1.院内感染はどのようにしておこるか

ンコマイシンと同じ作用機序を持つ抗菌薬であるアボパルシン耐性腸球菌が出現し,農場が汚染され,食肉を介して健康人も保菌者になったと考えられている。アボパルシン耐性腸球菌すなわちVREは,その後,病院内でバンコマイシンの使用量が増加するにつれ,病院に持ち込まれたVREが病院内で増幅され蔓延するようになった。わが国にVREがどう広まっているのか,その現状とルートは定かではないが国内の農場が既に汚染されていたり,輸入食品を介して広まっている可能性は考えられる。

1997年までにVRE3例報告され,今年は5例の分離が確認されているという。ただ,幸いVREによる患者への感染はない。しかし医療機関のVRE検査体制が整っていないため検出されていないだけという面もあると思う。1 例も分離されていなくても,MRSAが広がったのと同じ轍を踏まないように早急に対策をとるべきである。

 

2.VREの感染経路 

VREは,MRSAと異なり病原性は低いが,伝播力と定着力は強く腸管内に定着し保菌者の便に持続的に排出される。したがって,便が適切に扱われないと病室がVREで汚染されることになる。

さらに人間の手だけでなく,VREドアノブタオル蛇口など器物を介して伝播することも明らかになってきた。米国では,医療関係者にVRE保菌者がいないことが確認されていても,院内でVREが増加している例もあるという。すなわち,人から人への感染より,器物などから感染が広まると言える。MRSAVREとの大きな違いは、前者は人の鼻腔や皮膚に存在し人の手を介して感染が広がるが,VREは器物を含む病室など環境への接触から感染が広まるという点である。

また,VREは定着力も強く,検出後半年ほどたっても分離される例もある。複数の病棟や地域社会にまで広がってしまえば,その撲滅はきわめて困難だし,莫大な経費も要する。まだ検出されたことがない病院でも,サーベイランス培養に早急に取り組むべきである。

 

3.院内感染対策

VREは「日和見感染菌」といわれ、健康な人にはほとんど害はないが、免疫力が低下している人には、突然猛威をふるう恐れがある。

感染菌は、医師や看護婦など医療従事者の手を介して患者から患者へ感染するという。手をいかに清潔に保つか、それが最大の院内感染対策なのだ。

菌の感染源は、患者の血液や体液、排泄物である。血液が付着した注射針の処理には特に気を使はなければならない。

例えば各病室の外には消毒薬を常備し、シーツ交換でも手を洗うことを徹底するなどといったことがあげられる。一番大事なのは本当に必要なときに必要な手洗いができるということだ。

 

京都薬科大・西野武志教授は、次のように述べている。

手指の消毒が非常に重要で、一医療ごとに医療従事者が手指の消毒をすることを守れば、病院内での感染は防げる

抗生物質が使われて50年、いかなる抗生物質も耐性菌の問題は避けて通れなくなった。最強の抗生物質バンコマイシンが 効かない菌の出現は、確かに脅威である。

しかし、今求められているのは、それに対してパニックになることではなく、基本的な感染対策を全ての病院で徹底するということに尽きる。

健康な人がこのVREに感染しても影響はない。

しかし、免疫力の落ちている人に感染すると、敗血症腹膜炎などの症状を起こす恐れがあると言われる。だから抵抗力の無い人をいかに感染から守るかが重要なわけである。

手洗いを始めとする基本的な感染対策、これが守られていれば感染は防げるが、今、日本の病院の感染対策は、まちまちで、基本的なことができている病院とできていない病院でかなり差があるという。

 

4.VREに対する治療方法

現段階では発症しても治療法はまだない。そのため予防することが最大の手段といえるだろう。

 

5.VREに対する予防方法

予防方法として以下のものがあげられる。

 

一般的な院内感染対策はMRSAと同様である。

(@)日本において,VREをまず発生させない努力が必要である。すなわち、MRSAに対するバンコマイシンの 使用は保菌か、感染かに注意して、慎重に適正に使用することが必要である。

(A) VRE保菌の場合、VREが腸管に定着していることが多く、VREは糞便中に含まれる。また尿路感染症の尿から分離される事が多い。そのため、VREが臨床材料から検出された時には、まずその患者、同室の患者の便のVREを調べ、環境汚染が広がらないようにしなくてはいけない。

(B)患者の伝搬を防ぐためにVRE陽性患者を個室に移すか、複数で有れば同室に集めるかの隔離予防を行う。

(C)VRE陽性患者の病室への出入り,医療器具の消毒はMRSA対策に準ずる。

(D)臨床家の注意深いVCM使用

(E)VCM耐性についての病院スタッフの教育

(F)病院細菌検査室の腸球菌及び他のグラム陽性菌VCM耐性の迅速同定迅速報告

(G) VREの人から人への交叉感染を防止する感染防御対策を即座に実行すること

 

VREの流行または持続的VRE伝播のある病院の対策として

 

(@)VREの伝播率の高い病棟やICUにまず感染制御の努力を集中させる。

(A)可能なら、VRE陽性患者と陰性患者との間を行き来する看護者を極力少なくするために、患者看護をするスタッフをグループ化させる。

(B)注意深い疫学的研究と関連して、また感染制御スタッフの指示に基づいて慢性的な爪や皮膚に問題のある職員を調べ、手と直腸ス ワプの培養を実行させる。疫学的にVRE伝播に関与したことがわかったVRE陽性職員は保菌状態がなくなるまで、VRE陰性患者の看護からはずす。

(C)環境表面(例:ベッドのレール、床頭台、カート、体温表、ドアノブ、水道のカラン)の日常の清掃や消毒についての適切な実施手順・方法が病院にあり、またこれらの手順が清掃担当職員により行われているかを確認する必要がある。

(D)パルスフィールドゲル電気泳動やその他の技術による菌株のタイピングは保有状況の把握や伝播様式を特定する助けとなるので、代表的なVREを専門施設へ送ることも考慮する。

 

また参考としてわが国のVREに対する対応・方針

厚生省は96年に、VREを含めた薬剤耐性菌対策として専門会議を開催し、耐性菌の発生情報の収集と、広く知らせるシステムの必要性を対策としてまとめ、国立感染症研究会を中心に取り組みを開始している。また耐性菌の監視システム構築のための試行調査を大学病院等で始めており、抗生物質の適性使用を各医療機関に強く求めていくことになっている。

上述の専門会議では、感染者の発生が疑われる場合は、すみやかに厚生省に報告するよう各自治体に求めている。

ポイントはやはり、こうした「耐性菌の監視システムの充実」と、「適性な薬品の使用」、ということにつきる。

 

となっている。

 

(参考文献)

抗生物質が効かない!〜新種の耐性菌対策〜 http://mbs.co.jp/mbs-news/now/98sep/0914.htm

バンコマイシン耐性腸球菌 http://www.apionet.or.jp/~niss/days/vre.html

TECOMNews http://www.gotecom.co.jp/news/100804202.htm

Pathoimages on united webs http://plaza20.mbn.or.jp/~sirokuma/ganesh/web.html


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