胞殻sporecoatなどの膜を生じて芽胞が完成する。以上。
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.発芽の機構について発芽は、L−アミノ酸、リボシド、糖などの発芽誘起物質によって短時間のうちに
惹起されて、芽胞はすべての抵抗性を失い栄養細胞と同じになる。発芽後成育に入ると
コルテックスは完全に分解され、コアは栄養細胞に成長してやがては芽胞殻を破って飛
び出し、再び分裂・増殖を繰り返すようになる。
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.芽胞が生態に及ぼす影響(病気)などボツリヌス菌
ボツリヌス症はボツリヌス菌の産生する毒素によって発症するもので、その発症要因によって下表に示す3つに分類されている。いわゆるボツリヌス食中毒は食餌性ボツリヌス症にあたり、食品内で産生された毒素を摂食する事によって発症する典型的な毒素型食中毒である。欧米では手作りのソーセージや瓶詰、缶詰などが原因食品となっているが、日本ではもっぱら「いずし」を原因食品として、東北・北海道地方において毎年数例発生してる。
ボツリヌス菌は土壌や海、湖、川などの泥に分布する、耐熱性の芽胞を形成する嫌気性菌である。産生する毒素は運動神経を麻痺させる神経毒で、免疫学的にA型〜G型に分類されており、ヒトに毒性があるのはA
,B,E,F型の4種類である。 ボツリヌス毒素は熱に弱く、80℃30分、あるいは100℃10分の加熱で不活化される。 本毒素のヒトにおける致死量は数ng(ナノグラム)といわれており、本食中毒の致死率は約20〜30%である。しかし、我が国では昭和61年から今年6月までに16事例33名の患者発生をみているが、死亡例は0名を記録している。ボツリヌス食中毒の症状は、複視などの視力障害や発声困難、嚥下困難などの神経障害からはじまり、呼吸麻痺から死の転帰をとる。ボツリヌス中毒患者の確定診断には患者血清中の毒素や糞便中の菌検査が必要だが、特に、発症初期の血清中には毒素量も多く、早期診断の重要な検査材料となる。治療には呼吸の確保などの対症療法と抗毒素血清による特異的治療がとられますが、病日が経過すると抗血清治療の効果が著しく低下するため、早期の診断・治療が必要である。
ウエルシュ菌
(Clostridium perfringens)発生件数は多くないが大規模な食中毒となる場合がある。ヒト、動物の腸管、下水や土壌に広く生息し、食品の汚染の機会が多い。有芽胞菌であるため中途半端な加熱でも生残り、緩徐に冷却される間、比較的嫌気条件で増殖する。摂食後、小腸内で増殖、芽胞形成に伴ってエンテロトキシンが産性され、菌の崩壊によって毒素が放出され、腸管粘膜に作用して下痢をおこす。摂食直前の加熱によって、芽胞形成(=毒素産性)能が誘発される。潜伏期は
7-24時間で、水様性下痢、腹痛が主症状で発熱や嘔吐は少ない。多くは一過性で1-2日で回復するので、特別な治療はいらない。炭疽菌
炭疽菌は
0.5-1.0×1.0-2.0μmのグラム陽性桿菌で好気性菌です.体内では単在することが多いが培養すると細胞壁は四角張ってより集まり連鎖します.鞭毛はありmせんが莢膜をもちます.また細胞の中央部卵円状の芽胞を形成します.通常芽胞の形で土壌中におり,何らかの理由で感染します.もともとは草食性の家畜,特に偶蹄類であるヒツジ,ウシなどの病気で,感染すると敗血症を起こして非常に高い確率で死亡します.それらの動物を介してヒトに感染しますが,感染経路は,感染動物との接触,肉の摂取など皮や粘膜を介したて感染し,人間の場合にも敗血症を起こすことが多くあります.
皮膚炭素は,頚部や上皮などのかすり傷から芽胞が入り発芽します.皮膚に丘疹ができ膿胞ができ,それがつぶれて黒いかさぶたができます.重症の場合にはリンパ節が腫脹します.
腸炭疽は感染した動物の肉を食べることで感染します.
吸入炭疽は家畜の毛やちりなどと一緒に炭疽の芽胞を吸入して感染します.肺炎になることが希にあります
6.芽胞産生する菌について
芽胞産生する菌として以下のものが挙げられる。
1
〜1.3×3〜10μmの大型の桿菌で、菌体の端は角ばって竹の節を見る感じがする。鞭毛を欠く。組織内では、単個または単連鎖を作り、莢膜に被われる。培養菌は長い連鎖を形成する。芽胞は培養後24時間以上室温に放置された菌体の中央に形成され、菌体と同じ幅で楕円形である。生体内でのみ水腫因子、致死因子などの外毒素をつくる。
嫌気要求度の高いグラム陽性桿菌で、周毛をもち運動をする。芽胞はいったんに球形の、菌細胞の幅より大きいものがつくられるので、
37℃で48〜72時間培養した菌では太鼓のばち状にみえるものがある。外毒素としてテタノスパスミンという分子量150万の神経毒と、テタノリジンという分子量60万の溶血毒を作る
嫌気要求度があまり高くないグラム陽性の大桿菌
(1×5μm)で、周毛をもち運動する。芽胞は楕円形で、端に片寄って産生される。毒素は分子量35〜90万の蛋白質で、破傷風毒素とならんで地上でもとも強い毒性物質である。抗原性の違いから6型に分けられる。
グラム陽性の大桿菌で、多くのものは菌体中央に楕円型の芽胞をつくる。無毛菌で運動性がない。嫌気要求度はあまり高くない。分子量
7.静止芽胞の形態
最も外側には外皮exosporiumという薄い膜があるが、これはすべての菌種に存在すると
は限らない。
外皮の内側には芽胞膜spore coatがある。この膜はさらに外層outer coat, outer layer と
内層
inner layer とに分けられている。この内、外層はさらにいくつかの層に分けられている場合があり、またクロストリジウムでは、内、外層の間に中間腔
intermediate spaceが存在する。
芽胞膜の直下に皮層cortexがある。幅広い層で、比較的無構造に見えるが、層状構造
を成している。
皮層の内側に芽胞壁spore wallがある。
最も内側に存在するのが芯部coreである。芯部はさらに外側の芽胞細胞質と内部のやや
電子密度の小さい芽胞核
spore formationとに分かれる。細胞質内には細胞質内膜構造を認めることがある。
8.芽胞、発芽産生の起こる環境とその条件について
芽胞の起こる環境は、細胞の増殖に必要な栄養素である炭素源、窒素源、リン酸源
などの枯渇した培養条件の悪い環境であり、その条件はそういった環境の誘因が条件
といえる。
また、発芽産生の起こる環境は、芽胞の状態において、殺菌的温度より低い熱で加
熱された環境で起こりやすく、これは芽胞核の熱変性によるものと思われる。条件と
しては、L−aianineに代表される、発芽誘導物質による誘導が必要である。
9.芽胞産生した菌によって起こる病気の症状を説明できる。
炭疽
Anthrax草食獣の病原体である炭疽菌
Bacillus anthracis が人体に感染するもので、世界中の牧草地帯で流行する。感染経路と症状から、以下の病型にわけられる。皮膚炭疽: 菌に汚染された肉や内臓、あるいは毛皮製品に触れて感染する。初期には局
所の発疹と所属リンパ節炎であるが、放置すると敗血症に至り死亡する。抗生物質で治療可能。腸炭疽: 菌に汚染された肉などを食べて感染する。出血性腸炎をおこす。
肺炭疽: 菌を吸入することで感染する。感染すると高熱で発症し
24時間以内に死亡する。主に毛皮や骨を加工する工場で発生する職業病である。
セレウス菌
土壌、ほこり、水中など自然界にきわめて広範に分布する菌で、昔から食品の腐敗菌として知られていました。この菌も耐熱性の芽胞を作りますが、ウェルシュ菌やボツリヌス菌などと異なり、酸素のある条件下でも良く増殖します。この芽胞は
100℃数分程度の加熱では死滅しません。現在、この中毒にはニつのタイプが知られています。下痢症状が中心の下痢型と、下痢がほとんどなくおう吐が見られるおう吐型です。東京都で発生した事例はすべておう吐型です。おう吐型の食中毒が起こるのは、食品中でバチルス・セレウスが増殖し、毒素ができるためと考えられています。
この毒素は耐熱性のため食前に加熱しても残ってしまいます。
症状@おう吐型…潜伏時間は約
1時間から5時間ではき気、おう吐、腹痛が主症状で下痢も見られます。A下痢型……潜伏時間は
破傷風
破傷風菌は嫌気性、芽胞形成グラム陰性桿菌である。これは土壌の中
に広く分布しており、外傷、火傷及び挫創部からヒトの体内に侵入する。
侵入部で菌は増殖し毒素を産生し中枢神経を侵す。潜伏期は約4〜12日
であるが、これが短いほど予後が悪い。咬筋のけいれんによる開口不能、
顔面筋のけいれんによる痙笑に始まり数日以内に躯幹筋の強直性けいれ
んを起こし後弓反張を呈する。日光、騒音のような刺激で全身性強直を
きたし、次第に激しさと頻度を増し死に至ることがある。
ボツリヌス菌
ボツリヌス菌の特徴
ボツリヌス菌(
Clostridium botulinum)は嫌気性のグラム陽性桿菌で、熱に強い芽胞の形で自然界に分布しています。 芽胞が混入した食物を適当な条件下(@嫌気状態 A30〜40℃ BpH4.5以上)で保存すると芽胞が発芽、増殖し毒素を産生する可能性があります。 毒素は強力な神経毒ですが、熱に弱く、80℃30分もしくは100℃10分の加熱で毒力を失います。ボツリヌス中毒の特徴
ボツリヌス中毒は食物中で菌が増殖し、産生した毒素を摂取することによって起こる急性食中毒です。症状は毒素摂取後12〜36時間後に現れることが多く、脱力感やめまい、物が見えにくいなどの神経症状が現れ、重症例では呼吸失調によって死亡します。
ウェルシュ菌は、広く自然界に分布し、土壌等に存在するほか、人及び動物の腸管内に常在しています。
ウェルシュ菌
菌は、空気の少ないところで、芽を出して増殖(嫌気性芽胞形成菌)し、100℃で4時間加熱しても生き残ります。(耐熱性)発育に適した温度は、15℃から50℃と幅があります。芽を出すときに、エンテロトキシンという毒素を作ります。
体に入ってから、12時間程度の潜伏期ののち、生産された毒素(A型ウェルシュ菌エンテロトキシン)により腹痛、下痢などの症状が出ますが、比較的軽症で1日から
2日程度で正常に回復します。
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.主な病気の予防法と治療法ヒト感染症に関与するこの属の菌種は主として四つの群に分けられる。
2.ボツリヌス中毒症
3.破傷風
4.その他ヒト創傷および感染症
破 傷 風 、 ガ ス 壊 疸
1.患 者 :患者が破傷風又はガス壊疸と診断された場合は、別の創傷で入院している患者と隔離する。但し、両者ともに嫌気性菌であり、菌が創の内部に及ぶように混入しない限り感染はしない(健康な皮膚面に菌がついても感染は成立しない)。まれに、菌が腸内にいることもある(外科手術後に発症した例も報告されている)。
2.職 員 :流水と石鹸で少なくとも15〜20秒以上泡立てながら洗う。本患者の創傷処置は、全ての患者の処置の最後に行うことが望ましい。ガウンテクニックは必要。
3.事務処理 :破傷風とガス壊疸菌は芽胞形成菌で、抵抗性が高く、特別の消毒操作を必要とする。このため、患者に使用した機械、器具、リネン、衛生材料類には破傷風又はガス壊疸と明記して取り決めに従って返却する。
予防接種の効果
トキソイドによる免疫効果は著明で、初回接種、追加接種で0.1u/
ml以上の血中抗毒素量が得られる。追加接種後の抗毒素産生能は10年
以上続くといわれるが抗毒素量を防御レベル以上に保つために11〜12
歳で追加接種を受ける必要がある。
ボツリヌス菌
摂取した後症状が出るまでの潜伏時間は12時間から36時間で,症状は初期にはおなかがはる,吐き気および嘔吐などの胃腸症状が現れ,次第に舌がもつれる,頭痛,視力障害および物が飲み込みにくいなどの神経症状が現れてきます。重症の場合は呼吸困難により死亡する場合もあります。ふつうは発熱しません。唯一の治療法は抗毒素による治療です。
ヒトや動物からヒトに感染することはありません。
予防のポイント
よく加熱した後(80度30分または100度10分の加熱)食べる。
真空パックや缶詰が膨張していたり,食品に異臭(特にバター臭)があるときは食べない。
治療法は抗毒素によるものしかありませんので,何か異変を感じたらすぐに医療機関を受診して下さい。