発病機構入門

肺炎連鎖球菌について

s97061 健太郎 s97062 戸田 真理子

s97064 富山 裕介 s97065 中尾 裕子

s97066 中村 秀裕 s97067 新名 徒子

s97068 西原 正志 s97069 林田 桃子

GIO

もともと病原性の高い細菌であったが、近年耐性菌が出現したことで

感染症の領域で注目されている細菌である。

肺炎連鎖球菌の細菌学的特徴、病原性および耐性化の機序を理解するこ

とによって、この細菌による感染症の診断、治療、予防などについて貢献

できる医療人になることを目指す。

SBO

1.発見に至るプロセス

2.肺炎連鎖球菌の細菌学的特徴の説明

3.Griffithの実験について(形質転換におけるその意義)

4.病原性とくに莢膜多糖体について

5.耐性化の機序

6.細菌学的診断

7.一般的治療

 

1.発見に至るまでの過程

1675 微生物の存在を確認

1879 Ogston ブドウ球菌の記載

1881 Pasteur 肺炎球菌を初めて発見

Frankel 大葉性肺炎の病原体として記載

1882 Talamon 肺炎球菌

1884 Rosenback レンサ球菌

近年 ペニシリン耐性肺炎球菌の増加

 

2.肺炎連鎖球菌の細菌学的特徴について

 

・個々の菌体は、球形〜卵円形。

・増殖の方向と直角に分裂するために、2個から8個の短い連鎖を形成する。

・人・動物の体内でがい膜を形成する。

・鞭毛を欠き、芽胞を形成しない。

・普通の染色でよく染まり、グラム陽性である。

・培養が古くなると陰性を示す。

(これは、肺炎連鎖球菌が培養して48時間以上たつと、自己融解を起こすという特徴による)

・酸素耐性嫌気性

・培養における至適温度:37℃ 至適pH:7.8

・培地に腹水、血清、血液、ブドウ糖を加えると発育良好。

・ブドウ糖など糖類を酸素の有無に関わらず、発酵的に分解して酸(乳酸)を産生する。

・イヌリンが分解されるというのがこの菌に特徴的である。

 

3.Griffithの実験

Griffithの実験は1928年に行われた形質転換の実験であり、これを源として遺伝

物質が核酸であることが実証された。この実験に用いられた細菌が肺炎連鎖球菌であ

る。

肺炎連鎖球菌の病原性は宿主による破壊から細菌を守る外膜の成分であるきょう

膜多糖で決められる。きょう膜多糖があるものを外見上スムース(smooth,S)である。

またきょう膜多糖の種類によりS型菌はT型、U型、V型に分けられる。

スムース型の肺炎連鎖球菌からはきょう膜多糖をもたない非病原性の変異株が生

じる。これをラフ(rough,R)という。

 

本実験では熱で不活性化したS型菌と生きているが無害なR型菌を混合すると、それ

ぞれ単独のときはどちらも無害であるのに対して、混合した菌をマウスに接種すると

マウスは感染を起こして死んでしまう。そしてそのマウスから病原性をもつS型菌が

検出された。

 

この実験では最初に熱不活性化したS型菌はT型であり、生きているR型菌はU型由

来であった。そして、混合感染後回収された病原性の菌はT型のS型菌であった。こ

れは熱不活性化したT型のS型菌のあるものによって生きているR型菌が形質転換さ

れ、R型菌がT型のきょう膜多糖をつくるようになったことを示している。

 

この形質転換を引き起こした物質を形質転換因子(transforming principle)と呼ば

れ、のちにAveryらによってその物質の本体がDNAであることが証明された。

 

この実験の意義としては、当時DNAが真核生物の染色体の主成分と考えられてい

たが原核生物においてそのようなことは考えられていなかった。原核生物の遺伝物質

がDNAであることが証明されたことによって、細菌の遺伝の基本と細菌よりもっと

高等な生物とを統一して考えることができるようになった。

 

4.病原性特に莢膜多糖体について

きょう膜とは細菌表面を覆っているものである。きょう膜は遊離した構造で

あり物質の透過性を阻害しない。これはきょう膜物質を酵素で消化したとき

に細胞壁への障害がなく、菌の生存に影響がないため細胞壁とは異なる構

造と考えられている。しかし、Bacillus属等の例外も存在しており細胞壁物質

の一部である場合もある。

病原菌のきょう膜は、動物体内でよく生産される。菌種によっては粘膜層と

ばれる程度の薄い場合もある。もっともしばしば遭遇するきょう膜物質は多糖

体とポリぺプチドである。肺炎球菌もそうであるが多糖体のきょう膜を有し、そ

の化学的な性質は型によってことなる。例えば、2型の肺炎球菌のきょう膜物

質は、グルコースの重合体である。3型の肺炎球菌のそれはいっそう複雑で

あり、グルコースおよびグルクロン酸からなる。

きょう膜の機能として大きく3つに分けられる。1)細菌細胞どうしの付着、

2)細菌の気質への付着、3)アメーバ細胞やファージの攻撃からの保護など

があげられる。この3)に注目してもらうと、病原菌のきょう膜の存在は毒力に

関係があることが分かってくる。つまり、きょう膜が食細胞(白血球など)による

細菌の食菌を妨げるため病原性を発揮できるのである。そのため同種であれ

ばきょう膜を有するほうが病原性が強いことになる。

 

5.耐性化の機序

耐性菌出現の遺伝的機構

耐性菌出現の遺伝的機構には、@薬の使用によって大多数の感受性菌の増殖が押

さえられる一方で、わずかに存在していた自然耐性菌が生き残り増殖する、A新しく

耐性遺伝子を獲得することにより耐性化する、の二通りが考えられる。後者には感受

性菌の染色体の突然変異、バクテリオファージによる耐性遺伝子の運搬、および最近

内に寄生している薬剤耐性遺伝子を持つプラスミドによるものがある。特にプラスミ

ドによるものは重要で、プラスミドは宿主菌の子孫に伝わるだけでなく、細菌間の接

合を通じ他の菌に移行したり、ファージにより運搬されて感受性菌に移行したりする

ため、耐性遺伝子が拡散し、臨床分離株に見出される薬物耐性菌増加の主な原因とな

っている。

 

耐性獲得の生化学的機構

細菌が薬物耐性を獲得する生化学的機構については種々の可能性が考えられるが、

臨床分離耐性菌株に見出される耐性化機構は、主に次の4つに分類できる。

1.薬物不活性化酵素の産生

薬物を不活性化させる酵素を産生することで細菌が耐性を得るというもので、代表

的なものに、ブドウ球菌などのペニシリン耐性菌株が産生するβ−ラクタマーゼが挙

げられる。β−ラクタマーゼはペニシリン類・セファロスポリン類の構造中のβ−ラ

クタム環を加水分解的に開環し失活させる。耐性獲得の生化学的機構としては、この

ような薬物不活性化酵素の産生によるものが最も多い。ただし、肺炎連鎖球菌のペニ

シリン類に対する耐性は、標的酵素である既存のペプチドグリカン架橋酵素の変異に

よる親和性の低下によるものでこれとは異なる。

2.薬物作用点の変化

薬の作用点(部位)が変化することにより薬との結合性が低下し抗菌力を低下させる

というもので、例としては、マクロライド系抗生物質に対する黄色ブドウ球菌や連鎖球

菌では、その作用点である50sリボソームの23RNAのアデニン残基の一つがジメ

チル化される。この構造変化によってマクロライド系抗生物質とリボソームの結合は

阻害されるが、リボソームの蛋白合成能は影響を受けないため、細菌はこれらの薬に

対して耐性を獲得する。

3.薬の細胞内取り込みの低下

菌体外膜の薬物透過性を低下することにより耐性化しているというもので、例えば、

本来テトラサイクリンは細胞膜の能動輸送系により菌体内に取り込まれるが、テトラ

サイクリン耐性菌では能動輸送を抑制化する細胞膜蛋白が産生されるためテトラサイ

クリンの細胞内取り込みが抑制される。(作用点にとどかない)

4.代替酵素の産生

薬に対する親和性が極めて低い代替酵素を産生することで耐性化する例。サルファ

薬やトリメトプリムに対する耐性菌においてみられる。

 

6.細菌学的診断

 

主として喀痰や咽頭粘液が検査材料となる。塗抹標本をつくり、グラム染色と莢

膜染色を行い、形態が一致すればほぼ確定する。型特異的血清があればこれらの材料

中の菌の莢膜膨化試験を行い、菌型を決定する。(肺炎レンサ球菌はT型菌と分類さ

れている。)

 

グラム染色・・・・・グラムが開発した経験的染色法で、微生物をクリスタルバ

イオレットで染色した後、Lugolヨード液の1:15希釈液

で処理し、エタノールまたはエタノール・アセトンで脱色

し、対比色素( サフラニン)で対比染色する。その結果、

クリスタルバイオレットで染色されたならば、グラム陽性と

なり、脱色処理によりクリスタルバイオレットが脱色され

対比染色の色に染まっているものは、グラム陰性を示す。

肺炎レンサ球菌の場合、陽性を示す。

 

莢膜膨化試験・・・肺炎球菌材料をのせガラスの上で抗血清と混合し、Loffler

のメチレン青液を少量加えて鏡検する。菌と抗血清が対応

していれば数分間で莢膜の膨化がみられる。

 

次に、血液寒天を用いて分離培養を行う。0.3%ブドウ糖血液寒天が発育がよい。

集落の性状を観察し、α型溶血の有無をみる。α型溶血連鎖球菌との鑑別は、オプ

トヒン試験、胆汁溶解試験、イヌリン分解試験である。

 

オプトヒン試験・・・多くの肺炎レンサ球菌は、オプトヒンに対して感受性を示

すので、α‐溶血を示した菌を血液寒天上に均一に塗布し

5μgのオプトヒンを含んだディスクをのせ、37℃一夜培

養したのちに18mm以上の径をもった発育阻止円を認めた

ら肺炎レンサ球菌であると同定する。

 

胆汁溶解試験・・・ブイヨンで培養した菌液に10%胆汁酸塩を加えて10分以内に

溶解したら、肺炎レンサ球菌であると同定される。

 

さらに、検査材料中の菌の数の少ないときは、材料を直接マウスに接種すると、

敗血症を起こして2448時間で死亡する。このマウス材料について、上述の要領で

検査を進め同定を行う。マウス接種により肺炎レンサ球菌は増菌し、かつ純粋化され

たことになる。

 

上記の細菌分離、同定法または血清抗体価の測定は、日時を要して迅速診断ではない。

臨床材料中にある細菌の菌体成分を免疫学的に捕らえる方法が、肺炎レンサ球菌の検出

に試みられ、成功している。

 

7.一般的治療

肺炎連鎖球菌は、菌型が多岐に及んでいるので、ワクチン接種による免疫学的な予

防は行われない。治療には主に抗生物質の投与が用いられる。従来、肺炎連鎖球菌に

よる感染症には、ペニシリン系薬剤が第一次選択剤として使われていたが、標的酵素

すなわちペプチドグリカン架橋酵素の親和性低下による耐性菌が増加している。そこ

で、フェネチシリン、セファロスポリン、エリスロマイシン、リンコマイシン、クリ

ンダマイシンなどが使用されている。また、ペニシリンよりも抗菌力弱いセフェム系

薬剤が有効な場合もある。近年、テトラサイクリン、クロラムフェニコールに対する

耐性菌も出現し、菌の耐性化が大きな問題となっている。

肺炎連鎖球菌の感染症の最も代表的なものは、肺炎であるが、その他にも中耳炎、

髄膜炎、敗血症、膿胸などさまざまな感染症の原因となることが分かっている。それ

ぞれの感染症に対し、上述のような抗生物質の投与とともに対症療法が必要である。

 

 

 

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