グループB

[サルモネラ菌]

GIO

サルモネラ菌の一般的特徴、病原性を調べ、食中毒と腸チフスにいたる過程を理解し説明できるようになる。そのうえで、適切な診断、治療、予防ができるようになる。

SBO

1.一般的特徴

2.菌の分類

3.病原性

・食中毒について

・腸チフスについて

6.細胞学的診断

7.治療

8.免疫および予防

 

<一般的特徴>

中等大桿菌で周毛性鞭毛を有する。

普通寒天培地によく発育し、円形、透明、湿潤、光沢のある集落を作る。ブイヨンでは、均等な混濁発育をいとなむ。葡萄糖を分解して、酸とガスを産生するが、乳糖、白糖を分解しない。硫化水素(H2S)を産生し、リジンを脱炭酸する。

クエン酸を炭素源として利用し、KCN培地では発育しない。

インドールは産生せず、尿素を分解せず、ゼラチンを液化しない。ただし、例外もある。60℃10〜20分、5%石炭酸水5分で死滅し、抵抗性は、それほど強くないが、亜セレン酸塩、胆汁および胆汁酸塩、ある種の色素(brilliant green,neutral redなど)に対する抵抗が強いため、これらのものをいれた培地では、サルモネラはよく増殖するが、ほかの菌の増殖が抑制され、増菌培地ないしは、選択分離培地として使用される。

 

 

<サルモネラの細菌学的分類>

1885年にアメリカで豚コレラ発症豚から、Salmon Smithが当時新種の菌を分離し、

Bacillus choleraesuisと命名した。その後、豚コレラはウイルスが原因であり、

この菌は二次感染菌であることが判明した。

サルモネラの属名は、Salmonに由来している。ちなみにこの菌は現在のサルモネラの血清型の一つであるSalmonella Choeaesuis(コレラスイス)のことである。

サルモネラ属は2菌種6亜種に分類されているが、種名についてはcholeraesuisが血清型名Choeaesuisとまぎらわしいので、新種名entericaが提唱されている。

もう一つの種はbongoriである。例えば、腸炎菌(エンテリティディス)の正式名称はSalmonella (属)choleraesuis(種) subsp. choleraesuis(亜種) serovarenteritidis(血清型)あるいはSalmonella enterica subsp. enterica serovarenteritidisであるが、記載が複雑なのでSalmonella serovar Enteritidisまたは単にSalmonella EnteritidisEnteritidisは血清型名なのでローマン体で記載)と略称で記載される。

現在では新しく分離された亜種T(choleraesuis)については血清型は分離された場所の名前がつけられる。

サルモネラには細胞壁に存在するリポポリサッカライド(LPS)の耐熱性抗原(O抗原)

67種類と鞭毛を構成する易熱性蛋白抗原(H抗原)80種類があり、さらに一部の菌はVi抗原(チフス菌の病原性に関連)という莢膜多糖体抗原を持つ。

サルモネラのO抗原はアラビア数字、H抗原はアルファベット(第1相)とアラビア数字、一部の菌がアルファベット(第2相)で表記される。

これらの抗原の組み合わせにより、約2,300種類もの血清型(serovar)のサルモネラが存在する。

例えば

Salmonella Typhi(チフス菌) 9,12〔Vi〕:d:−

Salmonella Enteritidis(腸炎菌)は ,9,12:g,m:1,7

Salmonella Typhimurium(ネズミチフス菌)は1,4,〔5〕,12:i:1,2

と記載される。

 

サルモネラの各分類群の鑑別性状

2菌種6亜種を判別するには下表のようなテストにどのような反応を示すか

調べればよい。

テスト(基質)

T

U

Va

Vb

W

X

Y

マロン酸

酸産生: ズルシット

サリシン

ソルビット

乳糖

粘液酸

ラクトウロン酸

β−ガラクトシダーゼ(2時間)

β−グルクロニダーゼ

γ−グルタミルトランスフェラーゼ

d−およびl−酒石酸

ゼラチン

KCN培地での発育

Salmonella O 1ファージ感受性

 

T S. choleraesuis subsp. choleraesuis

U S. choleraesuis subsp. salamae

VaS. choleraesuis subsp. arizonae

VbS. choleraesuis subsp. diarizonae

W S. choleraesuis subsp. houtenae

X S. bongori

Y S. choleraesuis subsp. indica

90%以上が陽性 −=90%以上が陰性 d=1189%が陽性

 

 

<病原性>

サルモネラ感染症 *胃腸炎、腸チフス、敗血症、巣状感染、

an asymptomatic carrier state

 

SerotypeSyndrome

S tyhi , S paratyphi-A , S schottmuelleri -------- 腸チフス

S choleraesuis ------- 敗血症、巣状感染

S typhimurium , S enteritidis --------- 胃腸炎

病気にかかっている人 におこる。

 

サルモネラによる腸粘膜への侵入

上皮細胞内のサルモネラ菌は、水と電解質の分泌を誘引して下痢を起こす一方、

上皮細胞の基底側からlamina propriaのなかへ移動して、深部組織に侵入する。それら

neutrophilsmacrophagesに取り込まれ、全身へ普及していく。

また、Lysosomeに取り込まれて、分解も受ける。

(Samuel Baron MEDICAL MICROBIOROGY より)

 

・食中毒について

病原性のsalmonellaは、大型のプラスミドをもち、これを除去した株は、病原性が低下することが知られている。このプラスミドの機能はまだはっきりとはしていない。細胞への付着、侵入性に関係している場合も知られているが、そうでない例もある。

また、菌の血清抵抗性を付与している機能も知られいる。

ヒトにチフス菌では表面のVi抗原が病原性に関連している。これは莢膜様の機能を持つ。鞭毛による運動性、線毛による細胞への付着も重要とされている。

いずれにせよ

salmonellaの病原性の本態はさまざまな現象が知られており未だ確定していない。

 

発症時期が極めて曖昧であり、徐々に頭痛、倦怠感、発熱などがひどくなる。便秘もしくは血便を呈することが多い。重症例では意識障害をきたす。

治療はクロラムフェニコールあるいはアンピシリンなどの抗生物質の投与が第一であるが、安静と栄養補給は、とくに重症例では重要である。

(症状)

チフス菌、パラチフス菌による敗血症をそれぞれ腸チフス、パラチフスというが、腸チフスのほうが一般に重症となりやすい。病期は第1期(潜伏期、前駆期)、第2期(活動的進行期、初期)、第3期(極期),第4期(緩解回復期)に分けられ、各期とも約1週間から10日間である。

発症時期を特定できないことが多く、微熱などから始まり、徐々に上昇してくると第2期である。

口から入った腸チフス菌は小腸に達した後粘膜に侵入し、7〜14日の潜伏期の

間、粘膜下リンパ組織および腸間膜リンパ節で増殖する。経口感染の成立には10の6乗から10の9乗個の菌が必要とされるが、条件によってはさらに少数の菌で発症することもあると考えられる。潜伏期の終わり近く、菌はリンパ管を経て血流中に入る。

倦怠感、食欲不振、頭痛、咽頭痛、便秘、下痢(血便)などといった不定な症状がではじめ、“風邪”という診断がつけられ易い。熱が40度前後に達するとすでに第3期にいたっており、高熱にもかかわらず脈拍数が正常なことは特徴的である。また抗生物質の投与を受けていない場合の熱型も 特徴的で、階段状に上昇し、5〜7日後には40度台に達し、数週間持続する。重症例では意識障害をきたす。著明な腹痛を伴う場合、腸管の穿孔による腹膜炎を考えなくてはならない。直径2〜4mmの紅斑で、上腹部から前胸部にかけてみられるバラ疹は腸チフスに特徴的皮膚症状であるが、治療開始後2〜3日で消退する。熱が徐々に下がり始めたら第4期に入ったとみられ、胆嚢炎、骨髄炎などを生じやすい。

腸チフス羅患者の1〜3%は長期保菌者となる。

腸チフス、パラチフスは法定伝染病であり、隔離収容、濃厚接触者の健康監視、消毒法等の防疫対策が国の指導で実施されている点に留意すべきである。

敗血症:体のどこかに化膿している病気があって、そこから細菌が血液の中にはいって

増え、細菌が作り出した毒素によって中毒症状が起こったり、更に血液の循環

で全身に広がり さまざまな臓器に二次的に化膿を起こす重症の病気。

 

 

<細胞学的診断>

発病後1週間(つまり2週まで)は、血中からの菌の検出率が最も多い(80%以上)が、第2週以後からは尿と便から培養を行う。そのまま行うより増菌培養を併用したほうが検出率は高まる。

分離される腸チフス菌はVi抗原を有しているため、ためし凝集反応を行う場合抗O血清では凝集しない。したがって抗Vi血清で凝集反応を行った後、加熱によってVi抗原を破壊した菌液を用いて改めてO抗原を決定する。

3週以後には、血中の抗菌抗体が上昇するので、腸チフス菌を抗原として定量的に凝集反応を行う。これをWidal(ウィダール)反応という。しかし発病初期から抗生物質による治療を行っていると、抗体価が十分に上昇しないことが多いのでこれだけをたよりに診断することは避けなければならない。

<戸田新細菌学より>

 

ウイダール反応Widal reaction

<臨床的意義>

腸チフス菌の菌体O抗原(TU),菌莢膜Vi抗原(Vi),パラチフス菌のAPA)・B菌(PB)の菌体抗原0に対する4種の抗体を測定する反応で,腸チフスとパラチフスABの鑑別に用いられる。腸チフスの症状は,菌血症,ついで40℃の高熱,バラ疹,脾腫などの全身症状を現わし,発症後3〜4週目に極期から回復期へ向かう。腸穿孔,腸管出血によって,死の転帰をとることがある。ウィダール反応は3週目頃に最高となるが,50%の例で陰性である。パラチフスの症状は腸チフスと同様であるが軽症である。

 

<適応疾患>

・腸チフス パラチフスAB ワクチン接種

 

<検査法・基準値>

検査方法 細菌凝集反応

検査材料 血清

基準値 Vi 20倍未満

PA 80倍未満

TU 160倍未満

PB 160倍未満

 

<検体採取・測定条件>

●血清は必ず不活性化を行う。

●採血後すみやかに血清分離を行い凍結保存をする。

 

<生理的変動>

●多くの場合発病後2〜3週目から抗体価は上昇し,4〜5週でピークに達する。しばらくその値を持続し次第に下降する。

●約1週間の間隔で検査を繰り返し4倍以上の抗体価の上昇が見られる場合血清学的に有意である。

Vi凝集素価は,予防接種ではほとんど上昇しない。Vi凝集素価20倍以上に上昇した場合は腸チフスの罹患,またはその保菌者であることが疑われる。

 

 

<治療>

一般的な指針

in vitroでは沢山の抗生剤がSalmonellaに対して効果を示す。ステロイドホルモンを併用することが多い。しかし臨床では検査室の結果と一致しないことがしばしばで、腸チフスの臨床では、腸間膜リンパ節によく移行する抗生剤が有効とされる。有効性の低い経口剤では、大半が十分な血中濃度を得られない。

S.typhi治療の初回投与量は、感受性のある抗生剤につき、実験と臨床のデータから決められるが、chloramphenicolに耐性はしばしば知られており、サルファ剤、 tetracyline系、 penicilline A系への耐性も多少ある。けれどもchloramphenicolpenicilline A の両方に耐性の株は少ないことは幸いである。cephalosporine第3世代や新quinolone 系への耐性も知られていない。

消化管サルモネラ症

抗生剤治療は、菌の保有と耐性の拡大を引き起こすため勧められない。治療は対症療法のみとなろう。免疫不全患者の胃腸炎、成人または乳児の重症型、異物が挿入されている症例には、経口抗生剤が使用される。

thiamphenicol(Thiophenicol), ampicilline(Totapen, Penicline), colistine(Colimycine), Kanamycine,ST合剤(Bactrim), quinolone 系が特に有効である。

ここ数年来サルモネラ菌の大半が、サルファ剤とその他の抗生剤に耐性となっており、DakarではS.HavanaS.Tranleyvilleの2種が最も多剤耐性の染色体に変異している(しかしBactrimは依然感受性がある)。

治療は臨床上回復が見られるまで継続し、健康保菌者の治療は、腸管への感染が遷延しない限り考慮されない。乳児と高齢者には、輸液と食餌療法がしばしば必要となる。予防としては、疑われる食品の監視と汚物の衛生管理が行なわれる。

 

 

<免疫および予防>

イギリスの農水省(MAFF)が1988年に発行した“産卵鶏のサルモネラ予防の実

際”という項目に“サルモネラは広範囲に分布するので、環境から本菌を完全に除去

することは間違いなく不可能である。その証拠に、動物由来の原材料を生で使用した

食品に関連して発生する食中毒は後を絶たない。この問題の解決は、ひとえに良好な

衛生状態の確保と適切な調理法の活用に委ねられている”と記述されている。

・サルモネラ保菌の動物やニワトリの淘汰、輸入検疫強化

・食肉などを取り扱った器具、容器、手指はそのつど必ず洗浄・消毒すること

・調理の際は食品の中心部まで火が通るように十分に加熱

実施すること

・ネズミ、ゴキブリ、ハエなどの駆除を実施すること

・調理場にペット類を入れないこと

に使い切ること

・乳幼児や高齢者(ハイリスクグループ)には、加熱不十分な卵料理は提供しない