(形態)
直径 150〜250 nm の球状粒子である(図X-7-1a)。ウイルス粒子は厚さ 10 nm の脂質二重層で囲まれており、その表面から長さ 8〜12 nm のスパイク様構造がつき出ている。エンベロープの内側に存在するヌクレオカプシドはらせん対称を示し、幅は 18 nm で長さは 1 μm に及ぶ。
(構成タンパク)
ウイルス粒子は、L、P、HN、F、NP、M とよばれる 6種類のタンパクから構成されている。エンベロープ表面のスパイク様構造物の本体は HN(hemagglutinin-neuraminidaseの略)と F(fusionの略)であり、いずれも糖タンパクである。HNは赤血球凝集能とイノラミニダーゼ活性の双方をもつのでこの名が与えられており、感染の場では、レセプターへの吸着能を担う。HN に対応するモルビリウイルス属の糖タンパクは、ノイラミニダーゼ活性を欠くため Hとよばれ、ニューモウイルス亜科では赤血球凝集能も欠くため G(glycoproteinの略)とよばれる。Fは膜融合活性をもち、これを利用して、ウイルス粒子内のヌクレオカプシドを細胞質内に放出せしめる。M(matrix proteinの略)はエンベロープを裏打ちし、ウイルス粒子を内側から補強している。NP (nucleoprotein の略)は RNA 遺伝子に結合し、ヌクレオカプシドを形成する。L(largeの略)と P(phosphoproteinの略)はヌクレオシドカプシドに結合し、RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ活性を担う。
以上のほかに、センダイウイルス感染細胞内には、分子量23 KのCタンパクが検出される。従来Cタンパクはウイルス粒子にとり込まれない非構造タンパクとされていたが、最近少量の同タンパクがウイルス粒子内のヌクレオカプシドに結合しているのが見いだされた。
(遺伝子)
マイナスの極性をもつ一本鎖 RNAである。非分節性で、すべてのウイルスタンパクをコードする情報が1本の RNAの中に納められている。沈降定数は 50 Sで、約 15 kbからなる。センダイウイルス遺伝子の構成を模式的に図X-7-3に示す。3` 末端から 5` 末端に向けて、NP、P/C、M、F、HN、L 遺伝子の順に並んでいる。これらに加えて、3` 末端と 5` 末端には約50塩基からなるタンパクをコードしない領域があり、それぞれリーダー配列およびトレーラー配列とよばれる。機能は不明だが、ウイルスポリメラーゼによる転写と複製開始のシグナルとしての働きが疑われている。パラミクソウイルス亜科の他のウイルスの遺伝子構成も基本的にはよく似ているが、ニューモウイルス亜科は大きくなる。それぞれの遺伝子の間には、E(end)、I(intergenic)、S(start)とよばれる3つの区分からなる共通配列が存在する。この配列はmRNA合成に際して、転写の開始と終結のシグナルとして利用される。