細胞生物学グループワーク(G7

99037 児玉知里

99038 財津亜友子

99039 酒井智弘

99040 坂本裕司

99041 榮雅子

99042 坂本真紀

98007 石田慎悟

 

 

G.I.O

アデノウイルスの形態と構造を理解し、そこから生じる症状を調べることで将来の医療に役立てる。

 

S.B.O

  1. ウイルス粒アデノ子について説明できる。
  2. ヒトアデノウイルスについて分類できる。
  3. 宿主域について説明できる。
  4. 遺伝子地図について説明できる。
  5. 増殖について説明できる。
  6. ヒトアデノウイルスについて説明できる。
  7. 実験室診断について説明できる。
  8. 疫学について説明できる。
  9. 予防について説明できる。
  10. 腫瘍形成について説明できる。
  11. 異種ウイルスとの相互作用について説明できる。

 

.アデノウイルス粒子

1.形態

直径80〜90nm,正20面体,エンベロープをもたないビリオンで,超薄切片の電子顕微鏡像では,中心部(芯core)と外殻とに区別できる.陰性染色の電子顕微鏡像では,カプシドは252個のカプソメアから構成される.

三角形の20の面と稜を形づくるのは240個のヘキソンであり,それぞれの周囲は6個の他のカプソメアが取り囲む.20面体の12のかどは、それぞれアンテナ様の線維(突起)をもつカプソメア(ペントンpenton)が占める.ペントン線維の長さは,亜群によって異なる.ペントンカプソメア(ペントンベース)は5個のヘキソンhexonによって囲まれる.

 

アデノウイルスの一般性状

正20面体

直径80〜90nm

252個のカプソメアと12本のペントン線維をもつ,12種のビリオン構成タンパク

分子量(2.0〜2.5)×107Daの二本鎖線状DNA(塩基対36〜38kbp)

エーテル耐性,すなわち脂質をもたない

属特異的共通抗原をもつ細胞の核内で増殖する

細胞の核内で増殖する

 

 

2.構成成分

ビリオンはDNAとタンパクから構成され,脂質を含まない.DNAはcore(芯)に存在し,分子量(2.0〜2.5)×107Da,塩基対36〜38kbpの二本鎖線状の分子である.塩基配列が明らかにされているのは,ヒトアデノウイルス2,5,7および12型である.DNAは,5′端のそれぞれに55kdタンパク(末端タンパク)が共有結合しており、それだけで感染性を有する。

ウイルス粒子を構築するタンパクは11−15種類ある。そのうち6種類は、カプシドを、2種(塩基性タンパク)はDNAとともに芯を構成する。それぞれのヘキソンは、3分子のポリペプチドUによって構成される。それぞれのペントンベースは5分子のポリペプチドVから、ペントン線維は3分子のポリペプチドW(糖タンパク)からなる。ポリペプチドVa、Y、[、\は、ヘキソンとペントンを“のりづけ”している。このカプシドに包まれた芯には、ポリペプチドX、ZがDNA(両端に55kDaタンパクが1分子ずつ共有結合)と複合体をつくる。

完全なウイルス粒子

各ユニットの構造と配置

 

 

形態学的構造(局在部位)

ポリペプチド(分類)

ポリペプチド(分子量)

ヘキソン

U

120000

ヘキソン関連タンパク

Y

24000

ヘキソン関連タンパク

[

13000

ヘキソン関連タンパク

\

14000

ペントンベース

V

85000

ペントン線維

W

62000

ペントン関連タンパク

Va

66000

芯(コア)

Z

18500

芯(コア)

X

48000

芯(コア)

μ

4000

芯(コア)

末端タンパク

55000

ヒトアデノウイルスU型粒子の構成タンパク

 

 

3.抵抗性

感染細胞のホモジネート中では比較的安定で、4℃で数週間,−25℃で数か月問,感染性が失われない。エーテルに耐性,56℃,30分間加熱で不活化される。ラウリル(ドデシル)硫酸ソーダ,ホルマリン,塩素剤,紫外線などによって不活化される.pH3〜9で比較的安定だがPH2およびpH10で不活化される.このような安定性のゆえに,アデノウイルスは,胃酸,胆汁酸・膵液のプロテアーゼなどに抵抗して腸管に達し,そこで増殖することができる.

 

4.抗原性

ペントン線維の抗原γに対する抗血清は,ウイルス血清型持異的なHI抗体であり,また中和抗体である。ヘキソンの抗原εも型持異的であり,抗体の結合によりウイルスは感染力を失う。ヘキソンの抗原決定基αは,Mastadenovirus属に共通の抗原であり,ウイルス粒子中では外側に露出していない.ペントンカプソメアの抗原決定基βは亜群(後出)特異的であり,抗体の結合によりHAの促進が起こる. 感染細胞およびアデノウイルス誘起癌細胞(トランスフオーム細胞)には,蛍光抗体法,補体結合反応,ウエスタンブロット法,免疫沈降法などによって検出されるいわゆるT抗原(58kDa,38〜50kDaおよび17kDa)(主としてE1AおよびE1B領域の産物)が出現する.ヒトアデノウイルス12型トランスフオーム(癌)細胞に腫瘍持異的移植抗原が出現する.

 

Bヒトアデノウイルスの分類

1.DNAの相同性による分類

ヒトアデノウイルスの49の血清型は,DNA−DNAハイプリッド形成法によるDNAの相同性の程度によって,A〜Fの6つの亜群に分類される。各亜群内の型間では85%以上の相同性がある(A亜群内およびF亜群内の型間では相同性がやや低い).一方,異なる亜群の型間では23%以下である。

 

ヒトアデノウイルスのDNA相同性による分類

亜属(亜群)

ウイルス血清型

ウイルスDNAの相同性(%)

亜群内

亜群間

A

12,18,31

4859

820

B

3,7,11,14,16,21,34,35

8994

920

C

1,2,5,6,

99100

1016

D

810,13,17,19,20,2230,32,33,3639,42

9499

417

E

4

100

423

F

40,41

6269

1522

 

 

2.HAによる分類

アデノウイルスはHA反応を起こす.HAはペントン線維が赤血球に吸着することによって,血球どうしが結びつけられることによる.

赤血球の種類や反応の程度によって,4群に分類する。

 

ヒトアデノウイルスのHAのよる分類

HAグループ

 

血清型

T

サル赤血球の完全凝集

37111416213435

U

ラット赤血球の完全凝集

8910131517192022303233363942

V

ラット赤血球の不完全凝集

125644041

W

非凝集

121831

 

3.腫瘍原性による分類

新生ハムスターに対して,強腫瘍原性,弱腫瘍原性,非腫瘍原性の3グループに分類される。

 

4.皿清型別

型持異的抗血清(抗原の項参照)によるHT反応または型特異的血清による中和反応を用いて型別する.

 

C.宿主域

ヒトおよび動物のアデノウイルスは,それぞれ固有の宿主をもつ.自然宿主以外の動物には自然感染しない.ヒトアデノウイルスのいくつかの血清型は,ウサギヘの静脈内接種,ハムスター,モルモットおよびイヌヘの経鼻接種によって実験的不顕性感染を起こさせることができる.ウサギとヒトアデノウイルス5型の組合せでは,接種6か月後も脾にウイルスは潜伏残存し,脾細胞を組織培養するとウイルス増殖が誘発されるという.

ヒトアデノウイルスの少なくとも9つの型およびサル,ウシ,イヌおよびトリのアデノウイルスのいくつかは,新生ハムスターに接種すると腫瘍形成を誘発する.

培養細胞の感染においては,ヒトアデノウイルスは,ヒトの上皮性細胞(HeLa細胞,KB細胞,ヒト胎児腎初代細胞など)でよく増殖し.ヒトの線維芽様細胞(WI38細胞その他のいわゆるヒト2倍体細胞)での増殖はやや悪い・ヒトアデノウイルス40型,41型には特殊な細胞株(Graham293細胞など)が用いられるハムスター,ラット,マウスなどの細胞では,ヒトアデノウイルスの多くは不稔感染を起こしT抗原の産生はあるが,ウイルスDNA複製はなく,したがってウイルス粒子の産生に至らない。ヒトアデノウイルスは,アフリカミドリザルの腎細胞に不稔感染を起こすが,この場合はT抗原の産生およびウイルスDNAの複製は起こるが、一部のウイルス粒子タンパクが少量しか産生されないために,ウイルス粒子の産生量が,極端に少ない.

 

.遺伝子地図

初期および後期の遺伝子の合計14領域がある.それらのほとんどが複数種のタンパタをコードする.遺伝子領域と転写の方向を図に示す.初期遺伝子はr鎖(右方向転写)に4領域(E1A,E1B,EL,E3),l鎖(左方句転写)に3領域(E4,E2A,E2B)の合計7領域がある.ほとんどの初期領域は独自のプロモーター(RNAポリメラーゼに指令してDNAに結合させ、DNA二重らせんを開かせ、Rna分子の合成を開始させる特定のDNA塩基配列)から,細胞のRNAポリメラーゼUによって転写される.各領域の転写産物はスプライスの違いによって複数種のmRNAとなり,それぞれのタンパクに翻訳される.E1AおよびE1Bは癌遺伝子を含む.EIAの機能はまた他の初期遺伝子の転写を促進する.

後期遺伝子領域はLl〜L5の5領域でいずれもr鎖上にある.共通の(後期主要)プロモーターを利用して長い1本のRNAに転写され,プロセッシングを受けてLl〜L5の領域のmRNAとなる.L2はペントンカプソメアとコアタンパク,L3はヘキソンタンパク,L5はペントン線維タンパクを規定する.

 

 

E.増殖

アデノウイルスは自然宿主由来の細胞に感染して増殖し細胞を殺す(CPE).増殖過程は,ウイルスDNAの複製開始の時期を境にして,初期と後期とに分けられる.

宿主細胞への吸着はペントン線維を介するとされる.不明の過程で細胞質に侵入してペントンがはずれ,芯が細胞核の中に入る.

核内でウイルスDNAから細胞のRNAポリメラーゼUによって初期遺伝子領域が転写される.初期mRNAは細胞質で初期タンパクに翻訳される.その結果,核内にT抗原,細胞表層に細胞殺傷性T細胞(CTL)の標的エピトープが出現し,DNA合成およびデオキシヌクレオチド合成に関連した主として細胞起源の諸酵素の活性上昇が起こる.感染7〜10時間後に,ウイルスDNAの複製が始まる.子ウイルスDNAの一部は,後期遺伝子領域の転写の鋳型となる.後期mRNAは細胞質で翻訳される.産生された後期ポリペプチドのほとんどは,ウイルス粒子構成タンパクである.子ウイルスDNAとこれらのタンパクは、核内でウイルス粒子に組み立てられる.粒子構成タンパクは余剰につくられ,粒子に構築されるのはその一部(約1/10)とされる.感染後30〜40時問になると,細胞核当たり10000個の粒子(約100〜1000感染価)がつくられ,やがて細胞は融解して,細胞外にウイルスが放出される.

アデノウイルス感染細胞は,ウイルスの増殖の過程で円形化し,ぶどうの房状に凝集するいう独得の形態学的変化を示す。核内には好塩基性の封入体が出現する。感染細胞の解糖が高まり,培地が酸性化することも特徴的である。

 

F.ヒトアデノウイルス感染症

ヒトアデノウイルスの型の約1/2が,急性感染症を起こしうる.潜伏期間はウイルス量によって異なるが普通5〜8日である.アデノウイルスの感染は多くの場合不顕性である.発病しても自然治癒しやすい.5歳以下の子供の急性気道感染症の5%(成人の場合は1%以下)がアデノウイルスによると報告されている.乳幼児の急性胃腸炎の約10%は,40型または41型による.眼の感染症はアデノウイルスによるものが多い(いくつかの型).

ウイルスは飛沫,接触によって上気道や眼の粘膜細胞に感染し,増殖する.増殖したウイルスは嚥下されて小腸の粘膜でも増殖し,糞便中に大量に排出される.ウイルスは局所リンパ節に運ばれて,そこでも増殖するが,ウイルス血症を起こすには至らない。リンパ組織に侵入したウイルスは長期間潜伏感染する(1,2,5、6型).他の多くの気道ウイルス感染症とは対照に,アデノウイルスの感染は,再感染に対しウイルス型特異的免疫を残す.

 

1)急性熱性咽頭炎

乳幼児に散発する.1,2,5型,比較的まれに6,7型.

2)咽頭結膜熟

幼児,学童の夏期キャンプ,水泳などに際して集中的に起こる結膜炎(プール熱とよばれことがある)で,咽頭炎,発熱,倦怠感を月ことが多い.3,7型,まれに1,2,4,6・14型。医療従事者に集中発生することもある

 

3)急性濾胞性結膜炎

成人に散発,軽いかぜ様症状を伴う.3,7,14,ときに1,2,5,6,9,10型.

 

4)流行性角結膜炎

伝染性が強く比較的重篤.濾胞性結膜炎で始まり,角膜炎に進展し,重篤例では視力障害を残す.塵埃や小外傷が誘引となる.そのような機会にさらされる造船所などの工場の労働者に発病の機会が多い.しばしば集団発生する.医療従事者(眼科)の手指,器具(とくに眼圧計),タオル,点眼薬を介して感染することがあり注意を要する.8,19型,最近では37型,ほかに3,7,11型.

 

5)急性気道疾患(ARD)

発熱,咽頭炎,頸部リンパ節炎,咳,倦怠感などを症状とする.冬期乳幼児に多発するが大きな流行はない.新兵の訓練キャンプで集団発生するといわれる(新兵熱).4,7型が多く,ときに3,11,14,21型.

 

6)肺炎

冬期に乳幼児に散発する.乳幼児の肺炎の約10%がアデノウイルスによる.しばしば重篤で致死的である.3,7型が多いが,多くの型で起こりうる.腎移植などに際しての免疫抑制時やエイズ(AIDS)患者に,4,7,34,35型による致死肺炎が報告されている。

 

7)胃腸炎

乳幼児に好発する急性胃腸炎で,8〜12日間続く下痢を主症状とする.約20%に上気道症状を伴う.ウイルスの糞便への排出は10〜14日間持続する.乳幼児の急性胃腸炎の5〜20%を占め,ロタウイルス感染症についで多い.年間を通じて発生する.40,41型によって起こる.

 

8)急性出皿性膀胱炎

男性の幼児,学童に好発,血尿を主徴とする.11,21型.

そのほかに,子宮頸部炎(37型).百日咳との関連.軽い腹痛を主徴とする腸間膜リンパ節炎は原因不明の軽い疾患であるが,ときに小児腸重積症を伴い,アデノウイルスの関与が疑われる.髄膜脳炎,心筋炎,発疹などの全身感染が,乳幼児や免疫抑制患者に発生すると報告されている(7,34,35型).

 

9)免疫抑制とアデノウイルス感染

致死的症例が少なくない.肺炎,肝不全がおもな原因である.重症複合免疫不全の小児ではA,B,C亜属のウイルスが検出される.臓器移植やエイズ(AIDS)患者の尿に11,34,35型がしばしば検出される.これらのウイルスが外から侵入したのか,潜伏ウイルスの活性化なのかは明らかではない.

 

G.実験室診断

1ウイルス分離

咽頭拭い1液,うがい液,結膜ぬぐい液,糞便、尿の沈渣、陰部の分泌物などを病状に応じて採取して,ウイルスの分離培養や抗原、DNAの検出を行う.アデノウイルスのビリオンは比較的安定であり,また凍結融解にも耐えるので,ただちに培養できない場合は−70℃に凍結する. ウイルス分離用の細胞としては,ヒトの上皮性細胞を用いる.ヒト胎児腎の初代または2代細胞がもっとも感受性が高い.ついで,細胞株のHeLa,KB,HEp−2,Graham293細胞などを用いる.血清型40,41にはGraham293細胞を用いる.アデノウイルスの増殖に特異的なぶどうの房状のCPEを目安とする.アデノウイルスの増殖は比較的緩慢なので,約1か月間の観察が必要である.CPE陰性の場合は,培養を凍結融解後,新しい細胞に接種し(めくら継代),さらに1〜2週間観察する.特徴あるCPEのほかに,培養液の高度の酸性化,好塩基性の核内封入体も目安となる.ウイルスが分離されたら,蛍光抗体法による感染細胞の観察,補体結合反応による培養中の抗原の検索,HAによるグループ分けを行う.標準抗体による感染価中和試験,またはHIにより,型を同定する.ELISAやラテックス凝集法も利用される(腸内感染の40,41型と他の型との鑑別). 分離ウイルスの疾患における意義づけは,採取した材料によって異なる.眼,陰部,肺,脳からの分離は意義がある.気道疾患患者の咽頚からの分離は示唆的である.糞便からの分離の意義はかなり低い.

 

2.血清診断

感染個体の血清中には,抗体が出現する.補体結合反応,中和反応,HI反応を用いて抗体価を測定する.急性期から回復期にかけ4倍以上の上昇があれば,そのとき感染があったと判断する.補体結合抗体は,いずれの型にも共通して検出できるので,これを検出したのち,中和またはHT抗体(HIは血清中のインヒビターを除去してから行う)を測定して型の鑑別を行う。

 

H.疫学

ヒトアデノウイルスはヒトを唯一の自然宿主とする.飛沫,接触,眼の分泌物,糞便を介してヒトからヒトへと伝播する.安定なウイルスなので,汚染された水泳プールは,咽頭結膜熱および結膜炎の集団発生の感染源となる.角結膜炎は眼科器具,手拭いなどを介して伝播する.流行性角膜炎は,粉塵による小さな外傷が誘因となる.

文明国では,すべての気道感染の2〜5%,子供の肺炎の8%,子供の下痢の5〜10%が,それぞれアデノウイルスによって起こるとされる.多くの子供は3歳までに,1,2,5型および40,41型に感染する.感染後,ウイルスは数週間にわたって,糞便中に排出される(とくに1,2,5型).学齢期前後に3,7型に感染する.分離される全アデノウイルスの85%がこれらの血清型で占められる.

 

I.予防

4または7型の経口生ワクチン(カプセルに封入)がヒトに対して有効であり,米国では新兵の集団に用いられている.しかし一般社会での流行は小規模なので,ワクチン投与は実際的ではない.

アデノウイルスは広く不顕性感染しているので,患者の隔離はとくに重要ではない.水泳プールの消毒はいわゆるプール熱の発生を予防する.眼科では医療器具,手指,タオルの消毒は完全に行う必要がある.

 

J.腫瘍形成

1962年,Trentin,矢部およびTaylorはヒトアデノウイルス12型を新生ハムスターに接種すると,未分化の肉腫が形成されることを発見した.ヒト由来のウイルスに発癌性が認められた最初の例である.現在ではヒトアデノウイルスのさらにいくつかの型および勤物由来のいくつかのアデノウイルスが,その自然宿主以外の動物,主としてハムスター,マウス,ラットなどに実験的に腫瘍をつくることが知られている。

ヒトアデノウイルスは新生ハムスターに対する腫瘍形成能の程度によって3つのグループに分類される.強腫瘍原性(12,18,31型),弱腫瘍原性(3,7,14,16,21型),非腫瘍原性(1,2,4,,6,8〜10,13,15,17,19,20,22〜30型)である.腫瘍原性の有無にかかわらず,培養細胞をトランスフオームする能力をもつ.ヒト以外の動物のアデノウイルスで,ハムスターに対して腫瘍原生の認められるものは,サルアデノウイルスのSA7を含む11の血清型,ニワトリアデノウイルスのCELO,ウシアデノウイルスの3,8型およびイヌアデノウイルスである.

アデノウイルスによって発生した腫瘍細胞およびトランスフオーム細胞には,感染性ウイルスは存在しない.しかしウイルスDNAの一部が細胞のクロモゾームのDNAに組み込まれた型で存在しており,早期遺伝子(ヒトアデノウイルスではとくにE1A,E1B)の機能発現がある.腫瘍細胞中には,持異的T(tumor)抗原(主としてE1A,E1Bの産物)が存在する.前述のようにT抗原はウイルス増殖性感染の初期にもつくられる.アデノ腫瘍を担った動物の血中には,T抗原に対する抗体が出現する.

ヒトの腫瘍にアデノウイルスのDNA,mRNAまたはT抗原を検出する試みは,広範になされたがすべて陰性であった.アデノウイルスはヒトに対しては発癌性はないと考えられている.

 

K、異種ウイルスとの相互作用

1.アデノ−SV40合の子ウイルス

ヒトアデノウイルスとSV40との問の組換え巨の存在が知られている.ヒトアデノウイルスは、サル腎細胞では不稔感染になるが,SV40との同時感染では,アデノウイルスの増殖が完全となる.SV40のT抗原が、ヘルパーとしての機能をつかさどる.

このSV40の初期遺伝子の全部または一部を含むDNAが,アデノウイルスのDNA中に組み込まれて生じた合の子ゲノムを,アデノウイルスのカプシドが包み込んだ形態的にはアデノウイルスとまったく同じ粒子が発見され,アデノ−SV40合の子ウイルスとよばれている.このウイルスは独力でサル細胞中で増殖することができる.

アデノウイルスの増殖に必要なアデノウイルス側のDNAの一部が欠失した合の子のウイルスもあり,この場合はSV40側からヘルパー機能が提供されても,独力ではサル細胞中で(およびヒト細胞中でも)増殖できないが,完全なアデノウイルスをへルパーとして同時感染させれば増殖可能となる.

 

2.アデノ衛星ウイルスのヘルパーとしてのアデノウイルス

アデノ衛星ウイルスは、それ自身では増殖できないウイルスであるが,アデノウイルスとの同時感染では増殖可能である。アデノ衛星ウイルスにはDNA合成に必要な機能が欠損しており,アデノウイルスの初期機能によって代償される。

 

参考文献

戸田新細菌学、南山堂、天児和暢、南嶋洋一、1997年、31

 

リンク

アデノウイルスについて更に詳しく知りたい人はこちらをご覧ください。

http://www.virology.net/Big_Virology/BVFamilyIndex.html