Vancomycin-Resistant Enterococci Outside the Health-Care Setting
: Prevalence, Sources, and Public Health Implications
Vancomycin-resistant enterococci(VRE)
は、1988年に初めてヨーロッパにおいて報告され、公衆衛生の世界的脅威として出現しつつある。入院患者におけるVREの感染と定着は、この7年間のうちに急激に増加している。VREがアメリカで最初に同定された1989年から1993年にかけて、National Nosocomial Infections Surveillance Systemに報告されたバンコマイシン耐性腸球菌分離の割合は、20倍にも増加した。VRE感染が死亡率増加と関連している可能性があり、また、多くのVREに対して効果的な抗病原菌治療が存在しない。
菌の定着ではなく、患者を
VRE感染傾向に陥らせる多くの要因が、多くの感染に先行する。アメリカでは、病院内での患者間でのVRE感染を強調している。VRE固有の環境から、VRE定着患者によってVREが院内に持ち込まれたという報告があるものの、多くのアメリカの病院においてどのようにして最初にVREが持ち込まれたのかは明らかではない。
アメリカにおいて、医療施設外での
VRE獲得と感染を支持するデータは今のところ得られていないが、ヨーロッパからの増え続ける報告によると、VREの定着は、コミュニティーにおいて高頻度に起こっていると提案されている。ヨーロッパからの報告では、VREは動物の顔や動物由来の食物などにも存在すると言っている。更なる証拠は、これらの原因と接触のある人からのVRE感染を支持しており、これはヒトのVRE保有者の増加をもたらす。もしも、VREがコミュニティー環境から医療施設に頻繁に持ち込まれているのならば、VREのコントロールには、院内の病原菌コントロールに用いられる対策ではなく、コミュニティーを基盤とした対策が必要とされるであろう。
この
Reviewでは、ヨーロッパにおける医療施設外コミュニティーでのVRE獲得と感染について現在までにあげられている証拠を要約し、これらの発見をアメリカにおけるVREの疫学と関連させ、VREのコミュニティー感染を阻止するための方法を考察し、研究の必要性を確認している。
Animal and Community Reservoirs of VRE in Europe
VRE
は1993年に医療施設外で最初に報告された。そのとき、vancomycin-resistant Enterococcus faeciumがイングランドの都市部とドイツの小さな町の下水処理施設の排水から得られた。 翌年、Batesらは、家畜の顔および小売製造業者より購入した未調理の鶏肉からVREを得た。また、Klareらは、ドイツの豚と家禽の農場から得た肥料のサンプル中にVREを見出し、これらのVREの検出とavoparcin(:多くのヨーロッパ諸国で家畜の飼料に添加されているグリコペプチド系の抗生物質)の使用が関連している可能性を提案した。食用の動物、特に家禽から得られるVREとavoparcinの成長促進目的としての治療量以下での使用との関連性は、デンマーク,ノルウェー,オランダの疫学の研究で確証されている。
食用の動物への
VRE定着とヒトへのVRE定着との関連は、Batesらによって最初に提案された。彼らは小売の鶏肉とヒトから同一のリボタイプのVREを単離したのである。VREは、ドイツ,ノルウェー,オランダの食肉処理場と小売製造店の家禽と豚肉からも得られている。更に近年になって、七面鳥農場や加工場で勤務する人々において、都市部に住む人々よりもより高いVREの定着が見られることがオランダで発見された。それぞれの母集団におけるパルスフィールドゲル電気泳動パターンの異種性と、個々の七面鳥農場・加工場の勤務者と動物から単離されたパターンの対照的な類似性から、研究者たちは「食物連鎖による動物起源のVRE伝播であろう」と結論した。
デンマークで豚と家禽の顔から検出された
VRE分離株の遺伝子vanA,vanX,vanRの存在は、ヒト分離株で高レベルのバンコマイシン耐性を与えるトランスポゾン:Tn1546上に発見された遺伝子クラスターと類似のものが、これらの動物の分離株での耐性に関与していることを示唆している。一個体のVREクローンの食物連鎖での伝播、あるいはVRE定着動物からヒトへの移動可能な遺伝子要素(:Tn1546)の移動に関わらず、証拠は、これら二つの母集団における菌種の類似性を示唆しており、ヒト細菌叢と動物の間でのバンコマイシン耐性の移動を提起している。
もし、家禽や豚などの食用の動物からの
VREがヒトへの定着と感染に関わっているのならば、医療施設外の人々の間に、著しいレベルのVRE定着が見られる可能性がある。ヨーロッパでは、いくつかの研究の中で、医療施設外の人々の中にVREが検出されている。イングランドのオクスフォードでは184人中3人(2%),ベルギーのシャルルロアでは40人中7人(17%)の人々の便からVREが分離され、これらの人々は医療にしばらく暴露されていない人々であった。また、ベルギーの病院に入院して2日以内に培養されたものでは、636人の患者中22人(3.5%)においてVREが分離された。オランダのコミュニティーで行われた調査では、下痢の症状を持つ外来患者の便より得られたサンプルのVRE定着率は2%であり、この数値は入院患者における1〜3%という値と近いものであった。別の調査においては、オランダ都市部の住人117人中13人(11%)がVREを保菌していた。
VRE Outside the Health-Care Setting in the United States
アメリカでは、医療施設外でのヒトへの
VRE定着の調査は行われていない。VRE検出目的で行われた2つのコミュニティーの調査では、VREは検出されなかった。しかしながら、調査対象となった人数は少なく、用いられた培養法は少数の最近を検出するのに最も感受性があるといえるものではない。
アメリカにおける他の疫学的証拠は、コミュニティーにおける
VRE伝播の存在の可能性を支持している。数箇所の病院での限られた数の遺伝的クローンによるVREの発生が報告されているものの、他の事例ではポリクローナルによる発生が報告されている。院内の母集団におけるVRE検出の遅れや、遺伝的にかけ離れた腸球菌間でバンコマイシン耐性を移動させるTn1546のような移動性の高い遺伝子要素の存在が、これらの報告を裏づけ得るかもしれない。別のもっともらしい、しかしながら未だ証明されていない説明としては、遺伝的に多様なVREを含むより大きなコミュニティーが存在する、というものである。更なる証拠が、アメリカの医療上隔離されたコミュニティー(:めったに外来の患者を受け入れることない数少ない入院施設)の患者のVREの報告(L.C.McDonald,unpub.data)と、集中治療部への入院から24時間以内の患者群のVRE定着についての最近の研究結果から得られた。ついにアメリカで、コミュニティーの普及調査におけるアミノグリコシドに高レベルの耐性を示す腸球菌の存在が、抗菌薬耐性の腸球菌が院外で広まりうるという証拠を提供した。
もし、アメリカでコミュニティーでの伝播が起こっているのならば、このような伝播の媒体の可能性としては人間あるいは動物由来の食事が含まれる。腸球菌の抗菌耐性は、抗菌薬にさらされた農場の動物中により普及している。病院の食堂(
VREはそこに限られていた)で調理された鶏肉から高レベルでアミノグリコシド耐性の腸球菌が分離されたものの、動物あるいは動物由来の食事からは、VanAの表現型を持つVREの単離は報告されていない。アメリカで売られているドッグフードからVanAの表現型を持つVREが分離された事実と、VREは人間と猫や犬などのペットに共通の遺伝子型を持ち、ペットの間にに普及しているかもしれないというヨーロッパからの証拠は、コミュニティーにおけるVRE伝播の別の方法を提案するものである。ついにアメリカで、食事の準備を含めた家庭内の接触がコミュニティーにおけるVRE伝播を引き起こしている可能性が、退院後間もない患者から家族へのVRE伝播により提起された。
Implications
もし、コミュニティーにおける伝播がVREの世界的普及において重要であるならば、この環境下でのVRE出現へ導く要因を調査しなければならないし、伝播をコントロールする方策がとられなければならない。アボパルシンの使用と食物連鎖におけるVREの出現と人間への伝播の可能性を関連付けたデータに答える形で、デンマーク(1995年)とドイツ(1996年)は、成長促進目的で食用の家畜に治療量以下のアボパルシンを使用することを禁止した。この二国に続いて、他のEU諸国においてもアボパルシンの使用が禁止された。アメリカとカナダにおいては、違法に使用されている報告はあるが、アボパルシンの使用はその発癌性のために承認されていない。
ヨーロッパにおいて、食用動物の成長促進目的の治療量以下のアボパルシン使用禁止案に対して、食料添加物製造業は抵抗した。禁止案に対する反対者は、アボパルシンが使用されていないアメリカでの高いVRE感染率に対し、長期にわたってアボパルシンが使用されてきたヨーロッパ諸国でのヒトへのVRE感染率が比較的低いことは、アボパルシンがVRE出現の主要因であるという仮定と矛盾すると主張した。しかしながら、院内でのグリコペプチドの使用量において、アメリカとヨーロッパ諸国では大きな違いが存在し得るのである。
アメリカの病院におけるバンコマイシンの使用はここ10-15年の間に著明に増加してきた。この増加の要因としては、メチシリン耐性staphylococciの発生率の上昇,人工装具に関した感染,Clostridium difficile大腸炎,薬物の不適正使用などが挙げられる。ヨーロッパの院内におけるバンコマイシンや他のグリコペプチド使用について同様の報告がなされていないものの、このことはヒトへのグリコペプチド使用の増加がアメリカの現象であると主に考えられていることを示している。バンコマイシンや他のグリコペプチド剤の使用がヒトへのVRE感染の重要な危険因子であるため、もしヨーロッパの病院での処方がアメリカの病院での一般的なレベルで為されたならば、ヨーロッパでは更に高いVRE感染率を見るかもしれない。同様に、アメリカで更に多くのグリコペプチド剤が使用され、もしコミュニティーのVRE保有者が増大したならば、アメリカの病院で更に高いVRE感染率を見ることになるだろう。
VRE
伝播における人間の抗菌剤使用の正確な役割はいまだ分かっていないものの、動物モデル(この観察において、マウスはVREを経口投与され、同時に抗菌剤を投与されない限り、一過性に定着を見ただけであった。)における観察により、感染力を保持した菌の定着の確立に、抗菌剤が重要な役割を担っていることが指示されている。医療機関内で使用されている抗菌剤は腸内細菌叢を交代させる可能性があり、それは患者を、他の定着あるいは感染した患者からのVRE伝播による定着を起こしやすくする。コミュニティーでの食物媒体のVRE伝播の疫学的証拠は、抗菌剤が入院患者を、摂取したVREの定着を起こしやすくしている可能性を示唆している。患者の食事の汚染は、患者や病院職員の手からのVRE汚染を含む種々のメカニズムによる消費過程で起こりうる。VREが動物を原料とした食物からも発見された地域では、製造過程において、その動物の腸内細菌叢からのVREとの接触により汚染が起こる可能性もある。Figure. Potential interaction between community and health-care settings in the transmission of VRE.
患者を定着を起こしやすくするのに加え、抗菌剤の中には便中の腸球菌数を増加させ、その結果培養により更に用意にコロニーを検出できるレベルにまで便中の
VRE数を増加させるものもあるようである。この2つの効果のいずれもが、Van der Auweraらの調査結果を説明しうる。彼らは、1989年、ベルギーの22人の健常人ボランティアに、3週間にわたりグリコペプチド剤(タイコプラニンまたはバンコマイシン)を経口投与し、その腸内細菌叢の変化を調査した。この実験によると、グリコペプチド剤の経口投与以前は、便中からVREが検出された被験者は一人もいなかったのだが、グリコペプチド剤投与後では彼らのうち64%からVREが検出された。このVRE検出は、汚染された食事からの新しい定着か或いは未知の職業的リスク(例えば医療機関での就業)を意味したかもしれないが、それは、腸内に既に相当数存在したVREの数が、グリコペプチド剤の使用によりその定着が検出可能なレベルまで選択的に増加したということを示しうる。
Conclusion
人間と動物由来のVREに関しては疑問が残っている。しかしながら、動物と人間いずれにおいてもVRE定着母集団に対するグリコペプチド剤の使用は、選択圧の増加と腸内細菌叢の交代によって、VRE定着を促進するということは明らかである。遺伝的に関連のあるVRE分離株が家畜,動物の死骸,食物,外来患者,入院患者から検出されており、これらは、異種間での伝播が起こり得、人間への定着と感染に寄与する可能性があることを証明まではしなくとも、強く示唆している。食物連鎖の様々な段階から得られる遺伝的に類似の分離株は、その生物の摂取がこのような異種間の伝播のもっともらしい方法であろうことを示唆している。E.faecium(VREの最も一般的な菌種)は、E.faecalisよりも高温に対してより耐性であるという更なる研究結果は、未調理食品における生存をより確証高くしている。摂取後、高生物負荷などの要因が胃の酸性度を減少させ、或いはその近年の抗菌剤投与により、感染力を持った菌が人間の大腸に定着するのを促進しうる。VREが定着している患者が医療機関に入院した後、更なる抗菌剤の投与により、患者間の伝播が促進され、定着が更に容易に検出され,臨床的な感染がより起こりやすいようなレベルまで、もともと少数であった大腸内VRE数を選択的に増加させうる。
もし、家畜が人間にとっての重要なVRE源であるならば、VRE定着動物の数を減少させることが、VRE感染を抑えるための効果的な方法であろう。VRE定着を排除する治療法が存在しないため、グリコペプチド剤の使用制限により、細菌に対する選択圧を削減することが合理的なアプローチであろう。アメリカでは成長促進目的に治療量以下のグリコペプチド剤を食用家畜に対して使用することは許可されていないが、獣医医療ではバンコマイシンが治療目的で用いられてきた。しかしながら、食用の動物に対するグリコペプチド剤の商標外治療の使用が禁止された。このような禁止は、様々な動物内或いは動物間のVRE伝播に対する合理的な予防策であろうし、また、HICPAC(Hospital Infection Control Practices Advisory Committee)によって推奨されている現在のコントロールの成果とも矛盾が無い。HICPACは、人間へのバンコマイシンの慎重な使用を強調している。
ヨーロッパとアメリカにおける、動物内,人間内,或いは動物−ヒト間のVREのコミュニティー伝播の役割は更なる研究が必要である。ここ最近において医療機関との接触がない健常なボランティアのVRE培養調査を、高感度な培養法で行うべきである。このような調査には、VREが定着した或いはVREに感染していることが分かっている退院後間もない患者の家族のメンバーを含めるべきである。更に、アメリカで食用に用いられる動物においても調査すべきである。最後に、動物と人間の間のVRE伝播に対する現在までの証拠を確かめる,或いは論破するために、分子疫学の方法を用いた実験も必要である。もし、未確認の原因によるVRE伝播が同定されコントロールされたならば、入院患者へのVRE定着が減少し、VREによる院内感染率が低下することになるかもしれない。