これらの薬剤を2〜4種類組み合わせて服用する。
モノテラピーからコンビネーション・テラピーへ
HIV感染症(エイズ)は2〜3年前までは薬による治療が難しい、と思われていました。しかし治療薬が無かったわけではありません。HIVが発見されたわずか4年後にAZTという薬剤が使われ始めました。この薬は、HIVが細胞の中で増殖する時に必要な逆転写酵素の働きを強力に阻止することでHIVの増殖をストップするもので、病気の進行が抑えられるのではないかと期待されました。実際にAZTのおかげで、減少していたCD4陽性細胞.が回復した例も多く見られました。しかし、半年以上飲んでいると、身体の中のHIVが薬剤に効かなくなる「耐性ウイルス」に変異してしまうために、薬剤の効果は薄まってしまうことが分かりました。しばらくして、AZTと同じようにHIVの逆転写酵素を阻止する働きのある薬剤がぞくぞくと開発され、それらを2種類(AZTとddIなど)併用することで以前より効果があがるようになってきました。しかしこの併用療法にも限界があり決定的な方法とはなりませんでした。そこに登場したのが全く新しい薬剤であるプロテアーゼ阻害剤です。この薬は、細胞の核のDNAの中に潜りこんだHIVの遺伝子が目を覚まし、新しいHIVをたくさん作り出す時に効きます。AZTなどの逆転写酵素阻害剤がHIVの増殖の前半に効くのに対して、プロテアーゼ阻害剤は後半に働くわけです。
上の図は現在日本で認可されている抗HIV剤です。4年ほど前から米国で試み始められた方法ですが、逆転写酵素阻害剤を2種それにプロテアーゼ阻害剤を1種組み合わせて(例えばAZT+ddI+インディナビル)飲むと、血液中のHIVの量を劇的に、時には検出できる限界以下にまで抑えることができることが分かったのです。このような複数の薬剤を服用する治療法を「カクテル療法」とか「コンビネーション・テラピー」と呼んでいますが、薬剤の組み合わせもより治療効果の高いものをめざして試行錯誤が繰り返えされています。
薬剤耐性ウイルスとの戦い
変異が激しく起こることで知られているHIVは、薬剤があってもその増殖が抑えられないウイルスつまり耐性ウイルスがすぐに出現してしまいます。これは逆転写酵素阻害剤でもプロテアーゼ阻害剤でも同じです。どちらかと言えば、プロテアーゼ阻害剤の方が服用期間が短くても耐性ウイルスが出来てしまいます。
それでは、どの様に耐性ウイルスの出現を避ければよいのでしょうか?HIVの変異はHIVが増殖しない限り起きません。HIVの増殖とはどんな過程でしょうか。HIVが細胞(CD4陽性細胞)にくっついて(感染)細胞の中に入り込み、HIVのRNAは逆転写酵素の働きでDNAに変換され細胞の核内のDNAの中に入り込みます。さらにある刺激が眠っているHIVのDNAに働いて、HIVの再生産が始まります。HIVを作るメッセンジャーRNAはHIVの部品を作る指令を出し、大きな蛋白の材料が出来、それをプロテアーゼが切断しHIVを組み立てていきます。組み立てられたHIVは細胞の外に放出され、新たに感染していない細胞へ感染を広げていきます。このHIVの増殖がおこるたびに少しずつ違うウイルスが出来ます。耐性ウイルスもHIVの増殖の結果作られます。つまり、HIVの増殖が起こらなければ、変異ウイルス(耐性ウイルス)は出来ないということです。
中途半端なカクテル療法は危険
HIVの増殖をとことん抑え込むと、耐性ウイルスも出現しないし、CD4陽性細胞も減らないのです。そこで、カクテル療法を行っても、中途半端な効果しか現われないような場合つまりHIVの増殖が起こる場合は、すぐに耐性ウイルスが出来てしまい、治療がつづけられなくなるという問題が起こってきます。さらに、ある薬剤に対して一度耐性ウイルスが出来ると、このウイルスは長期間体内に存在してこの薬が使えません。ですから、適切な薬剤を選び、飲むときは決められた用量をきちんと守り毎回まじめに飲むことが必要になります。また過去に服用した薬剤が耐性を起こしている可能性が考えられるので充分注意する必要があります。