ヘルペスウイルスの増殖
@
吸着および侵入(fusion;融合またはendocytosisによる)A
脱穀(uncoating)BCD
ウイルスDNAの転写およびウイルス特異タンパクの段階的合成とその調節(cascade regulation)
E
宿主タンパクの合成阻害F
ウイルスDNAの複製G
ウイルス粒子の形成(nucleocapsid)H
ウイルス粒子の成熟(nucleocapsid+envelope)I
放出ウイルスが細胞に吸着し、細胞膜との融合または
endocytosis(viropexis)によって細胞質内に侵入・脱穀した後、 核内で増殖し、核膜をかぶって成熟する。ヌクレオカプシドが細胞質内の小胞膜をかぶって成熟する過程もある(CMV、HHV−6)。
培養細胞では、5〜6時間のエクリプス期(暗黒期)の後、感染ウイルスは対数的に増加し、
14〜16時間でピークに達する。
1.吸着・侵入、脱穀
HSV(単純ヘルペスウイルス)はエンベロープ上のgCで細胞表面のプロテオグリカン(へパラン硫酸)に吸着し、gB、gDおよびgHによりエンベロープは細胞膜と融合し、カプシドは細胞内へ侵入する。核融合により細胞質内に侵入したヌクレオカプシドは核膜孔近傍に移動し、脱穀が起こり、核膜孔を通じてウイルスDNAが核内に放出される。
2.ウイルスDNAの転写およびウイルス特異タンパクの合成・調節
ウイルスDNAは、細胞RNAポリメラーゼを利用して、転写される。ウイルス特異タンパクは、α―β―γの順に合成される(
cascade regulation)。これらのタンパクは抗原性があり、それぞれimmediate-early antigen(前初期抗原)、early antigen(初期抗原)およびlate antigen(後期抗原)とよばれる。
α遺伝子は
5個知られており、その転写は、タンパク質合成阻害剤存在下でも起こる。αタンパクは2〜4時間でピークに達する。HSVビリオン(感染性をもつ完全な粒子)テグメント(エンベロープとヌクレオカプシドの間のタンパク)中のαTIV(VP16)はα遺伝子にトランスに作用し、α遺伝子の転写を促進する。αタンパクはいずれも調節機能を持ち、β遺伝子を活性化、βタンパクの合成を促進する。
β遺伝子の転写は、αタンパクの合成が先行する必要があり、DNA合成阻害剤存在下でも起こる。βタンパクは感染後5〜7時間でピークに達し、主に核酸代謝およびウイルスDNAの複製に関与する。β遺伝子にコードされるタンパクは、@DNAポリメラーゼなどDNA複製に必須なもの
、Aチミジンキナーゼ(TK)、リボヌクレオチド・リダクターゼなどDNA合成に関与するが細胞の酵素でも代替できるものがある。@を欠く変異体は増殖できないが、Aを欠く変異体は増殖中の宿主細胞では増殖できる。
γ遺伝子は、ビリオンを構成するγタンパクをコードしており、その発現にはαタンパクおよびβタンパクの合成とDNA複製が必要である。しかし、γタンパクには、gB、gDおよび主要カプシドタンパクなど感染初期および後期を通して合成されるものがある。
3.ウイルスDNAの複製
ウイルスDNAは、TKとDNAポリメラーゼの遺伝子をもっている。ウイルスDNAは、感染3時間後より合成が始まり、9〜
12時間持続する。ビリオン内のDNAは線状であるが、感染細胞内では環状となり、ローリングサークル様式で複製される。
4.宿主タンパクの合成阻害
感染により、宿主細胞の高分子阻害は阻止される。
5.ウイルス粒子の形成・成熟、放出
カプシドを構成するタンパクは、細胞質で合成され、核に移動し、核内でカプシドを形成する。ローリングサークル様式で複製したDNAはゲノム単位に切断され、カプシドにパッケージされてヌクレオカプシドが形成される。核内のヌクレオカプシドは核膜を被り一度核膜外腔に出た後、再び細胞質に侵入、テグメントを獲得し、ウイルス糖タンパクでで修飾された細胞膜を最終的にエンベロープとして被り、空胞内に出芽、細胞外へ放出される。
6.宿主細胞の変化
感染細胞には核膜封入体の形成と膜の変化がみられる。
感染初期の封入体はDNAに富み(HE染色で青色)、大きく(宿主細胞のクロマチンを核周辺部に圧排、核内大部分を占拠)、ウイルス抗原を含む(蛍光抗体染色陽性)。
感染後期の封入体はDNAを失い(HE染色でピンク)、核辺縁部の宿主クロマチンとの間に
haloを生じ、ウイルス抗原を含まない(蛍光抗体染色陰性)。