マラリアの診断

診断の第一歩は、まずマラリアを疑うことである。マラリア浸淫地域であれば、いかなる病状でもマラリアを疑ってみる。また、そうでない場合、マラリア様の症状があれば、患者の旅行歴を知らなくてはならない。このとき、重要なのは現地でハマダラカに吸血されたか?」を尋ねるよりも、予防内服の詳細(薬の種類、服用期間、コンプライアンス)を本人から聞き取っておくことである。

最終的にマラリアと診断するためには、以下のようである。

 (1)血中の原虫証明

 確定診断は血液塗沫標本からのマラリア原虫の証明。ギムザ染色が最も簡便でgold standardとされているが、常にpH=7.2に設定しておかないと、偽陰性例が急増することに注意。スライドグラスのリサイクルは、ベテランの臨床検査技師でも5回までにしておくほうが良い。寡少感染や抗マラリア薬が既に投与されている症例では、厚層血液塗沫標本と薄層血液塗沫標本の両方を作成し、前者でマラリア感染の有無を、後者でマラリア種を確認する。

アクリジンオレンジ(AO)による染色は、QBCスティックの遠心分離法か、特殊フィルターとハロゲンランプなど強力な光源を組み合わせた川本法とある。虫体が光って見えるので、特に寡少感染例で威力を発揮する。

 血液塗沫検査は原虫や細菌を検出しやすい熱発時に行ないたいが、それ以外にも定時的に施行する。原虫血症の程度と薬剤の効果判定、重複感染の否定(取り分け、熱帯熱マラリアが寡少感染している例)は臨床上極めて重要な情報となる。

 (2)血清診断

 間接蛍光抗体法(indirect fluorescent antibody technique;IFA)、酵素抗体法(enzyme-linked immuno-sorbent assay;ELISA)DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法などがある。これらの手法は、特にマラリア抗原の検出感度が大変優れているが、過去の感染との鑑別が付かないため、病初期の臨床診断法としては一般的でない。

 (3)鑑別診断

 マラリア浸淫地では腸チフス,エンテロウイルス感染症、急性ウイルス性肝炎,アルボウイルス感染症(特にデング熱)、非化膿性髄膜炎、流行性出血熱,Weil病などを疑う。熱帯熱マラリアでしばしば認められる重篤な病像を、熱性痙攣、破傷風や化膿性髄膜炎と誤診しないこと。

重複感染もあり得るので、血液原虫検査を必ず複数回行なう。ギムザ染色と一緒にグラム染色も行ない、細菌検査も頻繁に行なうべき。

 

マラリアの治療

薬物による治療

マラリアの治療には様々な抗マラリア薬を用いる。ここで重要なのは、感受性が一番高い薬剤を最も迅速な方法で投与することである。

 クロロキン(Chloroquine

この抗マラリア剤は、多くの地域で耐性を示す熱帯熱マラリア原虫が存在しているにもかかわらず特に、たとえ熱帯熱マラリア原虫が低レベルの耐性を示す地域であっても住民が高い獲得免疫を有している地域、三日熱マラリアが主流の地域では今も効果的に使われている。

クロロキンは 4-aminoquinoline 系の薬剤で卵型マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア及びクロロキンに感受性を示す熱帯熱マラリア原虫の赤内型の原虫に効く。卵型マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア及び未熟な熱帯熱マラリア原虫のガメトサイトステージの原虫にも効く。しかし、この薬剤は赤外型の原虫には効果がない。

使用方法

急性マラリアの治療

四日熱マラリア及びクロロキンに非耐性の熱帯熱マラリア原虫はクロロキン投与単独で治療可能。

三日熱マラリアと卵型マラリアのようにクロロキン治療後再発の可能性がある場合、肝臓の休眠体 hypnozoite)を除去するためにプリマキンを続けて投与する。この休眠体は垂直感染によるマラリアでは生じない、また、輸血や汚染された注射器の使用などによっても生じない。

治療

・経口投与

悪心、嘔吐を防ぐため食事後に服用。もし、投与量の一部あるいは全部を吐いた場合はすぐ同じ量を服用させる。

・非経口投与

クロロキンの非経口投与は患者がキニーネかキニジンを使えない場合に有用である。多量の投与は血漿濃度が高まり、致命的な心臓血管の衰弱を引き起こす。

 キニーネ(Quinine

キニーネはキナの木の樹皮から取れるアルカロイドである。クロロキンよりも強い毒性にもかかわらず、耐性マラリアの出現により近年キニーネが使用されるようになった。

キニーネは吸収されやすく、服用後1〜3時間で血中濃度がピークとなる。高い蛋白結合性を示すが、胎盤を容易に通過し、少量は脳脊髄液に入る。血中の半減期は10時間で、肝臓で代謝されてほとんどが水酸化体の代謝物として尿中に排出される。

使用方法

キニーネは多剤耐性熱帯熱マラリアの流行地域で使用されている。

重症患者や昏睡、痙攣、嘔吐、下痢を伴う患者の緊急治療には点滴静脈注射による投与が行われる。耐性マラリアの軽症の患者には内服投与を行う。

治療

・静脈投与

低血糖に対処するためにキニーネ必要量を5%グルコース水溶液で希釈して10ml / kg の総量で投与する。グルコースの無い場合には生理学的等張液を用いる。この投与方法は低血圧、呼吸困難の危険性を最小限に抑える。

また、点滴静脈注射が出来ない環境ではキニーネを10mg / kg で8時間ごとに筋内注射することができる。しかし、これは最後の手段である。キニーネは高い刺激性を持ち、壊死病巣や膿瘍を起こしやすい。

・内服

患者が内服できる状態ならばキニーネは内服すべきである。もし、内服後1時間以内に患者が吐いた場合、すぐに同じ量を内服させなければならない。

 ピリメサミン/スルファドキシン(Pyrimethaminesulfadoxine

ジヒドロフォレートリダクテース阻害剤であるピリメサミンとジヒドロプテロエートシンテース阻害剤であるスルファドキシンを組み合わせることにより葉酸代謝を相乗的に阻害することを狙った合剤である。本合剤は熱帯熱マラリア原虫に対して殺シゾント作用を示し、効果は劣るが三日熱マラリア原虫にも有効である。

この二剤併用はクロロキン耐性の熱帯熱マラリアの治療用として考案されたものであるが、その後ピリメサミンへの耐性株が急速に出現した。今や多くの地域で、本合剤に対する熱帯熱マラリア原虫や三日熱マラリア原虫の耐性株は世界的規模のものとなっている。

両成分とも経口投与によって効果的に吸収される。ピリメサミンの血漿中半減期は約4日間であり、スルファドキシンの血漿中半減期は約8日間である。最終的には両化合物は尿中に排泄されるがピリメサミンは部分的に代謝を受ける。

使用方法

熱帯熱マラリア原虫の感受性株に対して迅速な治療効果が見られる。

クロロキン耐性株の存在が知られている地域において使用される

明らかなクロロキンの副作用である掻痒症やその他の理由によりクロロキンの服用が好ましくない場合に用いる。

治療

通常の場合、治療は本剤の単独投与で十分であるが、キニーネを補助的に1-3日間投与するとさらによい。

重篤な患者の場合、キニーネの投与により感染率の低下と病状の改善が促進される。

全く免疫を有していない患者では、ピリメサミン/スルファドキシン耐性株の急速な感染率の上昇による急激な発症の危険性を考慮する必要がある。

 プリマキン(Primaquine

8-アミノキノリン誘導体は4種のヒトマラリア原虫の全ての肝臓内のステージにおいて強力な殺原虫作用を示すが、毒性が強いために予防内服としては用いられない。また、全てのヒトマラリア原虫に対して殺ガメトサイト作用も示す。

プリマキンは経口投与によってたやすく吸収される。血漿中の濃度は服用後1-3時間以内にピークに達し、半減期は約5時間である。肝臓で速やかに代謝を受けるため、代謝されずに尿中に排泄されるものはごくわずかである。

使用方法

三日熱マラリア原虫及び卵形マラリア原虫の肝臓内でのステージ(ハイプノゾイト:休眠体)の原虫の殺滅を目的として、クロロキンによる標準的な治療の後に、再感染の危険性が無いまたはわずかな場合に投与を行なう。感染の危険性が高い地域では赤内型の原虫に対して殺原虫作用を示す薬剤のみが再発や再感染時の治療に用いられる。

特に再感染の可能性の高い地域では、赤内型の原虫に対して殺原虫作用を示す薬剤による治療を行なった後、熱帯熱マラリア原虫のガメトサイトの殺滅を目的として投与する。

治療

・三日熱マラリア及び卵形マラリアの根治療法

クロロキンによる標準的な治療の後に、14日間投与する。

・殺ガメトサイト療法 

メフロキン(Mefloquine

メフロキンは 4-aminoquinoline methanol 体の比較的新しい抗マラリア剤である。クロロキンのように無性世代の赤内型ステージの全てのマラリア原虫に対して有効である。三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫のガメトサイトに対しても有効である。

胃腸管からの吸収は早い。この化合物はほとんど完全に血漿蛋白と結合する。そして血漿内濃度の半減期は15〜30日以上である。投与量のほんの少ししか尿中に排出されない。

使用方法

多剤耐性の熱帯熱マラリア原虫 による急性マラリアに対する使用

多剤耐性熱帯熱マラリア原虫の高流行地域の旅行者のための予防薬としての使用

治療

15mg / kg で服用する。

 Tetracycline(テトラサイクリン)

テトラサイクリンは抗生物質として幅広く使われている。プラスモジウム属の無性世代の赤内型の原虫に対して比較的遅い作用を持つ。熱帯熱マラリア原虫の初期赤外型の原虫に効く。ドキシサイクリン、ミノサイクリンと作用が似ている。

腸からの吸収は不完全で、牛乳、牛乳製品、キレート剤、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄塩によって吸収は阻害される。

腸管から吸収され内服後4時間で最高の血漿濃度に達し、半減期は約8時間である。排泄は腎糸球体を通過した後、尿から出る。肝臓と胆汁には高濃度にテトラサイクリンの蓄積が見られる。

テトラサイクリンは胎盤を通過し、母乳にも出る。

使用方法

テトラサイクリンはキニーネ耐性を示す熱帯熱マラリア原虫の治療においてキニーネと併用し、またファンシダールのスルフォンアミドに過敏性を示す患者の治療に用いる。

テトラサイクリンは作用するまでの時間が長いため単独でマラリア治療に使う例はない。この薬剤を予防剤として使うのも良くない。これはプラスモジウム属だけではなくこの薬剤に感受性のあるバクテリアにも耐性株が出現する可能性が高いからである。

しかしながら、同じ種類であるドキシサイクリンは、熱帯熱マラリア原虫の流行地では妊娠中の女性以外には予防薬として1日 100 mg の短期間投与が可能である。

治療

テトラサイクリンは常に治療を目的として経口投与のみで用いる。

 プログアニル(Proguanil

プログアニルは合成バイグアニドでピリミジンの誘導体であり、熱帯熱マラリア原虫の赤外型の原虫に対して高い効果を示す。ほかの原虫種についてはまだはっきりしていない。

三日熱マラリア原虫のヒトの体内に感染初期のときは効くが、三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の休眠体(hupnozoite)には効かない。赤内型の原虫にはいくらか作用がみられるが、臨床での使用法はまだ確立されていない。

流行地、特に以前にマラリアの集団予防に使った地域ではプログアニルやその間連化合物に耐性を示す熱帯熱マラリア原虫も出ている。

腸管から吸収され内服後4時間で最高の血漿濃度に達し、半減期は約12〜16時間である。排泄は尿、糞から活性型代謝体であるシクログアニルとして排泄される。

使用方法

感染の恐れのある妊婦やマラリアへの免疫を有していない成人に対して、予防薬として使用

低度のクロロキン耐性熱帯熱マラリア原虫の存在する地域を訪ねるときにクロロキンと併用して短期間予防内服に使用

治療

免疫を有していない旅行者や妊婦は感染に曝される危険性がなくなってからも4週間は服用を続ける。

熱帯熱マラリア原虫と四日熱マラリア原虫の予防には効果があるが、三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫は休眠体として肝臓内で長く生存する場合があるため、時に効果は不十分である。

 輸血

また、マラリアでは赤血球の破壊が急速に進む。

しかし、Hb値が5-6g/dl程度まで低下するまで、なるべく輸血は控えるべき。但し、末梢血血小板値<5/μlDICを併発し、ヘパリン療法が効奏しない場合は、新鮮血輸血の適応が生じる。

・マラリアによるDICの判定目安

出血症状 Turniquet試験陽性、皮下出血

血栓症状 呼吸困難、局所神経症状

臓器障害 意識低下、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、腹痛、下血

 

 

 

血液透析

感染赤血球とその副産物である免疫複合体や自己抗体を除去し、血清電解質を正常化させる目的で血液透析を行なうことがある。人工透析のほうが感染赤血球も除去できるので、腹膜透析より効果が高い。現場で透析器が利用できず、また急性腎不全による無尿、高窒素血症、低Na血症、高K血症(心電図T波高で臨床判定)、低Ca血症、高P血症、代謝性アシドーシスなどの水・電解質,酸塩基平衡障害併発した場合には、生理的食塩水1-2Lを用いて、早めに腹膜透析を施行する。