2.診断・治療の進歩

 

発熱・頭痛・全身の倦怠感・筋関節痛などが突然現われ、咳・鼻汁などがこれに続き、約1週間で軽快するのが典型的なインフルエンザの症状である。その他のいわゆるかぜ症候群に比べて全身症状が強いのが特徴であるが、正確な診断にはウイルス学的な裏付けが必要である。インフルエンザ流行期にかぜ症状のあるものにすべてついて安易に「インフルエンザ」と断定することは、疫学状況を正確に把握し、ワクチンの効果を判定するに当たって誤解を生じかねないので、注意が必要である。

 

最近は、ベッドサイドもしくは外来などでインフルエンザ抗原を検出するキットが市販されるようにな人、一部は健康保険が適用されるようになった。コマーシャルラボなどでは、血清ウイルス抗体の測定が可能であり、ウイルス学的診断が日常の臨床の中で容易に出来るようになってきた。すべてのインフルエンザ様疾患者に検査を行うことは実際的ではないが、診断の裏付けとして重要な意味を持つ。咽頭拭い液やうがい液を材料にしウイルスの分離ができれば、診断としてはもっとも信頼があるが、一般的とは言えない。polymerase chain reaction (PCR)法を用いてウイルスゲノムを検出することも可能となってきたが、特殊検査の段階である。

 

インフルエンザウイルスに対する特異的療法として、抗ウイルス剤による治療が挙げられる。抗A型インフルエンザ薬であるアマンタジン(Amantadine)は、A型ウイルスの表面にあるM2蛋白に作用してインフルエンザウイルスの細胞への侵入を阻止し、抗ウイルス作用を発揮する。インフルエンザBに対しては無効である。我が国では、アマンタジンは臨床的に評価された精神活動改善作用から、抗パーキンソン剤あるいは脳梗塞に伴う意欲・自発性低下の改善を目的としてこれまで使用されてきたが、199812月抗A型インフルエンザ薬として認可された。

 

現在(1999.12)、インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの作用を阻害することによって細胞内で感染増殖したウイルスが細胞外に放出されることを抑制することによって抗ウイルス作用を発揮するザナミビル(Zanamivir)が、認可申請中である。A、B両型に対して作用する。

 

()抗インフルエンザA型抗体

 

@抗インフルエンザA型(H1N1,H2N2)抗体:C179

 インフルエンザA型ウィルス(H1N1)型と(H2N2)型のHA 領域で共通に保存された立体構造を認識する抗体です。抗原変異に左右されることなくH1亜型とH2亜型に反応でき、さらに両亜型に対して強い 中和活性をもちます。

 

A抗インフルエンザA型(H3N2)抗体:F49

 インフルエンザA型ウィルス(H3N2)型のHA幹領域を特異的に認識する抗体です。中和活性はありません。

 

B抗インフルエンザA型抗体:C111

 インフルエンザA型ウィルスのマトリックスタンパク質(M1)を認識する抗体です。A型ウィルスの亜型に関係なくすべてに反応します。この抗体は細胞染色だけでなく免疫沈降、ウェスタンブロットアッセイにも有効です。

 

C抗インフルエンザABウサギポリクローナル抗体:

 インフルエンザウィルス(A型:北京株H1N1、武漢株H3N2B型:三重株、広東株)のHAを含むワクチンを抗原として作製されたウサギ抗血清です。Protein Aアフィニティ精製した抗体で、A型ウィルスとB型ウィルスに同程度反応します。

 

()様変わりしたインフルエンザの治療法

 

今年はインフルエンザの治療にちょっとした変化が現れています。A型インフルエンザウイルス迅速診断キットとA型インフルエンザにのみ有効な抗ウイルス薬(塩酸アマンタジン)が臨床の現場で使うことができるようになったためです。インフルエンザ診療の大まかな流れを説明してみます。

@現在実践している診断及び治療の流れ

突然の高熱、全身倦怠感、全身の筋肉痛・関節痛などインフルエンザを疑う症状で患者さんが、診察の結果、インフルエンザの可能性が濃厚な場合、鼻腔又は咽頭の粘液を材料としてA型インフルエンザウイルス迅速診断キットによる診断を試みます。

もし、迅速診断の結果が陽性で、A型インフルエンザと診断された場合で、症状が重い場合等には、3日間に限り、塩酸アマンタジン(シンメトレル)を1日100mg投与します。

A型インフルエンザという診断が間違いない場合(検査で陽性)には、塩酸アマンタジンの効果は抜群で多くの場合、高熱や主要症状が急速に軽快します。

A注意点

塩酸アマンタジンは、発症後48時間経ってしまうと効果が期待できませんので、症状が出たら早めに受診する事が大切です。

安易な投与で、抗生物質の乱用で抗生物質の効かない細菌が生まれたような過去の歴史を繰り返さないようにしなければなりません。また、抗ウイルス薬の投与が全てのA型インフルエンザウイルス感染症の治療に必須ではないことを踏まえ、本剤の使用の必要性を慎重に検討することが大切です。

B問題点

現在(平成12年1月)、A型インフルエンザウイルス迅速診断キットは需要に生産が追いつかず、使いたくても手に入らない状態が続いています。

医療費の高騰から、医療費をできるだけ低く押さえたい昨今の状況で、インフルエンザ疑いのある患者さん全てにこの検査を行うことは実際的ではありません。家族がほぼ同時に同じ様な症状で来院した場合には、代表者を1人検査することで、他の家族もインフルエンザと診断する事が可能ですが、爆発的な流行期でない場合は、症状からA型インフルエンザを正確に診断することは必ずしも容易ではありません。この問題点をどうするかが今後の課題と言えます。

Cこの後、A型インフルエンザにもB型インフルエンザにも有効で、耐性ができにくいノイラミニダーゼ阻害剤がまもなく発売されようとしております。インフルエンザの治療も2000年の到来と共に新しい時代に突入した様です。

 

:この薬剤は次のような特徴を持っています。

  1. ウイルスリボ核蛋白の宿主核内への侵入を阻止する事で、

選択的にA型インフルエンザの増殖を抑制する。

AB型インフルエンザには効かない

Bアマンタジン耐性のA型インフルエンザが高頻度に出現する

C中枢神経系の副作用(めまい、ふらつき、睡眠障害、幻覚など)が

見られることがある。