細菌の示す化学走化性について

 

≪9班≫

99049 白浜 奈津子 99050 関塚 友美

99051 田中 敦史 99052 田中 智和

99053 副島 幸子 99054 竹之下 ふみ

 

 

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細菌の化学走化性について、具体的な例とそのメカニズムを調べそのしくみを理解する。

 

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1.走化性について説明できる。

2.走化性因子について説明できる。

3.鞭毛について説明できる。

4.タンブリングについて説明できる。

5.走化性受容体について説明できる。

6.細菌の走化性で見られる適応現象について説明できる。

 

CONTENTS

走化性とは

走化性 chemotaxis 土壌中に生存する植物病原菌は一般に植物の根から分泌される化学物質に誘引され、根の方向に伸長すると見られいる。このように化学物質に向かって伸長していく性質を走化性という。多くの菌では栄養源などの広い種類の物質に対して誘引される。走化性は菌が土壌中で植物体に到達する機構を説明する重要な性質である。

 

走化性因子とは

走化性因子 chemotactic factor 細胞に方向性のある運動を誘起する化学物質を言う。白血球だけでなく、癌細胞、線維芽細胞、精子、細菌などに対する走化性因子も知られている。細胞の走化性は、因子が細胞膜上の受容体に結合し、運動に係わる細胞内小器官(微小線維、微小管など)の集合体をひき起こして起こされるとされ、受容体に結合する因子の多い奉公、すなわち因子の濃度勾配に従って運動する。多くの走化性因子は濃度勾配が存在しない場合には、細胞の無方向性の運動を誘起する。また、白血球からのリソソーム酵素の遊離や活性酸素の生成などを起こす作用もある。走化性因子は炎症局所への白血球の動員を起こす物質と考えられ、白血球の種類別に選択性のある因子が多数知られている。代表的な因子としては、補体第5成分の分解産物C5a、免疫グロブリンの分解産物リウコエグレシン、リンフォカイン、肥胖細胞由来のECF-A、細菌由来のフォルミルペプチド、アラキド酸代謝系のロイコトリエンなどがある。 (=遊走因子)

 

化学走化性の具体例

白血球細胞

白血球細胞(好中球)の表面には受容体タンパクがあり、細菌タンパク由来のN−ホルミル化ペプチドをごく低濃度で感知できる。(原核生物のみがタンパク合成をN−ホルミルメチオニンから開始する)。好中球は、この拡散性ペプチドの濃度が細胞の両端でわずかに1%濃ければ標的に向かって移動することができる。

 

キイロタマホコリカビ(Dictyostelium discoideum)

キイロタマホコリカビは真核生物であるが、これは森の下生えなどに単独の運動性細胞(アメーバ)として生存し、細菌や酵母を食べ、至適条件下では数時間ごとに分裂する。えさがなくなると分裂をやめ、集合して小さな(12mm)多細胞のイモムシ状の構造を作り、粘液の痕跡を残しながらナメクジのようにはい回る。この移動体は動きながら細胞の分化を始め、凝集が始まってから約30時間で、柄と子実体(fruiting body)からなる小さな植物のような構造を作る。子実体にはたくさんの胞子があり、極端に苛酷な環境下でも長期間生き残れる。胞子は条件が良くなると発芽してアメーバを生じ、このサイクルを再開する。

キイロタマホコリカビのアメーバは、栄養を絶たれたアメーバが分泌する環状AMPに反応し、その発生源に向かって移動し、集合する。アメーバは好中球のように誘因物質の勾配にしたがって向きを変え、濃度の高いほうに移動する。マイクロピペットからもみ出すように環状AMPを与えると、アメーバはアクチンを含む突起をピペットの中に直接のばす。この実験は、真核生物が走化性を示すとき、誘因物質の濃度勾配を直接感じていることを示している。これとは対照的に、細菌の走化性は第15章で述べたように、濃度勾配を探知するのに、時間による濃度変化を利用している。

キイロタマホコリカビの環状AMPに対する細胞骨格の反応は、アメーバを環状AMPで刺激し、直後に細胞抽出液を作って調べると分かる。環状AMP添加後5〜10秒間はアクチン重合が急激に起こる。これは培養基質上で細胞が平たくなるのに要する時間に相当する。20〜40秒の間はアクチンが脱重合し細胞は丸くなる。次いでアクチン結合タンパクが水溶性のプールから細胞骨格に結合しながら、アクチンの重合の長い時間にわたって起こる。この時期になると環状AMPに反応した細胞は葉状仮足などのアクチンに富む突起をのばし始める。

 

 

上図:キイロタマホコリカビのアメーバが示す走化性。

左下図:キイロタマホコリカビの子実体の光学顕微鏡写真

右下図:細胞性粘着キイロタマホコリカビの移動体の光学顕微鏡写真

 

細菌の走化性のメカニズム

細菌の走化性のメカニズム1

細菌は鞭毛を使って泳ぐが、細菌の鞭毛は真核細胞の鞭毛とはまったく異なっている。細菌の鞭毛は、フラジェリンとよばれる1種類のタンパクサブユニットがらせん状に配列した管である。各鞭毛の基部には短くて動きやすいフックがあって、細胞膜にある小さなタンパク質の円盤に付着している。この円盤は小さなモ−タ−の一部で、膜内外のH 勾配に蓄えられたエネルギ−を使って、らせん状の鞭毛を高速で回転させたり、方向転換させたりする。

細菌表面の鞭毛にはらせんの巻き方に向きがあるので、鞭毛の回転方向によって違った動きになる。反時計回りに回転すると鞭毛は束状に集まるので、細菌は一方向へなめらかに動くが、時計回りに回転すると鞭毛がばらけて、方向性のない動きしかできなくなる。環境から特別の刺激がないときには数秒ごとに円盤の回転方向が逆転しており、その結果細菌は直線状になめらかに泳いでは突然向きを変える(タンブリング)という特徴のある泳ぎ方をしている。

細菌の泳ぎ方は、誘引物質や忌避物質によって変化する。これらの物質は特異的な受容体タンパクに結合し、鞭毛の回転方向を切り換える間隔を増減させ、タンブリング頻度を変える。細菌が好ましい方向(高濃度の誘引物質に近づく方向、あるいは高濃度の忌避物質から遠ざかる方向)へ泳いでいる間は、不都合な方向に泳いでいるときや濃度勾配がないときよりもタンブリング頻度が下がる。つまり、細菌が好都合な方向に泳いでいるときのほうがなめらかに泳ぐ時間が長くなるので、結局誘引物質に近づいたり、忌避物質から遠ざかったりできるのである。

 

 

左図:サルモネラ菌はセリンを含むガラス毛細管には誘引される。

右図:サルモネラ菌はフェノールを含む毛細管からは逃避する。

 

 

 

細菌の鞭毛のモーターの模式図

鞭毛は自由に曲がるフックに、フックは一連のタンパク質のリング(図中赤色) に結びついている。タンパク質リングは細胞の外膜と内膜(細胞膜)に固定されて、毎秒150回転ほどの速さで鞭毛とともに回転している。

 

細菌の走化性のメカニズム2

いろいろな化学物質に対する走化性は少数の近縁な膜貫通型受容体により、この受容体が膜越しにシグナル伝達を行う。この走化性受容体は適応反応の際メチル化されるので、メチル基結合走化性タンパクともいう。受容体の活性は忌避物質濃度の上昇によって促進され、誘引物質濃度の上昇によって抑制される。1個の受容体が、反射の効果をもたらす2種類の分子の両方から影響を受ける。

膜貫通型走化性受容体には4種類あり、それぞれ一群の化学物質に対する応答に関与している。このうち1型と2型の受容体はそれぞれセリンとアスパラギン酸に直接結合して、結合したことを細胞内シグナルに変換し、これらのアミノ酸に対する応答を仲介している。3型と4型の受容体はそれぞれ糖とジペプチドに対する応答を間接的な方法で仲介する。

 

 

 

いろいろな走化性受容体

化学誘引物質は、直接細胞膜の1型あるいは2型走化性受容体タンパクに結合 するかペリプラスム内(細菌の外膜と細胞膜の間)の基質結合タンパクを介して3型、4型の受容体に結合する。誘引物質が走化性受容体に結合すると受容体の活性を低下させ、細胞内のシグナル伝達連鎖反応を遮断し、鞭毛モーターを連続的に反時計回りに回転させつづける。その結果、タンブリングはおさえられ、なめらかな泳ぎが続く。

 

走化性受容体を鞭毛モ−タ−に結びつける細胞内シグナル伝達経路には4種類の細胞質タンパクCheA、CheW、CheY、CheZが関与している。CheYは伝達経路の最後で働き、鞭毛の回転方向を調節する。具体的には、活性化するとモ−タ−に結合してそれを時計回りに回転させ、タンブリングを引き起こすのである。CheAはヒスチジンタンパクキナ−ゼである。CheAは活性化した走化性受容体とCheWの両方に結合すると、自身のヒスチジン残基をリン酸化し、ほぼ即座にそのリン酸をCheYのアスパラギン酸残基に転移される。CheYのリン酸化により受容体タンパクが活性化し、これが鞭毛モ−タ−に結合して時計回りの回転やタンブリングが起こる。CheZには脱リン酸化を促進する働きがあり、リン酸化したCheYをすみやかに不活性化する。

 

走化性受容体に鞭毛モーターの調節機能を与えるリン酸化中継系

忌避物質が結合すると走化性受容体の活性が高まり、受容体はCheWCheA結合する。それによってCheAを刺激して自己リン酸化させる。CheAはすばやく共有結合している高エネルギーリン酸を直接CheYに移してCheY−リン酸にする。CheY−リン酸は鞭毛モーターに結合して、それを時計回りに回転させるので、結果としてタンブリングが起こる。誘引物質の結合はこれと逆の効果がある。受容体の活性を低下させ、そのためCheACheYのリン酸化が抑制される。その結果、鞭毛は反時計回りに回転し、細菌はなめらかに泳ぐ。CheZCheYの脱リン酸化を促進して、これを不活性化する。リン酸化された中間物質はそれぞれ約10秒で崩壊するので細菌は環境の変化にとてもすばやく反応できるのである。

 

忌避物質が走化性受容体に結合すると受容体の活性が上昇し、それが次にCheAの活性を上昇させてCheYのリン酸化を促進し、それによりタンブリングが起こる。このリン酸化は短時間で起こる。忌避物質を与えたあとのタンブリング応答に必要な時間はおよそ200ミリ秒である。誘引物質の結合は反対の効果をもたらす。受容体の活性を低下し、それによりCheAの活性も低下するためCheYは脱リン酸化したままとなり、鞭毛モ−タ−は反時計回りに回転し続けて細菌はなめらかに泳ぐ。

 

細菌の走化性のメカニズム3

細菌の走化性でみられる適応現象は、走化性受容体タンパクの共有結合的メチル化によって起こる。変異によってメチル化が起こらなくなる適応も大きく阻害され、こうした変異株に誘引物質を投与すると、いつもは1分程度なのに何日間もタンブリングが抑制されたままになる。つまり、走化性受容体への誘引化学物質の結合により、2つのことが起こるのである。@結合により受容体の活性がすみやかに低下し、それによりCheAとCheYの活性が低下して鞭毛モ−タ−が反時計回りに回転し続ける。こうしてタンブリングが抑制される。A結合が適応を引き起こす。これは、受容体が誘引物質と結合する一方で細胞質内の酵素によってメチル化され、それが数分かけて受容体の活性を上昇させるためである。

 

走化性受容体の活性化と適応(メチル化による)

受容体の活性、つまり細菌がタンブリングを起こす頻度は、休止状態でも適応状態でも同じである。誘引物質濃度が高ければ、受容体が誘引物質によって占められている時間が長くなる。高濃度の誘引物質下では受容体のコンフォメーションの最初の変化のしかたは大きく、受容体をより完全な不活性状態に導く。しかしメチル化が進行するのでコンフォメーションは数分以内に戻って、受容体の活性も元のレベルに戻る。これが適応状態である。

 

受容体のメチル化は受容体タンパクに働く酵素(メチル基転移酵素)によって触媒される。1個の受容体に8個ものメチル基が転移でき、高濃度の誘引物質の下では(各受容体は大部分の時間、リガンドと結合しているため)メチル化の程度が増大する。誘引物質が除去されると、受容体は脱メチル化酵素(メチルエステラ−ゼ)によって脱メチル化される。メチル化の量は走化性反応の間に変化するが、細菌がひとたび適応すると一定に保たれる。メチル化速度と脱メチル化速度の間で均衡がとれるためである。走化性受容体からメチル基を除去するメチルエステラ−ゼは、CheAが介在するリン酸化反応によっても抑制されており、これは適応に大いに寄与している別な形の負のフィ−ドバック抑制である。