腸管出血性大腸菌
病原性大腸菌は病気の起こし方によって5つぐらいに分けられるが、そのうちの一つが腸管出血性大腸菌である。これの血清型としては、
O-157:H7,O-26,O-91,O-111,O-113,O-121,O-128,O-145
などが含まれる。
腸管出血性大腸菌は、志賀赤痢菌が産生する強力な毒素(志賀毒素)と類似する毒素を産生する。 志賀毒素は、多くのタンパク毒素がそうであるように分子量約30,000のAサブユニットと分子量4,000〜7,000のBサブユニットの2種類のサブユニットから構成されている、いわゆるAB型の毒素である。
腸管出血性大腸菌の毒素をベロ毒素(VT)または志賀毒素様毒素(Siga-like toxin;SLT)
という。これはベロ細胞(アフリカミドリザルの腎細胞由来)に対して強い細胞毒素を持ち、志賀毒素抗体で中和される。ベロ毒素は
2つに分けられる。VT1(SLT−1) 志賀毒素と同一の毒素
(免疫学的共通性あり)
VT2(SLT−2) 志賀毒素との相同性約60%の毒素
(免疫学的共通性なし)
次にべロ毒素が作られる様式を示す。
O
‐157について
O-157
は腸管出血性大腸菌の一つに含まれる。感染後4〜8日の潜伏期間の後、腹痛・水溶性下痢・嘔吐などの消化器症状が現れる。これは普通の食中毒とかわらず、また成人では軽度に終わることも多い。重症化すると、下痢は出血性となり粘血便を呈す。その後、ベロ毒素により、溶血性尿毒症症候群、痙攣、意識障害、肝障害などを併発する。
一般の食中毒はかなり多量の細菌(100万個以上)が侵入しないと症状が現れないが、O-157は100〜1000個という少ない数で発症する。しかし、O-157はほかの食中毒菌と同様に熱に弱く、加熱により死滅し(ベロ毒素は80℃、10分で失活)、どの消毒剤でも容易に死滅する。
また、感染経路としては、O-157を保有する家畜あるいは保菌者の糞便中の菌に汚染された食品や水(井戸水など)による経口感染、食品の不衛生な取り扱いなどがあげられるが、これらはしっかりとした予防方法を行えば、十分に予防が可能である。
もっと詳しい情報はこちら
大腸菌O157:H7 HP
腸管病原性大腸菌
下痢
の原因となる大腸菌を総称して、「病原性大腸菌」という。ここで扱うのは、その一種である「腸管病原性大腸菌」なので、混同しないよう注意!
EPEC
は、特定の血清型に属している。このことは、大腸菌の同定(*大腸菌抗原同定検査)に役立つ。EPEC
は、ヒトの小腸に感染し下痢を起こす。しかしO-157や赤痢菌のような、ベロ毒素の産生も、腸管上皮細胞への侵入性もなく、下痢がどのようにして誘発されるのか、その直接の病原因子は、まだよく分かっていない。今までの研究では、少なくとも「EPECの上皮細胞への強固な付着」が重要であることが明らかにされている。少し詳しく説明すると、EPECは、束形成性線毛(bundle forming pili:BFP)と呼ばれる線毛を介して腸管上皮細胞に定着し、上皮細胞のシグナル伝達機構を乱して下痢症状を引き起こしているということである。
まとめ
1.
特定の血清型に属する2.
主に乳幼児の胃腸炎の原因となる3.
サルモネラ性胃腸炎に類似した症状を示す。4.
病原性発現のメカニズムはまだよくわかっていない。
治療法について
下痢制大腸菌による食中毒の場合、通常は
輸液による水分と電解質の補給や、各種の化学療法剤(スルホンアミド剤、ナリジクス酸など)、抗生物質(テトラサイクリン、セファロスポリン剤、ストレプトマイシン、カナマイシンなど)の投与が行われるが、異なる下痢性大腸菌により対症療法が異なる。抗生物質の選択にも感受性を考慮した注意が必要である。
O-157
感染症の治療法下痢症の治療はどのように行うか
下痢の症状がある時には、安静、水分の補給及び年齢・症状に応じた消化しやすい食事の摂取をすすめる。激しい腹痛や血便が認められ、経口摂取がほとんど不可能な場合は輸液を行う。止痢剤は、腸管内容物の停滞時間を延長し、毒素の吸収を助長する可能性があるので使用しない。腹痛に対する痛み止めは、ペンタゾシン(ソセゴン、ペンタジンなど)の皮下注または筋注を慎重に行う。(*投与の目安:ペンタゾシン5-10mg/回)スコポラミン系(臭化ブチルスコポラミン:ブスコパン、スパコリンなど)は腸管運動を抑制するため、この菌が毒素産生性であることを考慮すれば、避けたほうがよい。痛み止めの使用は、副作用に十分注意し、その使用回数は極力抑えるようにする。
抗菌剤治療をどのように考えるか
病原性大腸菌O−157感染による下痢症は、細菌感染症であるので、抗菌剤を使用することが基本である。一方、抗菌剤の使用の有無による臨床効果の厳密な比較検討データはいまだ得られておらず、使用の是非、使用する薬剤の選択に関して多くの議論がある。これまでに、ST合剤、ゲンタマイシンを使用した症例において、HUSが悪化したという報告や、抗菌剤を使用しても臨症経過の改善が認められなかったなどの報告がある。抗菌剤が、増殖した腸管内の菌を一度に破壊することによって、大量の毒素が遊離し症状を悪化させるのではないかという理論的懸念が指摘されており、いくつかの成書では抗菌剤の使用をすすめていない。しかし、このような解釈は根拠に乏しいとする批判もある。したがって現時点では、抗菌剤の使用については上記のことを念頭に置いて、主治医が判断して対応すればよい。抗菌剤を使用する場合は、初発症状発現後できるだけすみやかに、次に例示する抗菌剤の経口投与を行う。
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小児:
ホスホマイシン(FOM)、ノルフロキサシン(NFLX)、カナマイシン(KM)5歳未満の幼児には錠剤が服用可能なことを確認して慎重に投与する。乳児等には投与しない。
成人:
ニューキノロン、ホスホマイシンこれまでわが国においては、ホスホマイシン(1日2〜3g、小児は40〜120mg/kg/日を3〜4回に分服)の投与が多く実施されている。 抗菌剤の使用期間は3〜5日間とし、耐性菌と判明した場合はただちに中止する。抗菌剤を使用していない場合、または抗菌剤との併用により、乳酸菌製剤などの生菌剤を投与する。なお、輸液、抗菌剤の使用後まもなく症状が改善しても、その2〜3日後に急激に症状が悪化することがあるので、この間は注意を怠ってはならない。
腸管侵襲性大腸菌(EIEC)