グループB:ナイセリアについて
〈
ナイセリアの種類 〉淋菌と髄膜炎菌は、グラム陰性菌好気性菌のうちの、ナイセリア科(Family
Neisseriaceae
)、ナイセリア属(Genus Neisseria)に属する、11菌種の中の2種である。
淋病について
〈
形態 〉淋菌 :直径0.6〜1μmの腎形またはそら豆型の球菌で、 2個の細胞が凹部
で向かい合った双球菌として存在。新鮮分離株には線毛ときょう膜様
構造が存在するが、継代とともに消滅する。
〈
淋病の培養と生活環境 >栄養要求性は複雑で、普通寒天培地には発育しないので血液、血清、腹水な
どの添加を必要とする。淋菌は、同じナイセリア属の髄膜炎菌より栄養要求性は
厳格で、発達速度も遅いが、いずれも培養は困難な菌群である。このため、淋菌
培養用にGC培地やThayer−Martinn培地(チョコレート培地)などが考案され使
用されている。いずれもヘモグロビンを添加し、GC培地にはさらに発育促進剤を添
加する。Thayer−Martin培地はGC培地を基礎培地とし、これにvancomycin(ある
いはlincomycin),colistin,nystatinの3つの抗生物質を添加した培地である。培養
には3−10%の二酸化炭素が必要であり、通常、ローソク培養法(ローソクをデシ
ケーターの中で燃焼させ、自然に消えたまま培養する。)が用いられ、湿度も十分
保つ必要がある。至適発育温度は35℃−37℃で、30℃以下では発育しない。
嫌気状態では発育しない。培養は24−48時間行い、48時間以上培養する
と、多くの菌は自己融解を起こして死滅する。乾燥に弱いので、空気中にさらされる
と、1〜2時間しか生存しない。培地上のコロニーは室温で2日程度、4℃では
10日以 植え継ぎが可能である。最近の研究によれば淋菌の集落はT−W型に分れ、
淋菌の毒力と相関があるという。
〈
淋菌の病原性 〉動物における病原性チンパンジー意外に動物にヒトと同じような症状を起こ
させることはできない。
・ヒトにおける病原性
淋菌は外界における抵抗力が弱いので、間接伝染は少なく、ほとんどは性交に
よる直接感染である。尿生殖器粘膜に感染して化膿性炎症を起こし、そこから直
接的にひろがるか、あるいはリンパ流または血流によって他部に広がる。男性で
は尿道炎、副睾丸炎、前立腺炎を起こし、女性ではあまり自覚症状を示さない場
合が多いが、主として子宮頚管内感染から始まり、尿道炎、膣炎、子宮内膜炎、
卵管炎、腹膜炎、直腸炎などを起こす。異常性交による直腸炎や咽頭炎もある。
関節炎、髄膜炎、心内膜炎、敗血症を合併することがある。
小児の膣膜炎は女性成人より感受性が強く、幼女に陰門膣炎が起こることがある。
これは主として、シーツ、タオル、公衆浴場の洗い場での間接感染である。
また、 新生児の眼の淋菌性眼炎は、出産時産道を通過するときに感染するもので、
失明の原因となる。
〈
淋菌の細菌学的診断 〉患部の膿あるいは分泌物を白金耳で採取し、選択剤を添加したGC培地、また
はThayer−Martin培地に塗布する。同時に必ずグラム染色を行う。
男性の尿道炎の場合、好中球の内外にグラム陰性の双球菌を証明すれば、98
〜99%の正確さで淋疾と診断できる。しかし女性の検体中に淋菌を顕微鏡で証
明することは難しく、必ず培養を行う。(培地の選択剤としてLC培地がある。)
男性の淋菌性尿道炎では淋菌が純培養状に発育するので必ずしもこれらの添加剤は
必要ないが、女性の検体からの淋菌の分離には選択剤は必須である。
検定菌の同定はグラム染色と形態、オキシダーゼテスト、糖からの酸産生を行う
必要がある。最近protein A を表面に持つ黄色ブドウ球菌死菌に淋菌に対
する特異抗体を混合すると凝集反応をおこすので簡易で迅速な同定法として用いら
れている。
ELISA法を応用して淋菌を分離することなく淋疾の診断をする方法も開発
されている。
検体の輸送が必要な場合は、transgrow培地やAmiesの輸送用培地
が用いられる。
〈
淋病の予防 〉性病の予防としてコンドームを使用すること。
膿漏眼の予防のためには、新生児に1〜2%の硝酸銀の点眼をする。最近は
ペニシリンあるいはテトラサイクリン系抗生物質の点眼に代えられている。
〈
淋病の治療 〉飲酒・刺激性飲食物・性交・運動を禁止する。淋病はペニシリン系薬剤に感
受性が高く第一選択剤として用いられている。しかし、ペニシリンに耐性のペ
シリナ−ゼ産生淋菌(PPNG)が発見された。PPNGやペニシリンアレルギー
にはペニシリンは用いることができないので、テトラサイクリン,エリスロマイ
シン、セフロキシム,スペクチノマイシンが用いられる。また、クラブラン
(β−Lacta‐mase阻害剤)とペニシリン系薬剤の合剤も有効である。治療を受け
る際には、パートナーも一緒に治療がを受ける必要がある。
*分離した淋菌がPPNGか否かを検査することは治療上重要である。
β‐Lactamaseの産生を検出する方法として、迅速ヨード法,acidometric
法、 chromogenic法,cepharosporin法などがあり、いずれも純培養の菌が、
あれば迅速に判定できる。
米国ではプロベネシッド1g内服後、ペニシリンG480万単位を両側殿筋
に分注する方法が取られている。これは同時に感染している可能性のある梅毒
の発症を予防する。
髄膜炎菌について
〈
形態 〉髄膜炎菌:直径0.6〜0.8μmの腎形ないしそら豆形の球菌で、2個の菌が平
面で、 相対している双球菌である。線毛を有する。新鮮分離株では
きょう膜を形成するが、見にくい。培養時間が長いと、自己融解を おこして、大小不同、染色不平等となる。
図3 図4
(
ギムザ染色標本)が見られる。
〈
ナイセリアの生活環境 〉血液、血清、ブドウ糖を加えた培地で発育でき、分離にはチョコレート寒天
培地、 GC培地、TM培地、LC培地が用いられる。至適発育温度は、37℃、
分離当初は、2〜10%のCO2により発育が促進される。
また、ナイセリアは乾燥、温熱、光線、薬剤に対して抵抗がきわめて弱く55℃、
5分の加熱で死滅する。自解酵素の働きにより、培地上でも、室温で、分離当初
では2〜3日で死滅する。室温乾燥で3時間以内、生理的食塩水菌液を37℃に
おくと数時間で死滅する。したがって凝集反応用の菌液の調製には、自解酵素を破
壊するため65℃、30分の加熱を必要とする。
〈
髄膜炎菌の病原性 〉髄膜炎菌は、元来ヒトの鼻咽腔に生息し健康な人でもその5%から検出される。
この保菌状態は、数週間続き、この間に抗体ができて菌は消滅するのだが、この
健康保菌者がもっとも重要な感染源となるのである。
伝染経路はしぶき感染で鼻咽腔粘膜に定着し、増殖した菌は粘膜を障害して、
粘膜下から血中に入り、脳脊髄膜に達して化膿性炎症を起こすと考えられている。
髄膜炎の症状が現れる前に、菌欠症を示す時期があり、高熱を発し、皮膚、粘膜
に出血斑を生じる。副腎の血管が障害されると、急性副腎不全症(Waterhouse-
Frierichsen
症候群)となる。これは髄膜炎の劇症型で、DICを伴いショックに陥って多くは死に至る。これらのメカニズムについては不明な点が多いが、髄膜炎
菌の外膜に存在するエンドトキシンが関係しているものと思われる。また、菌欠症
のみで終わり、脳脊髄膜炎を起こさないこともある。
無治療の場合の致命率はきわめて高く、抗菌薬が投与された例でも15−25%の
致命率となっている。 この患者は小児、特に5歳以下のものに多い。かつては年間
1000
人を超す患者が発生したが、近年は15−30人/年となっている。
〈
髄膜炎菌の細胞学的診断について 〉1、菌の証明材料
患者の髄液・鼻咽腔・血液からの採取。
2、注意点
融解しやすいので、採取後迅速な検査が必要である。鼻咽腔内に
は類似菌がいるので鑑別時に気をつける。
3、方法
〔髄液の場合〕
@髄液そのものあるいは遠心分離後の沈査からの塗抹標本の作成
a、メチルアルコールで固定
b、ギムザ染色、メチレン染色、グラム染色のいずれかを行う。
可能性がある。
A分離培養
a、培地を37℃に保温しておく。
(a'、血液・髄液をmueller−hinton
ブイヨンを用いて一晩培養して増菌する場合もあ
る。)
b、ローソク瓶法を用いて36ー37℃で培養。
B同定
a、生じた集落についてオキシダーゼテスト・糖
ルイブンの諸症状を調べる。
a'、凝集反応:多価血清を用いて行う。
群特異的血清使用→分離菌の血清群別がわかる。 cf.○ 化学療法中の患者に対する同定法
髄液中の菌由来抗原を多価抗血清・群特異抗血清を用いて、
沈降反応で検出可能。
○オキシダーゼテストについて
@ろ紙片をシャーレ中におく。
Aその上にオキシダーゼ試薬を滴下して湿らせる。
B被験菌を白金耳かガラス棒で塗りつける。
↓
10秒以内に青紫色になったら陽性
○糖類分解について
糖加ペプトン水(ペプトン水+糖類+指示薬)に加える。
指示薬として使用されるのはBTB溶液やAndrade液である。
糖分解で酸発生→黄変(BTB)・赤変(Andrade)
ガス発生→気泡
〈
髄膜炎の治療 〉髄液移行性のよいペニシリンGやアンピシリンのほか、セフトリアキソン、
セフロキシム、セフォタキシム、クロラムフェニコールが用いられる。サルファ剤
は耐性菌の出現により用いられなくなった。
菌体成分が白血球の湿潤を誘導し、血液−脳関門が破壊されることが明らかとな
り、ステロイド剤など抗炎症剤の併用も試みられる
<グラム染色について>
原理:ある種の細菌の表面には
RNAのマグネシウム塩(グラム陽性物質)があって、クリスタル紫で染め、ルゴール液を作用させると、レーキ(水に不溶な沈殿)
が形成される。またある種の細菌ではグラム陽性物質が欠けているため、
レーキが形成されない。アセトンによる脱色・分別操作を行うと、前者は
脱色されず( グラム陽性菌)、後者は脱色されてしまう(グラム陰性菌)。
試薬
・Hucker-Connのクリスタル紫
・Lugol液(ヨード・ヨードカリ液)
・アセトン
・0.1%サンフランニ水溶液
染色結果
グラム陽性菌 ・・・ 青黒色
グラム陰性菌 ・・・ 赤色
核 ・・・ 濃赤色
結合組織 ・・・赤色
原形質 ・・・ 桃色
方法
1 脱パラ、水洗、蒸留水
2 Hucker-Connのクリスタル紫(30秒)
3 軽く水洗
4 ルゴール液(20〜30秒)
5 ろ紙で押さえて水分を十分に取る(乾燥させない)
6 アセトンで標本の背景が淡赤色になるまで分別(2槽、10〜15秒)
7 水洗(5分)
8 蒸留水
9 0.1%サフラニン水溶液(2〜10秒)
10 水洗(5分)
11 乾燥
12 透徹、封入
グラム陽性菌
・ナイセリア属を除くほとんど全ての球菌
・芽胞をもった好気性、嫌気性の菌すべて
・その他ジフテリア菌、結核菌、乳酸棹菌、酵母、糸状菌など
グラム陰性菌
・腸内細菌科
・ビブリオ
・ボルデテラ、ヘモフィリス
・パスツレイラ、フランセシラ
・ナイセリア
・スピロヘータ
・原虫類