2.培地と培養

細菌は必要な栄養源を菌体外の環境から吸収するが、病原菌の分離や、細菌の増殖のためには、その細菌が増殖できるような培地を作り、適当な環境で培養しなければならない。細菌の栄養源は基本的に同一だが、種類によって異なった栄養源を要求する場合もあるため、さまざまな培地が存在する。

例:合成培地synthetic medium, 完全培地complete medium

複合培地complex medium , 栄養強化培地enriched medium

最小栄養培地minimal medium

また、培地は液体培地liquid medium)と固形培地solid medium)に大別でき、病原菌の分離には固形培地が使われる。更に、目的によって選択培地、確認培地、鑑別培地など特殊な培地も使われる。

 

 

  1. エネルギ−源と炭素源

細菌の増殖には栄養源として菌体成分を構成している化学成分が必要なだけでなく、菌体成分の合成、分解、膜における能動輸送などのためのエネルギ−源も必要である。細菌は種類によって利用するエネルギ−が異なり、大きく三つに分けられる。

    1. 太陽の輻射エネルギ−を利用するもの(phototroph
    2. 化学的酸化エネルギ−を利用するもの(chemotroph
    3. a,無機物の酸化によって生じる化学エネルギ−を利用するもの

      (chemo-lithotroph)

      b,有機物の酸化によって生じる化学エネルギ−を利用するもの

      chemo-organotroph

    4. 宿主細胞の代謝エネルギ−を利用するもの(paratroph

菌体成分を合成するためにもっとも重要なのは炭素源であるが、これは大多数の場合エネルギ−源ともなる。利用する炭素源によって細菌を分類すると三つに分けられる。

    1. 無機の炭素化合物を利用するもの(autotroph
    2. 有機の炭素化合物を利用するもの(heterotroph
    3. 宿主細胞に依存するもの(hypotroph

 

 

  1. 培地成分と栄養要求性
  2. 菌体構成成分のもとになるものとしては炭素源のほかに窒素源があるが、これは無機のNHでよい場合とアミノ酸でなければならない場合がある。そのほか、はタンパクに、は核酸やリン脂質に、は酵素やリボソ−ムに必要である。細菌の発育増殖には以上のような栄養源が必要であるが、菌種により、あるいは変異株ではそれ以外に有機化合物が無ければ発育しないことがある。ビオチンやインフルエンザ菌のX因子(ヘミン)、V因子(NADおよびNADP)などがあり、これらを含めて発育因子growth factor)という。発育因子は必要以上に多量にあるとかえって阻害的に働くことがある。栄養源でも培地中から細胞壁と細胞膜からなるcell envelopを通過できないような高分子物質やリン酸化された化合物は利用されないのが普通である。しかし、菌種、菌株によっては高分子物質を分解する酵素を持ち、高分子物質の分解産物を栄養源として利用できるものもいる。これらの酵素を菌体外酵素exoenzyme)とよび、多種のexoenzymeを生産する菌は、組織破壊力も強い。

     

  3. 増殖条件

培地が正しく作られても培地条件が悪かったりすると、また菌種によって至的環境条件は違っているので適当な条件にしてやらないと、良好な増殖はみられない

a) 酸素

酸素は細菌の増殖、代謝に影響を与えるが、その影響の仕方、酸素の利用の仕

方によって細菌を3群に分類できる。

@偏性好気性菌(obligate aerobe):増殖に酸素を要求する菌

A通性嫌気性菌(facultative anaerobe):酸素があっても無くても発育するが、

あればこれを利用して発育が良好に

なる菌

B偏性嫌気性菌(obligate anaerobe):酸素があると増殖できない、あるいは死

滅する菌

さらに

A.微好気性菌(microaerophile):酸素分圧が少し低い程度の状態で最もよく発

育する菌

B.酸素耐性嫌気性菌(aerotolerant ):無酸素の状態で発育し、酸素があって

も死滅せず利用もできず発酵を行う菌

が存在し、Aは@、BはAに分類される。

 

b)炭酸ガス

一般にCO2の場合は、菌の収量ではなくて増殖速度に影響する。また、少で

はあるが、CO2はすべての細菌にとって必須であり、特に増殖開始のため必

要となる。

 

C)酸化還元電位(redox potential En )

一般に細菌が増殖すると培地のEnは下がる。

 

d) 水素イオン濃度(pH)

一般細菌はpH5.08.0で増殖するが、細菌の種によって異なる場合もある。

 

e) 塩濃度

通常は培地の浸透圧を等張するためにNaClを加え、塩濃度の程度によって

増殖する細菌とそうでないものに分類できる。

@塩感受性菌:塩濃度0~4%で増殖可能

A耐塩性菌:塩濃度0~12%で増殖可能

B好塩菌NaClを必要とする

一般に海水中に存在する菌の多くは海水の濃度とほぼ等しいNaCl(約3.5%)

を必要とする。

 

f) 温度

細菌の増殖に最も適した温度(至適温度)は通常その微生物の正常環境温度

である。また、至適温度によって細菌を分類すると

    1. 低温細菌(psychrophiles):至適温度10 増殖可能温度 10~20
    2. 中温温度(mesophiles):至適温度37 増殖可能温度 10~45
    3. 高温細菌(thermophiles):至適温度 50~60 増殖可能温度 25~80

の三郡になる。

低温細菌といっても10~15℃のほうが速く増殖するように、培養温度は増殖

速度に影響する。