赤痢菌の侵入・吸着に関与する細菌因子と宿主細胞因子

 

 赤痢菌は経口感染により大腸に到着し、その上皮細胞に吸着する。上皮細胞は食作用に

より菌を細胞内に取りこむ。取りこまれた菌は細胞質内に出て分裂増殖し、体表面にアクチ

ンフィラメントをつけその重合伸張の力で移動し、隣の細胞に広がって行く。この過程で細胞

は壊れ死んでいき、大腸上皮が剥離し潰瘍を作る原因となる。これらの性質には、赤痢菌の

持つ大型のプラスミドおよび染色体上に存在する遺伝子の総合的機能により発現される。

 細胞への侵入には、本来食作用のない上皮細胞へ細菌のような大きな分子を取りこませる

よう、細胞に食作用に類似の作用を誘発させなければならない。これに関与する遺伝子はプ

ラスミド上に存在するipa遺伝子である。これは細胞侵入には不可欠で、ipa遺伝子を欠く菌は

その病原性を失う。このことは組織侵入性大腸菌にも共通している。

 プラスミド上に存在するIcsA遺伝子はアクチンを基礎とした菌の運動性を導く。この120-kDa

の遺伝子は細菌のプロテアーゼにより90-kDaのアミノ末端の断片に分裂し、宿主の細胞骨格

のタンパク質であるビンクリンと結びつく。ビンクリンはVASPというタンパク質を結び付け、

VASPを結びつけることによりアクチンやプロフィリンのような他の細胞骨格のタンパク質を結

び付け、アクチンを基にした赤痢菌の運動型の基礎を形成する。事実、IcsA遺伝子を発現さ

せた大腸菌はアクチンの列を合成することができる。最近ではN-WASPもビンクリンと同様に

直接、IcsA遺伝子に結びつくことができるとわかった。しかし赤痢菌のアクチン重合を伴う運

動の正確な機構ははっきりとされていない。

 

 

 

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