5、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)

による疾患の治療法

 

 

H.influenzae(インフルエンザ菌)

 は正常呼吸器細菌叢に含まれることがある。喀痰、尿、髄液、血液、膿から分離される。ウイルス感染に相乗的に働いて病状を悪化させていると考えられている。本菌感染の第一徴候は発熱や頭痛を伴い、風邪に似ている。しかし、感染が脳の表面まで達すると、髄膜炎を起こし、悪心、嘔吐、発作を起こし、20%〜50%が死亡する。このように年少小児での細菌性髄膜炎の起炎菌として最も頻度が高い。また急性喉頭蓋炎(閉塞性喉頭炎)、副鼻腔炎中耳炎喉頭蓋炎肺炎結膜炎菌血症、敗血症、感染性心内膜炎、骨髄炎、膿胸、心嚢炎をひき起こす。気道閉塞を起こすとしばしば気管瘻孔形成が必要となる。本菌による髄膜炎血清型b型のT型菌のものが主体をなす。ヒトの気道、副鼻腔、中耳、結膜などの慢性感染症から分離されるのはきょう膜をもたない生物型UまたはV型の菌株が多い。重症の場合は通常初期から菌血症となるので、血液から菌体が分離できる。

本菌に対する化学療法はアンピシリンが第一選択剤であるが、βラクタマ−ゼ(ペニシリナ−ゼ)産生株の増加(分離菌の20%程度)により、ペニシリン系薬剤とβラクタマ−ゼ阻害剤の併用またはセフェム系薬剤の使用が推奨される。

 

インフルエンザ菌に対する抗菌薬

抗菌薬の一覧表 http://www.aceart.co.jp/antibiotics/saikin/S026.HTML

抗菌薬の一般名http://www.aceart.co.jp/antibiotics/list0101.html

 

 

髄膜炎や喉頭炎のような重症感染症の場合

第一次選択剤としては、第3世代セファロスポリンであるセファタキシムcefotaxime、セフトリアキソンceftriaxone、第2世代のセフロキシムcefuroximeを用いる。

重症でない場合

アモキシシリン・クラブルン酸、セファクロール、セフィキシム、ST合剤を使う。

第二次選択剤としては、イミペネム−シラスタチン、シプロフロキサシン、ST合剤、β−ラクタマーゼ陰性であれば、アンピシリンampicillinを使用する。

 

主な薬剤の一般名と商品名、用法、作用機序など

セファタキシム http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A029.HTML

セフトリアキソン http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A044.HTML

セフロキシム http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A045.HTML

アモキシシリン・クラブルン酸 http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A003.HTML

セファクロール http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A012.HTML

セフィキシム http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A023.HTML

ST合剤 http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A086.HTML

イミペネム−シラスタチン http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A059.HTML

シプロフロキサシン http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A048.HTML

アンピシリン http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A004.HTML

 

 

それぞれの疾患についての治療法

髄膜炎

治療

サルファ剤(ST合剤)は髄液移行性が極めてよく、安価なため、長い間第一選択剤とされた。残念なことに1968年以来、サルファ剤耐性の髄膜炎株が増えて、アフリカでは国によっては分離株の10-60%が耐性となっている。chloramphenicol(Tifomycine)は血液-脳関門を通過するため、内服または注射でよい効果を上げる。penicilline Gは静注で髄膜炎菌に非常に強く作用するが、髄液移行は良好でない。penicillineに感受性が低い株がアフリカ南部で報告されている。ampicilline(Penicline, Totapen) は静注、筋注、経口で髄液中により沢山移行する。

病院ではampicillineの静注が、大人で1日12g 2gの注射を6回)、小児で200mg/kg/dayの用量で投与されることが最も多い。この治療法は高くつくが、肺炎球菌やβ-lactamase非産生性Haemophilus influenzaeによる髄膜炎にも有効な利点がある。penicilline Gも静注で(大人で3千万単位、小児で1kg当たり100 万単位)β-lactamaseにアレルギーがある場合は、chloramphenicol(大人で1日3g、小児で100mg/kg/day)を使用する。thiamphenicol は効力が同じで毒性はより少ないが、容易に入手出来ないことが残念である。治療期間は10日である。抗生剤治療の効果を調べるために、第2病日から第10病日に腰椎穿刺するのは無駄である。抗痙攣薬(phenobarbital, diazepam) と対症的な蘇生療法はしばしば適応となる。

流行期間中は患者数が多いため、高価なampicillineの使用は限られ、静注による投与も管理し難い。長時間作用型サルファ剤は長い間広く使われている。sulfadoxine(Fanasil) を大人2g、小児0.5-1gを単回注射する。サルファ剤耐性の髄膜炎菌株が実際増えているため、この治療法にも限界があることは遺憾である。chloramphenicol(Tifomycine)は殆どの髄膜炎菌に有効で、安価なため、理論上無顆粒球症の危険があってもサルファ剤の代用薬とされている。筋注(1アンプル500mg 入りのTifomycine油性注射液)では効力が長時間持続し、集団治療に適している。大人には1日3g(単回注射)、小児には50-100mg/kg/dayを投与する。ふつう注射は8-10日間繰り返すことが推奨されているが、1回の注射または2-3日あけての2回注射でも、90%の患者は軽快する。一方、chloramphenicol油性注射液 (Solnicol)は持続効果が短く、利点がない。

(参考)

髄膜炎について症状や診断法、治療法などわかりやすくまとめてあります。ぜひ開い

てみてください。

http://www.amda.or.jp/contents/database/4-10/_index.html

http://www.kiwi-us.com/~sinyamag/simptom/disease/meningitis.html

 

急性喉頭蓋炎

本菌のb型によって起こる緊急を要する疾患である。咽頭部の感染に始まり、喉頭蓋に広がり短時間のうちに喉頭部の閉塞が起こって窒息死するので、診断がついたら早急に気管切開をしなければならない。チューブを挿入し気道を確保したのち、抗生物質を投与する。

(参考)

喉頭炎と喉頭蓋炎について http://www.asahi-net.or.jp/~MT5Y-UROK/kosodate/NO06.htm

上気道閉塞について http://www.anesth.nch.go.jp/NCH/Lecture/093096.htm

 

急性中耳炎

耳痛,発熱,耳閉感,難聴,耳鳴,鼓膜穿孔があれば耳漏の排出がみられる。発熱あるいは悪寒戦慄を伴うこともある。鼓膜所見では鼓膜全体の発赤や膨隆,鼓膜穿孔のときには耳漏を認める。耳漏は漿液性,膿性,ときに血性である。年、抗生物質の発達により、ほとんど治癒するが、まれに慢性中耳炎に移行する場合や頭蓋内合併症を発症することがあるので、慎重な治療が必要である。

@全身療法

 安静にし、栄養をとる。抗生物質および消炎剤の投与、鎮痛剤は耳痛の激しいときに必要である。耳漏のある場合はその細菌感受性のある薬剤を使用する。

A局所療法

 鼓膜に発赤,膨隆,耳痛の激しいとき,高熱が続くときに鼓膜切開を行い、分泌液を排除し、抗生物質を含む点耳薬を点耳する。

タリビット

耳科用

1610,12回点耳(回数を増減)

小児には適宜滴数を減ずる

点耳後は約10分間耳浴

http://www.aceart.co.jp/antibiotics/koukin/A072.HTML

B原因疾患の治療

  鼻咽腔の疾患が原因と考えられる場合は、鼻咽腔の治療も必要である。鼻咽腔症状および鼓膜所見が改善されたあとに耳管通気を行い聴力の改善を図る。

(参考)

急性中耳炎について http://133.205.9.136/~ns-gaa/kyu-tyu.htm

 

菌血症と敗血症

敗血症は体の中に細菌が入って、いろんな症状を示す病気である。体に抵抗力がないと症状が悪化する怖れがあり、中には敗血症ショックを起こして死亡する場合もある。細菌などの病原微生物が体内に入って、血液培養などでその微生物が発見されると、菌血症と診断される。敗血症はそれによって引き起こされる生体の血行動態の変化をいう。菌血症は一過性のものと、間欠的なものと持続的なものがあるが、無症状の場合を菌血症という。症状が出てきた場合には敗血症へと移行する。

髄膜炎の症状を発する前に菌血症meningococcemiaの時期があり、高熱を発し、皮膚、粘膜に出血班斑を生じる。菌血症でおわり、脳脊髄膜炎を起こさないこともある。

敗血症を疑ったら、まず原疾患や病態から感受性の高いと思われる抗生物質を投与する。次ぎに血液培養を行って、原因菌を特定する。そして、その原因菌に感受性の高い抗生物質に切り替える。感染巣があったらドレナージをおこなう。細菌の進入経路として疑わしいドレーンや管は抜去するか交換する。呼吸循環の管理をはじめる。輸液・栄養管理を充分におこなう。多臓器不全の発症に対応した処置をとる。

〔@新生児敗血症〕 ●B群溶連菌(最多),大腸菌,黄色ブドウ球菌

●経産道感染により,生後5日以内に発症

●ペニシリン系による治療 ●予後不良

〔A乳児・幼児敗血症〕 ●肺炎球菌 A群溶連菌 インフルエンザ菌

●ペニシリンG・・・肺炎球菌,A群溶連菌のとき.副作用→アナフィラキシー

アンピシリン・・・インフルエンザ菌のとき. 

副作用→偽膜性腸炎※カンジダ,クリプトコッカスでも敗血症を生じる

(参考)

敗血症の症状や菌血症との違いにや治療法ついて分かりやすくまとめてあります

http://www2.freeweb.ne.jp/~maoda/sepsis.html

敗血症の治療について

http://www.med.keio.ac.jp/~amane/I-S-T/563.TXT

http://www3.echna.ne.jp/~kaind/second.html

 

参考文献 戸田新細菌学

98065 福田 直子

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