1.問題点について
腸球菌は、もともと人間の腸内にすんでいる菌なので、
VREも健康な人の長官に入ると定住してしまう。健康な人は何も自覚症状がないため、感染に気がつかないまま菌を広める危険性がある。VREの特に重要な問題点は次の2つになる。
MRSA
(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、VREよりも病原性が強い上、VCM以外の抗生物質はほとんど効かない。バンコマイシン耐性腸球菌の発生の急増と、腸球菌から黄色ブドウ球菌へのバイコマイシン耐性の移行が実験的に群馬大学医学部の池康嘉教授(微生物学)によって証明されたことにより、バンコマイシン耐性を有する黄色ブドウ球菌が、いずれ出現するであろうと考えられるようになった。それは、効果のある化学療法が何もない、最悪の病原菌の出現ということである。バンコマイシンに耐性を持ったMRSAは、バンコマイシン低感受性のもの(96年 日本で始めて検出された治療の失敗によるもの)以外は発見されていない。
2.対策と研究
抗生物質耐性菌による感染症の今後の治療法として研究されているものは次のようなものがある。
・腸内の酸性度を強める薬など
・プラスミドの増殖阻害物質
・抗生物質分解酵素を引きつける物質など
このような治療のために、
VREの疫学を明らかにし、経済効率のよい感染防御に関する方法が研究されている。いくつかあげると次のようになる。
1.乾いた表面におけるバンコマイシン耐性およびバンコマイシン感受性腸球菌の生存期間
バンコマイシン耐性腸球菌
(VRE)は、VRE感染者の処置や介護および保菌者の糞便や尿などの処理の際に、医療従事者の手指などを汚染し、さらに、患者の着衣やベッド、病室、医療器具、医療施設の床、手すり、ドアのノブなどの広範な院内環境汚染を引き起こすことが知られている。そこで、腸球菌が、乾いた器物の表面に付着した場合、どの程度の期間生存しうるかについて研究が行われた。実験では
Enterococcus faecium(バンコマイシン耐性株:3株、バンコマイシン感受性株:5株)とEnterococcus faecalis(バンコマイシン耐性株:1株、バンコマイシン感受性株:10株)を用いて行われた。培養した菌液をポリ塩化ビニルの表面に塗り、16週間保存した。1週間保存後の時点では、すべての株は生存しており、2株は4カ月後も生存していた。試験の結果、菌種、由来検体、バンコマイシンに対する感受性などの違いは生存期間に影響しないことが明らかとなった。この事実は、VREは乾燥した器物の表面で長期間生存し、その生存能力はバンコマイシン感受性腸球菌と差がないことが確認された。
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.長期間バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が定着している患者から分離されたVREの遺伝型の安定性−米国VRE
の遺伝学的多様性や安定性、さらに地域的なVREの流行の際に菌株の個体識別にPFGEが利用できるか否かを検証するため、455株のVRE についてPFGEを実施したところ、22種類のPFGE型に分類された。vanAを持つ10種類のEnterococcus faeciumでは、すべて10本以上のバンドに相違が認められた。長期間(4〜 160日)vanAまたはvanBを有するVREが定着している患者における遺伝的多様性の調査では、85%以上の菌で3バンド以下の変化しか認められなかった。バンコマイシンの耐性型を考慮しないで比較した場合、3バンド以下の変化しか認められないグループと、10バンド以上の変化が認められるグループの2つに大別された。以上の結果、VREは遺伝的に非常に類似した一群と全く異なる群に分けられることが明らかとなり、個々の患者では遺伝的な多様性がほとんど認められず、PFGEは地域的なVRE の流行の際の疫学的調査に有用であるとの実験的証拠が得られた。(M. J. M. Bonten, et al., J. Infect. Dis. 177:378-382,1998)
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.VREの治療に有効な抗菌性を持つ化合物合成静岡大学理学部有本助手らとの共同研究により、
VREに有効な抗菌作用を示すバンコマイシンポリマーの合成に成功した。この研究はイギリス化学会誌(Chemical Communication)に掲載され、アメリカ化学会機関誌(C&EN)にも取り上げられるなど各国の研究者から注目を集めている。静岡新聞
99年8月22日 絹見 朋也(細胞化学部) 対応の区分〜掲載事項のみ
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.TM(linezolid)FDA(米国食品医薬品局)は、
2000年4月18日にPharmacia社の「Zyvox(TM)」(linezolidの注入剤、錠剤、経口剤)を、グラム陽性菌による感染患者の治療を目的に承認した。「Zyvox(TM)」は、院内感染肺炎、地域感染性肺炎、皮膚及び皮膚組織感染、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染等の成人の治療に適用される。Zyvoxは新しいクラスの抗生物質であるoxazolidinoneの産物である。Zyvoxはほかの抗生物質とは違った過程でとても早い時点で蛋白質の生産を止めることで細菌に攻撃をする。蛋白が生産できないと、細菌は増殖することができなくなり、死滅する。Zyvoxは普通の量では十分に耐えられる。逆の出来事がZyvoxを服用した患者から報告され、臨床的な試みでの対照者でも同様だった。Zyvoxで治療を行った患者の最も共通の症状は下痢(8.3%)であり、頭痛(6.5%)、吐き気(6.2%)、嘔吐(3.7%)であった。症状は薬の強さを和らげたり、期間を区切ったりすることでたいてい治まった。ある患者では、Zyvoxを服用している間、血中の血小板のレベルを定期的に調整するべきである。
参考資料
・
Medical Wave 薬剤ニュース http://kcom.medibase.ne.jp/index.html・
感染症情報センター http://idsc.nih.go.jp/index-j.html・話題
0013,0053,0074 http://www.kpu-m.ac.jp/CCN/topics・重要課題
院内感染と抗生物質http://village.infoweb.ne.jp/~tsuneda/TextPages/Innaikansen.html・スーパーバグの誕生―細菌と抗生物質との戦い
http://leo.aichi-u.ac.jp/~kunugi/html/report/report/bug.htm